それぞれの出発⑨
昨日のことは本当に記憶が無かった。翌日、目を覚ますと周囲はひどい惨状になっていた。
滅茶苦茶に荒らされた室内と床に寝ているナナーとアリス。なぜか顔にインクで落書きされている自分。ロウマは頭を抱えた。自分は一体何が起きたのか、まったく思い出せないし、思い出したくない。
二人に昨日何があったのか尋ねてみたが、二人の答えはすごく楽しかっただった。
「師匠、大丈夫ですか?顔がお疲れのようですけど……」
シャリーが尋ねた。彼女は昨晩ナナーとアリスに棒で殴られて気絶していたので、部屋で何が起きたのか知る由もない。
「なんか分からないが、すごい楽しい事をしたみたいだ」
「なんですって!師匠、どうして私も混ぜてくれなかったのですか?絶対に私の方が師匠を満足させられたはずですよ」
「言っている意味が理解できん。『満足』ってなんだ?」
「そりゃあもう……師匠ったら、私の口からそんな恥ずかしいことを言わせないでくださいよ。いじわるですね」
シャリ―は一人で赤くなっていた。
いつも以上にうっとうしい奴だとロウマは苛立ちが募ってきた。ロバートやライナと同じ生活をして、同じ釜の飯を食べているのに、どうしてこんなにも違いがあるのだろうか。
悩んでいる最中、ナナーとアリスがロウマの横に座った。
「ロウマ、そんなことより昨日アリスと一緒に考えていたのだけど、レストリウス王国に戻ったら、父に頼んであなたの罪を軽くしてもらうように、運動してもらうわ。うちは決して裕福な貴族じゃないけど、顔は割と宮廷内でも効いているから」
「私もロウマ様の罪が軽くなるように、街の人々から嘆願書をたくさんもらって来ます。絶対にあなたを死なせたりしません」
「じゃあ私も師匠が無罪になるように、この美貌と英知で、王を籠絡してまいりましょう。師匠、任せてください。これでも自信はたっぷりと……」
『ちょっと、まじめな話をしているのだから、黙ってちょうだい!』
ナナーとアリスが同時にシャリーを封殺した。