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異世界への招待状  作者: よ~こ
第一章 招待状
7/8

抗争、抗争、え、抗争じゃなくて決闘?




 キャンプ用具を買いそろえたユキトはそれら道具を全てカバン(アプリ)にしまうともう一度でかけることにした。


 セキトバ組とその抗争相手であるシロガキ組の情報収集をするためだ。


 いや、だっただな……


「おう!! こら!! シロガキ組のもんだぁ!! ショバ代10万リル払ってもらおうかぁ!?」


 この世界での通貨はだいたい1リル=10円位だ。つまりショバ代に100万である。


 100万稼ぐのにどれほどの労働が必要か数えたことがあるのだろうか?


 俺の前の世界でのバイトは時給1000円(ガテン系だった為、すこし割高)だった。もし一日フル(10時間)で入ったとしても1万円である。100万稼ぐためには100日、3か月と少しが必要である。生活費なんかを加えればそれ以上だ!!


 これはもう……


「アホかぁ!!」


 グーツッコミを入れるしかなかった。


「何すんだッ!! てめぇ!!」


「アホをアホと言って何が悪い!! いきなり現れて、恫喝!! アホとしか言いようがないだろうが!!」


「あんだとぉぉぉぉ!?」


「それとその馬鹿っぽいツラやめてくれ……笑っちゃいそう」


「あんだとっぉっぉっぉっぉ!!?」


「あと、その声……やめて、お腹痛い」


 甲高い声で金切り声なのだ。しかも薬でもやってんのか前歯無いでやんの!!


「ぶふっ」


「こ、こ、こ、こんの~~~~!!! 八つ裂きにしてやら~~~~!!!」


 ぶふっ、声が裏返った!! 今まで裏返って無かったのかよ!!


 って、は!!


 そして俺が気づいたのは、相手が片手剣を振り上げ、振りおろそうとしている瞬間だった。


「まさか、声で相手の調子を狂わせて攻撃とは!?」


「地声だぁ、このヤロ~~~!!」


 死ねぇぇ!! と、片手剣がユキトに向かって振るわれる瞬間


 キィンと音を立ててその刃が防がれた。


「宿屋で暴れるのはいけない事だよ……」


 そう言ってユキトの横から片手剣を防いだのは、センテだった。


 その手にはやたらと豪華な鞘、その鞘に防がれ、シロガキ組の男はキーーッと甲高い声を上げた


「この野郎、あにすんだぁ!!」


 男がセンテに向かって片手剣を振るう


「だから危ないって言ってる」


 そう言ってセンテは鞘から剣を抜き放ち、一閃


 男の服(皮鎧)がばらばらに切り裂かれ、細かな物が露わになってしまった。


「それと私は女だから、野郎じゃない」


 剣を鞘に戻しながらセンテはそう言った。


「お~、センテって強かったんだなぁ」


「まあ、道中魔物も襲ってこなかったから見せて無かったしね」


 ユキトのその言葉にセンテは頬を若干染めながら、頬笑み返すのだった。


「ねぇねぇユッキー、さっきあの男の事からかってる間に避けられたんじゃないの?」


「ん? まあ、そうね」


 でもやってみたかったことがあって避けるのはやめといたんだよ


 そんなことを考えていると……


「いくらユキトでも、指2本で白刃取りは危険だと思うよ?」


 センテにそう言われてしまった。どうやら一部始終を見ていたらしい。



◆~~○~~◆



 とりあえず、セキトバ組とシロガキ組の力関係を知ってそうな宿屋の店主に話を聞く事にした。


 (略)


 どうやら、セキトバ組の方は昔からこの辺りを仕切っていたらしく、荒くれ冒険者なんかを制してくれたり、村に襲いかかる魔物を撃退したりと……なんと言うか自警団じみたことをしているらしい。そして護る代わりにショバ代をいくらか渡すと言うものだった。


 しかし、最近新しく来たシロガキという男が新たな組合を立ち上げてしまい、しかもその組合が暴力や脅し、恫喝なんかは当たり前、時には殺しさえもするという極悪非道なものだったのだ。


 しかもセキトバ組の親分がとある魔物(実はユキトが倒したレッドベアーである)との戦いで撃退はしたものの重傷を負ってしまい、戦えなくなってしまったのだそうだ。


 後取りであったお譲ことアカネ、通称アカは当時9歳だった為、セキトバ組はどんどんシロガキ組に取り込まれて言ったのだった。


「う~む、なるほど……なんとなく状況は分かった。分かったが自分たちで何とかしようとは思わなかったのか? あの片手剣の男くらいなら数で押せばこの街の住人でもなんとかなるだろう?」


 それこそ、冒険者に依頼するだけでもなんとかなるだろう。


「それが……あのシロガキ組の組長、シロガキが高レベルの元冒険者なのです」


 この世界に置いて高レベルと言うのは高ステータスの証である。


 それこそ低レベルの冒険者では傷さえも与えられない程に厄介なのだ。


「う~む、つまりシロガキさえなんとかすれば自分らで解決できると?」


「ええ!! その通りです!! ですが……それも難しい。相手はシロガキ組……その事務所の中には常に100人近い人間がたむろして居るんです」


「なるほどね……んじゃ、行くとするか」


「へ? あの……どこへ?」


「シロガキ組に行って雇ってもらってくる!!」


「「はぁ!?」」


 おっちゃんとセンテが声を合わせて驚いた。


「はっはっは、内部に潜り込んで親玉と面会した時にぶん殴れば良いって事だろう!! まかせとけ、何を隠そう俺の趣味は人を殴ることだ!!」


 なんて最低な趣味だよ……


「んじゃ、行ってくる~」







 そうして……





「て、てめぇは!! さっきの!!」


「しまった!! お前が居たのを忘れてた!! やばい!! 笑いが……止まらなくなるゥ!!」


「てんめ~~~~~~!!!」


「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


「笑ってんじゃねぇ!!」


 とりあえずカウンターで殴っといた。


「くっ……なんだ、こいつら……全員甲高い声って……俺を笑い殺そうとしてんのか!?」


「「「「「「「「誰がするか~~~~~~~!!!」」」」」」」」」」」


 ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!





 全員殴り終えたところ、シロガキが留守だった事に気づきました。



「無駄足!!」


 しかも、最初の作戦、意味ねぇ~





 しょうがないので宿屋に戻ると……


「ああ!! 戻ってきましたか!! その様子を見ると止めたのですね!!」


「え? とりあえず、全員殴ってきたけど?」


「はい?」


「あ~、それでシロガキって人はいなかったんだ?」


 俺の行動が読めてきたのかセンテがそう言った。


「うん、正解!!」


「やっぱり……」


「すごかったよ~、殴っては殴り、殴っては殴りって感じでビュンビュン飛んでちゃうの!!」


 未だに胸ポケットに入っていたシェリーが飛びだし、センテの周りを飛んで興奮しながらユキトの活躍を語った。


「なんてことを……」


 その活躍を聞いて顔を真っ青にさせる宿屋のおっちゃん。


「このままではあなたを追ってこの宿に乗り込んでくるじゃないですか!!」


 自分の保身が大事かこの野郎……


「まあ、それに関しては大丈夫だ。セキトバ用心棒参上って書いといたから。あと決闘の日時も書いといた」


「はぁ……まったく、それでその決闘って?」


 センテが溜息を吐いて日時を聞いて来る。


「え? 着いて来るの?」


「仲間でしょ? リーダーの決定には従うよ」


「なっはっはっは、そりゃありがたい、日時は明日、ここから西に丘があるからそこでやる」


「セキトバの人には話したの?」


「んにゃ、セキトバの構成人数はたったの6人だってさ……それなのに、堅気に手を借りれるかって言ってつっぱちゃってるような人らしい(住民の声、帰り道に聞いてきた)だから、勝手にやっちゃおうかなって」


「はいはい、それじゃ二対百で戦うって事だ」


「とりあえず、今日五十人程殴り飛ばして来たから、二対五十だね」


「はいはい!! 私もいるよ!!」


 そう言ってシェリーが手を上げ自己主張する。


「三対五十、勝てない数字じゃねぇな」


「あ、あの!! 私も戦います!! 近隣のみなさんにも声をかけてきます!!」


「ますます勝てない数字じゃなくなるねぇ」


 ユキトはタバコに火をつけながらそう言った。





 ★~~☆~~☆




 時刻は早朝、日が白く染まり始める時間……


 その場には何人かの人間が集まっていた。


 穴を掘ったり虎バサミを仕掛けたりと様々である。


 街では静かに戦いの準備をする住民が居た。


 昔、血気盛んな冒険者だった頃の装備をひっぱりだし、手入れをしたり……


 草刈り用の鎌を両手に握って振るってみたり……


 武器を持たない人のために、武器を作っていたり……


 奥さんと×××してたり……


 いやん、子供が起きちゃうって奥さんも乗り気である


 そして……


「おやっさん!!」


 扉を乱暴に開いて親分の寝室に飛び込むアオ


「どうした……アオ」


 寝室のベットに寝ていた、肩から袈裟がけに三本の傷を持つ男が体を起こして問い返す。


「実は昨日話してた冒険者の方なんですが」


 そのアオの言葉に怒鳴り返す親分


「なんでぇ!! 堅気に力は借りねぇから断ってこいつっただろうが!!」


「それが、街の集と一緒にシロガキの連中と戦うって!!」


「な、なんだとっ!!」


 ベットから飛び出すが肩に激痛が走り、顔をゆがめる親分


「おやっさん!!」


「くっ、こうしちゃいられねぇ!! てめえら!! 出入りだ!! シロガキ組の奴らをつぶすぞ!!」


「わかっとりやす!! だからおやっさんは休んでてくだせぇ!!」


「うるせぇ!! 俺が先陣切らずに誰が切るってんだ!! 俺のハルバートを出せ!!」


「親父」


 娘の声を聞いて、親分が顔を向ける


「アカネか、俺のハルバート持ってきてくれたみたいだな」


「お嬢!! それを渡しちゃなんねぇ!!」


「安心しなアオ、オレに渡す気は無いよ……このハルバートは私が使う!!」


「な!! お前にゃ無理に決まってんだろう!!」


 親分のその声ににかっと笑って手に持ったハルバート(戦斧)をひゅんひゅんと振るう。


「おまえ……」


「このハルバートはオレが貰うぜ!! 親父!!」


 親分の顔の目の前にハルバートの槍の部分を突き付けそう宣言するアカネ


「子供ってのは……いつの間にか、大きくなってやがるな」


 目を瞑り、目の端から一筋の涙がこぼれおちようとしていた。


「とりあえず、眠っとけ」


 ガイィィィン!!! とハルバートの横っぱらで親分の脳天をぶち叩き気絶に追いやった。


「え~、今、おやっさん良い事言おうとしてましたよ? お嬢?」


「はっはっは!! んな湿っぽい言葉!! この親父に似合うかよ!! さあ、手前ぇら出入りだ!! 行くぞぉ!!」



 そしてアカ、ミドリ、アオ、クロ、キイロの五人はシロガキの屋敷へと向かうのであった。




◆~◆~◆



「さて、俺らも行くとしますか」


 食事を終えたユキトがそう宣言し立ちあがる。


「あれ? まだ早いよ?」


 食後のコーヒーを飲んでいるセンテがそう言った。


「シロガキの屋敷に行くんだよ。決戦の準備やらで今ならシロガキって奴もいるだろ? ま、居なくても戦力ダウンはさせられるだろうし」


「はぁ……そういうこと」


 ユキトの言葉に溜息を吐きながら納得するセンテ


「ぬっふっふっふ、ユッキーの優しさってひねくれてるよねぇ」


 シェリーはユキトの肩に止まって、その頬を突きながらからかう。


「だよねぇ、住民の人に怪我させたくないからって単身、シロガキ組に乗り込んだり」


「そう言えばセキトバ組の親分さんもそんな感じだよね」


「そうそう」


「だ~~~!!! いいから行くぞ!!」


「ま、今回は一人で行こうとしないから私にも優しいのかな?」


「へっへ~! 私は前回も一緒だったよ!!」


「そりゃ、胸ポケットに居ることに気づいてなかったからな」


「あ~!! ひどいっ!! 私だって役にたつんだから!!」


「お~お~、がんばれ」


「信じて無~い~!!」


 そして、五人+三人(一匹?)対シロガキ組の戦いは膜を開けようとしていた。





 さあ、開戦だ!!!





 シロガキ組の門に向かう道で、五人と3人は鉢合わせした。


「おろ? よう、奇遇だな」


「なんで手前ぇらがいんだよ!! 決闘は昼のはずだろ!!」


 ユキトが手を上げて挨拶したのに対して、アカネはハルバートを振り回して、ユキトに向ける。


「いや、まあ、その前につぶそうかと思って」


「オレ達もそうだよ!!」


 その言葉に……二人の利害が一致した。


「「んじゃ、行くか!!」」


「「「「「「おーーー!!」」」」」」


 ユキトとアカネの号令に雄たけびを上げる六人


「うるせぇ!! 気づかれるだろうが!!」


「「「「「「「え~~~!!」」」」」」」


 ユキトの言葉にずっこけたその時……


「なっ!! てめぇらセキトバ組の……がく」


 声を聞きつけてやってきた男が、言い終わる前に首筋にチョップを受けて昏倒した。先日50人近い人間を殴った為加減の仕方を覚えたユキトである。


 おかげで格闘レベルは32とこの世界では中堅クラスほどのスキルレベルを持ってしまった。


「ほら気づかれたじゃないか」


「でも、あそこは叫ばなきゃ気合入んないっすよ~」


 ミドリがそう講義するが、ユキトは動物でも追い払う様にシッシッと手をパタつかせて言った。


「はいはい、それよりもさっさと突入な。近隣の住民まで戦闘に加わったら面倒なんだから」


「ではワタクシから行かせてもらいます!!」


 そう言って門をくぐって突っ込んでいったのはクロ


 両手に剣を構えた二刀流である。片方の剣で一撃ずつ与え、回転するように移動し切りつけまくる。


「ふんが~~~~~!!」


 キイロはその巨体を振るわせ鉄の鎧を体に纏い、タックルをくらわせる。


「行かせていただきやす!!」


 アオは片刃の剣を下段に構えてヘビのように体をゆすりながら動いて、突きさす。


「殺しまではしないよ!!」


 そう言って不殺を貫くのは、鎧姿の両手剣使いセンテ。センテは剣の腹で叩く事で相手を行動不能に追いやっている。


「オレも忘れんなよ!!」


 自分の身長を超えるハルバートをひゅんひゅんと振り回すアカネ。人薙ぎで一人二人と吹き飛ばし、ぶつかった反動で次の攻撃に移っていく。


「へ~、みんな強かったんだなぁ……」


 ユキトも近場に居た数人を蹴飛ばしつつ周りを見ていると……胸ポケットから……


「私も行くよ~~!! 『バリバリ!!』」


 そんな声が聞こえた。


 その声の主から雷が飛んで数人をまとめてしびれさせたのだった。


 今のは……魔法だとぉ!?


 ユキトが魔法の存在に感動していると、屋敷の方から爆音が轟いた。


「てめぇら!! 何してやがる!! さっさとこいつらを殺せ!!」


 爆音は入口付近で発せられていたらしく、土煙が待っている。その土煙の奥から爆音に負けないほどの声でそんな言葉が発せられた。


「てめぇはシロガキ!!」


 煙が晴れ、そこに居たのは白肌の鬼だった。そしてその手には血濡れのアオが……


「アオ!!」


「はっ、この燃えないゴミが気になってんのか?」


 アオに先ほどの爆音は使われたらしく、煤けており、気絶して居るのかぐったりとしていた。


「その手を離せ!! あんたの相手はオレだ!!」


「けっ、慌てんなよお譲ちゃん」


 アカネのハルバートによる攻撃をシロガキは片手で持った大斧で防ぐ。


「くぅ!!」


 攻撃を防がれ歯がみするアカネの背後から、両手剣を持ったセンテが首を狩りに行った。


「はぁぁぁぁ!!!」


 気合い一閃!! 避けることもできないタイミング。しかしそれは別の者の手によって防がれる。


「あなたのお相手はワタシがしましょう」


 インテリヤクザっぽい人がレイピアでセンテの攻撃を防いでいた。


「ユッキー、あの人強いよ……私、センテを手伝って来て良い?」 


「いや、まて……俺に考えがある」


「ほえ?」


 そこで俺は、落ち着いて戦える状況にする為に、声を張り上げた。


「聞けぇ!! 俺達は無用な殺生は好まない!! その証拠に今まで攻撃した奴らは生きている!!」


 かろうじて……だがな……


「今すぐに治療しなくては死ぬものも出てくるだろう!! そうなればこの戦はどちらかが居なくなるまで終わらん!!」


 張り上げたユキトの声によって場が静まり返り、抗争が一時中断する。そしてそのユキトの言葉にシロガキが静かに聞き返して来た。


「ではどうすると言うのだ?」


一対一タイマンだ!!」


 その言葉に笑みを浮かべるシロガキ


「くっくっくっく、人間風情が俺とタイマンだと?」


 面白そうに、嬉しそうにシロガキは笑う。その体は笑い声を上げるごとに隆起し、筋肉が張り詰めて行った。


「よかろう!! その一対一、受けてやる!! だが、しかしだ……お前とオレが戦っても結果は見えている。人間と鬼では絶対の差が存在するのだからなぁ……それではこのゲームは面白くない」


 シロガキの言葉にユキトもまた笑みで返す。しかしこちらは内心冷や汗をかいており、余裕などない。表には出していないが……


「それで?」


「3対3の勝ち抜き試合をしようではないか……ルールは、殺した方の勝ちでどうだ?」


 にやにやと面白そうな笑みを浮かべるシロガキ……どうやらこう言うことが好きらしい。ユキトは一瞬で思考を巡らせ、判断する。


 この場に居る、シロガキ組の中で一番強いのは間違いなくシロガキである。そして次にレイピア使いのインテリ、それ以下は似たり寄ったりである。


「ルールの追加が条件だ。殺しに加え、行動不能、降参で勝利としたい」


「まあ、良かろう。貴様は血を流したくないと言う理由でこの決闘を申し込んだのだからな」


 もう一つくらい行けるか?


「それと、気絶した状態で殺そうとしたりと過剰な攻撃に対しては介入を許してもらいたい」


「ふんっ、それほどまでに殺したくないか……まあ、良かろう。だが、こちらもひとつ追加しよう。大将はお前だ。文句は無いな?」


「ああ、かまわんよ」


 必死に虚勢を張りつつ、不敵な笑みを浮かべ答えるユキト。そしてユキトは始まりを宣言する。


「シロガキ組は北、セキトバ組は南へ!! これより、抗争の決着を3対3の勝ち抜き戦で決める!!」


 その言葉に正門に居る俺(西)から見て右(南)にセキトバ組の7人が、そして真正面(東)にシロガキ、左(北)にシロガキ組の連中が移動した。


「おまえが最初だ。吹っ飛ばしてやれ!! ドンガ!!」


「うおおおおお!!」


 シロガキの言葉に人ごみの中から一際デカイ男が姿を現し、シロガキの言葉に答えるように拳で胸を叩く、それはもうゴリラの威嚇の様に……てか、まんまゴリラだな……獣人だろうか?


「ではこっちは……「オレがやる!!」アカネだ」


 アカネが地面にハルバートの石突きを地面に叩きつけ主張した。


「では、先鋒……前に」


 重鎧のドンガが前に出るとシロガキがそいつの武器を投げ渡す。


「受け取れドンガ」


 ドゴォォンど地響きを立てたそれは人が持てるような物では無い鉄の塊。


 それを握りしめてゴウンゴウンといびつな音を響かせるトゲトゲのついたスパイクボールだった。


 しかし、それはお世辞にも速い動きでは無い。アカネであればいくらでも隙をつく事が出来る。そんなレベルだった。


「ふむ、では……」


 ユキトが目くばせすると、シロガキはレイピア使いが持ってきた椅子に座っているところだった。


「始めろ」


 シロガキのその言葉に、ユキトは声を張り上げる。


「始めぇ!!」


 その声に飛び出すアカネ。軽装の彼女はスピードでかく乱しながらハルバートを振るう。そこに上空から落とすように迫る鎖付きスパイクボール。


 しかしそれを


「らぁぁ!!」


 ハルバートで振り上げ弾き飛ばした。


「うごっ!?」


 それに驚き、スパイクボールが弾き飛ばされたことで姿勢を狂わせるドンガ。


 たたらを踏むドンガに向かってハルバートが振るわれる!!


 ギギギギギ


 鉄と鉄との擦り合う音が辺りに響いた。


「ちぃっ!!」


 立ち位置を変動させ、距離を取るアカネ。ドンガは胸元に一文字の傷を作るがダメージは通っていない。


「うががががががががががががあ!!!」


 ドラミングで威嚇し、スパイクボールが振るわれる。


 重さに任せたスパイクボール。それを突っ込むことで回避し、ハルバートを鎖に叩きつけた。


 鎖が切れ、スパイクボールはシロガキの元へ


「ふっ」


 短い呼吸音とともに繰り出されたレイピア使いの突きが、その軌道を逸らし屋敷の壁にめり込んだ。


 シロガキは椅子の肘かけに手をかけ寄り掛かりながらニヤニヤとしている。


 それを見てユキトは乱戦だった場合……どれほどの被害があったかを考え身震いする。そしてセキトバの親分がなぜ、住民を味方に付け戦いを挑まなかったのかを理解する。


 この世界に置いて……数の暴力は意味が無いのだと言うことを理解した瞬間だった。


 そして……さらに理解する。


 怖いと言う感情……


 ユキトの目は一連の行動を明確にとらえている。それこそゆっくりと……


「はぁ、なんと言うチート……」


 その呟きと同時に、アカネの勝利が決まっていた。


 ドンガの鎧には生半可な攻撃が通じないと判断したアカネは跳び上がり、回転し、重力と回転した勢い、そして自身の力を加えて鎧を切り裂いたのだ。


「ごっ……がっ…………」


 地面に膝をつき、動かない。


「俺の勝ちだな」


 ハルバートを突き付けながらそう宣言するアカネ……


「うが……うがぁぁぁぁ!!!」


 しかし、ドンガはまだ終わってはいなかった。


 腕を振り上げ、大きな拳をアカネの腹へと打ち込んだ。


「ぐぁっ!!」


 勝利を確信した一瞬の気の緩み、経験の浅さから出たそれは、肋骨を折られるという結果につながった。


「くっ、このぉ!!」


 痛む脇腹を無視して、跳び上がるアカネはハルバートを振り上げ……


「ストップだ。アカネ」


 その一撃をユキトに止められた。


「なっ!!」


 ハルバートの柄を振り下ろしている途中で掴まれ止められたことに驚きの声を上げる。


 シロガキの表情が不機嫌だったものから、上機嫌なものへと変わる。


「もう、意識はない。勝者はお前だ」


「ちっ……」


 アカネはドンガを一瞥すると、舌打ちをして開始位置へと戻って行った。


 ドンガの方もシロガキ組の連中に連れてかれ、応急措置を受けているようだ。


「おい、小僧」


 そして二回戦に移行しようとしたところでシロガキから声をかけられた。


「ん?」


「俺と戦え」


「……このまま試合を続けて行けば戦えますよ」


 ……というかこのおっさん、先ほどから悪い感じの人じゃ無い気がするんだよね


「それでは万全の状態では戦えまい?」


 そう言ってくるのは次の戦いでレイピア使いが負けるわけ無いと思っているからか?


「どうでしょうね?」


 俺は笑みを浮かべてそう言った……だって、私に任せろってセンテが睨んでくるんだもん……


「俺はな、強い奴と喧嘩をするのが好きなんだ」


 シロガキがそう言う。


 そう、それが不思議だ。それがこの男を悪い人じゃないと思わせる。


 ただただ、強い人と戦い自分自身を高めたいというバトルジャンキー……そこには自分が勝てるか勝てないかなど無い。


「ふん、まあ良い。行けレングス」


「かしこまりました」


 恭しくお辞儀し、返事をするレイピア使いレングス。


「てめぇを倒しゃ、あとは親玉だけだ!!」


 そして開始位置で待っていたアカネがハルバートをレングスに向けてそう言った


「それは無理と言うものですよ。もう戦いは終わっているのですから」


 そんなアカネの言葉に対し静かに対応するレングス。


「何言ってやがる!! 始まってもいねぇのに終わるわけ無いだろ!!」


 レングスはふぅ、と溜息を吐きだした後こちらを向いて言う。


「……ふぅ、開始の合図を」


「けっ、いけすかないね!!」


「では……始め!!」


 レングスがゆっくりと歩き出す……


 アカネは前の試合で脇腹を痛めたのか……待ちの戦法……


 始まりの合図と一緒に駆けだすかと思ったが?


 そう思い、ユキトはアカネの方を見ると……アカネの表情が苦々しく歪まれていた。


 レングスがアカネの前に立ち、レイピアを喉元に突き刺そうとする。


「ストップだ」


 腕を掴むことでかろうじて止めることが出来た。


「ふっ、この速さを止めますか……私の本気……味あわせることが出来そうですね」


 そう言ってくるレングス。


「くっ、てめぇなにしやがった!?」


 どうやら……アカネはなんらかの方法で動きを封じられていたらしい。


 開始前のレングスの言葉から開始の合図よりも前に仕掛けられていたと思われる。


「おや、私は何もしていませんよ? 先ほど受けたドンガの一撃が今足に来ているのでは?」


 しらじらしく、そう言ってくるレングス。


「とにかく、この勝負はレングスの勝ちだ。アカネ、自陣へ戻れ」


「くそっ!!」


 アカネが戻っていくとシェリーが飛んで行って話した後、脇腹に触れてその体を光らせていた。


 どうやら回復魔法まで使える様だ。


 そしてアカネの代わりに出てきたセンテ、そのセンテを見て嫌らしく笑う。


「ふふふ、先ほどはどうも」


 レイピアを後ろに隠し手に胸を当ててお辞儀をするレングス。しかしその態度とは裏腹にその表情は嫌らしく見える。こいつが実はすべての黒幕とかでも驚かない自信あるぞ……というかそうだったらいいなぁ。


 俺としてはシロガキの在り方は嫌いじゃないのだ……苦手ではあるが……


 まあ、なんにせよ……この3対3の決闘で勝利すれば、シロガキは引いてくれるだろう。それだけは間違いないと思わせる位には信用して居るユキトだった。


「ユキト……始めて」


 そう言うと同時にセンテは両手剣を地面に突き刺し、そう言った。


「では……始め!!」


「その剣、かなりの一品の様ですね」


 そう言って構えるレングスは隙なくセンテにレイピアを向けている。


「この剣は母様の慈愛の力が込められてる……この剣を持つ者に呪縛の呪文は効かない!!」


 斬っ!!!


 一瞬で間合いを詰め、空気を切り裂きながらレングスに襲いかかるセンテの剣。


 シャランと音を立てて、その剣がレイピアによって逸らされる。


 それと同時に放たれる神速の突き。


 喉元を貫かんと迫るそれをセンテは首をひねることで避ける、そして切り返しの剣がレングスを襲った。


 それをスウェーで避けて、体を起こす勢いを付けて突きを返す。


 二十八にも及ぶ刺突をセンテは時には避け、時に剣で弾き、時に鎧で受け止める。


 レングスも鎧の隙間を狙うがセンテの鎧はレイピアを通さず弾き返す。


「このままでは決着がつきませんね……」


 顔を歪ませ距離を取るレングスはレイピアを掲げると何事か呟く


「センテ!! 魔法が来るよ!!」


 シェリーの言葉を受けて、呪文の詠唱を阻止するために向かって行く。


「『フラムベルク』!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 レングスの魔法の詠唱が終わったのと、センテが剣を振ったのは同じタイミングだった。


 レングスのレイピアがセンテの肩を貫いている。


「うがぁぁぁぁぁ!!!」


 しかし叫びを上げたのはレングスの方だった。


 肘から先が綺麗に切断されている。


「うぐぐ…………てめぇ……技と俺の剣を受けて、俺のスピードを殺しやがったな!! なぜ、俺の魔法が分かった!? 魔法剣は俺のオリジナル、見破られるわけがねぇ!!」


 センテは突き刺さっているレイピアを抜き、レングスの疑問に答える。


「武器に魔法を纏わせるのはエルフの特技だよ」


「くそったれ……俺が初めてじゃなかったのかよ……」


「あと、口調崩れてるよ?」


「うるせぇ、こっちが地だ」


「そっちの方が似合ってるよ」


「けっ、俺の負けだ」


 何やら、この人も良い人っぽそーです


 あ、倒れた。


「シェリー、腕つなげられる?」


「出来るよ~」


 出来るんだ。すげー


「んじゃ、頼んだ」


「は~い」


 元気よく返事をしたシェリーは、レイピアを持ったままのレングスの腕を繋げに行った。


「さて……」


「……まさかレングスまで負けるとはな」


 嬉しそうに笑うシロガキが椅子から立ち上がった。




 とうとう、戦いが始まる。




「…………」


「…………」



 二メートル以上はあるシロガキがユキトを見下ろす。


 対するユキトは見上げる……


 互いの距離が縮まっていく。


「武器は良いのか?」


 シロガキの手には三日月状の刃のクレセントアックス。対する明人はなにも持っていない。


 防具も劣っているように見える……まあ、見えるだけだが……


「言っておくが手加減は出来んぞ?」


 シロガキの言葉にユキトは、ぽつりと呟いた。


「……始めよう」


「ああ、その通り、御託は要らぬな。血の躍る戦いを始めよう!!」


 シロガキが戦斧を振るい戦いの幕が上がった。


 ユキトに向かって振り下ろされる戦斧、その速さはレングスの放つ神速の突きに勝るとも劣らない。その振り下ろしにユキトは反応せずにただただ立ちつくしている。


「ユキト!?」


 レングスの治療を終えたシェリーに肩の治療を受けているセンテの叫びが木霊した



「大丈夫だよ、ユッキーなら♪」


 



○~◎~●




 ゆっくりとシロガキが戦斧を振るっているのが見えた。


 時間が凝縮されたようなこの感覚には覚えがあった。


 前の世界でトラックに轢かれる瞬間に感じた走馬灯だ。


 死の恐怖に思考が加速し、今までのことが思い起こされる。


 俺の考えとしては、走馬灯と言うのは……死の恐怖に脳がリミッターを外したからだと……思っている。


 いや、実際そうなんだろうと思う。


 たしか人間の脳って10%も使われて無いって言うし……それが死の恐怖によって、助かる道を探す為に過去の記憶からそれを探すんだ。


 とかまあ、そんなことを考えた訳だが……実際のところは分からないんだよなぁ。もしかするとこの世界に来た際に贈られた改造だか強化が原因かもしれない訳だし……


 はぁ……ほんと……チート乙





「おいおい……ウソだろ?」


「うわぁ……」


「……なんなんだよ、あいつは……」


 辺りがざわめく。


 まあ、それもしょうがない事だと思う。



 だって……



 振られた斧……素手で掴んで止めてるんだもん





「とりあえず、俺らの勝ちって事で……」




 俺はそう言って、シロガキの腹をぶん殴った





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