Collaboration EpisodeⅢ 料理とは楽しくもあり恐ろしくもあるモノである
遅れて申し訳ありません!
〈癒乃〉「……コラボ回、最後」
〈杏奈〉「ま、楽しんでいきなさい」
〈出雲〉「始まるよー!」
「今回の勝負で勝てば、賞品として欲しいものを俺が調達してきてやるよ」
光天寺学園に着いた後、家庭科準備室で守社千里から放たれたその言葉の前に見せた少女達の反応は、一部を除き皆似たようなものであった。
戦慄と疑惑、期待が入り混じったような表情で千里を見る。それこそ、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほどに。
「千里君……それ、嘘じゃないわよね?」
「もちろんですぜ先輩、俺はこういうことに関しては嘘は絶対につきませんからね」
やけに真剣な眼差しで尋ねる水無月に対し、千里はその口元にやや胡乱な笑みを浮かべて答える。
「食いモンでも漫画でもゲームでも服でも……誰かさんと一緒に遊びに行く約束も取り付けるぜ?」
そう言って、千里がポケットから複数枚の小さな紙の束を出し、それを見せ付けるようにヒラヒラと少女たちの前にかざす。
見ると、それは映画館や遊園地、水族館やその他諸々の、所謂デートスポットのペアチケットだった。
その瞬間、少女達(一部除く)の目の色が変わる。
「あんた……あたしたちを物で釣ろうって訳ね」
憎々しいものを見るような目で千里を睨む杏奈。対し、千里は飄々とした雰囲気のまま、苦笑混じりに肩をすくめる。
「おうおう、そう怖い顔すんなって。この条件じゃご不満かい?」
「そんなものであたしが靡くとでも? ふんっ、標部財閥の一人娘をなめんじゃないわよ」
「今なら校医の岸田先生が特別に調合した豊胸薬もつけるぜ?」
「さあ、やる気出していくわよ!」
「杏奈ちゃん!?」
一瞬にしてがらりと態度を変えた杏奈に、ぎょっとした表情の出雲が詰め寄る。周りにいた少女達もまた、そのあまりの変わり身の早さに動揺を隠し切れなかった。
当の杏奈本人はさっきまでの態度はどこ吹く風、ギラギラと目を輝かせながら不敵な笑みを浮かべている。
「さあ、杏奈はこう言ってるぜ? どうする皆の衆?」
何を企んでいるのか全く読めない千里の瞳が、杏奈以外の九人の少女の方へ向く。
そして、これまた何を思ったのか、少女たちは何かを決意したような光を目に灯して、
――「やってやる」と、そう言い放った。
「――ってな感じで、やることになった訳なんだが……こりゃあやべぇことになったなーオイ」
俺と一ノ瀬の要望を聞き入れ、今回の二校合同ペア料理合戦が開催される経緯を話し終わった千里。普段は快活さを感じさせるその顔に、今は困ったような笑みが浮かんでいた。よく見れば冷や汗も流れている。
それもそのはず、俺ら三人は現在とてつもない窮地に追い込まれようとしているのだから。
「まああれだ。チケットはどこから手に入れたのかとか、何故デートスポットなのかとか、言いたいことは色々あるんだが……とりあえず今はそれは置いとくわ。問題は……」
「俺達はどうやったら、今日を生き残れるのか……だよな」
やたらと重苦しい雰囲気を纏った一ノ瀬の言葉に、俺と千里は頷く。
そして、
「…………」
「どうする……どうするのだ、私……!」
家庭科室の調理テーブルの一つで、いつも通り感情の起伏の無い目でどこか遠くを見ている癒乃と、俺達と同じくらい青い顔で、冷や汗を流しながら何やらぶつぶつ独り言を呟いている音尾のペアの方を見る。
他のペア達も、それぞれ自分達が使う用のテーブルの周りに佇んでいる。一つを覗けば皆表情は真剣そのものだ。
「はい、選手の皆さん、それぞれテーブルに着きましたねェ!」
司会進行であるカザミドリ先輩が選手達にそう呼びかける。
ああ、これはもう逃げられる雰囲気じゃない。選手も司会もやる気満々という訳だ。ならば、
「……なあ、もう覚悟を決めようじゃねえか」
「っ!? 本気か、相棒……!?」
ぎょっとした顔で、俺の言葉に驚愕する千里。一ノ瀬も同じような反応だ。
そんな二人に、俺は自分の決意を語り聞かせる。
「少し例外がいるとはいえ、あいつらはすごく真剣に取り組んでんだ……なら、俺らも真剣に答えてやるのが礼儀だろう? たとえ……その道の先に地獄が待っているとしても……!」
「……っ! へへっ、分かったぜ相棒……死ぬときは共に、ってヤツだな。男守社千里、やってやるよ!」
「……ここでイヤだとか言ったら……なんかもう色々とダメだよな。よし……俺もやろう!」
二人の表情が、変わる。覚悟を決めた男のそれへと。
やはり、こいつらは中々骨がある。
「見せてやろうぜ……男の意地を!」
「「おう!」」
思えば、このときの俺らは明らかにテンションがおかしかった。
「あいつら、何やってんだろーな?」
「気にしてはなりませんよ響ちゃん。あの子達は今気が変になっているのですから」
ついでに、その時女子達が俺らのことを奇異な物を見るような目で眺めていたことも知らなかった。
***
卵。
それが、限りなく変態な放送委員長で現臨時司会進行から少女達に課せられた指定食材だ。
なんでも、その司会進行の話によれば、「卵というものには様々な調理方法があります。だが、そうであるが故に、万人全てに『美味しい』と言ってもらえる料理を作るのは難しい……、私はそう考えてます。シンプルに決めるか、様々な趣向を凝らすか……それは料理人次第! 意中のあの人の舌を唸らせ心を動かすのも、そう、あなた達次第なのです! そもそも料理というのは私的萌え萌え観点から言っても……(以下略)」らしい。
この人にしては珍しくまともなことを言うな、と普段の彼女をを知っている者たちは少なからず驚いた。後半の方はいつもどおりかなりどうでもいい話だったなので、少女達は全員無視していたが。
そんな彼女達は、現在料理の真っ只中である。
戦う理由はそれぞれにしても、彼女達の心の底にある思いは大体同じものだろう。
『絶対に負けられない』。
家庭科室の一番前、窓際のテーブルで調理をしている標部杏奈と水沢麗奈の二人も、そう思っているペアの一つだ。
特に、麗奈は高校で料理部部長を務めている身。今回の料理合戦に対するやる気は一入のはずである。 杏奈の方も幼い頃より父から『より素晴らしい女性になるための英才教育』を受けており、大概の料理はお手の物。また、教育を受けている故プライドも高い。勝負事は必ず勝ちにくるだろう。
審査員である時雨たちの評価でも、このペアは優勝候補の筆頭だ。
そしてその予想通り、この二人の料理は見事に順調に進んでいる。
「麗奈、そっちの首尾はどう?」
「いい感じです。杏奈さんは?」
「言う必要がある?」
「ふふ、そうでしたね」
そう言って、朗らかに笑い合う二人。もちろん、その間にも調理の手が止まることは無い。
素早く、滑らか。気品をも感じさせる優雅さだが、それでいてどこか力強いリズミカルな動き。
まるで、どこかの貴族達の舞踏会を見ているような錯覚に陥るほどに、見る人の目を奪う。
そう、それはもう、一つの『舞い』だった。
「……マジか」
方城時雨は戦慄する。それと同時に、胸の内にどうしようもないくらいの疑問も生じた。
あの二人が今行っているのはただの料理、それだけのことだ。なのに、何故。
何故あんなにも、人を『魅せる』ことができるのか。
きっと、それを説明できる者はいないだろう。
料理は芸術と言う人がいる。今までは何を大げさなと一笑に付してきたが、なるほど、これはまさに芸術だろう。そう、時雨は思った。
そして、それは彼だけでは無い。
「…………」
「オイオイ一ノ瀬、見とれてんじゃねえよ……って俺も人のこと言えねえや」
時雨と同じように審査員席に座っている一ノ瀬冬夢と守社千里の二人も、視線が釘付けになっている。
だが、時を同じくして戦っている他の少女たちはそんなものには目もくれない。ただひたすらに、自分達が為すべきことを全力で為そうしている。
「水無月さん、みりんはこのくらいでいいですかね?」
「いいんじゃない? 適量よ適量!」
先ほどから調味料の入れる量がテキトーだったりと、若干の不安が見られる水無月と悠里。
「――あとは冷蔵庫で冷やすだけですね。中々順調にできました」
「暦さんの説明がすごく分かりやすかったから、レシピがいらないくらいだったわ。これは期待できそうかもね!」
料理本も真っ青な、暦の事細かな調理手順の説明により、スムーズに事をを進めていく美都。
「なんでも凝れば良いって訳じゃねーからな、オレ達はシンプルに行くぞ!」
「シンプルイズベストだね、響ちゃん!」
出雲と響のペアはそんな事を力強く豪語しながら、パワフルな動きを見せる。杏奈と麗奈が英国貴族のダンスとするならば、この二人は伝統ある盆踊り、と言ったところであろう。
どちらにせよ、皆それぞれ違う魅力があるのはいうまでもない。
一所懸命に料理をする女性はこんなにも美しいということを、審査員の男三人衆は改めて気づかされる。無論、可愛い女の子が大好きで萌え萌え大魔王である風水翠が、興奮しすぎて鼻血噴出直前になっているのは言うまでもない。
だが、そんな中で、一人だけ地獄の淵に立たされたような絶望を表情に浮かべている者がいた。
音尾和。
凛々しく整った顔を、どうしようもないくらいの焦燥の感情に歪ませ、黒く艶やかにたなびく髪も、今は何故だかその輝きが鈍く濁っている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
頭の中はその言葉だけで埋まっていて、思考がうまく働かない。
とめどなく溢れ出てくる嫌な汗が肌を伝うの感じるたび、脳味噌をぐるぐるとかき回されていくような感覚が加速していく。
できれば、今すぐここから逃げ出したい。けど、そういう訳にもいかない。ただそれだけなのだが、今の彼女を葛藤させるには十分すぎる材料だった。
そう。彼女は料理ができない。それも、自他共に認めるほど壊滅的だ。
お粥を作ろうとして鍋を一つ破壊してしまった経歴があるのに、どうして卵料理なんてものを作ることができるだろうか。いや、無理に決まっている。
それなのに、今こうして二校合同ペア料理合戦に参加してしまっているのだ。本当なら参加など絶対に忌避する物のはずだったのだが、その場の雰囲気がそれを許さなかった。
内心、こんなイベントを開催した元凶の千里をぶん殴りたい気持ちが強かった彼女だが、今更そんなことをしても遅すぎる。
とにかく今は、どうにかしてこの場を切り抜ける方法を模索することだ。和は心の中でそう固く思った。
(幸い、今回はペアの対決だ……私ができなくても、パートナーに任せれば何とかなるかもしれん)
そこで、今の今まで俯いていた和は、顔を上げて調理用テーブルの向かいにいる自分のパートナーにチラリと目を向ける。
「…………」
和の方からだと何をやっているか見えないが(たとえ見えてもどんな料理を作っているか分かる保証はないが)、彼女のパートナー、魅鳴癒乃はいつも無感動な瞳に少しばかりの真剣な光を灯して、淡々と何かの作業をしている。
それを見て、和は少し安心する。だが、念のために彼女は、
「癒乃……一つ聞くが、その、お前は料理ができるのか?」
「……お祖母ちゃんに教わったから」
「そ、そうか! 実はな……私は、料理が……できないのだ。恥ずかしい話だがな……。本当に済まないのだが、任せてもいいだろうか?」
ようやく心の底から安堵した和は、ばつの悪そうな顔で癒乃に尋ねる。それに対し、癒乃は「……ん、分かった。任せて」とだけ言葉を返す。それが今は、和にはとても頼もしく聞こえた。
「……ただ、ほんのちょっとだけ手伝ってもらいたい」
「う、うむ、少しくらいなら問題ないだろう。私にできることがあれば何でもやろう!」
少しだけ元気を取り戻した和は、癒乃の頼みに活気良く首肯する。
だが、彼女は知らなかった。魅鳴癒乃という生き物が、常識というものを簡単に打ち砕くほどの味覚音痴であることを。
***
そして、制限時間の終わりが来た。
「一時間経過、調理終了ォォォォォォ!」
同時に、普段から大きいがマイクによりさらに大きくなったカザミドリ先輩の声が耳を劈く。もう少しボリュームを下げて欲しいものだ。空巻先生に怒られたらどうする。
もちろんそんな俺の願いをカザミドリ先輩が知るはずもなく、依然デカイ声で司会を続けていく。
「さァて、選手の皆さんそれぞれ頑張っていたようですが……一体どんな料理を作ったんでしょうかねェ! 私楽しみすぎてよだれと鼻血が止まりません!」
その言葉に違わず、口の端からよだれを、鼻から血をだらだらと垂れ流している変態司会者。そんな彼女を見る視線は、最早絶対零度すら通り越しているのではないかと思うくらい冷たいものだった。
イヤホント、このまま体中の血を流し切って死んでしまった方が世のためになるのではないだろうか。いずれ犯罪者になるぞこの人。
「では、早速作った料理を審査員方に審査してもらいましょう! トップバッターになるのは誰だァ!?」
カザミドリ先輩がそう尋ねると、一つのペアが勢いよく一歩踏み出た。
「私達から行くわ!」
「まあ、こういうのは最初にいった方が何かと有利でしょうから」
中々に自身ありげな顔でそう言う榎本と暦先輩。最初はこの二人らしい、とりあえず初っ端から即死することは間逃れることができそうだ。
そんな彼女達が審査員席の方に歩み寄り、手に持っていた皿をテーブルの上に置く。ご丁寧にも皿にはグルメ番組なんかでよく見る銀色の蓋っぽいもの――確かクロッシュという名前だった気がする――が被せてある。こんなものよく家庭科室にあったな。
「さァて、あなた達が作った卵料理はなんですかァ!」
「それは……コレよ!」
そう言って、榎本は勢い良くクロッシュを取る。
「おお、プリンか」
そこに乗っていたのは、様々な年齢層から根強い人気がある定番スイーツ、プリン。特にこれといった特徴は無いシンプルなものだが、色鮮やかな黄色と、カラメルのどこか渋みのある褐色がいい具合に調和していて、実に食欲をそそる。
つつけばプルンプルンと震えそうなくらい柔らかそうで、弾力も感じられる。これはかなり期待できる
だろう。一ノ瀬と千里も「おお……」と感嘆の声を漏らし、期待のこもった視線でプリンを眺めている。
そんな俺たちの様子を見て、暦先輩と榎本は満足そうな笑みを浮かべている。
「我ながらうまくできたわね! 折角だから一枚撮ろうかしら」
そう言うやいなや、いつの間に取り出したのか、料理合戦が始まる前までに首から下げていた一眼レフを滑らかな動きで構え、プリンに向けてシャッターを切る。ホントにカメラが好きだなこいつは。
「さて、美都ちゃんも撮り終わったようですし……どうぞ、召し上がってください」
にっこりとした笑顔をこちらに向け、俺たちにそう言ってくる暦先輩。多分これは暗に『早く食え』と言っているのだろう。言われなくてもそうするというのに。
「そんじゃ、早速」
「「「いただきます」」」
三人同時にそう言って、俺たちはそれぞれのプリンに手をつけ始めた。
まずは軽くスプーンで触れる。すると、先ほど想像したとおり実にプルプルとした感触が手に返ってきた。だが、もうほんの少し力を入れると、スッと滑らかにスプーンが入る。これ以上ないくらいに調度良い柔らかさだ。
そして、スプーンの上に一口分のプリンを乗せ、口に入れる。その瞬間、鼻をくすぐるような豊かな甘い香りが広がってきた。舌に染み渡って行く甘さも、濃厚だがくどすぎず、ほんの少しだけ後引くしつこさがさらに食欲を湧き立てる。適度な弾力のあるプリンを、舌と上顎でくにゅりと潰す食感もまた、素晴らしく心地が良い。
まあつまり、何が良いたいかと言うと、
「美味い」
「ホントだ……すごく美味いな。有名なスイーツ専門店に売ってるヤツみたいだ……」
「うまっ! うんまっ! やべぇマジうまだコレ!」
一ノ瀬は少し驚いたような顔で、千里はただひたすらに貪り食いながらだが、どちらにせよ二人ともこのプリンに賞賛の声を上げている。
それを見て榎本は「よしっ……」と小さくガッツポーズをし、暦先輩はいつもニッコリとした笑顔のままこちらを見ている。心なしかいつもよりニッコリ度が高い気がするが、気のせいだろう。
「ほわぁ……暦先輩、すごいなー……」
「流石は我が幼馴染ってところかしらね」
「すごいですね、杏奈さん……! 私も是非味見をさせていただきたいです!」
「ま、勝つのはあたし達だけどね」
「へっ、バカ言ってんじゃねーよ。勝つのはオレたちだ」
「そ、そんなに美味いのか……くっ、癒乃、大丈夫なのか……? 私達の料理は……」
「……美味しそう」
「和先輩、癒乃さん全然聞いてませんよ……」
女子達も二人の料理を見て各々多種多様なリアクションを見せている。一人真っ青な顔をしているヤツがいるが。
「いやァ~、これは本当に美味しそうですねェ! 審査員方の評価も上々ですし、優勝の可能性は大いにあります!」
カザミドリ先輩もさらにテンションが上がってきたらしく、目をらんらんと輝かせながら熱気一杯に声を張り上げる。
「さァて、これは次からの選手たちのハードルが高くなってしまったのではないでしょうかねェ! さあ、次はどのペアが料理を見せてくれるんだァ!?」
そして、不敵な笑みを浮かべながらやや挑発的に次なる挑戦者を促すカザミドリ先輩。そんな彼女の声に答えるように、出雲と善家のペアが勢い良く身を乗り出してきた。
「次はオレたちだ!」
「イエス、レッツシンプルイズベストー!」
勢いが良すぎて出雲がなんだか良く分からないセリフを発しているが、変な詮索はしないでやろう。ああ、我が幼馴染ながら哀れだ。
「時雨ー! 失礼なこと考えてないで早く私たちの料理を食べてよ!」
「オーケー、分かったから心を読むのはやめろ。怖いから」
オレがそう言うと、出雲は不満そうに口を尖らせながらも、俺の前に先ほどのペアと同様クロッシュが被せてある皿を置く。横を見ると、一ノ瀬と千里も同じように善家に皿を置いてもらっているところだった。
「で、お前らは何を作ったんだ?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたー! 私達はシンプルイズベストの精神を――」
「余計なことはいいからさっさとしろ」
「……はい」
持論が広がりそうな展開を俺がばっさり切り捨てると、しょぼくれた顔をしながら出雲は素直にクロッシュを取る。
皿の上には何の変哲もないオムレツが乗っていた。
特に何かが中に入っている感じもしないので、多分プレーンオムレツだろう。ケチャップやソースなども全くかかっていない。
なるほど、確かにシンプルだ。
「どうだ? 美味そーだろ、シンプルで」
「そうだな、こういうシンプルな感じの料理も良いな」
俺の隣にいる一ノ瀬の言葉を聞いて、その向かいで感想を待っていた善家は嬉しそうにニパーっと笑う。そのやり取りをさらに隣にいる千里がニヤニヤした若干気色悪い笑みを浮かべながら見ていた。
「……ねえ、時雨は何か感想ないの?」
俺の目の前にいる出雲はというと、先ほどよりもさらに不機嫌そうな顔色でそう尋ねてくる。変なことをいうヤツだ。食ってもいないのに感想もクソもないだろうに。
そう思ったが、なんか言って欲しそうな雰囲気だったので、とりあえず何か言ってみることにする。
「シンプルだな」
「そ、そうなんだけどっ、もっと他に……」
「……普通だな」
「……もういいっ! さっさと食べてよ!」
俺の感想が気に食わなかったのか、出雲は怒ったようにそう言うとプイっと顔を背ける。
俺は見たままのことを言っただけなのになぜ怒る。正直訳が分からない。
まあ、こんな意味不明な幼馴染は放っておいて、オムレツの味を見てみることにしよう。丁度一ノ瀬と千里も食べ始めるところだし。
「んじゃ、いただきますっと……」
俺はオムレツを箸で手ごろな大きさに切って、口に入れた。その様子を出雲が何かを期待するような目で食い入るように見てくる。
「…………」
「…………」
焼き加減はいい具合で、卵が舌の上でとろりととろけるが、汁っぽく崩れたりはしない。見事な半熟だ。味付けは特に何もしていないようで、卵本来の香りと旨みが感じられる。はっきり言って美味い。
美味いのだが、やはり少し面白みに欠けるかもしれない。シンプルイズベストの精神は良い事だが、インパクトが足りないとこういう勝負事に向かないと思う。そういう面では、他のペアからは少し劣るだろうか。
だがまあ、味は申し分ないので、俺としては高評価にしたいところだ。
「……ど、どう?」
俺がオムレツの味を噛み締めている間もずっと視線をこちらに向けていた出雲が、やけに緊張した面持ちで尋ねてきた。
「まあ、普通に美味いぞ」
そう感想を述べると、出雲は一瞬安心したような笑みを浮かべるが、すぐにまたふくれっ面に戻る。
「それだけ……? もっとこう、何かないの?」
「いや、何かって言われてもな……」
反応に困りながら、ふと横に目をやると、
「どうだ冬夢、美味いか?」
「ああ、美味いぞ。シンプルなのがいい感じだ」
「そ、そーかそーか! だよな、美味くないわけねーよな!」
「かーっ、お熱いこったなぁお二人さん! 羨ましいぜーオイ!」
そんな茶番劇が目に入った。役者は一ノ瀬と善家と千里の三人だ。何だか見てるこっちが恥ずかしくなってくる。
ずっとそうかとは思っていたが、やっぱり一ノ瀬は連れていた五人に好意を持たれているんだろう。本人の態度を見る限り、一ノ瀬自身はそれに気づいていないっぽいが。罪な男だ、色々と。
まあ、他人の恋路など俺にとっては道端の石ころの如くどうでもいいことだけどな。
そんなことを考えていた俺だが、ふと先ほどとは比べ物にならないくらいに強い視線を感じた。
「……………………………………………………………………………………」
どうしよう。なんか出雲がすごい訴えかけるような目をしてる。
なんで無言でこっちを見続けてくるこれはなんだ一ノ瀬たちみたいなやり取りを自分達もしたいということなのかあんな茶番劇をやって何が楽しいというのだ我が幼馴染ながら考えが読めないというかいい加減その目で見るのはやめて欲しい。
……仕方ない。
「……あーその、ホント美味かったから……まあアレだ。また作ってくれ」
「っ……! う、うん! 任せてよ!」
先ほどまでとは打って変わって、花が咲くような満面の笑みを見せる出雲。
全く、俺にこんなジンマシンが出るようなこっぱずかしい茶番劇をやらせやがって、本当にめんどくさい幼馴染だ
(……まあ、こういうやり取りもたまには良いかも知れないけどな)
「なぁんであいつらは家庭科室でラブコメみたいなことやってるのかしらぁ……!?」
「うわっ!? 杏奈さんが般若みたいな顔になってる!?」
「見せ付けて……くれるじゃない……ッッッ!」
「ええっ!? 水無月さんの指が机にめり込んで……ええっ!?」
「……許すまじ、時雨、食中毒にさせる……!」
「癒乃さんもなんか怖いこと言ってるし……ああもうどうしよう! ボク一人じゃツッコミ切れない!」
「いつものことですから、放っておいて大丈夫ですよ。そちらの方が面白いものも見れそうですし」
「ああ……嫉妬する女の子も可愛いですねェ……、萌えます!」
なんだか待機してる女子達の間でとんでもないことが起きてる気がするが、気がするだけだ。絶対に女子達の方を見てはいけない。見たらきっと目を焼かれる。
「……相棒も、やっぱ罪な男だよなぁ……」
「冬夢もだけどよ……方城のヤツも相当だよな」
俺の横では、千里と善家がそんな会話をしながら妙に神妙な面持ちで頷き合っていた。一ノ瀬のヤツは微妙にピンとこない顔をしていたが。
もちろん、俺もその二人の会話の意味はよく分からなかった。
***
「少し……味が濃いんじゃないですかね」
「ええっ!? そんな……っ!」
「悠里、ちゃんと調味料は量ったのか?」
「え、えっと……」
俺と一ノ瀬のコメントに、水無月先輩はショックを受けたような表情になり、中溝はばつの悪そうな苦笑いを浮かべる。
事実、この二人が作った親子丼は少々味付けが濃い。おそらく、醤油を入れすぎたんだろう。
鶏肉はしっかりと火が通っていて柔らかいし、卵も半熟とろとろなのだが、それだけにこのミスは痛いと思う。もっとしっかりと味付けを調整したらすごく美味く出来上がっていただろうに。残念だ。
だが、最も残念がっているのはやはり本人たちらしい。見るからに暗そうな顔をしてずーんと肩を落としている。
まあそれはそうだろう。この時点で、このペアが優勝する可能性はほぼ無くなってしまったのだから。
「やっぱり……何でも適量はいけなかったのかしら……」
「そうみたいですね……うわぁ、なんかすっごい悔しいなぁ……」
そのあまりの落ち込みように、見てるこっちの気も沈んでくる。だが、勝負は非情なのだ。勝者が出る以上、敗者もまた必ず存在する。それこそ、ここで下手に慰めたりしたら逆にプライド傷つけかねない。
故に俺は、心の中で彼女達に健闘を称える意を送りたいと思う。
ドンマイ。
「はいはい! では次のペアへ――」
「麗奈、そろそろ行きましょ。真打ち登場ってやつよ」
カザミドリ先輩が次のペアを呼びかける言葉を言い切る前に、杏奈が皿を持ってつかつかとこちらへ歩み寄ってくる(もちろんはクロッシュは被せてある)。
セリフを途中で中断させられるのは放送委員長的に結構ショックなことだったのか、カザミドリ先輩はハイテンションから一転、膝から崩れ落ちて、手を地につけ打ちひしがれていた。
「そうですね。……ところで、あの人は放っておいていいのでしょうか……?」
「いいのよ。変態だから」
そんな彼女を見て、水沢は流石に憐憫の目を向けたが、杏奈はそんなこと歯牙にもかけず少々乱暴に俺と千里の分の皿を審査員用テーブルに置く。水沢のほうはまだ少しカザミドリ先輩のことが気になっていたようだが、やがてこちらに向き直り一ノ瀬の前に皿を置いた。
「さあ、食べなさい」
「その、一生懸命つくりましたので……喜んでいただけたら嬉しいです」
杏奈はギラリと鋭い眼光をちらつかせながら不敵に笑う。反面、水沢は少しはにかみながら見る者全てに癒しを与えるような笑顔である。
しかし表情こそ違うが、この二人からは自分達の料理にとても大きな自信を持っていることが感じられる。
そんな彼女たちが、調理中にもあれだけの『芸術』を見せてくれた彼女達が、一体どんな料理を作ったのか気にならない訳がなく、柄にも無く俺は期待で胸を高鳴らせていた。
そんな俺の期待に答えるように、皿にかかったクロッシュが杏奈の手で外される。
そこにあったのは、少々予想外のものだった。
「これって、だし巻卵……だよな?」
「お嬢様コンビだから、どんな派手派手な料理を出してくるのかと思ってけど……こりゃあ意外なもんが出てきたなーオイ」
一ノ瀬と千里にとっても予想外のことだったのか、その顔から驚きの色を隠せないでいる。
いや、それだけじゃない。この場にいる杏奈と水沢以外の全員、あのカザミドリ先輩までもが程度の差はあれど驚愕の表情を浮かべているのだ。
当然といえば当然なのかもしれない。物語に出てくる貴族のような雰囲気を纏わすあの二人だ。作る料理もきっとそれ相応のものなのだろうと普通は思う。それこそ、今このテーブルにフランス料理のフルコースが置かれていてもなんら違和感は無いだろう。
だが、実際に置かれているのは、だし巻卵。どこにでも見られるような家庭料理だ。俺もよく姉さんのお弁当に入れてやった経験がある。世間一般の主婦たちはもちろんのこと、練習すれば大抵の人は作れるだろう。
だし巻卵とは、良く言えば普遍的な、悪く言えばありふれた、そんな料理なのである。
だからこそ、彼女達はそれを選んだ。
そんな根拠もないような確信が俺にはあった。
カザミドリ先輩はなんと言っていた? そう、卵というのは様々な調理方法、無限の可能性がある。それ故、万人に美味しいと言ってもらえるのは難しいと。
だし巻卵という料理もそうではないだろうか。沢山の人が作るから、その分だけ様々なだし巻卵があkる。同じものは一つもないし、家庭ごとに好みも違うだろう。
それこそ、万人の舌を唸らせるのは至難の業だ。
それでも、杏奈と水沢はこの料理を作った。
――――それは一体、何を意味しているか?
「それじゃ、召し上がれ?」
杏奈に促されるままに、俺、一ノ瀬、千里は一口大に切られているだし巻卵の一つをに箸に取る。
――――そう、
そしてそのまま、口に、入れた。
――――誰が食べても、絶対に『美味しい』と言わせる自信があるからだ。
「――――、ああ……」
「「「美味しい」」」
俺たちの口から、まるで呼吸をするくらいに当然なことのように、その言葉が零れた。
最早下手に形容することすら適わない。
ただ、ひたすらに、美味しい。
あまりに美味しい料理を食べると感動して涙が出るというが、これはそれすら超えている。
それに何故だか、どこか家庭的な懐かしさも感じさせる。俗に言う、『お袋の味』というものなのであろうか。
一番古い記憶の時には既に両親が亡くなっていた俺には、初めて経験する感覚だ。
初めてのものなのに、懐かしい。そんな矛盾さえ、今は心地よく思える。
ちらりと横にやると、呆けたような間抜け面を見せる一ノ瀬と、普段からは想像もできない神妙な表情で小さくため息をついている千里がいた。が、今はそんなあいつらを笑うことはできないだろう。多分、俺も似たような顔になっているはずだから。
さらに視野を広げてみると、また様々な光景が目に入った。
勝ち誇ったような笑みを浮かべている杏奈。その隣で柔らかく微笑む水沢。その向こうで何やら気の抜けたような顔で固まっている他の女子群(癒乃だけはよだれを垂らしギラギラと目を輝かせていたが)。
そして、沈黙が流れる。
実際はそれほど経っていないのだが、その時間はとても長いモノのように感じた。
やがて、女子選手群と同様に呆然とした様子で立っていたカザミドリ先輩がハッとした声をあげる。
「あ、ああ……っとォ。こ、これは失礼、私としたことが少しボーっとしてしまいましたァ! いやいや、でもこれはとんでもないことになりましたねェ、まさかだし巻卵でこんなにも空気が変わるとは……。ですが、これこそ私が求めていた料理なのかもしれません! で、どうです? 審査員の皆様、お嬢様コンビの料理のご感想は?」
次から次へと積み重ねるような早口で、カザミドリ先輩は場の雰囲気を和ませようと目一杯茶目っ気を込めた笑顔で俺たちに尋ねてくる。マイクを構えるのを忘れているところを見ると、この人もこの人で十分動揺しているようだ。
それに対し、俺たち三人は一瞬のうちに目配せをして、声を揃えて言い放った。
「「「……もう、このペアが優勝でよくないですか?」」」
その言葉に最も反応したのは、当然ながら音尾だった。
もちろん、他の女子達も驚愕やら唖然やら何らかの反応を示していたが、やはりまだ料理を出していない音尾が一番だろう。その割りには、同じペアであるはずの癒乃は全くといって良いほど表情を変えていなかったのが気になったが。
「ちょ、ちょっと待て! まだ私達の料理を食べていないだろう!?」
「でも音尾は作って無くね?」
今にも首根っこを掴んできそうな形相で俺たちの意見に噛み付いてくる音尾だが、間髪入れずにそう突っ込むと「ぐっ……」と怯んだ顔をして口を噤ませる。
「ま、待て! 私だって手伝ったことはあるぞ! ……皿洗いとか、だな」
「……それ、料理って言えるのか?」
「う、うぐっ……!」
「まあまあ相棒、そんなに責め立てちゃいけねえよ。和姐さんは自分にできることを精一杯やっただけだって!」
千里が音尾を庇うようにそんなことを言うが、言葉の捕らえ方を変えれば「皿洗いくらいしかできることがないヤツ」とバカにしていることになるとこいつは気づいていないのだろうか。
「ぐぐぐぐ……! だが、と、冬夢は食べてくれるだろう……!?」
俺と千里の言葉の暴力にボコボコにされて若干泣きそうな顔になっている音尾が、最後の希望である一ノ瀬に縋るような目を向ける。
いつも凛とした彼女のそんな表情に一ノ瀬は一瞬戸惑い、反応を鈍らせる。おそらく、ヤツとしても音尾の頼みはできるだけ引き受けたいのだろうが、それでも今回はそう簡単に受け入れるわけにはいかない。一ノ瀬だってまだ死にたくはないだろう。
先ほどまで、俺は覚悟を決めて癒乃が作った料理を食べる気でいたのだが、予想外に杏奈と水沢が作った料理が美味かったので、好都合だと思い、頭の中で一案を孕ませた。
杏奈と水沢が優勝という口実を作れば、もう他の料理を審査する必要は無い。つまり癒乃の料理を回避できる可能性が高い。そう考えたのである。
一ノ瀬と千里のヤツも、同じことを思っていたようで、先ほどの目配せの時に、瞬時に作戦の決行を決めた。
確かに癒乃と音尾には少し悪いと思うが、俺たちとしては命の方が大事なのだ。
やがて、一ノ瀬は何かを決心したような顔つきになって、
「悪い……和」
と一言だけ述べた。
それを聞いて今日一番の驚愕の色が音尾の目に浮かび、やがてそれは憤懣に変わる。
そして、強く握り締めたこぶしを震わせ、彼女が反射的に口を開こうとした瞬間、
「……待って、和ちゃん」
不意に、音尾の背後からそんな声が聞こえてきた。
「っ!? ゆ、癒乃! なぜだ、こいつらは……!」
今の今まで一言も発していなかった癒乃が突然宥めるようなことを言ってきたので、音尾は戸惑いながらも振り返り、問い詰めるようにそう言う。
そんな彼女の必死の形相を見ても、癒乃の無感動な瞳が揺らぐことはない。ただ、淡々とした静かな声色で、告げる。
「……いいの、もう」
「なぜだ……!? 本来ならば料理を作ったお前の方が怒っているはずであろう!? なのに……っ」
「……怒ってなんか無い」
「だ、だが……!」
「いいの」
なおも食いかかろうとする音尾だが、妙にはっきりと断言する癒乃を見て言葉を詰まらせる。
そんな二人のやり取りを、俺たちは何の口出しをすることも許されず、ただ黙ってみていた。
そうして、この場にいる癒乃以外の全員が次の言葉を待っている中、再び癒乃が口を開く。
「……杏奈と麗奈の料理は、本当に、見てるだけですごいものだと分かった。絶対に、勝てないと思った。……確かに、ちょっと悔しいとは思うけど……でも」
俯きがちに喋っていた癒乃が、そこで顔を上げる。
「……料理って、皆が楽しくやるものでしょ?」
小首を傾げながら、何でも無いことを問うかのように言い放った癒乃の言葉に、俺たちは絶句した。
「……皆で競い合うのは、良い事だと思う。でも……それで料理が楽しくなくなっちゃったら、全然意味ない。後味も、きっと良くない」
――――ああ、そうか。
「……だったら、わたしはもう勝負なんてどうでもいい。だって……最後には、皆で笑い合いたいから」
――――俺たちは、本当に大事なものを忘れていたみたいだ。癒乃だけは最初から分かっていたというのに、なんて情けない話だ。
「……時雨たちが、杏奈と麗奈が優勝だって言うのなら、それでいい。皆で……お祝いしてあげよ?」
その瞳に、暖かな光を灯して、癒乃はそう言った。
本当に、癒乃の言うとおりだった。料理というものは、楽しくなければいけない。楽しくなければ、料理も美味しく無くなってしまうからだ。
俺たちは自分たちの保身のために、音尾を傷つけた。……いや、一番傷つけたのは癒乃だろう。
癒乃は確かに味音痴だし、そのせいでとんでもない料理をつくってしまう。だが、それだけだ。
彼女が料理に関して人と違うのは、それだけなのだ。
癒乃にだって、自分が作った料理を美味しく食べてもらいたいという気持ちはあるはずだ。そんな癒乃に俺たちがやったことは言わば、彼女に直接「お前の料理は食べたくない」と言うのと同じだ。そんなことをされて、癒乃は一体どれ程寂しく辛い思いをしただろうか。手料理をいつも姉さんにモリモリ食べてもらっていた俺にはきっと理解できはしないだろう。
だが、それでも癒乃は俺たちが行った人道に外れた行為を受け入れようとしてくれている。
皆で笑いながら、今回の料理合戦を終わらせるために。
「「「…………」」」
先ほどまでうるさいくらいに騒がしかった家庭科室だが、今ではそれが嘘のようにシンと静まり返っている。
言いたいことはもう言い終えたのか、癒乃はもう口を開くことはなかったし、他の女子達は何を言っていいのか分からないという顔で互いに顔を見合わせている。音尾に至ってはメチャクチャ気まずそうな顔をしていて、目を離したらこの部屋から逃げ出してしまいそうな有様だ。
そんな微妙な雰囲気の中で、俺は一ノ瀬と千里を横目でちらりと見る。
「おい、千里、一ノ瀬……」
「ああ、分かってるよ」
「心配すんなって、相棒」
二人とも、俺の考えは分かっていたようだ。ならば話は早い。
今度は特に目配せをすることもなく、自然と同じタイミングで俺たちは言った。
「「「食べよう、皆で」」」
女子達がまたも呆気にとられたような顔になる。特に癒乃と音尾は俺たちが言ったことの意味が理解できていないのが分かりやすく顔に出ていた。
だが、それ以外は言葉の意味を正しく受け取ったのか、全員同じような反応を見せる。
「うん……うん、食べようよ! 皆で!」
「いつもなら全力で遠慮したいところなのですが、今回ばかりは仕方ありませんね」
「ったく、しょうがねーな。オレも付き合ってやるよ」
「地獄まで、かしら?」
「ちょっ、水無月さん何怖いこと言ってるんですか!?」
「そのままの意味じゃない? 私は暦さんから話は聞いてるし」
「たとえそれがどんな料理であろうと……最後までいただくのが作ってくれた人への礼儀です!」
「律儀ね麗奈。ま、今だけはそれに同意するわ」
口々に肯定の意を示す少女達。癒乃と音尾の二人は未だに状況が飲み込めないようで、目線と首を忙しなく動かしながら、そこから得られる少ない情報で何とか現状の理解をしようと努めている。
珍しく大人しく黙っていたカザミドリ先輩は、心底楽しそうに目を爛々と輝かせながら、マイクを持つ手にそのまま握りつぶしてしまうのでは無いかと思うくらい強く力を込め、最早耳どころか骨まで響いてくる大声で叫ぶ。
「いよっしゃァァァァァァァァァァァァァァ! 本来ならば司会進行である私が選手の料理に手を出すなど全くもって言語道断なことですが、今回だけは特例! 私もいただいちゃいますよォォォォォォ! というか可愛い女の子が作ったのなら、それがどんなものであれ私としては鼻血出しすぎて失血死級に幸せなこと! さァ、さァさァさァ! 早いところ見せてくれ! あなたの努力の結晶を!」
「……ふぇ?」
ハイテンションすぎる彼女にいきなり話を振られたため、間抜けな声と共に不思議そうにぽかんと口を開ける癒乃。目を真ん丸く開いてパチクリとまばたきをしていることから、依然として話についていけていない様子だ。
流石にじれったくなったので、俺は分かりやすいような言葉を選んで癒乃に伝える。
「癒乃、悪かった。お前のおかげで目が覚めたよ。お前の料理、食べさせてくれ」
「俺たち皆に頼むぜーオイ!」
「あ……」
そこでようやく、さっきから俺たちが話していた会話の意味が分かったような顔をして、俯いてほんの少し迷った後、こくりと小さく頷いた。そしてそのまま、自分達が使っていた調理用テーブルの方へと歩いていく。
一方で、一ノ瀬のヤツは同じように混乱していた音尾へ謝罪の言葉と現状の説明をしていた。
「和、本当に……その、悪かった。ゴメンな。だから、お詫びというかなんというか……一緒に食べよう、お前らが作った料理!」
「……! ま、まあ……分かればよいのだ! うむ!」
先ほどまでのしかめっ面から一転、満足そうに、そしてなんとなく照れくさそうに笑う音尾。何だかんだで、この二人はいいコンビだ。
そんなやり取りを苦笑混じりに眺めていると、丁度良いタイミングで癒乃がお盆を持ってよたよたと少々ぎこちない動きでこちらに戻ってきた。お盆の上には、人数分の茶碗が乗せられている。蓋がかかっているが、そこからは妙に怪しい臭気が滲み出ているような気がした。
「……一応、皆の分も作っておいた。……その、どうぞ」
いつもの無感動な瞳の中に、照れくささとほんの少しの期待が見え隠れしていた。
癒乃を含め、俺たちは癒乃のお盆からそれぞれ一つずつ茶碗を取ると、少し緊張気味に蓋を開ける。
卵料理であることと、湯のみに似た形状の茶碗を使うことから推測すると、癒乃がつくったのは茶碗蒸しであると思われる。
だが、蓋の中から出てきたそれは、何故か黒かった。暦先輩の髪の色と同じ漆黒とも言えよう。
軽く嗅ぐだけで、五感を全て強く刺激するような何ともいえない強烈な香りがあることも分かる。
いつもであれば、食すことを断固拒否したくなるような代物だ。だが、俺たちはもう迷わない。
たとえそれがどんなものであろうと、癒乃が俺たちのために心を込めて作ってくれた料理なのだから。
そんな、恥ずかしくて口に出すのも憚られそうな思いを胸に刻み、俺たちは全員で声を揃えた。
「「「いただきます!」」」
情けない話だが、そこから先のことはよく覚えていない。気がついたら、保健室のベッドの上だった。
呆れたように俺たちを見てくる空巻先生と、眠たそうなニコニコ笑顔の岸田先生から事情を聞かれたりもした。
何でも、貸し出していた家庭科室の様子を見にきた空巻先生が室内の惨状を発見し、そのまま保健室に運んだのだという。ちなみに岸田先生の話によれば、空巻先生は一人で俺たち全員を抱えていたらしい。物理的にどうやったのか果てなく疑問だ。
先生たちに事情を話すと、空巻先生はさらに呆れの念を深め、岸田先生は驚いたように半開きの目を少し見開いていた。
やはり、というかなんというか、あの茶碗蒸しを食べても唯一無事だった癒乃は、目を覚ました俺や他のヤツらに申し訳無さそうにして謝っていた。もちろん、俺も皆もそんなことは全く気にしていないが。
それでもあの癒乃特製『暗黒物質茶碗蒸し』は人体に多大なる影響を与えたらしい。
一口食べて倒れた女子群は顔を真っ青にしていたし、無理矢理完食した一ノ瀬と千里の二人は顔面蒼白にプラスして身体が痙攣するというオプションつきだ。一人だけ癒乃の味音痴のことを知らされていなかった音尾は、「まさか、癒乃があれほどのものとは……私がやっていた方がまだマシになっていただろうか? ……いや、変わらないだろうな」と妙に黄昏れた様子で自虐的な笑いを見せていた。
かくいう俺も、鈍い頭痛に見舞われ、胃のムカムカが次の日の朝まで続いていた。
正直に言ってしまえば、やはり癒乃の手料理はできるだけ遠慮したいものである。だが、今回に関しては後悔していない。
確かに問題となる部分もありはしたが、それ以上に良いものも学ぶことができたのだから。
そう、俺は、俺たちは、今なら胸を張って言える。
今回の二校合同ペア料理合戦。
とても、楽しかったと。
どうも水面出です、そしてすいません!
〈千里〉「おお、初っ端から土下座姿勢とは……やるなーオイ!」
〈暦〉「まあ、投稿が大分遅くなってしまったのですから、土下座くらい当然でしょうね」
イヤホントすいません。
言い訳もしません。とにかくすいません。
〈暦〉「作者さんにしては珍しく潔いですね」
〈千里〉「ま、反省はしてるってことだな!」
はい。
何はともあれ、コラボ回は今回で終わりです。デルジャイル様、コラボさせていただき、本当にありがとうございました。
では、前回も言った通り……果たして前回のことを覚えている人がいるのかどうか不安ですが、今回は三月語様からいただいた企画を行わせていただきます。
〈暦〉「そういえば、今日は時雨君たちの姿が見えませんね」
〈千里〉「くくっ、暦先輩よぉ……そりゃあ簡単なことでさぁ。あいつらがいたらできない、そんな感じの企画なんだろ?」
さすが千里君、分かっていらっしゃるじゃないですか。
そうです、三月語様からいただいた企画、三つありますが……まず最初の一つは、
『眠っている時雨のベッドに、眠らせた出雲&水無月(共に全裸)を投入した時の反応は?』です!
〈暦/千里〉「ぶふっ!」
二人同時に吹き出した!?
〈暦〉「くっ、くふふっ……! これは……素晴らしく面白いものが見れそう、ですね……っ」
〈千里〉「三月語さんよぉ……アンタ、最高だぜ!」
うわぁ……あんたら色んな意味で最悪ですね。……わたしも人のことは言えませんが。
ちなみに二つ目はこの対象を杏奈と癒乃にするだけです。
実を言うと、既に事は済ませてあります。もちろん、時雨の部屋に勝手に仕掛けておいた監視カメラでその様子はバッチリ撮れていますので、……見てみます?
〈暦/千里〉「もちろん」
一切迷い無し。あなたたちってやっぱり腹黒いですね。
まあいいや。それでは、早速簡易テレビで見てみましょう!
〈時雨〉『……くかー』
〈暦〉「よく寝てますね」
時雨は睡眠は良く取る方らしいので。
〈千里〉「一緒に寝てるはずの出雲と杏奈も今はいねぇみたいだ。あっと、今は理事長もだったか。きっと他の部屋に移されてんだろうな。……おっ、誰か入ってきた」
〈暦〉「あれは……」
〈翠〉『ふっふっふ……まさか私にこんな大役&美味しい役が任されるとは……おっといけません、鼻血が……』
ターゲットを眠らせて運ぶ役目を頼んだら、快く引き受けてくれました。
〈暦〉「本当にあの人は……」
〈千里〉「両肩に担いでる毛布の塊は……出雲と水無月先輩だろうな。ってか人二人分を軽く担いでるとか……結構力あるんだな」
〈翠〉『さて、あとはこの二人を時雨君のベッドに入れるだけですねェ……よいしょっと』
〈暦〉「毛布に包まれた二人をベッドに潜り込ませ、毛布だけ剥ぎ取る。中々紳士的なやり方ですね……予想外でした」
〈千里〉「っつうか、これ俺が見ても大丈夫なんですかね?」
〈暦〉「一応、ミナのためにもその時が来たら目潰しをしてあげますよ」
〈千里〉「え……」
〈翠〉『ふふっ、それではお三方…、良い夜を……』
気づかれずに帰っていきましたね。流石はカザミドリさん。
〈暦〉「おや? 早くも時雨君の方に動きがありましたよ?」
〈時雨〉『んん……なんだ……? 今誰かいたような……』
〈千里〉「寝てたのにカザミドリ先輩の気配を察知するとは……やるな相棒」
〈暦〉「でも、これで二人がいることに気づきますね」
〈時雨〉『ん? ベッドに誰かいる……? また出雲が寝ぼけて俺のベッドに……………………は?』
〈千里〉「気づいたっすね」
〈暦〉「ええ、見事に訳が分からないという表情ですね」
〈時雨〉『(おいどうなってる? なんで俺のベッドに出雲と水無月先輩がいるんだ? しかも全裸で。これはなんだ、誰の策略だ。暦先輩か、千里の野郎か。杏奈と癒乃はないだろうが)』
ご都合主義でモノローグも聞こえるようにしておきました。
〈暦〉「というかまず最初に疑われるのが私たちって一体どういうことなんでしょう?」
〈千里〉「俺たちならやりそうだっていうイメージがあるんじゃないんすかね?」
〈暦〉「……極めて心外です。私はこういうことは自発的にやろうと思いません。他の人がやっているのを横から笑うタイプですので」
そっちのが性質悪くないですかね……。
〈時雨〉『(先生たちってことも無さそうだし……とするとカザミドリ先輩か。あり得るな、あの人なら)』
〈暦〉「まあ実行犯はそうですからね」
〈千里〉「それにしても相棒は妙に冷静だな。目の前に裸の女の子二人がいるってのに」
〈暦〉「さあ、それは分かりません。ところで千里君、何故目を瞑っているのですか?」
〈千里〉「潰されるのはゴメンだと思ったんで、自分から」
〈時雨〉『(だが……どうも腑に落ちない。まだ裏がありそうだが…………まさか)』
〈暦〉「何かに気づいたような顔になりましたね。犯人が分かったんでしょうか」
〈時雨〉『……次会ったら殺しとこう、作者』
ひいっ!?
〈千里〉「ばれたな」
〈暦〉「ばれましたね」
〈時雨〉『(さて、こっからどうすればいいのやら。出雲の方は服を着せてベッドに戻せばいいかもしれんが、水無月先輩はどうする。毛布に被せてこっそり部屋まで運んでいくか? ……いや、誰かに見つかったときのリスクが高いな。だからと言ってこのまま放っておくわけにもいかない。杏奈も理事長も何故か今はいないが、いつ戻ってくるのかも分からない。というかそもそも勝手に服を着せていいものか? ……ダメだよな。それに、こいつらがいつ起きるかも分からないし)』
〈千里〉「相棒、最後のはフラグだぜ」
そろそろ眠り薬の効果が切れる頃ですよ。
〈暦〉「さて、どうなることやら」
〈出雲〉『う、う~ん……』
〈水無月〉『ん……ふわ』
〈時雨〉『っ!? 起き……ヤバっ!』
〈出雲〉『あれ……? 時雨……? 私、また寝ぼけて……、…………?』
〈水無月〉『ふにゃ……あら……? 出雲ちゃんと、時雨、君……? なんで……、…………』
〈出雲/水無月〉『っっっ!?』
〈暦〉「自分達が裸なのに気づきましたね」
〈千里〉「相棒……あばよ」
〈出雲〉『な、ななななっ!? わわ私、ななななんで、は、裸……っ!? まままままさかやっちゃったの!? 全然覚えてないけど……!?』
〈水無月〉『ちょっ、えっ、えええええ!? ううううう嘘、こんな、初めてが、三人で……!? ししし時雨君……最初からなんてマニアックな……!』
〈暦〉「二人ともパニックになりすぎておかしな発言をしてますね」
〈千里〉「くそっ、見てみてぇ! けど見たら絶対殺される! 我慢するしかねえのか!」
〈時雨〉『(ああ、もういいや、逃げよう)』
〈暦〉「あ、窓から逃走しましたね。時雨君の部屋は三階だったと思うんですが、だいじょうぶでしょうか?」
〈千里〉「きっと大丈夫っすよ、相棒なら」
〈出雲/水無月〉『いいいい一体何がどうなって……!?』
はい、ここで終わりですね。出雲さんと水無月さんは後でカザミドリさんから説明を受けましたので、誤解は解かれています。時雨君は授業にも出ず逃げ回っていたので空巻先生にこってりと絞られましたが。
〈千里〉「相棒……哀れだ。じゃ、次のヤツも見てみようぜ」
〈暦〉「そうですね」
あんたらホントに鬼ですね。
ま、いいですけど。
では、対象が杏奈と癒乃の二人になったものです。どうぞ。
〈時雨〉『……』
〈杏奈〉『すー……すー……』
〈癒乃〉『……むにゃ』
〈時雨〉『(作者ァァァァァァァァァァ!)』
〈暦〉「おや、今度はもう二人が運ばれたあとですね」
〈千里〉「相棒も起きてるみたいっすね」
〈時雨〉『(おのれ作者、一度ならず二度までも! そんなに俺を社会的に抹殺したいのか!)』
いや、わたしは面白いものが見たいだけですよ。
〈千里〉「同じだろ」
〈時雨〉『(くっ……一体どうすれば……。結局あの後ひどい目にあったし……どうにかしてこの場を……待て、この流れは前回と同じ!? ということはまさか……!)』
〈杏奈〉『んん……ふ……?』
〈癒乃〉『……?』
〈暦〉「流石時雨君、良い勘してますね」
〈千里〉「俺はやっぱり目を瞑ってるから状況がよく分かんねえぜ!」
〈時雨〉『(前回は逃げ出したのが悪かった……ここは冷静に事情説明を……!)』
〈杏奈〉『………………、んー』
〈時雨〉『っ!?』
〈暦〉「抱きついた……だと!?」
〈千里〉「暦先輩落ち着いてくんなましぃ、口調が変になってますぜ」
〈癒乃〉『(……時雨? 杏奈も? なんで? ……あ、夢だからか。なら……わたしも)』
〈時雨〉『お、おい杏奈……お前寝ぼけて――』
〈癒乃〉『……ぎゅー』
〈時雨〉『って癒乃まで!?』
〈千里〉「なあ暦先輩……杏奈と癒乃、裸っすよね?」
〈暦〉「そうですね。時雨君は今裸の女の子二人に抱きつかれていますね」
〈千里〉「……ちょっと相棒を殺してこようかな」
〈時雨〉『(おいどうするどうするどうするどうするどうする俺!? 何とかこの状況を……ああヤバイ集中できない! なんでこんなに柔らかくて良い匂いがするんだよこいつらは……!)』
〈暦〉「出雲ちゃんとミナにはほとんど反応なかったのに……やはり時雨君はロリコンということですかね?」
〈千里〉「となると、通報の準備をしていた方がいいかもしれないっすね」
〈杏奈〉『むにゅー……えへへ、時雨ー』
〈癒乃〉『……はむはむ』
〈時雨〉『(普段と違いすぎる甘々な声で俺の名前を呼ぶな俺の耳を甘噛みするなああああ! 誰か助け……いやダメだ誰もくるなああああああああ!)』
〈暦〉「今度は時雨君がパニックになってますね。普通ならこの時点で襲ってもおかしくありませんが、時雨君は耐えますか」
〈千里〉「先輩がさらりと大胆なことを言ってるぞオイ」
〈時雨〉『(gdfぐべsdjvはkbへあgへあgsjkghsvんkwbが!!!!!)』
ぷっつん
〈暦〉「あ、時雨君が壊れましたね」
〈千里〉「相棒……」
〈時雨〉『もういい。後がどうなっても知るか。俺は自分のやりたいことをやる』
〈杏奈〉『ふにゃっ』
〈癒乃〉『あうっ』
〈暦〉「これは……もしかするともしかしてしまうんでしょうか」
〈千里〉「ダメだ相棒! この小説を十八禁にする気か!?」
〈時雨〉『……ぐー』
〈杏奈〉『ふにゃ……すぴー』
〈癒乃〉『……くー』
〈暦〉「一緒に寝るだけでしたか」
〈千里〉「うおいっ! それだけかよ! いやそれはそれで問題だけどな!」
はい、終わりですね。翌日の朝、時雨の頬に大きな紅葉があるという話題が学年中に広がっていました。
〈千里〉「ああ、あれはこういうことだったんだな」
〈暦〉「あの裏にこんな面白い話があったとは……」
まあでも、この二つはこれで終わりですので、三つ目の企画に――
〈時雨〉「さぁぁぁぁぁぁくぅぅぅぅぅぅぅしゃぁぁぁぁああああああああああああああああああ!」
〈出雲〉「ゼッタイ、ユルサナイカラネ?」
〈杏奈〉「死ね、クズ」
〈水無月〉「ぐっちゃぐっちゃにしてあげる」
〈癒乃〉「…………殺す」
……やっぱり……こうなりますよね?
しばらくお待ちください。
〈時雨〉「ふぅ……ゴミ掃除は完了だな」
〈杏奈〉「ったく、相変わらずろくなことしないわね」
〈水無月〉「あーあ、手が汚れちゃったわ」
〈出雲〉「私もですよ」
〈癒乃〉「……作者さんの血、まずい」
〈千里〉「おおふ……間近でスプラッタを見たのは初めてだぜ」
〈暦〉「それほど恥ずかしかったんですね。あの夜の――」
〈時雨/出雲/杏奈/水無月/癒乃〉「その言葉は二度と口にするな」
〈暦〉「はい、分かりました。申し訳ありません」
〈千里〉「恐ろしいぜーオイ……」
〈時雨〉「で、どうするよ? まだ企画残ってんだろ?」
〈杏奈〉「あたしたちだけでできるわよ」
〈出雲〉「えーと……『ロシアン茶碗蒸し(笑)。中身正解以外フリスク(笑)』だって」
〈水無月〉「今回の話の後にこれを持って来るの!? しかもよりにもよって茶碗蒸し!?」
〈千里〉「逆に良いタイミングだったかもしれませんぜ?」
〈暦〉「そうでしょうかね……」
〈癒乃〉「……楽しそう」
〈時雨〉「まあ、やるしかないだろ。いつの間に目の前に人数分の茶碗蒸しがあるし」
〈出雲〉「生き残れる確立は七分の一って訳だね……」
〈杏奈〉「めんどくさいからさっさと終わらせましょ」
〈水無月〉「うぅ……最近こんなのばっかり……」
〈暦〉「諦めましょう、ミナ」
〈千里〉「そんじゃ、早速いただきますか!」
しばらくお待ちください。
〈癒乃〉「……おかえり、みんないきなり洗面所に行くからびっくりした」
〈癒乃以外全員〉(なんでこういう結果になった……?)
〈癒乃〉「……フリスク茶碗蒸し、わたしもちょっと食べてみたかったな」
〈時雨〉「はぁ……もういいわ。んじゃ、今回はここまでな」
〈出雲〉「コラボ回も終わって、次回からはいよいよ第二章だよ!」
〈杏奈〉「なんだかもう幸先が危ぶまれるわね……」
〈水無月〉「まあ、それでも私は楽しみだけどね♪」
〈暦〉「同感ですね」
〈千里〉「じゃあ、また会おうぜ!」
〈全員〉「次回からもお楽しみに」