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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
間章-Collaboration-
43/46

Collaboration EpisodeⅡ 嫌な予感は割りと高確率で的中する

〈時雨〉「コラボ回、二話目だ」


〈千里〉「楽しんでいってくれよな!」


では、始まります。



 まず結論から言うと、俺たちと一ノ瀬たちの一行はすぐに仲良くなった。

 俺と一ノ瀬による事情説明の後、互いに自己紹介。ここで会ったのも何かの縁ということで、そのまま一緒に食事をすることになった。そして現在、『揚げ物屋きらら』の主人の親父に頼み、テーブルをいくつかくっつけて無理矢理全員で囲んでトーキング中、という感じだ。もちろん、この店名物のから揚げつきで。

 やはり同年代というのもあるのか、気が合うところが多いらしい。トークは大いに盛り上がってまさに和気わき藹藹あいあいといった風な空気になっている。

 特に双方の女子たちは互いに似たような何かがあったらしく、もう下の名前で呼び合うほどの仲になっているほどだ。

 たまに会話の中で『鈍くて困る』とか『フラグ立て過ぎ』とかいう言葉が聞こえてくるのだが、なんのことかは全く分からない。右隣に座ってから揚げを突っついている一ノ瀬にも聞いてみたが、こいつも分からないらしい。役に立たないヤロウだ。ただ、千里のヤツだけは終始ニヤニヤと笑っていたが。

 そんなこんなで、皆仲良くなった訳だ。実に好ましいことだと思いますよ。

 それに、改めて話してみると一ノ瀬は案外面白いヤツだということが分かった。料理とかプラモ作りとか結構合う趣味が多いし。

 前会ったときにメアドを交換しておいたのだが、その後あまりメールはしていなかったから(俺が見ていなかっただけかも知れないが)こいつのことをほとんど知らなかったのだ。それこそ、とんでもないメイド好きということ以外は。

 まあ、割とどうでもいいことなんだがな。

「そーれにしてもよー、一ノ瀬も随分と可愛い女の子達をはべらせてんなーオイ。全くお前と言い相棒と言い、羨ましいぜ……ふっ」

 ふいに、箸の動きを止めた千里がどこか遠くを見るような目でそう呟いた。

 何を言ってるんだこいつは。

「千里、何回も言うけどな、俺はあいつらを侍らしてる気は全くないからな。侍らしてるのはこのメイドバカだけだ」

「いや俺だってそんな気はないから! っていうかお前何気に口悪いな!」

「安心しろ、お前にだけだ」

「それ余計に性質たちが悪いだろ!」

「なっはっはっは! お前らも仲良くなんの早いなー! 流石は鈍感フラグメイカー同士ってか!」

 俺と一ノ瀬の漫才にも似たやりとりに千里が面白そうに大笑いする。全く、こんなアホと一緒にされるなんて心外だ。

 そんなことを思ってると、先ほどまでガールズトークをしていた女子達が今度はこちらの話に混ざってきた。

「……何話してるの?」

「おお、癒乃か。いやまあアレだ、ちょっとした世間話……ってオイ癒乃、俺の皿からから揚げを取るな」

 さりげない動きで俺の分のから揚げを摘もうとする癒乃に空手チョップ(力加減無し)をお見舞いする。癒乃の奴はかなり痛かったようで涙目になっていたが、そんなこと知るか。人の料理に手を出すなとユリアさんに教わらなかったのか。

「……い、た、い……」

「あ、あの、方城さん……少し強く叩きすぎではないでしょうか……?」

 頭を押さえて痛がる癒乃を見て可哀想だと思ったのか、長い黒髪を首の辺りでリボンで纏めている、お嬢様然とした少女――水沢みずさわ麗奈れいながおずおずと言った様子でそう言葉をかけてきた。

 一ノ瀬一行の一人のこの少女、どうやらリアルなお嬢様らしい。どうりでどこか高そうな服を着ていると思った。

「いや気にすんな、こいつにはこれでいいんだ」

「そ、そうですか……」

 俺の答えにやや困ったような笑みを浮かべる。なんておしとやかでおっとりした女の子なんだ。これこそお嬢様というものだろうよ。どこかの暴力娘とは大違いだ。

「ちょっと時雨、今失礼なこと考えてなかった?」

 瞬間、何かを察したらしく、向かいに座っていた杏奈がギラリとその鋭い視線をこちらに向ける。同時に、俺の背中にも薄ら寒い感覚が走った。

「気のせいだと思うぞ、杏奈」

「そう。ならいいわ」

 全く、危ないところだった。相変わらず杏奈の読心術は恐ろしい。

「うわっ、ちょっとちょっと美都みとちゃん! この一眼レフものすごく高いヤツじゃないの!」

 不意に、水無月先輩の興奮した声が聞こえてきた。

 何事かと思いそちらの方向を見てみると、茶髪ツインテールの女子が首から下げている一眼レフカメラを何やら素晴らしくキラキラした瞳で注視していた。

「やばい、やばいわ……! 私のマニアック魂が熱く燃え滾ってる! ち、ちょっと触らせてもらってもいいかしら……!?」

「ええ、いいわよ」

 カメラ、というか機械好きというまた新たな一面が発覚した水無月先輩の頼みに、ツインテールの女子――榎本えのもと美都は割りと気さくな感じで返事をする。

 なんとなく杏奈と似たようなツンツンした雰囲気を放つこの少女、何故か一眼レフカメラ、しかも水無月先輩が食い付いたようにかなり高額のモノを持っている。まあ多分、カメラが趣味なんだろう。

 そういえば、一ノ瀬の幼馴染らしい。どうでもいいが、出雲よりはしっかりしてそうだ。

「く~っ! 高すぎて手が届かなかった品が、今私の手の中に……! 今日をカメラ記念日にしようかしら?」

 何だその摩訶不思議な記念日は。

「水無月さんもカメラが好きなの?」

「いえ、ミナが好きなのは精巧な機械、漫画、ゲーム、ラノベなので、特にカメラ限定という訳ではありませんよ」

「そうなの、同じ趣味の人が見つかったと思ったんだけど……残念ね」

 依然目を輝かせている水無月先輩を横に、暦先輩の言葉にやや残念そうに項垂れる榎本。やっぱりカメラが趣味なのか。

 ちなみに榎本が水無月先輩と暦先輩に対して敬語じゃないのは、あの二人が一ノ瀬一行に許可したからである。俺たちには敬語使わせてるくせに。

「あと、ミナは時雨君も――」

「アァァァァァァァウトォォォォォォォォォ! 暦、それはアウトよぉぉぉぉぉ!」

「うるさいですよミナ。他の人に迷惑でしょう」

「あ、ゴメン……」

 暦先輩が続けて何かを言いかけたが、水無月先輩の超大音量ボイスツッコミにかき消された。内容が気になるところだが、まあ気にしないでおこう。

 その時、すぐ近くから水無月先輩のものとはまた別の騒がしい声が二つ聞こえてきた。

「おい出雲、それは私のから揚げだ! 返してもらおう!」

「一個くらい良いじゃん和ちゃん! これ美味しいんだもん!」

「美味いからこそだ! から揚げだけは譲ることはできん!」

 まるで竜虎が対峙するかのように睨み合っているのは、毎度おなじみ俺のバカ幼馴染出雲と、長い黒髪ポニーテールが特徴的な少女、音尾おとおなごみである。

 凛とした佇まいでなんとなく侍チックな感じがする音尾だが、一ノ瀬曰く相当のから揚げジャンキーらしく、この店も音尾の提案で来たのだという。

 さっき彼女のベルトの端っこにから揚げのキーホルダーがついているのを見たので、一ノ瀬の言うとおりあれは相当のから揚げ通なのだろう。そんなヤツを相手にから揚げ争奪戦とは、流石は出雲、いつもながら無謀だ。

 そんなことを考えている間にも、二人の睨み合いは緊張感が増し、今にもバトルが始まりそうな雰囲気になってくる。

 俺や杏奈、先輩達はそんなこと知ったこっちゃないという態度で自分達のから揚げを食べているし、癒乃と善家ぜんけ、榎本は再びガールズトークに花を咲かせている。ただ二人、心配そうな表情を浮かべている一ノ瀬と水沢も、面白いモノ見たさの千里に止められている。

 さて、どう収拾をつける気だろうか。

「渡すものか……から揚げだけは、渡すものか……!」

「いいよ……渡さないって言うのなら、力ずくで食べてみせるもんっ!」

 そしてついに戦いのゴングがなろうとした時、隣り合った二人の間に黒いショートヘアの少女が割って入った。

「ふ、二人とも落ち着いてくださいっ! こんなところで騒いだらお店の人の迷惑になりますって!」

「む……」

「あぅ……」

 慌てた様子で二人を宥めようとする少女――中溝なかみぞ悠里ゆうりの言葉で、少し落ち着きを取り戻したのか、出雲も音尾も乗り出していた身を引いて椅子に座りなおす。

 それを見て、中溝は安心したようにほっと息をつく。もちろんこいつも一ノ瀬一行の一人で、活発そうでボーイッシュな雰囲気が特徴的だ。

 確か俺たちと同じ一年で一ノ瀬たちの後輩……ん?

「……………………あ」

「おいおい、どうしたよ相棒?」

 突然、変な声をあげる俺に、千里が怪訝な目をしながらそう尋ねてくる。

 だが、そんなものはどうでもいい。俺は今、大変なことに気づいてしまったのだから。

「おい、一ノ瀬……」

「ん? どうした方城?」

「お前らって……俺らより一つ年上なんだな……」

 そう言った瞬間、俺たち全員の間になんか微妙な空気が流れた。

「あー……そういえば、そうだったんだな……」

「おっとっとー、こりゃ気づかなかったぜ、オイ」

 割と重要なことを思い出したような、気づいたような、そんな表情を見せる一ノ瀬と千里。

「私達は最初から気づいてたわよ?」

「だから普通にタメ口で良いと言ったんですよ」

 対し、何を今更といった、呆れた顔の水無月先輩と暦先輩。

「ど、どうしよう杏奈ちゃん……敬語使った方が良いのかな?」

「今更もう必要ないでしょ。そもそもあたしは敬語使わないし」

「ええ、そうですよ。そちらの方が、親しみを感じて嬉しいですし」

「まあ、確かにそうよね」

 若干心配そうに声をすぼめる出雲に、気にせず笑い合う杏奈、水沢、榎本の三人。

「うむ、私も全く依存はないな。私には、身近に敬語を全く使いたく無くなるような上司がいるしな!」

「ボクは元から方城さんたちと同い年だから、問題無しですねっ!」 

 先の三人のように、こちらも気にした様子は無い音尾と中溝。そして、

「……このぬいぐるみ、かわいい」

「だろ? そうだ、今度実物見せてやろーか?」

 何やら携帯の画面を見ていて最初っから全く話を聞いていない癒乃と善家。こいつら後でしばこうかな。

「ま、話聞いてない一部除けば、各々そういうことだから、別に気にしなくていいんじゃねえか、相棒?」

「ま、そうだな。というか、一ノ瀬に敬語使うとか気持ち悪いし」

「お前ホント口悪いな!」

「気にするな」

 そんなこんなで、俺達と一ノ瀬たちの親睦会はまた盛り上がっていった。


 だが、俺達楽園部がいてそんな穏やかな親睦会になる訳が無く、何故か再び出雲と音尾が口論になっていた。

「だからね和ちゃん、私は絶対時雨の作ったヤツの方が美味しいと思うの!」

「何を言う! 冬夢の作ったから揚げこそが至高の料理というものだ!」

 なっていた、のだが、なんかもうその内容がバカらしくてしょうがない。今度は自分たちのことじゃなくて俺と一ノ瀬の話になっている。

 なんでも、音尾が一ノ瀬が作ったから揚げは最高とか言い出して、それに対抗して出雲が俺の作った料理の方が美味いとか抜かして、それから十分ほど同じような言い合いが続いている。

 周りのヤツ等は二人の言い争いを見て、呆れたり苦笑したりと、もう誰も止めようとしない。丁度昼食の時間帯が過ぎ、俺ら以外の客がいない状態なので、まあ周りの客には迷惑にならないだろうと放っておいているのだ。

 全く、あんな下らないことして疲れないだろうか。

「そこまで言うなら一度時雨が作った料理を食べてみなよ! 絶対こっちの方が美味しいから!」

「それならば、冬夢が作ったものも食べてもらおうか! まさに頬が落ちる程の美味さだからな!」

 さらに激化していく二人の言い争いを聞いて、俺はなんだか嫌な予感がしてきた。そしてまあ、俺の予感は大体当たる。嫌な方に関しては特に。

「と、言うわけで、時雨、作って!」

「冬夢も頼む!」

 やはりこちらにとばっちりが来た。予感は的中という訳である。

 いきなり話を振られてきて少し戸惑ったか、一ノ瀬のヤツも微妙な表情で固まっている。

 アホかこいつら、誰が好き好んで野郎と料理対決なんかしなきゃいけないんだよ。

「いや、そんなこと今言われてもな……」

「まず場所がねえし、材料もねえし、無理だっての。それにお前ら、人の料理が美味い美味いって言ってて……なんか悲しくねえか?」

「「う……」」

 俺の指摘が図星だったのか、二人が一瞬怯んだ声をあげる。黙らせるために、このまま追撃しようと思う。

「つうかよ、人に言う前にまず自分たちでやってみたらどうよ? 料理対決を」

「料理……」

「対決、だと……!?」

 俺の提案を聞いた瞬間、出来損ないのサスペンスドラマのような妙な雰囲気を纏いながら二人同時に固まる。何気に息ぴったりだと思うこの二人。

 まあこれでこの話題は終わりだろうと、再び食事を再開しようとした時、隣にいる千里が何やら面白そうに含み笑いをしているのが目に入った。

「なるほどねぇ……料理対決、か。くっくっく、いいね相棒……お前はやっぱり最高だよ……!」

「は?」

 いきなり笑い出したと思いきや、千里は椅子の上に立ち上がり片足をドンとテーブルの上に乗せる。もちろん、そんなことをして注目が集まらない訳が無く、全員の視線が千里の元へ注がれることになる。

 自分に集まる視線に、千里は満足そうに笑うと、そのまま高らかに言い出した。

「さあさあさあ、今ここに集いし少女たちよ、耳かっぽじってよーく聞いとけぇ! たった今、相棒の一言により俺は面白いことを考えた! やりゃあいいのさ、ここにいるメンバーで!」

「な、何をだよ?」

 一ノ瀬がそう尋ねると、千里は楽しそうな笑顔をさらに楽しそうにして、こう言い放った。

「――題して、『二校合同ペア料理合戦』だ!」


 ***


「さ~あ始まりましたァ! 二校合同ペア料理合戦! 会場は光天寺学園家庭科室、司会はこの私、風水翠でお送りしたいと思いまァす!」

 調理用のテーブルと流し場、コンロがいくつか点在する家庭科室のど真ん中で、変態放送委員長、風水翠先輩――通称カザミドリ先輩は、マイクを片手にバリバリ爆発しそうなほどのハイテンションで二校合同ペア料理合戦の開催を告げた。

 俺はといえば、いつもは教師用に使われる前の方のテーブル席に、さっきから戸惑った表情のままの一ノ瀬と、勘に障るようなにやにやした笑いを浮かべている千里と共に座っている所存だ。

 何故こんなことになっているのか、というと、最早説明するのも面倒くさいのだが、要は千里の暴走のせいである。

 先ほど、揚げ物屋きららで訳の分からない発言をしたと思えば、いきなり「学園に戻るぞ!」とか抜かし一ノ瀬一行もろとも俺達を光天寺学園に連れ戻した、と思ったらそのまま家庭科室へ直行。いつの間に呼んだのかも分からないカザミドリ先輩も現れて、こんな状況になってしまっている。

 そしてまた、何故かは知らないが双方の女子達は千里の指示を受けると別室、家庭科準備室に行ってしまうし、いやホント、何が何だか。ただ一つ分かることは、これから俺を待ち受けていることは、断じて穏やかなものではないということだ。

 そんなことを考えている間にも、カザミドリ先輩の司会進行は続いていく。

「まず、今回のルール説明をしましょうかァ! この二校合同ペア料理合戦では、光天寺学園高校の女子生徒五人と、鳳凰学園高校の女子生徒五人がそれぞれペアを組んで、指定された食材を使った料理を作り、その味を競うというものです! もちろん、味の評価は厳正なる審査員たちが下してくれますので、公平さは全く問題ありません!」

 いや、こんな非公式のことに公平さもクソもないだろ。

「料理の制限時間は一時間! もしその時間内に料理を仕上げることが出来なかった場合は失格、審査の対象にはなりませんのでご注意を! また、指定された食材を使わなかった場合も失格になります! なお、別室に控えている選手達には、このルール説明は既に済ませているのでご心配なく!」

 そもそも誰も心配してねえよ。

「では、今回選手達が作った料理を審査してくださる審査員の皆様をご紹介致しましょう!」

 そう言って、俺達の方へ視線を向けるカザミドリ先輩。さっきから気になってたんだが、この人一体だれに向かって喋っているのだろうか。観客もいないのに寂しくないか?

 そう思ったが、この人に常識を求めても全くもって無意味なので気にしないでおく。

「まず一人目、光天寺学園一年一組学級代表、方城時雨君でェす! 何か一言お願いします!」

「帰らせてくれ」

「おおっとこれは手厳しいィ! まあその言葉を聞き受ける訳にはいきませんけどねェ!」

 なら聞くな。

「では次の方です! 光天寺学園一年三組学級代表、守社かみやしろ千里君です!」

「どーもよろしくーっ!」

「こちらは方城君と違ってノリが良い、やはりこうでなくては!」

 余計なお世話だ。というかそんな非常識なノリなんかこっちから願い下げだこのヤロウ。

「そして最後の一人、鳳凰学園高校からお越しいただきましたァ、一ノ瀬冬夢君です! どうぞコメントを!」

「え、あー……その、よろしくお願い、します……はは」

 カザミドリ先輩の異様な熱気に怯んだのか、一ノ瀬は苦笑交じりにそう言葉を返す。今の一ノ瀬の気持ちだけはよく分かる。イヤホントよく分かるよ。

「以上、こちらの三人です! 公正で素晴らしい審査を期待してますよォ!」

 この家庭科室、ちゃんと使用許可はとったのだろうか? 俺のそんな疑問など露知らず、カザミドリ先輩はどんどん進行させていく。正直、色々と不安でならない。

 一ノ瀬も俺と似たようなことを感じていたらしく、少し心配そうな顔をしながら小さな声で話しかけてきた。

「なあ……これ、どうなるんだ? というか、あの人は誰なんだ……?」

「うちの学園の三年、一応放送委員長やってるけど……ただの変態だよ。これからどうなるかは正直予想がつかねえ。ってか千里、いつの間にあの人を呼んだんだよ?」

「そりゃあ機密事項ってもんだぜ、相棒。ちなみに家庭科室の使用許可はちゃんと空巻先生に取ってあるぜ? あの人教員の総主任だし」

 一応許可は取ってあるという千里の言葉に、少し安心する。無許可で使ったら空巻先生にとんでもない目に合わされるからな。

 だが、それとは別に、俺にはまだ気にかかることが残っていた。

「俺が心配なのはよ……料理だろ? おい千里、お前、癒乃にまともな料理を作ることができると思ってるのか……?」

「…………あ」

 あからさまに『忘れてました』という表情で固まる千里。殴ってやろうかこいつ。

「あー、うん。あいつの味覚音痴は他クラスでも有名だからなー……忘れてたぜ!」

「そ、そんなにやばいのか?」

 俺と千里の間に流れるただならぬ緊張感に何か嫌な予感でも感じ取ったか、一ノ瀬が不安そうな顔で尋ねてくる。

「やばいってレベルじゃない。一ノ瀬、お前はエビフライにハチミツとレバーペーストのブレンドソースをかけて食べる奴を見たことがあるのか?」

「う……」

 また少し、一ノ瀬の顔色が青くなる。癒乃特製のエビフライを想像でもしたのだろう。

 だが、顔を青くしていた一ノ瀬はそこでまたさらに顔を青くした。

「おう、どうしたよ一ノ瀬? なんか心配事でもあったかー?」

「い、いや……実は和が、な……」

「音尾がどうかしたのか?」

 千里がそう尋ねると、一ノ瀬は顔を青くしたまま、引き攣った笑みを浮かべながら答える。

「あいつ、料理が苦手でさ……前、土鍋を一個ダメにされたんだよ……」

「「…………」」

 ここで、俺と千里が無表情になって固まったのは、二つの理由がある。

 一つはもちろん、今一ノ瀬が放った一言に唖然としたからだ。だが、二つ目の方はそれとは比較にならない、もしかしたら命に関わるレベルで危険かもしれない理由である。

 今回の二校合同ペア料理合戦、先ほどのカザミドリ先輩の説明の通り、光天寺学園と鳳凰学園(一ノ瀬たちの高校)のメンバーそれぞれがペアを組むことになっている。例えば、出雲と榎本が組んだり、そういう感じだ。

 料理の腕がどれ程か知らない奴ばかりだが、よっぽどの組み合わせにならなければまあ食べられるものになるだろう。

 では、よっぽどの組み合わせになってしまったらどうすればいいのか。

 そう、ある意味人類を超越した味覚の持ち主癒乃と、一ノ瀬曰く調理道具を破壊するほどの、世紀末的な料理技術を持っている音尾がペアを組んでしまったら、一体どんな料理が出来上がるのだろうか?

 いや、そもそも料理と呼べるものになるのだろうか?

「お、オイ千里……ペアって、どういう方法で決めたんだ……?」

「……あみだクジだな」

「「…………」」

 無言で一ノ瀬と顔を見合わせると、その顔にはうっすらと冷や汗が滴っていた。かくいう俺も、先ほどから背中に走る冷たい感覚が止まらない。

 家庭科室に響くカザミドリ先輩の騒がしい声もほとんど耳に入らず、長いようで短い沈黙の時間が流れる。

 そんな中、千里が無理に笑顔をつくりながら口を開いた。

「で、でもよ、確率的には結構低いんだし、そんな心配するこたぁねぇって、な!」

「そ、そうだよな。そんな心配しても仕方ないよな」

 一ノ瀬も千里も、笑顔が完全に引き攣っていることを分かって言っているのか。まあ絶対に分かっていると思うが。

 それに、こいつらなら気づいている筈である。

 嫌な予感というものは、かなりの確立で的中するということを。

 そして俺達三人が、心中でそんな葛藤をしている中、ついにその時はきた。

 カザミドリ先輩は今まで以上にマイクをギュッと握りこんで、大きく息を吸い、そのコトバを吐く。

「では、そろそろご登場してもらいましょう! 此度の戦を闘い抜く選手たちにィ! では、どうぞォ!」

 カザミドリ先輩の熱いセリフと同時に、家庭科準備室と家庭科室を繋ぐドアが開かれる。

「さ~あ、やったるわよ! 私の実力を見せてやるんだから!」

「はい、頑張りましょう水無月さん! ボクも精一杯やりますよ!」

 まず最初に入ってきたのは、水無月先輩と中溝のペア。

「さて、お嬢様コンビの力をみせてあげなくちゃね、麗奈?」

「ええ、料理部部長として、負けるわけにはいきませんから!」

 次に、杏奈と水沢のペア。

「なぜ私まで駆り出されるのは理解できませんが、勝負するからには負けたくはありませんね」

「その通りね。さあ、勝ちに行くわよ、暦さん!」

 続いて暦先輩と榎本のペア。

「よ~し、頑張ろう響ちゃん!」

「ああ、負ける訳にはいかねーからな!」

 出雲、善家のペアと続き、そして、最後に出てきたのは――、

「……頑張る」

「り、料理か……くっ、こうなったらやるしかないのか……っ!」

 魅鳴癒乃。そして、音尾和だった。


「「「……………………………………………………………………………………………………」」」


 もう、何も言えなかった。

 俺も、千里も、一ノ瀬も。

 目の前の現実を受け入れるのに精一杯で、そんな余裕は無かったんだ。

 ただまあ、そんな状況でも一つだけ言えそうなセリフは、そう――、

「「「…………最悪だ」」」




はい、コラボ回二話でしたね。


〈時雨〉「やっと本格的にコラボし始めたと思えば……次回が不安で不安で仕方ねぇんだけど」


〈暦〉「まあいいじゃないですか。楽しそうで」


〈時雨〉「俺は全然楽しくないんですけどね……」


では、早速最初のトークテーマを、と行きたいところですが、今回はちょっと特殊なテーマが多いので、そこんとこ考慮した方法でやっていきたいと思います

詳細は後ほど。

では、最初のテーマです。きままに様からで、『出雲の闇病みモードと、水無月先輩のGDゴキブリデストロイモードのどっちが怖いと思いますか?』ですね。これは前回来たテーマと同じですが、答え方が曖昧、ということでもう一度来たと思われます。


〈時雨〉「……おい」


〈暦〉「あれほど……答えさせるなと言いましたよね?」


ええ。でもまあ、テーマなんで諦めてください。どっちが怖いかをはっきり決めてください。


〈時雨〉「…………水無月先輩のGDモード」


〈暦〉「私も、同じですね……」


ほほう、何故?


〈時雨〉「出雲のは……まあ死ぬほど頑張れば逃げ切れるレベルだ。けど、水無月先輩のアレは……止められる気がしねぇ」


〈暦〉「私も同じような理由です」


なるほど……。


〈暦〉「これで、満足ですか? できればあまり思い出したくないものなのですが」


はっはっは、もう十分ですよ。

では次のテーマですが、きままに様からいただいたモノと、ATK様からいただいたモノが似たようなものなので、同時にやっていきたいと思います。

テーマは、きままに様からのモノが『夜、時雨さんが寝床に入り込んできたとしましょう。どうしますか?襲っちゃう?』。

ATK様からのモノが『あなたは時雨を食べる派? それとも、食べられる派?(意味についてはご想像にお任せします)』。

対象は出雲、杏奈、水無月さん、癒乃さんです。


〈時雨〉「…………」


〈暦〉「……っ……っっ……!」(必死で笑いをこらえています)


〈時雨〉「おい、なんだこりゃ」


そのままの意味ですけど?


〈時雨〉「バカなのか? これを送ってきた奴らはバカなのか? そうなんだろ?」


〈暦〉「くっ……ふふ……っ、面白、そうじゃないです、か……っ」


〈時雨〉「アンタはアンタで笑ってんじゃねぇよ!」


回答は事前に録画してあるので、それを流していきます。

ATK様からのテーマを質問1、きままに様からのテーマを質問2として行っていきますので、どうぞお楽しみください。


天崎出雲の場合

質問1の回答

『え、ええぇぇぇっ!? た、食べるって……い、いやそんなの、あの、その……えっと………………できれば食べられたいですっ!』


質問2の回答

『お、襲わないと思うけど……でも、ギュってするくらいなら……えへへ』


〈時雨〉「なんかもう序盤からすごく恥ずかしいんですけど……」


〈暦〉「中々可愛い答えじゃありませんか」


標部杏奈の場合

質問1の回答

『た、食べるとか、食べられるとか……ば、バカじゃないの!? あ、あたしは別に、どっちでも……できれば、リードして欲しいとは……思う』


質問2の回答

『襲うというより……気が動転して殴ると思うわ……』


〈時雨〉「動揺しまくりだな……」


〈暦〉「割と常識的な答えだったのが驚きです」


稲波瀬水無月の場合

質問1の回答

『た、食べるって……やっぱり、そういう意味なの……? じ、じゃあ……食べられたいかも……』


質問2の回答

『まず……時雨君がベッドに入り込むなんてことがあるのかしら……? 現実性が無さ過ぎて想像できないわ……』


〈時雨〉「意外と冷静だった……」


〈暦〉「まあミナはこんなものでしょう」


魅鳴癒乃の場合

質問1の回答

『……食べる? 時雨を? ……美味しいの?』


質問2の回答

『……一緒に寝る』


〈時雨〉「癒乃……なんて純粋なヤツなんだ……っ」


〈暦〉「何故かこちらが微笑ましい気持ちになってきますね」


以上ですね。


〈時雨〉「ところでよ、なんであの四人にあんな質問をしたんだ? あんなの女子にする質問じゃねえだろ。そもそもなんで俺が絡んでくる?」


〈暦〉「時雨君……あなた、まさか分かっていないのですか? ここまでしても?」


〈時雨〉「は?」


〈暦〉「はぁ……もういいです」


はっはっは、まあ時雨はいつも通りということで。

では次のテーマへいきましょう。早速ゲストの皆様をおよびします。

どうぞ!


〈出雲〉「今回もお呼ばれされたよー!」


〈杏奈〉「ったく、いい加減めんどくさいわね……ここにくるのも」


〈水無月〉「いいじゃない、楽しいんだし♪」


〈癒乃〉「……どうも」


〈千里〉「ひゃっほーっ! 俺もついにあとがきレギュラーか? やったぜオイ!」


〈翠〉「どうも、萌えの伝道師、風水翠ただいま推して参りましたァ!」


テーマ、同じくATK様からで、『家の小説「四神伝奇」での春清・小風のような生き物のパートナーが付くとしたら、どんなのがいいですか? また、どんな武具がいいですか?』です。

なお、詳しいことは、ATK様の『四神伝奇 ~現代封魔戦記~』をご覧ください。


〈時雨〉「なるほど……パートナーと武具か。俺はそうだな…………狼? で、武具は……グローブで良いや。基本ただのケンカしかやったことねえし」


〈出雲〉「私は犬が良い! 黒い柴犬! 武具は刀、二刀流だね!」


〈杏奈〉「あたしは……猫かしら。武具は、拳銃ってあり?」


〈水無月〉「私はうさぎが良いわね。武具はいらないわ、戦うのには、この身一つで十分よ!」


〈暦〉「狐、とかはどうでしょう? 私に合っている気がしますし。武具は、そうですね……大鎌? ……何か、すごく恥ずかしいことを言った気がします」


〈癒乃〉「……パートナーは、リス。武具は……暗器。隠して持つ、武器全般……」


〈千里〉「俺はアレだ、フェレット! あれ良いよな! で、武具はただのナイフ! シンプルイズベストってヤツだ!」


〈翠〉「パートナーは可愛い女の子、ってのは流石にダメですよねェ。んじゃ、無難に蛇で」


〈全員〉(無難……?)


〈翠〉「武具はまあ、槍でお願いしますよ」


なんか皆さん案外あっさりしてましたね。まあいいでしょう。

では次のテーマへこのままのメンバーで。黒鉄侑次様からで、『決め台詞を考えるとしたらどんな台詞?』です。


〈杏奈〉「くだらないわね」


〈暦〉「同感です」


〈翠〉「ええっ!? いいじゃないですかァ、決め台詞!」


〈水無月〉「そうよ、いいじゃない!」


まあ、良くても良くなくても言ってもらうんですけどね。では時雨君から、恥を捨て切って、ノリノリで言ってください。


〈時雨〉「『正義だろうが悪だろうが、邪魔するヤツは潰す』」


〈出雲〉「『私の障害になり得るのなら、例えなんであろうと切り伏せる』」


〈杏奈〉「『あたしを敵に回した時点で、あんたは既に死んでるのよ』」


〈水無月〉「『あなたの血で、綺麗な花を咲かせてね?』」


〈暦〉「『死ぬときは黙って死んでください。……耳障りですから』」


〈癒乃〉「『……じゃあ、死んで?』」


〈千里〉「『安心しろよ、一瞬で終わるからさ』」


〈翠〉「『蜂の巣と黒焦げ……あなたはどちらがお好みですかァ?』」


怖えよ! あんたら全員怖えよ! なんでそんな物騒な台詞ばっかなんですか!?


〈水無月〉「ノリノリでって言われたから、つい……」


〈杏奈〉「あー恥ずかし」


〈暦〉「統一感があっていいじゃないですか」


〈癒乃〉「……結構面白い」


〈千里〉「だよな、こういうことは本気でやらねえとな!」


〈時雨〉「本気になりすぎるのもどうかと思うけどな」


はぁ……なんかもう色々とアレですが、次のテーマへ行きたいと思います。

カザミドリさんと千里は退室してください。


〈千里〉「はいよー」


〈翠〉「またいつでも呼んでくださいねェ!」



退出中



はい、では次のテーマ。三月語様からで『出雲が勝てる(と思われる)ゲームは?』です。


〈時雨〉「無くね?」


〈杏奈〉「逆にあんの? そんなの」


〈水無月〉「部活では沢山のゲームをやってたけど……」


〈暦〉「出雲ちゃんが勝っているのは見たことがありませんね」


〈癒乃〉「……オールラウンドで弱い」


〈出雲〉「……あー、もういいよ……どうせ私は万年負け続ける弱々ヤロウだよ……」


〈出雲以外全員〉「フォローは無しで」


〈出雲〉「ホントにひどいねっ!?」


まあとりあえず答えは、「そんなものは無い、または見つけられない」でした。


はい、以上で今回のトークテーマを終わり――たいところですが、実はまだ三月語様からいただいたモノが三つほど残っています。ですが都合上それは次回に回すことになりました。

また、その三つのテーマは企画といえるほどに手間がかかりそうなので、次回のトークタイムのスペースはそれでいっぱいいっぱいになってしまうと思います。故に残念ながら、次回が終わるまではテーマを受け付けることができません。

真に勝手なことだとは思いますが、ご了承していただけると幸いです。


トークテーマを下さった皆様、ありがとうございます。感想のほうはいつでも受け付けておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


では、次回もお楽しみに。



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