新団長ライナ=ハルバートン②
「パリス」
セイウンが馬上から尋ねた。
「どうした?」
「南に行くのはいいけど、南のどこなんだ?」
「とりあえずパルテノス王国の首都まで向かおう。それからまた考えるぞ」
そう言っているも、パリスはすでに行先を固めていた。問題は向こうが受け入れるかどうかである。
***
セイウンとパリスの騎影が遠ざかっていくのを城塔から見届けたバルザックは、いつも通り兵士達に指示を出していた。
兵士達がそれぞれの部署に向かうと城塔には、彼一人だけになっていた。
「去ったか……これで厄介者はいなくなった」
バルザックは、ぽつりと呟くと自分の部署へと足を運んだ。
***
熱い茶が、軍議に集まっている各々に配られた。全員、香りをかぐと、ほっとした表情になった。
「では、みなさん。まずは一杯」
新しくオルバス騎士団の団長に任命されたライナが言った。騎士達はカップに口を付けた。
「この茶を飲むとほっとします、団長。これは何という名前ですか?」
飲み終わったフェルナンが尋ねた。
「緑茶です」
「そうそう、それです。ここでは飲んだ事がないものですね。なんとも言えないまったりとしたコクのある味だ。これは団長の土地で育てているものですか?」
「ええ。この土地には無いらしいので、私もびっくりしました」
「ならばここで育てて、我が国の特産品にしましょう。絶対にそれがいいですよ」
「いいかもしれませんね」
「そうでしょう、団長。じゃあ早速、陛下に……」
「ですがそれは、私の住んでいた土地の特産品を横取りしているようなものですよ。つまり泥棒と一緒です」
「あっ……」
「もし本当に、これをレストリウス王国の特産品にしたいのでしたら、私達の土地の有力者に相談して許可をもらうことです。無断でする事は彼らどころか、この私もただではすましません。たとえ王であろうと、ロウマ元帥であろうと」
ライナは周囲を見据えた。別に、にらみつけているわけではないが、圧倒されるような眼光だった。