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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
第二章 -動き始める者達-
46/46

episodeⅡ 若者たちの夏事情-表-

〈時雨〉「第二章第二話だ」


〈千里〉「楽しんでくれよな」


それでは始まります。


 俺、方城時雨は、一刻も早くこの場から立ち去りたい衝動に駆られていた。

 もちろん、そんな願いは叶わないと頭では分かっているのだが、いかんせん俺はまだ高校生だ。精神的にまだまだ幼い部分もある。理性より感情の方が優先されるのは至極真っ当なことだろう。

 周りを見渡せば、色取り取り多種多様な水着、水着、水着。

 キャッキャウフフと会話を弾ませながら、あっちこっちに視線を動かしてそれらを見繕っている客。その全てが若い女性であり、男は俺と、隣に座って呑気に居眠りしているバカだけである。

 ここまで言えば誰でも気づくと思うが、俺達が現在いるのは、とあるショッピングモールの三階にある女性用水着売り場。その丁度中央付近に位置している試着室の傍のベンチに座っているという状況だ。

 本来ならば女性しか存在しないはずのこの場所で、男が二人(しかもその内一人は昼寝中という見るからに怪しい感じ)がいるというのは相当に奇異なものらしい。先ほどから俺の体に突き刺さってくる不審者を見るような視線が痛い。

 そもそもなんでこんなところにいなきゃならないのか。発端は言うまでも無いが楽園部女子部員たちと、一時的に俺の部屋に居座っている理事長である。

 海に行こうという話がまとまったのはいいが、出雲がいきなり「新しい水着が欲しい!」などという妄言を放ち出したのだ。そして運悪く他の女子達(主に水無月先輩)もその意見に乗って、光天寺学園から電車で三十分ほど行ったところにあるこの超大規模ショッピングモールに買いにいくことになってしまった。

 俺は最初自分は待ってるから女子達だけで行って来いと切り出したのだが、「それじゃあ意味が無い」と返され、挙句の果てには女子達の水着を選ぶという所まで話が進んでしまった。

 こんなことになるなら、やっぱり海に行くことなんて認めなければ良かったと今更ながらに思う。しかし、癒乃の甘言に唆され、不覚にも首肯してしまったのは俺自身の過失である。ならばもう覚悟を決めてやると半ばヤケクソ気味な状態でここに来た訳だが――。

 現在本日二度目の後悔中。

 実は昔、姉さんと海水浴に行くために一度ここに来たのだが、その時はまだ俺が小学生だったということもあり、女性客や店員の視線もほとんど無かった。

 だが、やはり今と昔は違うものだ。時の流れの恐ろしさというものを身をもって痛感している。

 出発の際携帯で呼び出して連れて来た、俺の横のベンチでグースカ寝息を立てている千里をぶん殴って起こそうかとも思ったが、こいつが目を覚ますと余計にめんどくさいことになりそうなので結局やめた。

 千里のヤツは昨日新しく買ったゲームを徹夜プレイして寝不足らしく、ここに着いてすぐベンチで仮眠を取り始めた。女性用水着売り場に目もくれないとは千里にしてはめずらしい。それほど眠かったのだろう。

 俺をこの地獄に強制的に連れて来た女子群はというと、一時間かけて水着を選んだ後、現在更衣室で着替え中だ。その間も俺と千里が痛い視線を受け続けていたのは言うまでもない。

 やはり店の規模が大きいと様々な設備もそれに比例して多くなるようで、更衣室の方も女子達六人が全員同時に使ってもまだ余りが出来るくらいの数がある。

 中からは彼女達の喜色やら興奮やら動揺などの妙に色めき立った声が漏れてきており、俺の居心地の悪さを増長させる一因となっていた。

 今だけは、無神経に昼寝が出来る千里のことが羨ましい。

 いっそのこと全員置いていって一人で先に帰ってしまおうか。そんな考えが一瞬頭の中に浮かぶが、即刻心の中でかぶりを振る。流石にそれはまずい。人道的にも俺の生命的にも。

 おそらく、もうしばらく経ったら女子達の着替えも終わるはずなので、大人しく待っていることにする。

 その時、

「…………?」

 ふと、誰かから見られているような微かな視線を感じた。いや、視線だけならさっきからずっと受け続けているのだが、それとは種類が違う気がする。

 まるで、――猛獣が獲物を見つけた時に、それを見定めるような目。そんな風に思えた。

 その違和感が気になって後ろを振り返ってみるが、相変わらず談笑しながら沢山の水着に目移りしている女性客達がいるだけで、それらしき視線を放っていそうな人物は見当たらない。

 ――気のせいか? そう決断するのは少し躊躇われたが、最近空巻先生の殺気を浴び続けているので、必要以上に感覚が敏感になっているのかもしれない。

 心の端に引っかかる疑念を無理矢理に押し流して、俺は再び着替えを待つことに集中する。まあ、別に集中して行うようなものでもないのだが。内心でそう思いつつ苦笑していると、ようやく俺の待ちわびた時間が来た。

 シャッと乾いた音と共に、一番左端の更衣室のカーテンが開く。

「し、時雨……どう、かな?」

 恥ずかしそうに脚をもじもじとさせ、自分の体を隠すように腰の前で両手を交差しながら、伏し目がちにそう尋ねてくる出雲。

 そんな彼女が着ているのは、各所にフリルをあしらったオレンジ色のシンプルなビキニ。出雲の活発そうな雰囲気に合っている水着だと思う。

 頬を朱に染めながらチラチラとこちらの気色を窺うその仕種と相俟って、今の出雲は妙に可愛く見えた。

「おおーっ! 似合ってるなぁ!」

 いつの間に起きたのか、ガバッと体を起こした千里が出雲の水着姿を見て感嘆の声をあげる。もしやこいつ、女子の水着姿の匂いに惹かれて目を覚ましたのではないだろうか。

「そ、そうかな?」

「おうよ、いい感じだと思うぜ! なあ相棒!」

「ん? ああ……まあ可愛いな。良いと思うぞ、割とマジで」

「ほ、ホント? えへへ……」

 俺と千里の褒め言葉が素直に嬉しかったのか、出雲ははにかみながらも嬉しそうな笑みを浮かべる。

 幼馴染をこうして褒めるのは少々むず痒いものがあるが、本当に今は可愛いのだから仕方ない。まあ、あくまで『今は』だが。

 そうして依然千里が興奮気味に鼻を鳴らしていると、出雲が入っていたところの隣の更衣室のカーテンが少し乱暴に引かれた。

 見ると、スポーティさを前面に押し出した、大きく腹部が露出している紺と空色のセパレートタイプの水着を着た杏奈がこちらを睨んで立っていた。

「あんた達、ここ女性用水着売り場よ? 何騒いでんの?」

「いや、連れて来たのお前らだろ」

 不機嫌そうに話す杏奈にそう言葉を返すと、さらに眉根を寄せて煩わしそうにしかめっ面になる。

 何故こんなにも機嫌が悪いのか疑問に思ったが、触らぬ神に祟り無し。放っておこう。

 だが、出雲にも言ったことではあるし、とりあえず水着姿の感想は言っておいた方がいいだろう。

 そう思った俺は、改めて杏奈の姿を見る。

 セパレートタイプの水着はスレンダーな体型の杏奈にはピッタリなようで、出雲と同様活発さを感じさせる。だがこちらには杏奈元来の貴族的な魅力が備わっているのか、その中にも気品も漂わせた。

 海で泳ぐことを想定しているのだろうか、普段はストレートに降ろしている澄んだ茶髪も今は一つにまとめてポニーテールにしている。

 口では中々形容しづらいが、そのギャップが何とも言えない。

「要はアレだな。可愛いな」

「にゃっ!?」

 つい口から零れ出たその言葉が杏奈にとっては予想外のモノだったのか、顔を瞬時に紅潮させて素っ頓狂な声をあげた。

「何か変なこと言ったか?」

「いやいや相棒……ちょっとは自重しようぜ」

「うん、やっぱり時雨はこうだよね。逆にこうじゃなかったら時雨じゃないよね、うん」

 杏奈の反応の意味が分からず首を傾げる俺の横で、千里と出雲が心底呆れ返ったようにため息をついていた。当の杏奈はというと、真っ赤な顔のまま目を白黒させて頭から湯気を出していた。人間って本当に湯気出せるんだな。

 そうやって軽く感心していると、再び更衣室のカーテンとレールが擦れる音が聞こえた。

「じゃじゃーん! どうかしら!」

 音がした方に目をやると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 やや露出が大めのスタンダードなオーシャンブルーのビキニに身を包んだ水無月先輩。腰には華やかな花柄のパレオも巻いている。

 しかし、まず一番に目を持っていかれるのはそのたわわに実った二つの果実。

 そして、何度見ても目を魅かれるのはやはりたわわに実った二つの果実。

 あれだけ規格外の双丘は見たことがない。

 そして一番の驚きは水無月先輩が着痩せをするタイプだったということだ。制服の上からでも十分に大きかったというのに、脱ぐとさらにすごいとはまさにこのこと。

 俺、千里、出雲、杏奈の視線が一点に集中する。挙げ句には近くを通りかかった他の客と店員の目すら奪ってしまっている。

 無理もない。美人でスタイル抜群の水無月先輩がキラキラとしたオーラを放ちながらばっちり笑顔を振りまいているのだ。これだけ見れば、どこかの大人気ファッションモデルに間違われてもおかしくはないだろう。というか実際、そういう雑誌に載っているのでは無いだろうか。そんな錯覚を起こすほどに、今の水無月先輩は輝いていた。見ると、キョロキョロと首を動かしながら在るはずも無いカメラとスタッフを捜している客も何人かいる。

 まあ、俺としては割りとどうでもいいことだが。

「あ、あれ? なんか、変だった……? もしかして、似合ってない……?」

 もちろんそんなことには蚊ほども気づいていない水無月先輩は場の空気が読めず、瞳に不安げな光を浮かべて、おそるおそるといった口調で尋ねてくる。

 そんな些細な行動すら、今やモデルのポージングに見えてしまうのは、きっと俺だけではない筈。その証拠に、彼女の懸念を含んだ響きを一瞬で掻き消してしまう声がフロアを埋める。

「放しなさい出雲! あたしは戦わなくちゃいけないのよ! 神様が創りだしたこの不条理な現実とね!」

「ダメだよ杏奈ちゃん! あれはもう私達の手が届く範疇じゃない! それこそ雲の上の存在なんだよ!」

「相棒、俺ァ……俺ァ今、この世の神秘を垣間見た気がしたぜ……!」

 先ほどとは別の意味で顔を真っ赤に染め上げて、金切り声をあげながらじたばたと暴れる杏奈。出雲はそんな彼女を後ろから押さえ込んで必死に宥めようと言葉を紡ぐ。こちらも地味に涙目になっているのは気にしないでおいてやろう。千里はというと、嗚咽を漏らしながらポロポロととめどなく涙を流している始末だ。何故か床に膝をついて、両手を合わせて水無月先輩のことを拝んでいる。

 周囲からもざわめく声がちらほらと聞こえ始め、瞬く間に水無月先輩を中心に喧騒が広がっていく。

「えっ、ちょっと……これどうなってるの? なんでこんなに騒がしいの?」

「あなたのせいですよ、ミナ」

 知らぬ間に更衣室から出ていた暦先輩の声に、おろおろと当惑の色をその顔に浮かべていた水無月先輩が振り返る。

「あ、暦……どうなってるのこの状況? あと、水着似合ってるわね」

 暦先輩が着ている水着はホルターネックの黒のビキニ。水無月先輩のものと比べてこちらは露出が少なめだ。水無月先輩の言うとおり、その水着に身を包んだ暦先輩はいつものミステリアスな雰囲気に加え、若干の可愛さが感じられる。中々に魅力的だ。きっとこの二人が浜辺なんかを歩いたら言い寄る男は数知れないだろう。

 だが、暦先輩本人はそんなことどうでも良いらしく、感情の篭っていない目で自分の幼馴染のある部分を見つめながら平坦な声色で言葉を返す。

「さあ、何なんでしょうかね。とりあえずミナ、その凶悪な物体を今すぐもぎ取れば良いんじゃないですか。そして出来ればそれを私に」

「はいっ!? 何怖いこと言ってるのよ、無理に決まってるでしょ!?」

「チッ」

「今あからさまに舌打ちしたわよね!?」

「気のせいです」

 暦先輩が混じって、騒ぎは収まるどころかさらに勢いを増していく。そろそろ支店長あたりが来てもおかしくない状況だ。

 杏奈は既に涙目になり半ば駄々っ子のように暴れ、出雲はそんな彼女を押さえるのに必死すぎて今や満身創痍状態。千里は何をとち狂ったのか「ははー」と頭を下げて、神でも崇めるかのように水無月先輩に畏敬の念を送っていた。

 いよいよ事態の収拾がつかなくなってきたことに、俺は軽く頭痛を覚える。

 水着を買いにきただけなのにどうしてこんなことになってしまうのか。理由は簡単、楽園部居るところに嵐有り。それだけだ。

 そろそろ本気で一人逃げ出そうかという算段を付けていると、不意に後ろから俺の袖口を引っ張る二つの感触がした。

 振り返ると、目線を少し下げた先に癒乃と理事長がこちらを見上げ立っていた。

 なんと二人は同種で色違いのワンピース水着。癒乃が白で理事長が赤だ。俺に向けられている碧と紅の二対の目は、何故だか見てるこちらの心が痛むくらいに純粋に輝いていた。

「……似合ってる?」

「どうじゃどうじゃ、かわいいか?」

 一瞬、返答に困る。ここで素直に褒めたら、また女子達にロリコンという俺の人生史上最悪のレッテルを貼られてしまうかもしれない。だが、この二人の無垢な気持ちを踏みにじるというのもまた別の意味で好ましくない行為だ。

 どうしたものか、と真剣に頭を悩ませている中、ふと一つの妙案を思いつく。この二人の要望に答え、なおかつ俺にとっても利益のあるもの。それは――

「ああ、似合ってる。めっちゃ良いと思うぞ」

「……なら、良かった」

「ふふん、当然なのじゃ!」

 俺の感想に安心したようにほっと息をつく癒乃と、両手を腰に当てご満悦といったように胸を張る理事長。いちいち反応が面白いが、今はさっさと話を進めなければならない。その一念だけを胸に、俺は言葉を続ける。

「ならもう買っちまおう。お前らのは俺が金出してやるから」

「……なんで?」

「もうちょっと着ていたいのじゃ」

 癒乃が首を傾げ、理事長は不満そうに唇を尖らせた。新しい水着を着ることにより浮つく気持ちは分かるが、こちらも色々と引けない理由があるので、なるべく優しい声色になるよう意識してさらに言葉を畳み掛ける。

「海で思いっきり着れるだろ。それに早めに買っておけばレジが混まないし、この騒がしい中にいて何かの拍子に破れたりしたらヤバイだろ。だからさっさと着替えて来い」

「……買って、どうするの?」

「逃げる。ここから」

 そう告げると、難しい顔でしばらく逡巡していた二人だが、やがて素直に頷ずくと一緒に使っていた更衣室へ小走りで向かう。

 二つの小さな背中を見送った後、なるべく急いでくれと内心願いながら、俺は静かに周りを見渡す。

 もう混沌とし過ぎていて何がなんだか分からない。絶大なフェロモンを放つ水無月先輩と荒れ狂う杏奈の周りには数え切れないほどの野次馬が集まっており、中には携帯で写メを取っている客もいる。

 よく目を凝らしてみると、人の波の向こうに支店長らしき人がこちらへ歩いてくるのが小さく見えた。おそらく騒ぎを聞きつけて対処しに来たのだろう。このままでは騒動の中心となった責任を押し付けられてしまう。

 もう時間が無い。背中を刺すヒヤリとした悪寒と共に、俺の中に焦りが生じる。

 まだか、まだ二人は着替え終わらないのか。

 実質的には癒乃と理事長を送り出してからまだ一分少々しか経っていないのだが、俺の我慢は既に限界が来ていた。

 一瞬、あの二人も置いてここから立ち去ろうと考えたが、すぐにそんな思考を振り払う。自分で頼んでおいていなくなるのは、流石に良心の呵責に耐えられない。

 俺の頬を冷たい汗が伝う。そのとき、再び俺の袖口に力が加わるのを感じた。

 振り向きざまに、元の服に着替え終わり、先ほどまで着ていた水着を手に持っている癒乃と理事長の姿が目に入るのを確認する。そのまま流れるような動きでひょいと二人を担いだ俺は、速やかに売り場の端にあるレジの方へと走り出す。

 面倒事はゴメンだ。

 故に、逃げる。

(後は任せた!)

 未だに乱痴気騒ぎを続ける残りの楽園部員達と千里を尻目に、俺達はその場を後にした。


 ショッピングモールのフードコートにあるアイスクリーム屋の円テーブルに座り、美味しそうにアイスを食べる癒乃と理事長。俺はそれを頬杖をつきながらぼーっと眺めていた。足元には二人の水着が入った紙袋が置いてある。

 あの女性用水着売り場から、とりあえず一つ上の階のフードコートに逃げてきたわけだが、そこで癒乃と理事長から何かを訴えるような眼差しを受けた。もちろん最初は拒否しようとしたが、結局彼女達の涙目+上目遣いに負け、アイスを奢ることになってしまった。しかも三段アイス。さっき購入した二人の水着分の金も合わせると、結構な出費だ。しばらくゲームとラノベを我慢しなければならないだろう。

 正直泣きたい気分だが、アイスを食べながらほんわか幸せオーラを放つ癒乃と理事長を見てると、まあいいかという気分になってくるのもまた確かだ。

 今頃、出雲達は責任追及やら事後処理やらに時間を費やしているのだと思うと少々申し訳ない気持ちになってくるが、今更俺が行ってもしょうがない。とりあえずはあいつらに頑張ってもらうとしよう。

 そうやって考えを割り切ると、今度はまた別の話題が浮上してきた。二人がアイスを食べているのをただ単に眺めているだけでは少し物悲しい気もする。先ほど少し体を動かしたことにより丁度喉も渇いているし、飲み物くらい一緒に飲んでもいいだろう。

 そう思い、席を立ち早速近くに自販機が無いか周囲を見回す。だが、

「なんで無いんだよ……」

 三六〇度くまなく探してみても、自販機は一つも見つからない。目に映るのは客を呼び寄せようと目一杯の営業スマイルを振りまく店員や、様々な料理を乗せたトレイを持ってマイペースに行き交う客達だけだ。これだけ広いフードコートなのだから自販機の一つくらいあってもいいだろう。一体どうなっている。

 すると、そんな俺の疑問を読み取ったのか、理事長が一度アイスを食べる動きを止めると呆れた顔でこちらを見上げながら口を開く。

「自販機なら無いと思うのじゃ」

「何でだ?」

「店側は店のドリンクを買って欲しいのじゃ。それなのにわざわざ売り上げが落ちるようなことをする訳がないのじゃ」

 なるほど、と心の中で得心する。フードコートで買うドリンクは自販機で買うよりも軒並み値段が高い。つまりその分だけ店側の売り上げが多くなるが、自販機で買われると逆に利益が少なくなる。そうならないために、客にわざわざ高い金を払わせるために、自販機を置いていないということか。

 中々に商売上手だが、それだけに狡猾な手段だという思いもある。わざわざ自販機のあるところを探すというのも面倒だし、何だか、一気に気力が削がれてしまった。

「しゃあねえ、大人しく待ってるか……」

 飲み物を買うことも諦め、ふうと疲労の色が混じった息を吐きながら席に着こうとした時だった――


 ぞわり。と、後ろから心臓を鷲掴みにされたような冷たい感覚が俺を襲った。


「――――!?」

 ほとんど意識せずに、反射的に後ろを振り返る。

 だが、目に入るのは先ほどと変わらない様子の店員や客だけで、何かおかしなものは見当たらない。

 ――気のせいか? いや、そんな馬鹿なことがある訳が無い。

 絶対に、気のせいなどではない。自身の荒立つ呼吸と、不規則に駆け足となってゆく鼓動がそれを証明していた。全身に耐え難い寒気が走り、首筋には汗が滲み出ている。たった今感じ取った筈なのに、どこか現実味の無い、異常とも言える、矛盾した何かがない交ぜになった感覚。

 この嫌な感覚と似たようなモノを、俺はつい最近味わったことがある。忘れられない恐怖が、この身にしっかりと刻み込まれている。

 これは紛れも無く、殺気――というよりかは、殺意だ。

 理事長室が崩壊したあの日、空巻先生と、おそらく岸田先生が放ったもの。

 だが、今感じた殺意はその二人のモノのどちらでもなかった。外側から全てを押しつぶしそうなモノでも、体の内側からゆっくりと蝕むようなモノでも。

 それはただ、ひたすらに、冷たい。

 身も心も全て、何もかもを、どこまでも、地の底から漂ってくる冷気で凍てつかせるような、そんな殺意だった。

 依然鳴り止むことを知らない、激しく波打つ脈動をよそに、俺の頭の中はただ一つに疑問で埋め尽くされる。

 ――本当に、人間が放ったモノなのか?

 無論、そんな疑問に答えてくれる人はいない。そもそも、俺以外に今の殺意を感じ取れたヤツがいるのか。周りの様子が変わらないことから察するに、その可能性は果てしなく薄いだろう。

 十数秒、そのままの姿勢で動きを止めていたが、ふと、理事長がアイスをなめながら不審そうにこちらを見ているのに気がついた。

「方城……なにボーっとしてるのじゃ?」

「あ、いや……別に、何でもない」

 珍しく歯切れの悪い俺の反応に、理事長はさらに怪訝そうな色を深めていたが、特に興味がなかったのか、再びアイスを食べるのに集中し始めた。どうやら、理事長も今の殺意には気づいていなかったようだ。気づいていたらそれはそれで大変だが。

 ようやく、乱れていた呼吸が落ち着き、思考も冷静さを取り戻し始める。とりあえず深呼吸をして、椅子に座る。

(ホントに……なんだったんだ、あれは……?)

 先ほど感じた殺意は既に欠片も残さず消えている。一体誰が、何の目的で、俺に殺意を放ってきたのか。分からないことが多すぎる。自分は誰かに恨みを買うことしただろうか。いや、確かに中学時代は割りと人に恨みを買うことばかりやっていたが、どいつもこいつも小物臭がぷんぷんするヤツ等ばかりだった。あれ程の殺意を扱えるヤツだ、おそらく只者ではないだろう。一人だけとんでもなく強い男はいたが、そいつは今頃少年院に入っているはずである。まさか脱走してきた訳でもあるまい。

 故に、全く見当がつかない。俺はさらに、思考の海に沈んでいこうとする。が、すぐ傍で聞こえたやかましい声によりそれは中断させられる。

「ああーっ! 魅鳴、アイスを落としてるのじゃ! なんてもったいないことを……!」

「…………」

 声の主は理事長。どうやら、癒乃が自分のアイスを落としてしまったらしい。限りなく哀れなモノを見る目で、無惨に床に飛び散った癒乃のオレンジアイスを見下ろしている。

 だが、当の癒乃はそんな理事長の声が全く耳に入っていない様子だ。無感動な瞳が虚空を見つめ、アイスが落ちコーンだけとなったそれを持つ右手は、ピクリとも動いていない。

「むむ? おい魅鳴、どうしたのじゃ? 何か固まってるぞ?」

 そんな彼女を変に思ったのか、理事長は疑念を含んだ声で尋ねるが、依然癒乃からは何も返ってこない。それに対し怪訝を通り越して流石に苛立ちを感じたらしく、理事長は小さく細い眉をきゅっとひそめて、噛み付くような勢いで言を放つ。

「おい、返事くらいしたらどうなのじゃ! 怒るぞ!?」

「……あ、な、な……に?」

 そこでようやく理事長が呼びかけていることに気がついたのか、癒乃は相変わらず半ば心ここにあらずといった様子のまま返事をする。目の錯覚かもしれないが、微かな言葉を紡いだその唇は、わずかに震えているように見えた。

一体何事かと一瞬疑問に思ったが、ふと微かな予感が脳裏をよぎる。

 ――もしかして、癒乃もあの殺意を……?

 だが、それを癒乃に確認する暇もなく、俺たちの注意は突然遠くから聞こえてきたやかましい声により別の物へと逸らされた。

「あーっ! 時雨たちこんなところにいたーっ!」

 声がした方向に目をやると、視界がいきなりローファーの靴裏で埋まる。そしてそのまま――

「ぬおおおおおおおおおおおおっ!?」

 直感が何か危険な前兆を察知したときには既に、俺は意味不明な奇声をあげながら全身を思いっきり後ろに逸らせていた。直後、風を切るような勢いの蹴りが顔面すれすれを掠めていく。そしてまた次の瞬間には、ちらりと目に映ったすらりと伸びたしなやかな脚は視界から消えていた。

 一瞬の出来事だった。現実的な時間に換算して言えば、一秒の十分の一もかかっていない。それほどまでに速く、鋭い蹴り。

「おや、今のを避けましたか。やりますね、時雨君」

 それを放った人物は、いつもと全く変わらない柔和な笑みを浮かべ、俺から少し離れた場所に立っていた。……いや、微かにだが、こめかみがピクピク震えている。もしかしてもしかすると、かなりご立腹なのかもしれない。

 というか――

「時雨君、どういう了見ですか? あの騒ぎの責任を私達に押し付けて癒乃ちゃんと理事長を連れて逃げるとは。流石はロリコンの名に恥じぬ見事な行い、お祝いに通報してあげましょう」

 うん。メチャクチャ怒っていっらしゃるよ、この人。

 そしてもちろん、怒っているのは暦先輩だけではない。彼女の背後から俺が置き去りにしてきたやつらが次々と俺の方に歩み寄ってくる。程度の差はあれど、皆一様に顔をしかめている。特に杏奈は普段より三倍増しくらいに眉間のしわが多い。どうしよう、超怖い。

 横目でテーブルの方向を見やると、気の毒そうな顔をしてこちらを見る目が二対四つ。そこには深い憐憫の念がこめられていた。

「ねえ時雨、あたしたちがあの後、どれだけ大変な思いをしたか分かる?」

 じりりとこちらに顔を寄せてきた杏奈が、やけに優しい声色で問いかけてくる。俺はわざとおどけた表情を繰り出し、うまく働かない唇を動かして何とか言葉を紡ぐ。

「い、いやー……どうだっただろうなー。俺、分かんねえわー……」

「でしょうね……分かるわけないわよねぇ? あんたは逃げ出したんだもんねぇ?」

 少し釣り目がちの杏奈の双眸から、ぎらりと獰猛な光がちらつく。

「いやぁ、大変だったぜーオイ。店の人への謝罪、騒ぎによって損傷したモンの弁償……杏奈がいたから何とかなったけどな、結構な額だったぜ?」

「ふふ、先を見越して千里君に私達の水着を買ってもらっておいって良かったよ。騒ぎのあとはとても買い物できるような雰囲気じゃ無かったからね」

 杏奈の両脇に並び立った出雲と千里が、同じように妙な優しさを感じさせる声で言う。言葉通り、出雲の両手には俺の足元に置いてある紙袋と同じものがいくつか見られる。そしてさらにその後ろから、先ほどの騒動の原因となった人が歩み出てきた。

「時雨君、あなたすごいわね。暦に直接手を出させる……もとい足を出させるなんて、滅多にないことよ? 一応言っておくけど……ああ見えて、暦はすごく強いわよ?」

 にっこり。そう、あくまでにっこりとした笑顔なのに、夜の海にも似た吸い込まれそうな色を帯びるその瞳は全く笑っていない。さっき感じた冷たい殺意とは違った意味で背筋が凍りそうになる。

 やばい。これはマジでやばい。

 急激に体温が冷めていくような錯覚を覚え、引いたはずの冷や汗も再び流れ始める。

「それと、知ってると思うけど……私も、強いわよ?」

「そ、そりゃまあ、理事長室を素手で壊すくらいですからね」

「そう。なら、覚悟は出来てるわよね?」

 ばきり、と乾いた音がした。

 ゆっくりと慎重に目線を下にやると、クリーム色に塗られた木製の円テーブルの一部が大きく欠けていた。そして、目線を上に戻すと、水無月先輩が握られている右手をこちらに見せ付けるように差し出す。

 そのまま、にやりと笑った彼女がその手を開くと、乳白色と黄土色が混ざった粉末がサラサラと零れ出る。間違いなく、テーブルと同じ色だ。

 どんな握力だ、とツッコミを入れたくなったが、この空気がそれを許してくれない。

 気づくと、テーブルを囲むように、出雲、杏奈、千里、暦先輩、水無月先輩が俺の周りにたたずんでこちらを見下ろしていた。その全ての顔に浮かぶ爽やかで残虐で柔和で酷薄な笑みは、とてもすがすがしく、そして恐ろしく見えた。

「……一応聞いとくけど、……弁解の余地は?」

「「「無い」」」

「ですよねー」

 最早全てを諦め、底まで乾ききった笑みで俺は言葉を返す。

 ――ああ、やっぱり、海に行くなんて認めなければ良かった。


「へぇ……」

 都会にそびえ立つ高層ビル群、その中の一つであるマンションの屋上で、『彼』は感心と好奇が入り混じったような声を漏らした。

 その視線の先には、一キロメートルほど離れた場所に、様々なものがある都会でも一際大きいインパクトを放って屹立している巨大なショッピングモール。さらに詳しく言えば、そこの四階の・・・・・・角に位置する・・・・・・多数の客で・・・・・賑わっている・・・・・・フードコート・・・・・・

 青い塗装が剥がれかけたフェンスに体を預け、先刻コンビニで買ったお気に入りのスナック菓子を片手に、『彼』は楽しげに笑う。

「まさかアレに耐えるなんてなぁ……中々オモシロイ奴等じゃねぇか。――こいつらとは大違いだ・・・・・・・・・・。ヒャハ」

 言うと同時、『彼』は背後へほんの少しだけ目を向ける。そこに映る光は、全てを凍てつかせるように、どこまでも暗く冷たい。先ほどまでとある少年に向けられていたものと似ている。だが、今『彼』の足元に転がる物たちに送られているそれは、まるでゴミを見るかのようなものだった。

 いや、事実、『彼』にとって足元――及びマンションの屋上一面に広がっているのは、ゴミと同義である。そう――

 ただ単に、『彼』に喧嘩を売ったことにより虐殺された男達の成れの果てなのだから。原型を留めないくらいまでバラバラに分解され、汚い血を飛び散らすだけの肉の塊に、それ以外に一体どんな価値があるというのか。

 そこで『彼』は自分の制服のYシャツが真っ赤に染まっているのに気がつくと、途端に苦い顔になる。

「やべ、まーた汚しちまったよ……クララに新しいの注文しとくよう言っとかねぇと」

 『彼』は血に塗れたYシャツの胸ポケットから、同じように赤い色がまばらにこびり付いた黒い携帯電話を取り出す。電話帳に登録している数少ない番号の中から自分の部下のモノを選び、通話ボタンを押そうとしたその時、ふとあることを思い出した。

「そういやぁ、もうそろそろ『会議』が始まってる頃だな……」

 自分の中で確認するように呟いた後、『彼』は少しだけ逡巡すると、再びその口元に人の身を切り裂くような冷たい笑みを貼り付けた。そして、

「ちぃとばかしは楽しめそうだし……たまにゃあ学園に戻ってみんのもいいかもしんねぇなぁ……。――精々オモシロく踊ってくれんのを期待してみるか、ヒャハハ」

 恐ろしいほどに凶暴な響きを持ったその言葉を聞いた者は、当然ながら誰もいない。吹いた一陣の風が充満する鉄の匂いを運んでいくと同時、微かな反響となって遠い空のかなたへ溶け込んでいく。

 次の瞬間にはもう、『彼』の姿は影も形も無く消え去っていた。

 閑散としたマンションの屋上に残されたのは、生の気配など欠片も有さない、ただただ静謐とした光景だった。



はいどうも、水面です。


〈千里〉「守社千里だ! よろしく頼むぜ!」


いや、相変わらず最後に怪しい、というか最早怖い人が出てきましたね。あれは誰なんでしょうかね。


〈千里〉「そりゃ今後明らかになってくだろ!」


では、早速トークの方へいきましょうか。と言っても、最初は正確にはトークではありませんが。


〈千里〉「前回と同じように、きままにさんからイタズラの依頼だ! 今回は俺が実行犯になるぜ!」


前回同様、千里君が持っている隠しカメラでイタズラの様子を撮った映像があります。

それではまず最初のイタズラ、『水無月先輩に衝撃の事実、エビの殻はGの羽と同じ成分であることをつげる』です。


〈千里〉「いやー、これは手厳しかったよなー、あっはっは。んじゃ、VTRスタートだ!」



【七月某日 放課後 楽園部部室】


〈千里〉『ちわーっす!』

〈水無月〉『あら、千里君? こんなところへ来てどうしたの? もしかして楽園部に入りたいとかかしら?』

〈千里〉『いえいえ、ちょーっと先輩にお話したいことがあるんですよ。時に先輩、エビは好きですかい?』

〈水無月〉『どうしたのいきなり……まあ、好きだけどね、普通に』

〈千里〉『そのエビなんですけど、殻はGの羽と同じ成分なんすよ!』

〈水無月〉『――――』

〈千里〉『あ、固まった』


〈千里〉「なっはっはっは、あの反応は最高だったぜ!」


相当ショックみたいでしたね。

では次、『杏奈さんのシャーペンの芯を全て赤い物に』です。


〈千里〉「これは大変だったぜ。ばれないようにするのに苦労したなー」


【七月某日 授業開始時刻 一年一組教室】


〈杏奈〉『(あーもう、めんどくさいわね。二時限目古典じゃない……あれ?)』


はい、シャーペンの芯が赤いことに気づきましたね。


〈杏奈〉『(ちょっと、何よこれ。芯が赤く……え? 嘘、他のも全部? 残さず赤くなってる? ……誰よ、こんなくだらないイタズラしかけたの……?)』


〈千里〉「流石は杏奈だな。軽く戸惑ってるけど至って冷静だぜ!」


〈杏奈〉『(……千里のバカね。あのチャラ男、後で潰す)』


〈千里〉「…………」


思いっきりばれてますやん。


〈千里〉「ははは……」


打ちひしがれているようですが、次のイタズラです。『暦先輩のボールペンの芯を赤は黒に、黒は赤に入れ替える』。似たようなイタズラですが、VTRスタート!


【七月某日 授業中 二年二組教室】


〈暦〉『(さて……丸付けをしようと思ったら、何故か赤いボールペンが黒に、黒いボールペンが赤になってますね。誰かのイタズラでしょうか)』


流石、とても冷静ですね。


〈千里〉「なんかまたばれてそうだぜ……」


〈暦〉『(どうせ千里君あたりがやったのでしょうが、まあ放っておきますか)』


〈千里〉「相手にもされなかった!?」


ああ、イタズラを無視されるって結構ツライですよね。


〈千里〉「くそっ……だが、こんなことじゃあ俺はくじけねえ! 次のイタズラだ! 『出雲さんのケシゴムをこっそり交換。ちなみにそのケシゴムには時雨さんの顔が本物そっくりに彫られている』だ! ちなみに俺が彫った! 手先は器用な方だからな!」


果たして、出雲さんはそのケシゴムを使うことができるのか!


【七月某日 授業中 物理講義室】


〈出雲〉『(あ……字、間違えちゃった。ケシゴムケシゴム、ケシゴ……ム……!?)』


やべぇ、千里君マジで彫るの上手いですね。彫刻家目指したらどうですか?


〈千里〉「ふっ、俺が本気出したらこんなもんよ!」


〈出雲〉『(えっ、えっ? な、何で私のケシゴムに時雨の顔が……!? というかすごくそっくり……! ど、どうしよう、これ以外にケシゴムは無いし……)』


悩んでますね。


〈千里〉「くくく、想い人の顔で字を消せるかな……?」


〈出雲〉『(う、ううううううううううううううううう……!)』


結局、授業が終わるまで悩んだままでした。


〈千里〉「ありゃ完全に授業頭に入ってないな。悪い、出雲!」


はいはい、じゃ次。『癒乃さんにカレーをご馳走。ちなみに食べた皿の底には前回御三方(出雲・杏奈・水無月)が鼻血を出した写真をどうぞ』です。


〈千里〉「ああ、あの相棒の風呂上りの写真か」


これは反応が楽しみですね。


【七月某日 昼 食堂】


〈癒乃〉『……ホントに、いいの?』

〈千里〉『いいっていいって! カレーくらい何杯でも奢ってやるよ!』

〈癒乃〉『……ありがとう。じゃあ、いただきます』


食べはじめましたね。相変わらず早い早い。


〈千里〉「間近で見ていて中々の迫力があったぜ」


おっと、そんなことを喋っているうちにもう食べ終わりそうですよ。


〈癒乃〉『……むぐむぐ。うん……美味しい。……ふぇ……?』


写真に気づきましたね。


〈千里〉「ちなみに写真にはちゃんと保護シートをつけてるから安心だ!」


〈癒乃〉『……カレーから……裸の、時雨が……? ……な、なん、で……ふにゃぁ』

〈千里〉『あ、気絶しちった』


やはりカレーの中からコンニチハは癒乃さんには少々刺激が強かったみたいですね。


〈千里〉「慌てて保健室に連れてったぜ」


では、最後のイタズラです。『だれでもいいから時雨さんをまさぐって(女子に限らない)』。


〈千里〉「ちなみにこれはカザミドリ先輩に協力してもらったぜ! めっちゃ快く引き受けてくれたしな!」


では、VTRどうぞ!


【七月某日 放課後 とある廊下】


〈翠〉『おやおや、これは偶然ですねェ、方城君』

〈時雨〉『あんたが言うと全く偶然に聞こえないんですけどね』


〈千里〉「流石相棒、鋭いな」


〈翠〉『そんなことおっしゃらずに、たまには先輩と後輩の微笑ましいスキンシップでもしましょうよ』


おおっと、いきなり大胆に腰に手を回した! しかも背中に胸を押し付けてるだと!? 変態の名は伊達じゃない!


〈時雨〉『……カザミドリ先輩』

〈翠〉『どうしました、もしかして照れてます? くくく、意外と方城君純朴だったり――』

〈時雨〉『さっさと離れてください。邪魔なんで』

〈翠〉『――――』


〈千里〉「相棒、真顔でそれはいけねえよ! いくらカザミドリ先輩でも精神的ダメージがでかすぎる!」


実際、カザミドリ先輩も固まっちゃってますしね。やはり時雨はロリコンみたいですね。


〈翠〉『……作戦失敗してしまいましたか』


〈千里〉「ほら、ちょっとショックを受けた感じになっちまって――」


〈翠〉『あの冷たい眼差し……クセになりそうですねェ……』


〈千里〉「流石カザミドリ先輩! 揺らぎねえ!」


イヤホント、あの人はぶれないお人です、では、きままにさんから依頼されたイタズラはここまです。ここからは普通のトークの方へ――


〈時雨〉「おい千里」


〈杏奈〉「やっぱりアンタの仕業だったのね」


〈千里〉「おお……ふ……」


この人たちいつの間に……!?


〈水無月〉「あなたのせいで私エビ食べられなくなったのよ!? どうしてくれるの!?」


〈癒乃〉「……あれは恥ずかしい」


〈出雲〉「あんな手の込んだマネまでして……」


〈暦〉「これは少しばかり、お仕置きが必要みたいですね?」


〈千里〉「……作者、後は任せたぜ」


千里いいいいいいいいいいいいいいいい!



しばらくお待ちください。



〈時雨〉「ったく、悪ふざけも大概にしろってんだ」


あは、あはははは。いやまあ、きっと彼も反省してますよ、うん。


〈杏奈〉「ほら、ゴミ掃除も済んだしさっさとテーマを言いなさいよ」


あ、はい。えー、まず三月語さんからで、『猫』です。


〈暦〉「随分とシンプルですね。まあ、私は猫は好きですが」


〈出雲〉「可愛いですよね~。あのくりくりしたつぶらな瞳、フサフサした尻尾、プニプにした肉球! たまらないな~!」


〈癒乃〉「……可愛いと思う。けど、あんまり美味しくは――」


〈水無月〉「はいストップ! 癒乃ちゃんストップ! そこから先は言っちゃダメよ!」


〈時雨〉「こいつの判断基準はやっぱり食欲なのか……。俺は、まあ普通だ」


〈杏奈〉「あたしは結構好きよ。というかあたしの家にいるし。十匹くらい」


〈出雲〉「ホント!?」


〈杏奈〉「ええ、ペルシャとかロシアンブルーとか、あとマンチカンやスコティッシュフォールドなんかもいるわね」


〈水無月〉「あらら、羨ましいわねそれ」


〈杏奈〉「あと確か……トラが一頭いたような……」


〈杏奈以外全員〉「!?」


そりゃ確かにネコ科ですけども……。まあいいでしょう。次のテーマへ。同じく三月語様からで、『自分に双子の兄弟姉妹がいたら』です。


〈時雨〉「多分喧嘩ばっかだな。俺と同じ顔とか超ヤダ」


〈出雲〉「私よりも頭が良い子がいいなー。そしたらいつでも勉強教えてくれそうだよね!」


〈杏奈〉「何だか財閥内で後継者争いとかが起きそうだわ……」


〈水無月〉「きっと毎日エキサイティングで面白い生活になりそうね!」


〈暦〉「特に何も変わらない気がしますね。しいて言うなら、一日の会話の回数が少し増える、くらいでしょうか?」


〈癒乃〉「……一緒に、食べ歩きする」


〈出雲〉(きっとつぶれる店が後を立たないだろうなー……)



ま、皆さんこんなもんですかね。ちなみにですが、カザミドリさんに「全く真逆の一卵生双生児の姉妹」についての見解をお聞きしてみました。どうぞ。


〈翠〉『真逆の双子ですか……いいですねェ。実に素晴らしい! たった一組でとんでもないほどの萌えが生まれるじゃないですかァ! 巨乳と貧乳、おしとやかと活発、恥ずかしがり屋とツンデレ、長身と低身長、器用と不器用、メガネと非メガネ、可愛いと可愛い! どんっだけ素ん晴らしいことなんですかこれはァ! しかもその違いによって生まれる不和やコンプレックスに悩む姿また……ああもうたまらない! 想像するだけで鼻血が出そうです! 私の家に持ち帰りたいくらいです! ここまで来ると最早無限の可能性とも言えるでしょう! いや、それすらも超える! つまりは――』


はい、ここで終了です。あまりにも長すぎたので割愛しました。


〈全員〉「…………」


ははは、まあ予想通りでしたね。

では次のテーマです。ATKさんからで、『弟(時雨)にロリコン疑惑が掛かってますが、どう思いますか?』、小夜さんに向けてのテーマですね。


〈出雲〉「ふん! あの野郎になんか聞く必要ないよ!」


〈時雨〉「それ以前に俺はロリコンじゃねえ!」


まだ言ってんですか……。まあいいや。小夜さんには事前に聞いておきました。その答えがこちらです。


〈小夜〉『なら私が小学生に戻る!』


〈全員〉「……………………」


あはは……こちらもぶれないですね……。

では最後のテーマです。同じくATKさんからで、『時雨を誘惑して見せろ!』です。


〈出雲/杏奈/水無月〉「ぶふぅっ!?」


〈時雨〉「は?」


〈癒乃〉「……誘惑?」


〈暦〉「これは面白そうなテーマですね」


〈千里〉「俺も同感です!」


〈暦〉「おや、起きたんですか」


〈千里〉「こんな楽しそうなテーマをやるってのにいつまでも気絶してられますかってぇの!」


〈翠〉「全くその通りです! 良い事を言いますねェ守社君!」


〈千里〉「おおっと!? カザミドリ先輩いつの間に!?」


〈翠〉「萌えあるところに風水翠あり! 当然ですよ!」


〈暦〉「最早呆れを通り越して感心しますよ……」


はっはっは、いやいやこれはいいテーマですね。

ちなみに誘惑用の衣装は更衣室に大量に用意しておりますので。かなり際どいのもありますよ。


〈杏奈〉「ち、ちょっと! 何なのこれ!? 誘惑!?」


〈出雲〉「無理無理無理無理! できっこないよ!」


〈水無月〉「ホントにもう変なのばっかり送ってくるんだから……!」


ええいうるさい! 作者権限だ! さっさと好きな衣装を着て誘惑してこい!


〈出雲/杏奈/水無月〉「いつか絶対仕返しするから!」


ふん、そんなもの怖くは無い!


〈癒乃〉「……えっと、行ってきます」


〈時雨〉「おいおい……何が何だか分からねえよ。てか何であいつらが俺を誘惑する必要があるんだ?」


〈暦〉「いい加減あの子達が可哀想になってきました」



しばらくお待ちください。



はい、四人が着替え終わったようです。では、順番に行っていただきましょう。

まずは出雲さんです。


〈出雲〉「はぅ……」


〈時雨〉「な……!」


〈千里〉「おお……ビキニ水着に犬耳犬尻尾、そして首輪か……」


〈暦〉「中々可愛いですね」


〈翠〉「はっはーっ! たまらんですねェ!」


これは素晴らしい。さあ、一体どんな誘惑をしてくれるのか!


〈出雲〉「あ、あの……」


〈時雨〉「お、おう、なんだ」


〈出雲〉「わ、私を……しつけてください、ご主人様……」


〈翠〉「ぶはぁっ!!」


〈千里〉「いきなり鼻血ですか!?」


〈暦〉「これは輸血の準備をしておいた方がいいですね」


パネェ、こりゃパネェっすよ。さて、肝心の時雨の反応は!?


〈時雨〉「……お、お手?」


乗った!? まさかの!?


〈時雨〉「はっ、俺は一体何を……!?」


〈出雲〉「こ、これ、想像以上に恥ずかしいよぉ……」


はっはっは、では次に、杏奈さん、いってみましょう!


〈杏奈〉「…………」


〈暦〉「これは意外ですね……真っ白で清楚なワンピースとは」


〈千里〉「気のせいか、杏奈の顔もおしとやかに見えるな……」


〈時雨〉「お、おい、杏奈?」


〈杏奈〉「貴方様」


〈杏奈以外全員〉「!?」


〈杏奈〉「わたくしと、一夜を共にしていただけませんか……?」


〈翠〉「いつもはツンツンしてるあの子が一転おしとやかで攻めてきた時の破壊力半端ねェェェェェェェェ!」


いや、マジ半端ないですね、これは。


〈時雨〉「やばい……可愛いかも……」


〈杏奈〉「っ! わ、忘れなさい! というか忘れろバカ! 脳細胞ごと消去しろ!」


やはり内心は恥ずかしかったようですね。では次、水無月さんに――


〈水無月〉「きらりん☆ 魔法少女ミラクルミナリン、ただいま参上! あなたのハートに恋の魔法をかけちゃうぞ♪」


〈水無月以外全員〉「…………………………………………………………………………」


…………………………………………………………………………。


〈水無月〉「……う……うわああああああああああああああああああああああああああああああああん!」


〈千里〉「……逃げたっすね。謎の魔法少女」


〈暦〉「これはもう私の方が恥ずかしくなってきましたよ……。よりにもよってあんな衣装を選ぶとは……」


〈時雨〉「あれは……褒めた方が良かったのか……?」


〈杏奈〉「いいえ、一刻も早く忘れてあげなさい……」


〈出雲〉「あ、あはは……」


〈翠〉「いやァ……あれは中々見れない貴重な光景でした。念のためビデオカメラを回してて正解でしたよ!」


水無月さん、哀れ……。では最後、癒乃さん出てきてください。


〈癒乃〉「…………」


〈癒乃以外全員〉「っ!?」


スク水に……ランドセル、だと……!?


〈癒乃〉「……せんせぇ、わたしに、いっぱい色んなこと……教えて?」


〈時雨/千里/翠〉「がふぅっ!?」


〈出雲〉「吐血した!?」


〈杏奈〉「これは最早反則よ!」


〈暦〉「これは……時雨君のようなロリコンでなくても、破壊力が半端ではありませんね……」


〈癒乃〉「……やっぱり、恥ずかしい」


ごふっ……くう、ヤバイです。わたしも吐血しそうでした……。


〈出雲〉「三人とも、しっかりしてっ!」


〈杏奈〉「一応保健室に連れて行きましょ」


〈暦〉「輸血の準備、しておいてよかったです」


はっはっは、ではこれで今回は終わりです。トークテーマをくださった方々、ありがとうございました!

感想とトークテーマ、いつでも受け付けておりますのでよろしくお願いします!


それでは、次回もお楽しみに!



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