いい子なんかじゃない
日光がまぶたを刺激して、シキは目を覚ます。眩しい…
大きなあくびをすると目覚まし時計を手に取った。
「9時ぃ?まだ寝れるじゃん…はぁ、二度寝しよっかな」
まだ寝足りない。暖かいベッドに潜ろうとした所で携帯の着信音が鳴り響く。
「んー…」
寒いので片手だけ出して携帯を操作する。 受信メール 1件。 今日の9時ぴったりだ、たしか予約送信してたっけと思い出しつつメールを開く。 「0時に自殺予定」 文面はそれだけ。そりゃ、あの時は眠かったしイライラしてたから長い文は打てっこない。
ぐっ、と背伸びするとパジャマがずれて傷だらけの手首が露になった。「イテテ…あんの、くそ親父。ボコボコにしやがってよ…」
夜中だったか、父親が母を殴っていた。それを止めに入った自分も殴打されて倒れたんだった。薬を飲んでふらふらしながら部屋に入ったのが気に入らなかったのだろうか。
母は、「シキちゃんはいつもいい子ね。お母さんの可愛い可愛い宝物」と口癖のように言う。いい子なんかじゃないのに…むくれながらとりあえずシャツとジーンズに着替える。
勉強机に並んだ中学校の教科書に視線をやって、引っ張り出す。
表や裏には油性ペンで汚ならしい言葉が綴られていてページは破かれている。
「落書きだらけ…バカじゃないの」
名前は塗りつぶされて「シキ」が「シネ」になってる。いつものことだ。
ゴミ箱に教科書を押し込み、プリント類をびりびりに引き裂く。床に落ちる紙を見ながらぼんやり考えた。
「どうやって死のう」
ぶつぶつ言いながら階段を降りてキッチンへ行く。当然誰もいない、父親は仕事で母親は別の男にでも着いていったんだろう。
「ん?」
ダイニングテーブルにメモ帳がある。
『好きなものを買って暫く一人でお留守番しててね お母さんより』
メモ帳の上には万札が大雑把に何枚かおいてある。ジーンズに突っ込んでメモ帳を投げ捨てた。
『最期の1日くらいしたい事してやる』
シキは帽子を被って家を飛び出した。