夢見宿で未知との遭遇?
着きましたよ漁村……
途中で変な色のクマっぽいのを見た気がしたけど、気にしない!!
時刻は14:15分、つまり二時間近く走った訳だ……体力もすげぇ
「もしかすると伝説の浮浪者ってのがすごいのか? もしかするとあれか? 別の職業になるとステータスダウンしちゃうのか!?」
もし、そんなことになったら……俺は……俺は…………
別に浮浪者でも良いのかも?
てか、この浮浪者って職業じゃなくて称号とかそんな感じかもしれないしね。はっはっはっは
職業は旅人だよ!! うん、そうに違いない!!
そんなことよりも漁村だ漁村!!
もしかしたら、冒険者ギルドとかあるかもだし!! さっさと村に入ろう!!
村に入るとそこは……寂れたところでした……
「って、人がいねぇ!!?」
本当に人っ子一人いません。
ガラーンとした空気にヒューっと吹く風……
「いったい、何があったんだ?」
とかテンプレなことを言いつつ、進んでみる。
そして一件一件窓から覗いて本当に誰もいない事に気付いた。
よそ者が現れて家に引きこもったとかじゃないらしい
「どこかの村で寄りあいがあって人が居ない……という雰囲気でもない」
窓から覗き見たところ、作りかけの料理や、飲みかけのお茶なんかが置いてあったのだ。
まるで村全体が神隠しにでもあったかの様である。
「むぅ……」
どうしようかと悩みつつ村の中を歩いていると、宿屋があった。
「とりあえず、今日のところはこの宿屋で泊るか……」
そんな事を呟き、宿屋に入る。
入ってすぐに酒場の様な内装が広がっていた。一度店から出て確認する。
そこにはベットの絵柄と『宿』と書かれた看板。
「てか、見たこともない文字なのに良く読めるな……」
あまりにも自然に読めたので見直すまで気が付かなかったくらいだ。
だが、とりあえず、宿屋であることは間違いなさそうである。
もう一度中に入って、カウンターの前にある呼び鈴を一応鳴らして見た。
リーン、リーン
と耳に心地よい鈴の音が鳴り……しばらくした後……
「やっぱりいないか……」
そうつぶやいて振り返ると、そこには……
「いらっしゃい」
老婆が立っていた。
「ぎゃぁぁぁぁっお化け!!?」
「誰がお化けだってんだい!!?」
「おにばばー!!?」
「誰が鬼婆じゃ!!」
「はっ!! いかん、あまりの事に本音が!!」
「つまりは本音と言う事だねぇ」
そう言って何処からともなく出刃包丁を取り出す鬼婆
「ごめんなさい」
土下座です
「まあ、よかろ。それで泊っていくのかい? それとも食事かい?」
そう言ってくる鬼婆、もとい、老婆。
「両方です、あ……金無いんだった……」
前の世界の通貨が使える訳がない事に気づき、財布をしまう
「なんだい? 今の動作は、まるでお金はあるけどこの国の通貨じゃない見たいな反応だね。多少の額なら換金してやれるよ?」
「う~ん、たぶん出来ないと思いますけど……」
そう言いつつ、財布から硬貨や紙幣を取り出す。
「ふむ……こりゃまた不思議なコインだねぇ……意匠もこってるし……そうだねぇ。これだけのもんだったら換金じゃなく買い取りしてやっても良いよ?」
「マジッすか!? んじゃ、それで」
「そうだねぇ、それじゃ一種類ずつで300リルでどうだい?」
「えっと、この宿屋の代金って?」
「一泊、夜と朝の食事付きで100リルだよ」
三日分か~、666円で三日分ってすげぇな……このコインも伝説化してるけど……用途があるわけじゃないし良いか
「それじゃ、それで」
そう言うと渡されたのは銅貨三枚、100リルで銅貨一枚なのだろう。
その中から銅貨を一枚渡して、部屋のカギをもらう。
「あ、そうだ。おばあさん。このあたりってどうしてこんなに人が居ないんですか?」
「……みんな海に出てるのさ」
漁村だし、漁に出ているのだろうか? それにしたって、家に誰もいないのはおかしいと思うが……
しかし、おばあさんは視線を落としてもう聞かないでくれとその表情が言っていた。
「あ~、あと、この村に一番近い町ってどこ?」
「それなら、南に一日歩いたところにリンドラって町があるよ」
「そっか、ありがと」
そう言って二階にあるいくつか部屋の中の一つに入ってベッドに腰掛けた。
「一日か……」
今の俺なら走れば今日中にでも着けるだろう距離である。
そこに行けば、なんかの仕事も探せるだろうが、俺はこの村を離れる気が起きなかった。
あのおばあさんが一人でこの村に居るのかが気になっているからだ……
というか……眠い。
「きっと、アレだな……いろいろな事があったからだな……うん」
いきなりの異世界なのだ。そりゃ、疲れるさ……
「今日は……もう……寝よ…………zzz」
その日、俺は食事も足らずに眠りに付いた…………
がやがや、がやがや……
窓の外が騒がしい……
目をこすりながら体を起こすと、漁村は人で賑わっていた。
時刻は21時である。
松明が村を照らして、漁船から魚を降ろしたり、商売をしたりと騒がしい。
「……もしかして、ホントに海に出てただけ?」
首を傾げつつ、部屋を出て一階に下りると閑散としていたのが嘘だったかの様に人であふれかえっていた。
呆然としていると声をかけてくる人物が居た。
「おや、お客さん。良く眠っていたな!!」
酒を片手に持って、ほろ酔いの四十代位のおっちゃんと
「あらあら、それではお食事の用意をいたしますから、席に座ってくださいな」
三十手前の美女である。どうやら、この宿の夫婦らしい。羨ましいぞおっちゃん
「そうさせてもらいます」
そう言って席に着くと
「いやっはっはっは、今回は大漁でね!! 皆で祝いをしていたんだ!! ほら、キミも一杯どうだい?」
酒を出してくるおじさんに苦笑いを浮かべながらもお酒の入ったグラスを受け取り飲む。
フルーツを発酵させた酒らしく、飲みやすい淡い甘さのお酒に、喉も渇いていた俺はついつい一気に飲み干してしまった。
「お、いける口だな!! かーちゃん、お酒もう一本、持ってきて~!!」
「はいはい、わかりました」
焼かれた切り身魚やスープなどいろいろと用意しつつ、頬笑みの表情でお酒を持ってくる奥さん。
「お、うまっ!! この魚はなんて言うんです?」
焼かれた切り身魚を差し出されたナイフとフォークを使って食べると、絶妙な塩味と香ばしさが口いっぱいに広がる。そこからさらにじゅわ~っと染み出してくるジューシーな味わい。サクサクと噛み砕ける皮と絶品である。
「そりゃ、市場にゃ出回らねぇ魚でな、見た目がグロいからグロウオって呼ばれてるよ。珍味だ珍味!! この魚の味をしらねぇとは貴族どもは人生の半分は損してるぜ!! いやっはっはっは!!」
「へ~、たしかにそりゃもったいないな!!」
しかも淡い甘さをもつこの酒に意外と合うのが嬉しい。
「う~む、このスープも美味い」
魚介の旨味をギュッと詰め込まれ、様々な深みを感じさせる。こちらも塩味を生かしておりさっぱりとした上品なスープである。それにふわふわなパンを浸して食べると、やわらかな味わいを感じさせ飽きさせない。
「あれ? そう言えば、おばあさんは寝てるんですか?」
昼間、カウンターに居たおばあさんがこの場に居ない事に気づいて、問いかける。
「ん? おばあさん? うちにゃ、ばあさんなんていないぞ?」
「へ?」
でも、確かにいたはずである。というか、いなかった場合、俺は無賃でこの宿を利用したことになる。
「でも、その人にお金払ったんですけど?」
「ん? 張り紙見たわけじゃないのか? 一応冒険者や旅人の為に鍵は開けっぱなしにしておいたが……」
ちなみに見せられた張り紙には、ご利用の際には100リルをこちらに入れてくださいと書かれていた。ちゃんと俺の分は入っていたらしい。
「なら、あのおばあさんっていったい?」
「まあ、ちゃんと金は払ってんだから良いじゃねぇか! もしかしたら、そのばあさんも旅人かもしれねぇしな!!」
はは、どう見ても九十……へたすりゃ百越えてた様な婆さんだったが……
まあ、いっか。それよりも……やっぱりいるんだ冒険者。
「冒険者ギルドもあんのかな?」
「お? お前さん、冒険者になりたいのか?」
「え? あ~、そうっすね。なりたいと言えばなりたいかな?」
ぶっちゃけ、どっちでも良いんだよな……このまま定住できる場所探すのも良いし……あ、でもそれを探すのに冒険者になった方が良いか
「んじゃ、アグルへ向かう途中ってことか」
「アグル……っすか?」
「おお、首都アグル。そこで適職占いをしてもらうんじゃないのか?」
「適職占いなんてあるんですか?」
「んん? そんなことも知らねぇのか? てか、それが目的で今まで登録してないんじゃねぇのか?」
「あ~、俺が住んでたところってかなりの田舎なんで、冒険者ギルドが無かったんですよ。しかも村から離れて暮らしてたもんで、世間一般の常識ってのが欠けてるもんで、良かったら、冒険者ギルドについて教えてもらえます?」
きっぱりと大ウソ
「いやっはっはっは!! なんだそんな田舎に住んでたのか? 冒険者ギルドなら、この村にもあるぞ。というか、ここがそうだな。ここは宿屋兼酒場兼ギルドだからな」
「三足のわらじですか……」
「まあ、俺はこう見えて昔は名のある冒険者だったからな」
まあ、今でも筋骨隆々ですもんね。やっぱ、あれですか? 奥さんも冒険者だったりするんでしょうか?
「まあ、当時の相棒が今の女房でなぁ」
ああ、さいですか……のろけですね。わかります。美人ですもんね。のろけたくもなりますよねぇ。
「………………………そこに、俺が颯爽と現れて彼女の前に降り立ち……………あの時は心臓がバクバクで………………物の見事に打倒した………………(略)………………剣を振るっては………………魔法………………あ…………」
四時間後
「聞いてるかぁ? 坊主~」
「あ~、はいはい、きいてますよ~~~」
ふらふらと頭を揺らしながらも返事をする。
「それでな、俺はこう言ったんだよ。俺と結婚してくれ!! ってなぁ!!」
「ああ、そうですか~~~」
四時間が経ち、ようやく冒険譚を聞き終えた様だ。
とりあえず、この世界の常識の一端は聞く事が出来た気がする。
時刻は1時を過ぎており、これまでの間にどれだけ飲んだのか見当もつかない程の酒を飲んでいる。
というか、俺とおっちゃん以外、全員酔いつぶれてるよ……
「ああ、そうだ。これにサインしな」
「あ~~~、はいはい」
そう言われて素直にサインする俺……
「で、次はこいつに触れて」
そう言われ、水晶に触れるとなにやら暖かい光が放たれる。
「これで、お前さんも晴れて冒険者って訳だ!! いやっはっはっはっは!!」
「わ~~、ぱちぱちぱち!!」
おっちゃんはサインした用紙をなにやら、水晶球に触れさせた後、何やらカードっぽい物を取り出して渡してくる。
アクリルの様な透明な板の様なカードだった、黒いカードでアイサカ・ユキトと名前が表示されている。
「ほれ、これで他んところのギルドも利用できるぞ~」
「わ~い、そら、すごい」
けたけたけたと笑いながらカードを受け取りポケットにしまった俺は……
いろいろと限界を迎え……その場で眠りにつくのだった。
次の日…………
「ほら、起きな!!」
「ふぇ?」
声に起こされ、顔を上げるとそこには
「ぎゃ~~~~~!! 鬼婆~~~!!」
「誰が鬼婆じゃ!!」
「ごめんなさい」
「あれ? おばあさん、なんでいるのん?」
「宿屋の主人が居なくて誰が経営すりゃいいってんだい? 寝ぼけてんのかい?」
あれ~~?
「でも、夫婦が……」
そう言いつつ周りを見ると、そこには誰も居らず、閑散とした寂れた酒場があった……
「……夢?」
首を傾げるが、分からないので放置する。
「どうやら寝ぼけてるみたいだね。朝食を作っておくからその間に顔を洗ってきな」
「あ~~、そうします」
宿屋の裏に井戸があると言われたので、そこまで行って、水を汲み顔を洗う。
村を見ると昨日と同じ状況……
人で溢れたあの村は、まるでただの幻想だったかのようである。
「ホントに夢だったのかな?」
いや、夢だったのだろう
誰もいない、そんな村だからこそ、あんな夢を見てしまったのかもしれない
そう考え、夢での出来事は忘れることにした。
「いただきます!!」
朝食は粗食と言っては失礼だが、硬いパンと貝のスープ、それとサラダ(店の裏に畑があったのでそこで取れたものだろう)である。
「う~む、なかなかうまい」
スープの絶妙な塩加減が何とも言えない。それにサラダのしゃきしゃきとした歯ごたえ、酸味の効いたドレッシングが良い。
「ごちそうさまでした」
「あいよ。すまないね、こんなもんしか用意できなくて」
「いえいえ、美味かったですよ」
そう言って笑うと老婆も笑い返してくれた。
「そうかい。それは良かった……この宿の最後のお客様によろこんでもらえて何よりだ」
「最後ですか?」
「ああ、私もこの村を離れようと思ってるんだよ」
「そうですか……」
それも仕方ないよなぁ、誰も居ない村だ……今までこの村に残っていたことの方が不思議なくらいである。
「ああ……もうすぐ迎えも来るからね」
そう言いながら寂そうに酒場を見る老婆
迎えって事は親戚かなにか居るのだろう
「悪いね、こんな湿っぽい話ししちまって、ほら、あんたにゃ旅の続きがあるんだろう!? 隣町まで一日かかるんだ!! 早く出ないと夜になっちまうよ!!」
そう言われ、追い出される俺
「え? お?」
背中を押され、宿屋を出る。
「いってらっしゃい」
そう言って笑う老婆に
「行ってきます」
俺はつられて笑顔で言葉を返した。
歩いて一日……走ればどのくらいだろうか?
ふと気になって後ろを振り返る。
老婆が手を振っているのが見えたので手を振り返すと…………
その老婆は光の粒となって消えて行った。
え? なに、今の?
怪奇現象!?
お
お化け~~~~~~~~~!!
夢見宿 ~終~
~おまけ~
それは、リンドラの町にたどり着き、冒険者ギルドあるかなぁ……と思い、見つけ、登録しようとした時のことである。
「アイサカ・ユキトさんですね……あれ? 登録、済ましている様ですね?」
「え?」
「登録日が昨日、ユウラギの……村?」
「へ?」
ユウラギの村? ってか昨日?
そう言えば……昨日の村の夢で登録したような……
そんなことを考えながらポケットを探すとカーゴパンツの太ももにあるポケットにそれは入っていた。
「あ、あった……」
黒い透明なカード……アイサカ・ユキトと書かれたそれ……
と言うか受付の人驚きすぎじゃない?
「何をそんな驚いてるんですか?」
「えっと……ユウラギの村は……五十年も前に海神と海魔が戦いをした海に隣していた場所なんです。その戦いの際、その村は津波によって飲み込まれ……今では誰も住んでいないし、神魔の戦いの影響で人の住めない場所なんです。そんなところにギルド員もいるわけありませんし……それに……あなたの登録を行った人……って…………」
ごくり
「50年も前に無くなってるんです」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
って、またこのオチかよっ!! 二度ネタはイカンと言うとろうが!!