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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
第二章 -動き始める者達-
45/46

episodeⅠ "START"

はい、今回から第二章です。


〈暦〉「楽しんでいってください」


〈翠〉「では、始まりますよォ!」



「……暑っちい……」

 にじみ出る汗、全身を覆うような熱気と湿気に不快感を覚えながら、俺は目を覚ました。

 窓の外からは聞こえるのは小鳥のさえずる声、なんて涼やかなものでは無く、非常にやかましい耳をつんざくようなセミの声だけ。ただでさえ暑いというのに、余計に暑さが増長されているような気がした。

 汗でベタベタと張り付いた寝巻きと肌の間に手で風を送ってみるが、大して、というか全然効果がない。

 近年は地球温暖化が非常に問題になっているとテレビ他色々なメディアで聞くが、なるほど、確かにこれは中々に重大な問題だと思う。

 依然止まらない汗を拭い、枕元においてある時計を見ると、ちょうど九時になるところだった。

 普段なら遅刻確定だが、今は違う。

 現在七月末。終業式からもう五日ほど経っている。

 つまり、夏休みの真っ只中なのだ。

 あの理事長室倒壊事件から大体二週間弱といったところだが、その後もなんやかんや色んなことがあり、少々騒がしい日常を送って終業の日を迎えた。

 光天寺学園は進学校のはずだが、思ってたよりも宿題が少なく、これならすぐ終わりそうだと安堵した。それでもやはり出雲は嘆いていたが。

 そして今日となった訳だが、いやはや、日本の夏の不快さは毎年毎年改めて実感させられる。

 昼間はまだクーラーがあるから良いが、原則夜の間はクーラーをつけてはいけないという校則があるので、毎晩毎晩寝苦しい夜を過ごしている。

 人によってはこの茹だるような暑さが夏のいいところと言う奴もいるが、残念ながら俺には到底理解できそうもない。こんなジメジメとした気候のどこが良いのだと言いたい心境だ。

 スポーツをやるにしても、この高い気温の中じゃ下手すれば熱中症になる危険性がある。いいトコ無しじゃないか。

(……ホント、夏はだるい季節だ)

 心の中でそうぼやいてみても、この気だるさは解消されない。

 そんな限りなくローテンションで体を起こす俺を、呆れたように見ている目が二人分。

「あんた、今すっごくだらしないわよ。自分でもそう思わない?」

方城ほうじょうはアホだから仕方ないのじゃ」

「……ほっとけ」

 俺より大分前に起きていたであろう、呆気満面な杏奈あんな湖倉こくらあざみ理事長の言葉に、俺は投げやりに返す。杏奈はそんな俺の反応にやれやれと肩をすくめ、一瞬止めていた作業を再開させる。

 その作業というのが、かなり意外というか、ほんの数週間前には想像も出来なかったことなのだ。

「ったく……あんた、自分で寝癖も直せないの? ホントダメダメ理事長ね」

「うううっさいのじゃ! ここに来る前は菜奈ななにやってもらってたから仕方ないのじゃ!」

 可哀想な子を見るような目で理事長を見ながら、ヘアブラシ片手に寝癖で乱れた彼女の髪を整えていく杏奈。そんな杏奈に噛み付きそうな勢いで抗議しながらも大人しく髪を梳かれている理事長。

 二人の関係を知らなかったら、この光景を見て姉妹だという人も少なくないだろう。まあ、姉妹にしては全然似てないが。

 理事長室が水無月みなづき先輩の手によって半壊したことにより、そこで寝泊りしていた理事長が俺達の部屋に来てからすでに数日が経っているが、正直、今の状況は俺にとってなんとも形容し難いものがある。

 ここ数日間で、杏奈と理事長の仲は大分軟化したような気がする。

 以前は相対するだけで二人の間にピリピリとした空気が流れていたが、今ではそれがほとんどない。二人とも口が悪いから言い争いは日々絶えないが。

「なるほど……こうして見ると、確かに姉妹に見えるかもな」

「「は?」」

 二人が全く同じタイミングで怪訝な声をあげてこちらを見る。

 すげえこいつら、マジで姉妹なんじゃねえの?

 そんな俺の考えを読み取りでもしたのか、二人は一瞬で激昂の感情を顔に表し、同時にキッとした眼光で俺を睨むと、

「「誰がこいつなんかと!」」

 再び見事なハモリをご披露してくれた。

 ……うん。やっぱりもう姉妹で良いよね、キミ達。

 そう思ったが、これ以上何か言うと朝っぱらから俺の部屋でリトルウォーズが勃発してしまう可能性があるで、二人を宥めることに徹する。

「悪かったっての。お前ら、ノット、姉妹、オーケー?」

「なんで片言なのじゃ?」

 理事長がくりくりした丸い目に怪訝の色を浮かべて尋ねてきたが、俺は適当にはぐらかした。……二人の精神年齢に言葉を合わせたとは口が裂けても言えない。

 ちなみに、こんなやり取りの中でも杏奈の手が一切止まっていなかったことに関しては素直に感服だ。

「ま、いいわ。時雨しぐれがこんななのはいつものことだし。それより……今日はどんな髪型にしようかしらね?」

 やがて、梳き終わった理事長の髪をくるくると指に絡ませていじりながら、杏奈は思案にふける表情で呟くように理事長に尋ねる。

「髪型のことはよく分からん。任せるのじゃ」

「そう、じゃあ今日はサイドアップにしようかしら」

 そう言うと、手馴れた手つきで理事長の鮮やかな深紅の髪をまとめ始める杏奈。その自然な佇まいからは、なんかプロの美容師が発するような雰囲気が滲み出ていた気がした。

 理事長がこの部屋に来てから、杏奈が毎朝理事長の髪型を決めるのは最早日課となっている。確か昨日はツインテールだったし、一昨日は三つ編み、その前の日はポニーテールだった。

 風呂上りに髪をかわかすのも杏奈の役目だし、たまにシャンプーもしてやっているらしい。

 流石腐ってもお嬢様。髪の手入れに関してはお手の物と言ったところだろうか。

 以前は扱いが余程悪かったのか、若干傷んでいた理事長の髪も今では年齢相応の艶と輝きを取り戻している。いやはや、やはり女子は髪を大切にしないといかんですな。

「はい、できたわよ」

「おお、ふむふむ、中々なのじゃ!」

 杏奈から借りた手鏡越しに自分の髪型を見て満足そうに頷く理事長。ちなみに髪型は先ほど杏奈が言っていた通りサイドアップテール。なるほど、確かにこれは似合っている。

 そんな風に、今日の髪型にもご満悦な理事長がニコニコと邪気の無い笑顔を浮かべている横、正確には隣のベッドでもぞもぞと動く物体が一つ。

「んぅ……にゃ」

 このクソ暑い中であるにもかかわらず、分厚い羽毛布団を頭からかけて未だにだらしなく寝こけているアホ――もとい出雲いずもが寝ぼけながら間抜け声をあげる。

「ふにゃ……暑い、……ふぁ?」

 流石に暑苦しくなって目が覚めて来たのか、うっすらと開いた寝ぼけ眼をこちらに向ける。

 ちなみに、現在の出雲の位置は、ベッドの端ギリギリ。

「しぐれ~……あんなちゃ~ん、あとりじちょー。おはよ――おぉあにゃぁぁぁ!?」

 ズゴン、と。

 やはりというかなんというか、実に見事な音をたてながら、ベッドとベッドの間の床に脳天からダイブ。さらにその衝撃により、枕元に置いてある、出雲にとっては全く意味が無い目覚まし時計(金属製)からの追撃も来た。

 朝っぱらから出雲の悶絶する声が響く。

 ある意味、あの目覚まし時計はきちんと本来の役割を全うしていると思う。……やり方は少々アブノーマルだが。

「アホなのじゃ」

「アホね」

 依然ベッドの間に埋まりながらくぐもった呻き声をあげている出雲を見て、杏奈と理事長は最早呆れた表情ですらない、完全な真顔でそう呟き合う。

 おそらく俺も同じ顔をしているに間違いないだろう。

「あぅぅあああ……、あ、頭……頭が……」

「大変、頭打っちゃったら元々バカなのが余計にバカになっちゃうじゃない」

「もうこれ以上バカにならないくらいバカだから別に平気だと思うのじゃ」

「おいお前ら、そろそろホントにやめてやれ。出雲が身体的だけじゃなくて精神的に大ダメージ受けてるから」

「大丈夫、私はまだこれくらいじゃへこたれない……へこたれないから……!」

 杏奈と理事長のキッツイお言葉により重苦しい空気を纏いかけていた出雲だが、言葉通り自分を奮い立たせてバッと顔をあげる。

 ふむ。出雲にしては珍しい実に良い顔だ。だが、

「鼻血が無かったらもっと良い顔になってたんだけどな」

「ふぇ!? うそ、鼻血!? あわわ、あわわわわ!」

 一瞬で顔を真っ赤にした出雲は、依然タラタラと血が流れ続けている鼻を手で隠し、「ティッシュティッシュ!」と喚きながらわたわたとしている。

 寝癖で乱れたボサボサの髪も相俟って、その醜態はまさに女子としてあるまじきものであったと言っておく。

 ついでに、そんな出雲を見る杏奈と理事長の目がツンドラの如く冷たかったことも。


「朝からひどい目にあったよ……」

「いや、全部アンタのドジでしょ」

「自業自得というヤツなのじゃ。天崎はホントにアホなのじゃ」

「少しくらいは慰めの言葉をかけてくれても良いと思うな、私は!」

 リビング兼ベッドルームの方から聞こえてくる騒がしい話し声をBGM代わりにして、俺は自分の作業――朝食作りを進める。

 夏休み中は帰省する生徒が多く、また休暇などにより学園で働いている従業員も激減するので、食堂なども開いている日がほとんどない。そのため学園に残っている生徒は、食事をするときは自分達で作るか学園外で食べるのが主となっている。

 俺も出雲も杏奈も学園に残る予定なので(俺は帰るのがめんどい、出雲は家族がこっちに会いにくる、杏奈は堅苦しい場所にはいたくないという理由で)、日替わり当番制で自分達で作ることにしている。

 元々、俺は料理能力が皆無な姉さんのために作っていたし、出雲は母親に教えてもらい、杏奈はより良い女性になるための英才教育だかなんだかで普通に料理を作れるので、この方法はさして問題ない。というか杏奈に至ってはいつも作る料理が美味すぎて涙が出そうになるくらいだ。理事長は常に食べる専門だが。

 そんな訳で、今日は俺がつくる番というわけである。肝心のメニューに関してだが、この前作ったのが非常に好評だったのでネギたっぷり(長ネギ二十本分)あっさり炒飯にする。

 本当なら豪華刺身の舟盛もつけたいところなのだが、そのアイディアを言ったら「朝っぱらから何考えてんのあんた、バカ?」と杏奈から手厳しすぎるお言葉を頂いてしまったので、不本意だがやめておく。

 その後も居間にいる三人のバカ騒ぎを耳にしながら作業を進めること数分。

「ほい、っと。おい、メシできたぞ」

 大皿にこれでもかというくらいに盛った炒飯を片手に、三人がいる居間兼ベッドルームに行く。

「お疲れー」

「メシなのじゃ!」

「ちょっと、コレぐらいではしゃぐんじゃないわよ」

「……おいしそう」

 ――おかしい。何故か四人に増えている。

「あれ、癒乃ゆのちゃんいつの間に!?」

 出雲たちにとっても予想外の出来事だったのか、何食わぬ顔で簡易テーブルの前に鎮座している金髪碧眼のロリっ娘少女――癒乃に向けて驚愕の視線を送る。ホント、いつ来たんだ。気配が全く無かったんですけど。暦先輩もそうだが、楽園部には気配消しスキルを持ってる人間が集まるのかね。

 その考えでいくと、他のヤツ等もできることになるんだが……本当に出来そうで怖い。ちなみに自慢じゃないが、中学時代に結構修羅場をくぐっていた俺にとって気配消しなんてものは基礎中の基礎だからな。

「また唐突に現れるわねあんたは……。まあ、目的がはっきりしてる分良いけどね」

「おぉー、魅鳴もメシを食いに来たのか! ゆっくりしていくといいのじゃ!」

「……お言葉に甘える」

 呆れ顔の杏奈とは対照的に、理事長は至極嬉しそうな笑みを浮かべ、癒乃も理事長の言葉に満足そうに頷く。そしてそのままテーブルに置かれた大盛り炒飯に手をつけ始める。これは多分五分持たない。

 理事長がここに来てから俺たちとの仲は比較的深くなったのだが、中でも癒乃とは昔からの親友同士の如く仲が良くなっている。おそらくだが、小さいもの同士何か通じるものがあるのだろう。

 じゃれついている二人の姿を見ると実に微笑ましい気分になってきて、自然と口が緩む。うんうん、仲良くなるのはいいことだ。出雲と姉さんにも見習って欲しいくらいだ、ホント。

「時雨、癒乃ちゃんと理事長を見てにやけてる……やっぱりロリコン……? それじゃ私にはもう希望が無いじゃん……」

「アホなことを考えるのはこの頭か?」

「あだだだだだだだだだだだだだだ! しぐ、時雨、ヘッドロックはダメだって! ただでさえバカなのがもっとバカになっちゃうから! お願いやめてー!」

 がっちりとロックしている腕の間からやかましい悲鳴が聞こえてくるが、無視。もう二度とアホなことが考えられないように頭の形を変えて矯正してやる。

 癒乃と理事長はこちらのことなど全く意に介さず、談笑しながら炒飯を食べ進めている。だが杏奈は思案と呆気が入り混じったかのような視線をこちらに向けて、

「ねえ時雨、ロリコンって言われてすぐムキになるのは、自分で認めてるってことなんじゃないの?」

「――――、」

 心臓の中心にミサイルが直撃したかと錯覚するほどの衝撃が走った。

 そのせいで力が緩み出雲が腕からすべり落ちたが、どうでも良い。

(んなバカな。ロリコン? この俺が? あんな犯罪者予備軍と同列? いや確かに癒乃のことは普通に可愛いと思うがそれはただ単に妹としてのような可愛さというか、別に変な気とかは全然、全く、微塵たりとも起きないし。有り得ない有り得ない。そんなの天変地異が起こっても有り得ないことだ、うん。そうに違いない。っていうかそうじゃなきゃ俺は死ぬ)

「杏奈ちゃん、時雨がなんか凄まじい葛藤を心中で繰り広げてるんだけど……」

「ウソ、マジでロリコンなの? 引くわよ」

 ……………………………………………………………………………………………………………………。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああっっ!」


「あ、ついに爆発しちゃった」

「もう色々哀れね」

 もう一度、言わせてもらう。

 俺は断じてロリコンなどではない。


 ***


 一年生寮で謎の奇声があがっている頃、二年生寮の一室では二人の少女が簡易テーブルに向かい合って朝食を共にしていた。

 一人は澄ました顔で黙々と箸を進める長い漆黒の髪が特徴の少女。実に整った佇まいで、どこかのお嬢様ではないかと錯覚させる。

 もう一人は紺碧の髪と、異性を魅了させるプロポーションを有する少女。だが、片方に対しこちらは不満の色を表情にはっきりと出していた。見るからに退屈でしょうがないといった顔だ。

「ねえ……」

 ふいに、紺碧髪の少女――稲波瀬いなはぜ水無月が幼馴染に呼びかけるようにポツリと声を漏らす。

「なんですか、ミナ?」

 漆黒髪の少女――沙良さらこよみは、ぴたりと箸を止めると水無月の呼びかけに彼女の顔も見ず、平坦で素っ気無い返事をする。

 対し、水無月は至極真面目な表情で、一言。

「ヒマだわ」

「そうですか」

 言うと、暦は変わらない箸捌きで食事を再開する。

「ちょっと、それだけなの!?」

 あまりにも淡白すぎる幼馴染の反応に愕然とした水無月が声を荒げるが、当の本人は全く気にした様子も無く、依然として清々しい朝食の時間を過ごすことに徹していく。その後も「退屈だ」とか「つまんない」とか色々とぶーぶー文句を言ってくるが、暦は耳にも入れないようにする。水無月の妄言など聞くだけ無駄だからである。

 そもそも、そんなことを言われても自分になにができるというのか、という疑問すら感じてくる。自分は面白いことをしたり見たりするのは好きだが、作るのは苦手なのだから。と、暦は半ば言い訳にも似た理由で自らを納得させる。

 ――と、言うのは全て建前で、暦の心中にある思いはただ一つの単純明快な物のみ。

 めんどくさい。

 それだけである。

 あと、三日前の夕食のからあげの最後の一個を取られたのを未だ根に持っているからという、実に心の狭い理由も少しあったり無かったりするかも知れない。

 だが、暦は向かいでうるさい幼馴染の言い分も一理はあるとも思っている。彼女とて最近の日常に不満を感じていない訳では無い。

 静かで、のんびりとしていて、平和という、端から聞けば羨ましがられる日々かもしれないと思えるが、暦にとっては平穏な日常ほどつまらないものはない。騒がしく、忙しなく、破天荒な日々というものを彼女は望んでいる。これは生来の性分なのだから直しようがない。

 無論、あまりにも奇天烈過ぎるのは思慮の時間が必要だが(主に空巻先生とか空巻先生とか空巻先生とか)。

 その点、時雨たちと行う部活の時間は自分にとってとても有意義で楽しいものだったと言える。

 自分のからかいにあそこまで面白い反応をしてくれる子達は中々いないと、暦は思う。もちろん、一番面白いと思うのは他でもない幼馴染の水無月なのだが。

(そういえば、千里せんり君もいましたね。彼も中々楽しい男の子、ですね)

 知り合ったのは割りと最近だし、楽園部に入っている訳でも無いが、守社かみやしろ千里と楽園部員との仲は急速に深まっている。

 彼元来の性格が人と仲良くなりやすいのか、比較的人見知りの気がある杏奈や癒乃とも打ち解けている。

 周りの女子が女子なので分かりにくいが、彼もまた時雨とは違った、女子を引き付けるタイプだと暦は断言できる。千里は一年三組の所属と言っていたが、もしかしたらそのクラスでは女子に人気があるのかもしれない。

(本当に……良い男の子達ですね。…………それでも)

 それでも。

 自分が彼らに対して恋愛感情を持つことはないだろうと、暦は確信に近いものを感じている。

 時雨も千里も、魅力的で女子に優しい人物だということは今更特記するほどの事ではない(時雨は少々、というか大分唐変木な部分が見受けられるが)。暦自身も、あれだけ近くで接していれば二人のどちらかに恋愛感情を抱いていてもおかしくないと思う。

 あの男との・・・・・出会いが・・・・無ければ・・・・

 一時期、自分を男性と話すことすらできない状態にまで追い詰めた、あの男との。

 目を閉じれば、未だに瞼の裏に焼きついていて離れない、あの感覚。

 もう二度と思い出したくない物の筈なのに、思い出してしまう。

 焼けるような痛みを。

 全身を打ち付ける恐怖を。

 生きることをやめてしまいたくなる程の、悲しみを。

 あの時、届くはずも無いのに必死に紡ぎ、叫び続けていた、あの言葉を。


 ――誰か、助けて。


「――ちょっと暦、聞いてるの?」

「…………っ」

 水無月の言葉で、暦ははっと我に返る。

 思ったよりも長い時間考え事をしていたため、箸の動きも止まっていたらしい。水無月は怪訝な目をこちらに向けている。いつの間にやら、彼女は既に食事を終えていた。どれだけの間思案をしていたのかと、暦は自分自身に少し呆れてしまう。

 その間にも、彼女の幼馴染は不思議そうに眉根を小さく寄せながら言葉を続ける。

「珍しくぼけーっとしちゃって、何か考え事?」

「いえ……大した事ではありません。どうやったらミナをもっと面白くからかえるのかを検討していただけです」

 その言葉を聞いた途端に、水無月の顔が苦いものへと変わる。

「何それ……優しそうな顔してあなたどれだけ腹黒いのよ。幼馴染の私でも恐怖を覚えるわよ」

「褒め言葉ですね」

 呆気と怖気が混ざった非常に微妙な表情を浮かべている水無月に向けて、暦はあくまでもにっこりとした柔和(に見えるだけ)な笑みを作る。

 コレで良い。

 悟られてはいけない。もう、あの時のように彼女に心配をかけたくはないのだから。

 それに、直情的な彼女のことだ。何をするか分かったものじゃない。それこそ、何か事件を起こすかもしれない可能性があるから、そちらの方が心配になってしまう。

 でも、と暦は考える。

 そんな馬鹿げた可能性を思慮できるくらい、水無月は暦のことを大切に思っていることになる。

 恥ずかしくて口に出すことは死んでもできないが、これだけは偽りの無いものだと、暦は今日一番の確信を得る。

 十年以上一緒にいるのだから、それくらいのこと分からなくてどうするのだ、というくらいだ。逆を言えば、暦の思いも水無月には分かってしまっているのかもしれないが。

(いえ、鈍感で単純なミナのことでしょう。相当なことが無ければ分からない筈です。……というか、そう思わなければ恥ずかしさに耐えられません)

 ほんのりと、自らの頬に赤みが差すのを感じる。

 いけないいけない、こんな恥ずかしい顔見られてなるものか。と、暦は自らを戒めるが如く、無理矢理に澄ました顔に戻す。自分にそういう顔は似合わないのだからと、これまた無理矢理気味な言い訳を建前にして。

 周りからすれば、そんなことは全くもってないのだが、本人は気づいていない。

「まあ良いんだけど……。それでね、ヒマでヒマでしょうがないって話なんだけど……何か面白そうなことないかしら?」

 まだその話をしているのかと、暦は内心嘆息する。自分の幼馴染は朝食中ずっとそれを考えていたのかと思うと、少々頭が痛くなってくる。

(このまま放っといても、同じ事をつづけそうですね)

 そうなると、流石にこのバカな幼馴染が不憫になってくる。そうなるくらいなら、いっそ適当なものでもいいから自分が考えた方がマシじゃないか?

 そう感じた腹黒女(他称)沙良暦は、珍しく三割程真剣に考え始める。だが先ほども言った通り、暦は面白いことをしたり見るのは好きだが、自分で作るのは得意ではない。故に、思いつくものは少々単純なものになってしまうのだ。

「海、ですかね……」

「へ?」

 今まで自分の話題には無関心だとばかり思っていた暦がいきなり発した一言に、水無月は目を丸くしながら素っ頓狂な声をあげる。

 その反応にほんの少しイラっときた暦は、わざと露骨に不機嫌そうな顔を作る。

「なんですか。ミナがヒマだと言うから、考えてあげたんでしょう。それなのに何か文句でも?」

「いや、無いんだけど……、暦がそんなこと言うなんて珍しいと思ってね。でも……海か、海ね……うん、良いんじゃない! というか良いわよ! なんか楽しみになって来たわ!」

 いや、それは気が早すぎだろとツッコミたくなった暦だが、楽しそうにしているので何も言わないことにした。

「そうと決まれば早速時雨君たちにも知らせなきゃね。楽園部大集合よ! あと千里君もね!」

 先刻までとは打って変わって元気百倍意気揚々となった水無月は、未だ朝食中の暦の手を引っ張ってすたすたと軽い足取りで歩き始める。

 そんな彼女に肩をすくめながら、暦は苦笑混じりについていく。

(ホント、元気が良い幼馴染ですね)

 だが、それが彼女の良い所だとも思う。自分にはとてもできないことだ。

 そう。

 過去を背負っているのは、自分だけじゃない。彼女もなのだから。


 ***


「――と、言うわけで、海に行きましょう!」

「「「…………は?」」」

 訪問直後の水無月先輩の一言に、俺、出雲、杏奈の疑問の声が重なる。ちなみに癒乃と理事長はマイペースに炒飯を食べ続けている(六杯目。相変わらず癒乃の胃袋はおかしい)。

 先ほどまである意味平和な朝食の時間を過ごしていた俺たちだが、その時間はたった今、至極ご機嫌そうな顔で部屋の入り口に立っている水無月先輩と、その後ろで面白そうにニコニコとした笑みを浮かべている暦先輩にぶち壊された。

 どうしてこの人たちはこんなにも神出鬼没なんだ、ちくしょう。

「あの……話が全く見えないんですけど」

「え? 分からないの?」

 キョトンと首を傾げる水無月先輩。

 いや、朝食中ドアの鍵ピッキングしてきて入ってきた人にいきなり「海に行こう」とかいうセリフ吐かれたら誰だって意味分からんでしょうよ。つうかピッキングするな。大丈夫か光天寺学園のセキュリティ。

「海に行こうって、つまり……そのままの意味ですか?」

「ええ、そのままの意味よ」

 怪訝そうな顔の出雲だったが、水無月先輩が返したその言葉を聞くと同時、パァっと顔を明るくした。

 やべえ、これ行かなきゃいけねえフラグじゃね?

「海ですか~! いいですね、行きましょう!」

「ふふっ、出雲ちゃんならそう言ってくれる思ったわ」

 お願いだから乗り気にならないで出雲さん満足そうな顔をしないで水無月さん。そしてさらに面白そうにニヤニヤした笑いを浮かべないで暦さん。

 このままだとまずい。そう思った俺は杏奈に助け舟を出してもらおうとそちらに視線を向けたが、

「海、か……水着、あったかしら」

 興味なさげなフリをしておいて微妙にそわそわしている杏奈。これは絶対に楽しみにしている。

 いよいよ逃げ場が無くなってきてしまった。なんとかして話を逸らさなければ。と、思っていると、いつの間にやら食事を終えていた癒乃と理事長が(炒飯はきっちり完食してある)がやけにキラキラした目をしながらこちらの方へ来る。そして、

「……海、行きたい」

「ウチもなのじゃ! 真夏のばかんすというのを楽しみたいのじゃ!」

 はい、詰んだ。

 正直言おう。泣きたい。


「ねえ、時雨ー。いいじゃん一回くらい」

「いやだ」

 駄々をこねるように嘆願する出雲の言葉を、真正面から切り捨てる。周りのやつ等は皆俺に呆れた視線を送っている。少し居たたまれない気分だが、気にしないことにする。

 何故こんな状況なのだと言うと、俺が海に行くのを拒否しているからだ。

 つまり、実際に駄々をこねているのは俺ということになる。だが気にしない。

 例え何を言われようとも嫌なものは嫌なのだ。

 何故なら。

「泳ぐと疲れるから海行きたくないなんて、それじゃ完全に本末転倒じゃん!」

「驚きのめんどくさい精神ね」

「……びっくり」

「流石の私も驚きましたよ」

「海行きたくないなんて……どうかしてるわよ時雨君!」

 杏奈と暦先輩は呆れ、癒乃は呆然、出雲と水無月先輩は憤慨といったところでしょうか。

 よし、知るかボケ。

 俺は泳ぎたくないんだ。別に泳ぎが苦手って訳じゃない。というか多分得意の部類に入ると思う。だが、泳いだ後のあの独特の疲労感が大嫌いなのだ。特にこの混み合う時期の海なんかで泳いだら、それも一入だろう。故に、俺は海に行きたくないのだ。

 わがまま? 子供っぽい? 何とでも言え。俺は自らの信念を貫く。

 そこで、出雲が何かを思いついたような表情になる。

「そうだ杏奈ちゃん、杏奈ちゃんの家にプライベートビーチってあるよね!」

「あるけど」

「そこなら人混みも無いし、時雨もオーケーしてくれるんじゃないかな!」

「あ、ごめん。今年はパパが各界の友人呼ぶのに使うって言ってたから、あたしたちは使えないのよね」

 あっけらかんとした杏奈の言葉に、出雲、明るい顔から即意気消沈。ざまあ見ろ。小賢しい手で俺を懐柔しようとするからだ。ふははははははははは。

 と、頭の中で悪役っぽい高笑いをしていると、何やら癒乃が前に出てきていた。

「……わたしに任せて」

「癒乃ちゃん……?」

 癒乃はいつもと同じ感情の読めない瞳で近づいてきて、その口を俺の耳元へ持ってきて、一言。

「――――――――」

「よし、お前ら、早速海へ行く準備をしようか」

「「「えぇっ!?」」」

 なんか全員驚いているが、そんなものはどうでもいい。俺はいま猛烈に海に行きたい気分なんだ。

 人混み? そんなもん気にするな。

 心変わりが早すぎる? 人の心なんてそんなものだ。

 さあ、楽しみだなー。

「(癒乃ちゃん……時雨になに言ったの……?)」

「(……『海に行けばおいしいお刺身食べ放題』、って)」

「(あいつ……誰よりも単純じゃない)」

「「「(うんうん)」」」

 なんか俺以外のヤツ等がひそひそ話をしているが、気にしない。

 気にしたら負けなんだ、うん。


 ***


 光天寺学園のある廊下の一角、不自然とも思えるくらいに人の気配がしない薄暗いその中を、一人の女子生徒が歩を進めていた。

 その足取りはいつもどおりに軽く、特徴的である緑がかった黒髪のポニーテールが歩く度にゆれる。その歩き方も実に端麗なもので、彼女元来の美しさを引き立てている。

 楽しそうで、それでいて少しミステリアスな笑みを浮かべている。

 文武両道でカリスマ性も高く、生徒からの人気は構内一とまで言われるほどの、その人物。

 放送委員長、風水かざみみどり

 周りからは親しみを込めて『カザミドリ』と呼ばれている。

 また、その実力は元より、誰にでも分け隔てなく親切に接するところも、彼女の人気を増長させる一因となっている。

 出る杭は打たれるというが、彼女は誰からも妬みや嫉みを受けることも無く、人を引き付け続けた。

 一部の生徒は、彼女が特殊な性癖を有していることを知っているが、それでも彼女は魅力的な人間だった。

 だが、どれだけ人の支持を得ても、彼女の心がが本当に満たされることは無い。

 風水翠は知っているのだ。

 自分がこれから向かうところでは、そんなくだらない物・・・・・・・・・を持っていたって全く意味が無いことを。

 そう、通じないのだ。人気も、人柄の良さも、文武両道であることも。

 ただ一つ、強大過ぎる暴力・・には。

(何とも、世知辛い職場・・ですねェ)

 そう言いながらも、依然彼女の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。

 いつもと変わらない、いや、異常な程に変わりが無さ過ぎる笑みが。

 そこでふと、動かしていた彼女の足が止まる。そして、丁度彼女の横手にあるのは、どこにでもありそうな部屋の、何の変哲も無い片開きのドア。この外観だけを見れば、誰も違和感など抱かず、興味すら持たずにこの部屋の横を通り過ぎていくことだろう。

(まあ、そもそもこの部屋があるフロアに一般生徒が来る訳ないんですけどねェ)

 苦笑しながらも翠はその部屋のドアノブに手をかけ、開ける。


 瞬間、世界すべてが変わった。


 その部屋だけ、違っていた。

 自然なようで、不自然だった。

 どこもおかしくないのに、どこもかしこもおかしかった。

 何もかもが成り立っているのに、何もかもが矛盾していた。

 ただ、それだけの、それが全ての場所だった。

 この部屋の空気を言葉で表すなら、いくらでもやりようがあるだろう。異常だったり、異質だったり、異端だったり、異形だったりと。

 だがそれ以前にまず、この部屋に入ったら、普通の人間ははこう思う。

 ――『ここから逃げ出したい』と。

 そんな場所に、風水翠は何の躊躇も無く足を踏み入れる。別に慣れているからとか、そんな理由ではない。翠は何回もこの部屋に来たことがあるが、最初から今と同じように入った。

 こんな気持ち悪い部屋に、慣れなど存在しない。ただ単に、風水翠もこの部屋と同類だったというだけだ。

 正確には、この部屋にいる者達。

 ――強大すぎる暴力を生業としている異常者バケモノ達と。

 部屋の中央には大きめの円形テーブルが顕在しており、その周囲にある椅子には既に七人の男女が腰を架けていた。

 その中の何人かが、翠の入室に気づき、彼女の方に顔を向ける。

「なんやミドリン、ずいぶん遅かったな」

 テーブルの右側の奥の方に座っている女子生徒が、くつくつと笑いながら挨拶代わりの言葉をかける。

 その独特の訛りの話し方から、彼女が関西地方出身であることがうかがい知れる。

 染めてあるのか地毛であるのかは分からないが、何十本もの三つ編みにしている真っ白い髪を見て、翠はいつもながら感心する。毎朝セットするのにはすごい時間がかかっているのだろうな、と。

「道草でも食ってたんスかー?」

 その左隣で、椅子に全体重をかけて座っている如何にもだらしなさそうな少女が、雰囲気に違わぬ気の入らないだらしない声でそう尋ねてくる。

「いえ、ちょっとトイレに行っていたものでして」

「そうッスかー。まーぶっちゃけどーでもいーんスけどねー」

「話題にならないような理由ですみませんねェ」

 全く手入れをしていない痛み切った髪をバリバリと掻き毟る少女に、翠はとりあえず形式的な謝罪を言葉で示す。

 確か彼女の髪は元々銀色だったらしいのだが、今ではもうすっかりくすんで灰色へとなってしまっている。

(今のままでも十分萌えるのですが、ちゃんとした格好をすればもっと可愛くなると思うんですがねェ)

 そう思った翠だったが、個人の自由なので口には出さなかった。

 そんな適当なやり取りをしていると、入り口から見てちょうどテーブルの中央の席に座っている男子生徒が、翠に向かって鋭い眼光を突き刺してきた。椅子に座っていてもはっきりと分かるくらいに高身長で、体格もかなり良い。何より、先ほどの二人の女子生徒含め、他の六人と比べても彼だけはずば抜けて異質な雰囲気を放っていた。

 そしてその男が、翠に向けて言葉を放つ。

「風水、一二分の遅刻だ。早く席に着け」

 冷たく、有無を言わせない程の威圧感がこもった声。それでいて、不思議と忌避感を感じさせないものだった。

 翠は肩をすくめる。

「やれやれ、相変わらず時間には厳しいですねェ。そんなにせっかちに生きてると疲れません?」

「生憎、これが性分なのでな。オレとしては、貴様の生き方のほうに疑問を感じるが」

「すいませんねェ、生憎性分なんですよ」

 ちょっとした皮肉を込めた言葉を吐きながら、翠は空いていた残り一つの席に腰をかける。

 すると、隣に座っていた小柄な少女が、不機嫌そうな色を満面に浮かべて翠を糾弾し始めた。

「全く、大事な会議の日に遅刻するなんて……それでも七委員長の一角なのでありますか! 風水殿!」

「まあまあイロちゃん、あなたが怒っても可愛いだけですよォ?」

 ニッコリと笑いながら、手を置くのに丁度よさそうな高さにある彼女の栗色の頭を撫でる翠。そんな彼女の手を乱暴に振り払うと、少女は「あなたはまたそんな変なことを言って……というか頭を撫でるなであります!」と顔を真っ赤にして恨めしそうに翠を睨む。

 対し、翠は苦い笑いを浮かべ、

「それに、そんなこと言ったらカンちゃんなんて出席すらしていませんよ?」

 そう言いながら、向かいの席に座っている女子生徒をちらりと見る。

「またカンちゃんの代理ですかァ、クララちゃん?」

 そう声をかけると、クララと呼ばれた少女は眼鏡の奥にある機械的な瞳を翠に向け小さく会釈を返す。そのちょっとした一連の動作も、不気味なまでに人間味が感じられない。

 そんな彼女にほんの少し同情しながらも、「ほらね?」という目を『イロちゃん』と呼んだ少女に向ける。対し、彼女は悔しそうに言葉を詰まらせ、フンと鼻をならすとそっぽ向いてしまった。

 その仕草も愛らしいと思いながら、翠は再びクララの方に向き直る。

「カンちゃんは我儘ですからねェ、一緒にいると大変じゃないですかァ? 問題とかもあるでしょう?」

「いいえ、問題は全く存在しておりません。ご心配なさらず」

「そうですか、なら良いんですけどねェ」

 雰囲気と違わぬ機械的な彼女の声を聞いて、相変わらず堅苦しい喋り方だなァ、と翠は割りとどうでもよさそうにそう思う。

 そんな二人の短い会話の終了を見計らったのか、中央に座っている男が一つ小さく咳払いをする。

「無駄なお喋りはそこまでだ。一人代理だが、全員揃ったな」

 彼がそう言うと、今まで少し騒がしかった部屋が、一瞬で閑静なものへと変わった。

 そして、この場にいる七人全員の顔を見渡し、その男は言う。


「――――これより、生徒会と七委員長による、定例会議を始める」


 光天寺学園生徒会長、軍将いくさぎみそよぎ

 彼の一声により、学園の頂点に位置する者たちの、世界で最も異常な会議が開始される。




はい、どうも、皆さん。

水面出です!

始まりました、第二章!


〈時雨〉「今回は珍しく早めに投稿できたな」


〈出雲〉「前回はすごく遅れちゃったから、その分頑張ったんだって」


〈杏奈〉「ということは、次回からはまた元のスピードに戻るわけね」


〈水無月〉「それにしても……初っ端からすさまじく怪しい雰囲気醸し出してたわね」


〈暦〉「やはり、風水さんには裏がありましたか」


〈癒乃〉「……色々、楽しみ」


〈時雨〉「……ん? 今回は珍しく千里がいないな」


〈暦〉「用事があって遅くなるそうですよ」


〈出雲〉「そうなんですかー」


っていやいやいや! あんたらなんで最初から全員集合してんの!?

テーマの度にゲストを呼ぶわたしの役目は?


〈杏奈〉「知らないわよ」


くっ……第二章の初めからこんなハプニングに遭うなんて……!

まあいいでしょう、さっさと一つ目のトークテーマにいきます。


〈時雨〉「一つ目は三月語さんからだな。どれどれ……『時雨君に『ロリコン先生』『ロリコン1級』の称号を授与』………………は?」


〈水無月〉「あーららー」


〈暦〉「くすくす」


ちなみに、前回のテーマを利用してとのことです。


〈出雲〉「うわぁ……」


〈杏奈〉「時雨、アンタ……今回の本編でもそういう話が出てきたって言うのに……」


〈癒乃〉「……時雨は、わたしみたいなのが良いの? それはそれで……ちょっと嬉しい」


〈時雨〉「その反応やめてくれませんかね皆さん!? ってか癒乃はなに言っちゃってんの!?」


落ち着け時雨、もう皆分かってることだから。


〈時雨〉「分かってねえよ!? これっぽっちも分かってねえよ!? ていうか『先生』ってなんだ、『一級』ってなんだ!?」


〈水無月〉「杏奈ちゃん、通報の準備は?」


〈杏奈〉「できてるわよ」


〈暦〉「1、1、0と……」


〈時雨〉「やめろ! マジでやめろおおお! 死ぬ、俺が社会的に死ぬううううううううううう!」


皆さん、そろそろやめてあげましょうか。一応、主人公がいないと物語が成立しませんし。


〈時雨以外〉「はーい」


〈時雨〉「作者……ぜってぇ殺す。そしてもうこんなテーマは終わりだこんちくしょう! ってかこんなもん送ってくんじゃねえよ!」


あはははは、これからもどしどし送ってください。面白いものが見れそうなので。

では、次のテーマへ。


〈癒乃〉「……えっと、きままにさんからで、『惚気てください。全身全霊を持って全力で。妄想でもいい! こんなシチュエーションで萌えるとか! こんなシチュエーションやりたいとか! こんなことしてほしいとか! とにかく惚気てくれええええええええええええ!!!』だって……。ちなみに、時雨は一番最後に答える、みたい……。そしたら次に、実際に妄想してみる、だって……」


〈水無月〉「今、癒乃ちゃんのキャラが大崩壊してなかった?」


〈出雲〉「してたかもしれないですけど……気にしちゃダメだと思います、はい」


はいはい、ではでは皆さん順番にやってみましょう。あ、時雨は指示通り最後ですよ。

あ、時雨君には一応耳栓させますので、安心してください。

では出雲さんからどうぞ。


〈出雲〉「最初はやっぱり私なんだね……もう、プライバシーの侵害じゃないかな、これ……? まあいいけどね! で、私はやっぱり……その、い、一緒にお風呂、とか……」


天崎出雲の妄想

『し、時雨~……やっぱり、は、恥ずかしいよ……』

『何言ってんだ、今更。ほら、隠してないでタオル外せよ』

『で、でもぉ……』

『……仕方ねえな。そんなんじゃ身体も洗えねえだろ? だから俺が、お前の身体を洗ってやるよ……隅々まで、な?』


〈出雲〉「あわわわわわわわわわわわわわわわ……!」


〈杏奈〉「出雲……あんた……」


〈癒乃〉「……大胆」


では次、杏奈さんどうぞ。


〈杏奈〉「毎度思うけど……これって絶対セクハラよね……。えっと……やっぱり、新婚生活、とか……?」


標部杏奈の妄想

『おかえり、あ、アナタ……』

『おう、ただいま。なんだ、まだその呼び方になれてないのか?』

『うるさいわね……し、仕方ないじゃない……! それで、その、ご飯にする? お風呂にする? それとも……あ、ああ、あた、し……?』

『……そのセリフを現実で聞くことになるとは思わなかったな』

『ううううっさい! もういいわよ! 勝手に風呂でも入ってればいいじゃない!』

『いや、せっかくだ……お前を食べる。いいよな?』


〈杏奈〉「~~~~~~~~~っっっ!」


〈暦〉「定番中の定番、というか最早古いですね。このネタ」


〈水無月〉「ベタベタなのは嫌いじゃないわ!」


じゃ次、水無月さん。レッツ妄想!


〈水無月〉「その言い方やめてよ。……私は、うーん……」


稲波瀬水無月の妄想

『ね、ねえ時雨君……私の身体、変じゃ、ない……?』

『そんなことありませんよ。むしろ……綺麗です』

『そ、そう……良かった。じゃあ、その……す、するの……?』

『はい。……できるだけ優しくしますから、先輩。いや、……水無月』


〈水無月〉「きゃー! 時雨君そんな、もう! 私としてはちょっと乱暴なくらいが…………あ」


〈出雲〉「これ、公表しても大丈夫だったんでしょうかね……」


〈暦〉「やはりミナはむっつりすけべでしたか」


〈水無月〉「いやああああ! やめて! 恥ずかしくて死にたくなる!」


〈癒乃〉「……どんな妄想してたんだろ」


〈杏奈〉「あんたにはまだ早いわよ」


じゃあ次の人。

……暦さん、なんかありますか?


〈暦〉「ありませんね。別に私は好きな人とかはいませんし」


ですよね、じゃあ癒乃さんで。


〈癒乃〉「……わたしは、時雨と一緒に楽しくご飯が食べたい」


魅鳴癒乃の妄想

『……時雨の料理、美味しい』

『そうか、まあそれなら良かったよ』

『……時雨』

『なんだ?』

『……あーんして』

『おいおい、またかよ。ほら、あーん』

『……あむ。ん……おいし』


〈癒乃〉「……やってみたい」


〈暦〉「最もピュアかつ最も現実味のある妄想ですね。それに比べて貴方達は……」


〈出雲/杏奈/水無月〉「ぐっ……」


花も恥らうお年頃ですから、仕方ありませんよ。ちなみに、ここにこんな写真が……


【時雨の風呂上りの写真】


〈出雲/杏奈/水無月〉「ぶふはぁっ……!」


〈暦〉「鼻血……風水さんですか貴方達は」


〈癒乃〉「……ほわぁ。すごい、たくましい……」


あ、時雨君、もう耳栓取ってもいいですよ。


〈時雨〉「おう。……って、なんで鼻血出してんだ?」


〈出雲/杏奈/水無月〉「なんでもないでず……」


時雨君の妄想はどんなのですか?


〈時雨〉「さあな」


あ、教えねえ気だこいつ。ずるい。


〈時雨〉「知るか。さあ次のテーマだ。ATKさんからで、『朝起きたら、自分の体が誰かのになっていた。思いつく限り、一番最悪なのは?』だそうだ。対象は楽園部のメンバー+千里だってよ。ちなみに俺は水無月先輩一択」


〈水無月〉「ど、どうして?」


〈時雨〉「なんか胸が重そうなんで」


〈水無月〉「……好きで大きくなった訳じゃないわよ」


ていうか今のは女子全員を敵に回す発言だと思いますが……まあ放っときましょう。


〈出雲〉「私は……暦先輩かなぁ」


〈暦〉「何故です?」


〈出雲〉「髪のお手入れが大変そうで……」


〈暦〉「慣れれば大したことはありませんよ」


〈杏奈〉「あたしは千里よ。あいつの体になるとか考えただけで鳥肌が立つわ」


〈水無月〉「可哀想な千里君……。私は、癒乃ちゃんかしら。……味音痴にはなりたくないしね」


〈癒乃〉「……?」


〈暦〉「私は時雨君と千里君の両方がイヤです。男性の体は勝手が分かりません」


〈水無月〉「まあ……暦はそうよね」


〈癒乃〉「……わたしは、割と誰でもいい。新鮮そうだし……」


〈出雲〉「でも、ご飯が一杯食べられなくなっちゃうよ?」


〈癒乃〉「……やっぱり、わたしは自分の体が一番いい」


〈杏奈〉「厳禁ね」


はい、全員答えましたね。では次のテーマへ――


〈千里〉「おいおいちょっと待て! 俺がまだ答えてねえよ!」


〈時雨〉「お、来たのか」


〈千里〉「おう、ついさっきな! で、あれだろ。ちゃんとテーマは聞いてたぜ! 俺は相棒の体がイヤだ! つまり逆を言えば女の子の体なら誰でもいい!」


〈千里以外全員〉「………………」


はい次のテーマいきましょうか。


〈千里〉「えっ、ちょっ待てよ! 俺には何のコメントも無しかよ!?」


同じくATK様からで、『次の二つの内、どれか一つを食べないと死んでしまうとしたら、どちらを選びますか?』です。


〈水無月〉「次の二つ?」


『見た目は普通だけど、食べると一発で胃もたれや胸やけを起こす事間違い無しの超激甘カレーライス』と、『見た目真っ赤っ赤で、食べたら口から火を吹く事間違い無しの、超激辛ケーキ』のどちらかです。


〈暦〉「迷わずケーキです。辛いもの好きですし」


〈時雨〉「うわ……迷うな。……俺も、ケーキかな」


〈出雲〉「辛いよりは甘い方がいいから私はカレーライスだよ!」


〈杏奈〉「あたしもカレーね。辛いの好きじゃないし」


〈水無月〉「私もそっちにするわ」


〈千里〉「なんかまだ納得いかねえが……俺はケーキだな! 男なら辛いモンの一つや二つ、耐えて見せるぜ!」


〈癒乃〉「……どっちでもいい」


〈癒乃以外全員〉(ですよね)


では、実際選んだ方を食べてもらいましょう。


〈全員〉(やっぱりそう来たか)



しばらくお待ちください。


〈暦〉「中々丁度良い辛さですね。問題ありません」


〈時雨〉「ごはっ、かっ……ひゃ、ひゃべれねえ……みず、誰か水!」


〈出雲〉「ごほっごほっ! 私甘いもの好きだけど……さすがに甘すぎるよ~!」


〈杏奈〉「うぷっ……気持ち悪……」


〈水無月〉「これ確実に胸焼け起こすわね……」


〈千里〉「ああああああああああ! かれぇええええええええええええええ!」


〈癒乃〉「……どっちも美味しい」


〈癒乃以外全員〉(やっぱりそうですよね!)


はっはっは、まあ大体予想通りでしたね。


では今回はここまで。皆さん退室してください。



退室中



……さて、時雨君。残ってますね?


〈時雨〉「……分かってるよ」


ふふふ……きままにさんから送られてきたのはあれだけじゃないんですよねー……。

題して、イタズラ大作戦!

きままにさんのご要望により、これから時雨君とある人がヒロインたちにイタズラをしかけちゃいます!

少し長くなりますが、ご容赦いただけたらなと思っています!

それでは時雨君、最初のイタズラ。

『杏奈をいじめてみる』、やってきてください。


〈時雨〉「ま、しゃーねーか。たまにはあいつにも反省させねえと。じゃ、行って来る」



ここからは時雨君が持っている隠しビデオカメラでお楽しみください。



〈時雨〉『おう杏奈』


〈杏奈〉『ん、どうしたのよ?』


〈時雨〉『てい』(でこピン)


〈杏奈〉『いたっ!? ちょっと、なにす――』


〈時雨〉『てい』(再びでこピン)


〈杏奈〉『にゃっ!? ……いい加減にしないと怒る――』


〈時雨〉『ていていてい』(しつこくでこピン三連発)


〈杏奈〉『ちょっ……やめてったら……! この……変態!』(グーで殴る)


〈時雨〉『ごはっ!?』


〈杏奈〉『ふんっ! ば―――――か!!』



〈時雨〉『こちら時雨、返り討ちにあった……』


うん、ドンマイ。では次のイタズラ、暦先輩を異性的にドッキリさせてください。


〈時雨〉『難しいな……。あ、すいません暦先輩』


〈暦〉『はい、なんでしょう?』


〈時雨〉『えっと……その髪、綺麗ですね』


〈暦〉『そうですか。ありがとうございます』


〈時雨〉「ちょっと触らせてもらっても――」


〈暦〉『ではまた』


〈時雨〉『………………こちら時雨、逃げられた』


やはり暦先輩は簡単にはいきませんか……。次に、癒乃さんに前回のお返しをしてください。


〈時雨〉『お返し?』


耳を甘噛みです。


〈時雨〉『マジか……もうそれただの変態だよな……。あ、いいタイミングで癒乃が来た……』


〈癒乃〉『……時雨、何で一人でぶつぶつ喋ってるの?』


〈時雨〉『いや、何でもない。それより癒乃、ちょっとこの間のお礼がしたいんだが』


〈癒乃〉『……お礼? わたし、時雨に何かしてあげたっけ?』


〈時雨〉『まあいいから受け取っとけ』


カプ


〈癒乃〉『――――――――――――』


ドサッ


〈時雨〉『あ、倒れた。……やっぱイヤだったよな……』


ええい黙れこの鈍感が。とりあえずあなたは癒乃さんを保健室にでも運んできなさい。


〈時雨〉『言われなくてもそうするっての』



はい、じゃあ次のイタズラですが、これは元々時雨がやる分じゃないので、大丈夫です。

では、現場のカザミドリさん?


〈翠〉『はいはーい。こちら風水翠ですよォ』


カザミドリさんには、出雲に不意打ちタックルをかまして、その後放置してもらいます。

ちなみに、カザミドリさんには先ほど千里君の口から事情説明をしてありますので。


〈翠〉『くく……面白そうじゃないですかァ……。おっと、早速来たみたいですねェ』


〈出雲〉『ふぅ……今日のテーマも恥ずかしいかったな~……。もっと普通のにしてくれても……』


今です!


〈翠〉『ちぇいさァァァァァァァァァァァ!』


〈出雲〉『えっ!?』


ドシーン!


〈出雲〉『ふにゃあっ!』


〈翠〉『大成功! それではさらばです!』


〈出雲〉『痛たたたた……一体誰が……。あれ? 誰もいない? ……まさかの放置!?』


ふふふ、驚いてる驚いてる。流石はカザミドリさん。伊達に今回妙な雰囲気出してませんね。


では最後のイタズラです!

水無月さんを放置する、です!

以上、今回は終了です。トークテーマを下さった方々ありがとうございました。

感想とトークテーマ、いつでも受け付けております!


それでは、次回もお楽しみに!




〈水無月〉「ねえ! 私だけ何も無いの!? ねえってば!」




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