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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
序章 -始まるは、日常-
41/46

ep38 異常と日常

〈菜奈〉「第38話です」


〈千里〉「序章最後の話だ!」


〈奏姫〉「楽しんでくださいね~」


〈時雨〉「んじゃ、始まるぞ」



 耳が痛くなるほどの轟音が響く。

 俺はギリギリで横っ飛びに避けたが、他の奴らがうまく避けれたのかは分からない。まあ多分、あいつらなら大丈夫だろう。

 着地したとき受身を取り損ねたので脚がじんじんと痛むが、そんなこと気にしてられない。瓦礫の破片が凄まじい勢いで飛んできてショットガンのようになっているのだ。これに当たったら痛いじゃ済まない。

 痛む体をよじらせながら飛んでくる破片を避ける。一発頬にかすって全身に嫌な汗が流れたが、その後もなんとか避けきることができた。


「おいおいおい! こりゃ危なすぎだろマジ勘弁だー!」

「ありえない! これはホントにありえないわよ!」

「…………も、無理。死ぬ……」

「諦めちゃ駄目だよ癒乃ちゃん! 意思を強く持ってってなんか飛んできたぁーっ! 言ってるそばからこっちがくじけそうだよー!」

「こんなことになったのも全部ミナのせいですからね! 後で覚えておいてください!」

「こんな時まで怖いこと言わないでよ! ていうかまず私たちに未来はあるのかしらね!?」

「ふぎゃああああああああああああ! たーすーけーてーなーのーじゃー!」


 途中、こんな声が聞こえてきたので、心の中で少し安堵する。とりあえず全員生きているようだ。

 まあ、そんなささやかな温かい気持ちも、この後すぐに無くなってしまう訳だが。

 あの人が来てしまったのだ。無事でいられる訳がない。もしかしたら、あれだけ騒がしくしておいて今まで来なかったのが最早奇跡なのかも知れない。それならば、ここから無事に生きて帰れるという奇跡をもう一度願ってみたいものだが、んなこともしても意味ねえよバーカと神様から残酷の宣告を受けそうなのでやめておこう。

 どちらにせよ、先ほど聞こえた水無月先輩の言葉の通り、俺たちに未来はないのだから。

 しばらくして、破片の雨も完全に止み、舞い上がっていた埃や煙も次第に晴れていく。じんじんと痛む体をゆっくり起き上がらせながら、周りを見渡してみると、煙の向こうにいくつかの影が見えた。おそらく他の奴らだろう。それぞれもぞもぞと動いてることから、無傷とはいかないだろうが、おそらく重傷は負っていないだろう。とりあえずまた、一安心。

 そして――、


「……何、やってんだ、てめえら?」


 もう、見たくなかった。

 見てしまったら、その瞬間自分の何かが壊れてしまうと思った。

 それほど。強い。心身を。押しつぶしていくような。『殺意』が。

 今すぐここから逃げ出したい。逃げ出したいのに、体が全く動かない。

 きっと、俺以外の全員もそうなってることだろう。見なくても分かる。

 そんな俺たちの様子など、まるでどうでもいいかのように、いつも作って喋っているであろう敬語も捨てて、自らの怒りを何よりも優先させて、彼女は言う。


「私はよー、くそガキの部屋の掃除を手伝えっつったんだよ。なぁ、覚えってか? それなのになんだこりゃ? 妙にうるせえと思ってきてみれば、一体全体何なんですかねこれはぁ!? あぁ!?」


 今にも首を掻っ切って殺してきそうな殺意を放ちながら、空巻先生は普段からは想像もできないような大声で激昂する。

 俺たちはそれに対して体を震わせることもできない。ただ、目の前まで迫ってきている脅威を受け入れることしか、道は残されていない。


「掃除どころか余計にぐちゃぐちゃになってんじゃねえかよ、あ? こりゃあれか? 自分達もこの瓦礫みたいにぐっちゃぐちゃになりたいですっていう意思表示か? そうならそうといってくれりゃあ良かったんだ。そしたら喜んでぐっちゃぐちゃにしてやったのに、なぁ?」

「「「ひっ……!」」」


 もう何かを考えてる余裕なんて無いと思っていたが、あまりに恐怖を感じすぎると逆に余裕が出てくるのかもしれない。

 とりあえず、ヤバイ。今の空巻先生は本気で俺たちを殺る気だ。こんな若い身空で命散らすとかどんだけ不幸なんだよコレは。冗談じゃない。だけど俺たちじゃどうにもできない。故に誰か助けてくれ。


(はは、バカだなー俺。そんな願いかなう訳ねえのに)


 何だかもう笑えてくる。ごめんなさい、会ったことのない父さん、母さん。息子は今からあんた達のところへ行くよ。仲良くやろうぜ。ははははははは。

 そんな風に、自分でも分からないくらいにイカれた思考を繰り広げていると、

 ――一筋の光明が見えた。


「あらら~、とんでもないことになってますね~」

「うわっはァ。これは流石に萌えることが出来ない状況ですねェ」


 ドアがあった場所に、脱力系校医と変態放送委員長が立っていた。


「んだよてめえら」


 二人の存在に気づいた空巻先生はさらに不機嫌そうに顔を歪ませ、同時に凄まじい程の殺意を二人に向ける。周りにいるだけでも体中にビリビリと伝わってくる、禍々しい殺意を。


「ダメですよ~菜奈、そんな殺意を駄々漏れにしちゃ~。この子達が怖がっちゃってるじゃないですか~」


 にもかかわらず、そんな殺意を浴びているはずなのに、脱力系校医――もとい岸田先生はいつもと違わぬ、眠たそうな目で、間延びした喋り方をしながら軽い足取りで部屋(最早部屋と呼べるかどうかは疑わしい状態だが)に入ってくる。

 それに続いて変態放送委員長――もといカザミドリ先輩も、こちらもいつもとなんら変わらない、どこか掴めないにこにことした笑いを浮かべながら入ってくる。


「…………」


 その様子を、空巻先生は睨みを利かせた目で見ている。

 そんな空巻先生に、岸田先生はやけにゆっくりとした足取りで近づき、呟くようにこう、言い放った。


「……それに、ここは――――じゃないんですから。だから落ち着きましょう、ね?」


 その時、俺はいつもののんびりとした笑顔の岸田先生ではない、なにか別人のようなものを見た気がした。

 だがそれも一瞬のことだったので、それが何なのかは分からない。故に、あまり深く考えないようにしておく。いや、しておきたい・・・・・・

 そう、心の中で無意識に思ってしまった。


「…………あなたたち」


 ふと、しばらく黙っていた空巻先生が声に落ち着きを取り戻し、再び俺たちの方に視線を向ける。

 その目からは、先ほどまでの殺意は既に消えていた。

 そして――


 スパパパパパパパァァァーン! という小気味の良い音が連続した。


「「「いっ――――ッッッ!?」」」


 頭に痛烈な痛みが走ると同時に、複数の悲鳴が重なる。かくいう俺も、悲鳴をあげた一人だ。

 反射的に目に涙が滲み、痛む頭を両手で押さえてしまう。

 見ると、理事長含め理事長室を掃除していたメンバー全員が俺と同じように頭を痛そうに押さえ、その場にうずくまっていた。そしてその向こう側には、どこからか取り出した出席簿を持った空巻先生が何食わぬ顔で立っている。

 何が起きたのか全く視認することが出来なかったが、状況から察するに空巻先生が俺たち全員の頭を出席簿で叩いたと思われる。


「あっはっはっは! こりゃァ見事な音がなりましたねェ!」


 少し離れていたところからその様子を見ていたカザミドリ先輩が心の底から愉快そうに大笑いする。

 できれば何か言い返してやりたい気分だが、いかんせん今はその余裕がない。叩かれてからもう結構な時間が経ってるのに、未だに痛みが一向に引かないというのはどういう了見だ。あの人どんだけの力でぶっ叩いてくれたんだ畜生。


「いっっったぁあぁぁあぁぁ! なに!? 一体なにでどう叩けばこんなに痛くなるのよ!?」

「違うよ杏奈ちゃん、そんな問題じゃない! 空巻先生だから痛いんだよ! ていうかまだヒリヒリしてるよ!」

「俺……何だか今日叩かれまくってる気がするなー……」

「…………い、た、い……ぐすっ」

「何でなのじゃー! ウチはなんも悪くないのじゃー!」

「どれもこれも、全部ミナのせいです……。このバカ」

「久々に暦にストレートにバカにされたわ……ちょっと新鮮かも。あ、ダメだ私。思考回路がおかしくなってる」


 楽園部員+αも各人様々なリアクションを見せてくれる。流石変人共、俺とはレベルが違う。

 そんなことを思ってると、不意に空巻先生がやや不機嫌そうな顔でこちらを見ているのに気がついた。

 空巻先生は俺たちの騒ぎが一段落するのを待つと、やがて口を開く。


「本当は退学や停学にしたいところですが、奏姫……岸田先生の顔に免じて特別措置で済ませてあげます。この惨状の修復は業者に頼むので、あなたたちは全員その雑用の手伝いを。くれぐれもこれと同じようなことを起こさないように。あと、反省文を原稿用紙五〇枚分、三日以内に書いて忘れずに出してください」


 それと、と呟き、空巻先生は未だに頭を痛そうに押さえている、今回実際被害者でしかない理事長の方へ目を向ける。


「理事長の寝泊りしていた部屋はこの有様なので、……そうですね、しばらくは方城君の部屋にでも泊まっていてください」

「うぅ……分かったのじゃ……」

「「ええっ!? そんな……っ!」」


 空巻先生の言葉に渋々頷く理事長に、信じられないといったような驚愕満面になる出雲と杏奈。そう簡単には受け入れられない提案なのだろう。特に杏奈には。事実、はっきり言って俺もかなり不本意だ。

 だが、そんなことは言っても無駄なのは分かっている。


「そんな……このクソガキと一緒なんて……っ!」

「あなたたちに拒否権なんてあると思っているのですか?」

「うっ……」


 憤慨し、文句を言おうとした杏奈だが、空巻先生の有無を言わせない一睨みを受け、思わず言葉を噤んでしまう。流石の杏奈もこの状況で堂々と文句を言い放てるほど無神経ではないようだ。


「それでは、私は少々疲れましたので……奏――岸田先生、あとは頼みましたよ」

「はいは~い、了解しました~」


 岸田先生の返事を聞くと、空巻先生はそのまま足早に部屋を出て行った。

 なんだか、最後に見たその背中は、空巻先生にしては珍しく、本当に疲れているように見えた。


「それでは皆さ~ん、お片づけといきましょうか~」


 肉体的に精神的にも疲労困憊している俺らだが、岸田先生の言葉になんとか体を奮い立たせ、その後の指示にしたがって黙々と作業をこなす。

 途中、再びゴキブリが出現して、水無月先輩が見る前に俺が一瞬で叩き潰して難を逃れたなんてこともあった。

 ちなみに、主に作業をしていたのは比較的元気が余っていた俺、千里、出雲、杏奈、水無月先輩、暦先輩で、癒乃と理事長は精神的にものすごく参っていたらしく、後半は空いていたスペースですやすやとお昼寝タイム。

 そしてなんの関係も無いはずのカザミドリ先輩だが、親切にも手伝ってくれた。変態ではあるが、やはり良い人でもある。

 余談だが、出雲の質問への答えによると、カザミドリ先輩がここにきた理由は、『近くを歩いていたら物凄い音がして、十中八九俺らが関係していると判断し、面白そうだと思ったから』という俺らにとっては少し失礼なものだった。途中で同じく様子を見に行こうとしていた岸田先生と鉢合わせになり、一緒にここに向かったのだとか。

 その後も色々と面倒なことがあり、結局全ての作業が終わったのは夕食の時間もを分過ぎた頃だった。

 疲れ切っていた俺たちは、岸田先生に反省文用の原稿用紙を五〇枚ずつもらってその場で解散。寝る場所を失った理事長と共に部屋にもどり、買い溜めていたカップラーメンで夕飯を済まし、シャワーを浴びてそのまま寝てしまった。

 杏奈と理事長がいざこざを起こすのではないかと心配したが、生憎二人ともそんな元気は残っていないらしく、大人しく、しかもなんと同じベッドで寝てくれた。

 カップラーメンでは食べ足りないらしく『お腹空いたお腹空いた』とぼやいていた出雲も、ベッドに入ると睡眠欲が勝ったのか、すぐに寝息を立て始めた。


(今日は……マジで疲れた)


 ベッドに寝転んでいる俺は心の中でそう呟く。

 今日だけでどれだけ寿命を縮めたのかは分からない。おそらく、明日からも寿命が縮むような日常が待っているのだろう。


(それにしても……)


 俺は、二人の教師のことを思い出す。

 空巻菜奈。岸田奏姫。

 今までは空巻先生のことは、ただのめちゃくちゃ怖い先生だとしか思っていなかった。だが、今日浴びたあの殺気……いや、『殺意』は、どう考えても普通の人間が出せるものではなかった。

 これでも、中学時代は結構やんちゃをしていた身だ。普通の人間に比べれば殺気というものにも敏感だと思っている。その俺の観点から見ても、あれはおかしい。行き過ぎだ。

 それに、岸田先生も、何か変だ。

 あの時、空巻先生を落ち着かせたあの言葉。声が小さくてよく聞こえなかったが、あれには得体の知れない『何か』を感じた。

 外側から押しつぶすような殺意を浴びせる空巻先生と対比するなら、……そう、まるで内側から心身を蝕んでいくような……。


(……なに考えてんだ、俺は)


 心中で、自分に嘆息する。

 確かに、あの二人は何だかよく分からない存在だ。もしかしたらどこかのスパイ、なんていう話もあるかもしれない。

 だが、それがどうした?

 たとえあの人たちが訝しい人たちだとしても、正真正銘俺たちの教師じゃないか。

 空巻先生はサディストで毒舌だけど、ユリアさんの件ではすごくお世話になったし、あの時感じた教師らしさとほんの少しの優しさは本物だった。

 岸田先生も、気だるげで教師らしからぬだらしなさだけど、杏奈が足をくじいた時は治るまで面倒を見続けてくれたし、体育祭の後に入れてくれたお茶も本当に美味しかった。

 そんな人たちなのだ。今日見た先生達も本当なら、今までの先生達も本当だと俺は思う。

 というか、生徒が教師を信頼しなくてどうする。

 そういうものだろう。そんなこと、俺だけじゃなく、他の奴らも分かっているはずだ。

 あの人たちは教師で、俺らは生徒だ。それだけで、十分じゃないか。

 何より――


 ――俺は、今のこの生活が好きなんだ。


 楽園部でバカやって、空巻先生にこってり絞られて、岸田先生やカザミドリ先輩にそれを笑われる。たまに出雲と姉さんが大喧嘩して、杏奈がそれを呆れながら見てて、水無月先輩が暦先輩にからかわれて、癒乃の味音痴が炸裂する。

 どこにでもある、そんなくだらない生活が、俺は大好きなんだ。

 それに比べたら、今日思ったことなんて些細なこと。どうだっていいじゃないか。


(そうだよな。どうだって良い。楽しけりゃ、それでいいじゃねえか)


 たとえこの日常が壊れる時が来たら、その時はその時だと思う。

 あいつらと一緒にいたら、何だって乗り越えられる。そんな気がする。

 自分でもおかしいとは思う。まだ出会って数ヶ月なのに、何故か、あいつらは心の底から信頼できる。

 色々と原因はあるかもしれないが、今は気にしないでおこう。

 面倒くせえことは考えない。それが俺らしい。


(よし、今日はもう寝るか)


 そう思って、俺は静かに目を閉じる。

 そしてそのまま、眠りへと落ちていった。


 ***


「…先ほどは、ありがとうございました」


 電気がついていない薄暗い一室で、疲れたようにソファーに寄りかかっている空巻菜奈は、同じくソファーに座ってのんびりとお茶をすすっている中学からの同期、岸田奏姫にそんな言葉をかけた。

 彼女にしては珍しい、素直な感謝の言葉だ

 岸田もそう思ったらしく、やや驚いたように、そして苦笑混じりに言葉を返す。


「珍しいですね~、菜奈が素直にお礼を言うなんて。明日は槍でも降るんじゃないでしょうか~」

「余計なお世話です……」


 皮肉とも言える岸田の物言いを聞いて、空巻は疲れたようにため息を吐く。

 今更、他の誰に自分の性格のことをどうこう言われようが、こいつにだけは言われたくはない。そう、自分よりよっぽどひねくれた性格の彼女には。

 そんな空巻の思いすらも分かっている岸田は、今度は何も言わずにただニコニコとした笑みを浮かべるだけで、再び湯のみに入ったお茶を音を立ててすする。


「それにしても……何もあそこまで殺気を出す必要は無かったんじゃないですか~? ああ言うようなことが起きるのを想定して、あの子達を一箇所に集めたんでしょう~?」

「いくらなんでも、理事長室が壊されるとは思っていませんでしたよ」

「ふ~ん。まあ私としては、有望な子達がいて嬉しい限りですけど~。あ、お茶飲みます~?」


 不機嫌そうに顔をしかめる空巻に、自らが飲んでいたお茶を勧めてみる岸田。だがそんな彼女の厚意には目もくれず、空巻は岸田が言った言葉を頭の中で反芻していた。そしてそれが、口から漏れる。


「有望、ね……。そういう考え方も、ありましたか」


 そう呟いた彼女の瞳は、どこか寂しそうな光を灯していた。 


「菜奈はあの子達……特に方城君がお気に入りでしたね~。確かにあの子は、他の子と比べても相当イカれちゃってますからね~。かなりの逸材・・ですよ~」

「……そうですね。もうじき『会議』も開かれますし……十中八九、彼は選ばれる・・・・・でしょうね」


 楽しそうに話す岸田とは対照的に、少し陰鬱そうに言葉を紡ぐ空巻。

 そんな空巻を見た岸田はやれやれといったように肩をすくめ、


「あまり気が進みませんか~? まあ、菜奈は優しいから仕方有りませんよね~。……でも」


 そこで、岸田の顔からいつものニコニコした笑みが消える。


「この学園に入ってきた以上、背負わなければならないかもしれない、宿命という奴です。私だって進んでやりたいとは思ってません。ですが、やらなければならないのなら、少しでも楽しく考えないと……やってられませんよ?」


 普段のだらしない姿からは想像もできない、凛然とした表情。

 生徒が見たら、もしかしたら別人だとか、双子の姉だとか思うかもしれない。

 だが、これも岸田奏姫の本当の顔。だらしない彼女も岸田奏姫ならば、今の彼女も岸田奏姫であることには変わらない。ただ、彼女は……表裏の区別の仕方が巧いだけである。

 そんな岸田へ、やや羨望にも似た眼差しを向けながら、空巻は言葉を繋げる。


「そういう風に割り切れたら……楽なのかも知れません。でも……生憎、私は不器用ですから」

「知ってますよ~。やっぱり、菜奈は優しいですね~」

「そういうことを言うのは、やめてください」


 ここで、空巻が本気で嫌そうに顔をしかめる。ただ、それは岸田に向けられたものではない。

 そう、それは――


「本当に優しい教師ならば、生徒にあんなことをする訳がありません。所詮私は……自分で何をしたらいいのかも分からない、偽善者ぶっている……ただの臆病者です」


 嘲りと、呆れが混じった顔。その感情が誰に向けられているのか、岸田奏姫は知っている。

 もう、十年以上そばにいるのだ。そのくらい当然だと、彼女は思う。

 だからこそ、岸田奏姫は空巻菜奈に言う。


「そうやって、悩むことが出来ているのですから……あなたは偽善者でも、臆病者なんかでもない。正真正銘、あの子達の教師。……先生の鑑です。少なくとも、私はそう思いますよ~?」


 暖かな、慈愛に満ちたその微笑みを見て、空巻は思う。

 なんだかんだ言って、岸田奏姫は校医に向いている人物だと。

 彼女はきっと、今までに何人もの生徒をこの笑みで癒してきたのだろうと、空巻は簡単に想像できた。

 そんな彼女の言うことなのだ。少なくとも間違ってはいないと思う。それだけで、空巻の心中にはほのかに暖かいものが生じる。


「……ありがとうございます。たとえ嘘でも嬉しいですよ」

「またまた、素直じゃないですね~菜奈は。ツンデレですか~? って痛い痛い痛い! 菜奈、アイアンクローはやめてください~!」


 やはり奏姫は奏姫だったと改めて思いながら、空巻は岸田の頭をがっしりと掴んでいた右手を離す。

 岸田が涙目になって痛そうに頭をさすっているが、そんなことはかなりどうでもいい。


「全く……珍しくまともなことを言ったと思えば……。あなたはそんなに私に血祭りにされたいのですか?」

「いや~、それはできれば……というか全面的に回避させていただきたいものなんですけどね~。というか菜奈、前々から思ってたんですが~、すぐに暴力に走るのはよくないと思いますよ~。カルシウムが足りてないんですか~? それに……」

「それに?」

「そんな性格だと、一向に彼氏ができな――ひぎゃあああああああああああ! 頭が! 頭が砕けます菜奈~!」


 夜の学校に、一つの甲高い悲鳴が響き渡った。


 ミシミシという音を立てていく頭を掴みながら、それでも彼女は内心お節介な同期の校医に感謝している。それを決して表に出すことはないが。


(全く……すっかりいつもの調子に戻されてしまいましたね)


 確かに、暗いことばかり考えては気が滅入ってくるものだ。なら、せいぜい楽しくバカらしく、好き勝手にやっていこうではないか。少なくとも、そっちの方が楽しいはずだ。

 自分も自分らしく、どうせなら生徒たちを思いっきり怯えさせてやろう。

 そして、空巻菜奈は笑みを浮かべる。

 誰もが見慣れた、絶対的で圧倒的で嗜虐的な笑みを。


「さて、どんなお仕置きが良いですか、奏姫?」

「どんなお仕置きもいやです~~~~~~~~~~~!」


 今日もいつもと同じように、異常にちじょうが流れていく。




どうも、水面です。


〈時雨〉「今回で確か、序章が終わりなんだよな」


〈出雲〉「なんだか最後に怪しい空気が流れてたね……」


〈杏奈〉「やっぱり、普通の学園生活は送らせてもらえないってことじゃない?」


〈水無月〉「何せタイトルが『奇妙』で『イカれた』学園生活だものね」


〈暦〉「騒がしいのは嫌いじゃありませんよ」


〈癒乃〉「……混沌?」


〈時雨〉「一番混沌なのは癒乃の味覚だと思うけどな」


〈千里〉「そりゃ言えてんなー。ってか俺の出番少なくねぇかね? 最後の掃除の話だけじゃないですかー!」


〈出雲〉「作者さんが二章では多分活躍するって言ってたよ?」


〈千里〉「多分かい!」


えー。皆さん、おしゃべりはその辺にして、序章最後のトークタイム、はじめますよ。


〈暦〉「最初のテーマは三月語さんからで、『結婚相手に望むものとしてあげたいこと』ですね。これはまた面白そうなテーマです」


では順番にどうぞ。


〈暦〉「まず私は結婚をしたいと思いませんので、答えにくいですね。まあ、家族のことを考える人ならいいんじゃないですか? 私からしたいことはありません」


〈杏奈〉「うちの財閥を任せられる男とか? してあげたいことは……マッサージ?」


〈出雲〉「杏奈ちゃん、お婿さんもらうんだ。……私は、まあ、優しくしてくれればそれでいいかな? 自分からは、お料理を毎日つくってあげたいな」


〈水無月〉「浮気しない人かしらね。私からは、そうね……色々尽くしてあげたいかも」


〈癒乃〉「……美味しいご飯作ってくれる人。わたしからは……テレビ出てお金稼いであげる」


〈全員〉「(なるほど……大食い大会か)」


〈千里〉「俺は慎ましやかにしてくれる女の子だな! そんな嫁さんが頼むことなら、何でも聞いちゃうぜ!」


それで、最後の時雨は?


〈出雲/杏奈/水無月/癒乃〉「(……ごくっ)」


〈時雨〉「望むものは常識。それさえあれば後は何でもしてやる」


〈出雲/杏奈/水無月/癒乃〉「………………」


〈暦〉「全員自分に常識が無いことは自覚してるようですね」


〈千里〉「なんか不憫だなーオイ」


何とも可哀想な結果になってしまいましたね。


〈千里〉「んじゃ、気を取り直して次のテーマ行くか! 同じく三月語さんの小説、『少年少女の青春模様』に出てくる天災さん、華奈多さんから相棒にだ! 『「自分のことが好きだ」と理解できるシチュエーション教えやがれ!!』だそうだぜ」


〈出雲/杏奈/水無月/癒乃〉「……!」


〈暦〉「また反応しましたね」


〈千里〉「で、どうなんだ相棒?」


〈時雨〉「……普通に好きって言われたら気づくんじゃねえか?」


〈千里〉「だってさ、お嬢さん方」


〈出雲/杏奈/水無月/癒乃〉「……そういうストレートなのが一番ハードル高い」


〈時雨〉「は?」


〈暦〉「やれやれ、時雨君は相変わらずですね」


〈千里〉「うんうん、それでこそ相棒だ!」


それでは、次のテーマへ行きましょう。


〈癒乃〉「……えっと、ATKさんからで……『このメンバーで海賊団を立ち上げたら、誰がどんな役になる?』だって……」


〈杏奈〉「海賊?」


〈水無月〉「某海賊漫画の影響でも受けたのかしらね」


〈癒乃〉「……某海賊戦隊モノだって」


〈水無月〉「そっちね……」


〈出雲〉「で、どんな感じになるのかな?」


〈暦〉「船長は時雨君でいいんじゃないですか?」


〈千里〉「異議なしだな!」


〈癒乃〉「……他は?」


〈全員〉「…………」


全員だんまりか。

まあよろしいです。後はわたしが考えていますので。

では以下の通りです。


船長:時雨(やっぱ主人公だから?)


航海士:暦(他にできる人がいないでしょう)


コック:杏奈(料理スキルが高いので)


音楽家:出雲(得意教科音楽です)


船医:癒乃(名前が癒し系? でも逆に間違った治療をしそう)


船大工:水無月(力仕事はお得意です。でも壊す方が得意かも)


狙撃手:千里(本人曰く射撃が得意らしい 注・本当かどうかは知らない)


〈時雨〉「船長、か。良い響きだ、うん」


〈暦〉「航海士より軍師をやってみたいんですけどね」


〈杏奈〉「最近の社長令嬢は料理も出来なきゃダメなのよ」


〈出雲〉「歌は得意だから結構良いかも!」


〈癒乃〉「……癒し系?」


〈水無月〉「普通女の子に力仕事任せる?」


〈千里〉「本当かどうか知らないってひどいな! マジで得意だっての!」


まあ、こんな感じですね。

では、最後のテーマに行きましょう。


〈出雲〉「えーっと、同じくATKさんからで『このへたれ君に占ってもらいたいことはありますか?』だって。……へたれ君って、もしかして『四神伝奇 ~現代封魔戦記~ 』の主人公の龍清君のこと?」


〈癒乃〉「……へたれ君。……………………ぷっ」


〈杏奈〉「あ……」


〈水無月〉「龍清君……あなた」


〈暦〉「癒乃ちゃんに笑われるとは……」


〈千里〉「どんだけへたれなんだよって話だなー」


〈時雨〉「あー、龍清。言っちゃ悪いんだが、これは本当にショックを受けた方がいいぞ。マジで」


〈出雲〉「ま、まあまあ、今はそれは置いといてさ! テーマに答えようよ!」


〈癒乃〉「……へたれ君に占ってもらうことなんて、ない。…………………………ぷふっ」


〈時雨〉「癒乃が珍しく手厳しいぞオイ。あ、ちなみに俺もないな。龍清には悪いが」


〈暦〉「私もありませんね。出雲ちゃんと杏奈ちゃんとミナは多分、時雨君の結婚相手を占って欲しいんじゃないですか」


〈出雲/杏奈/水無月〉「んなっ!?」


〈暦〉「違うんですか?」


〈出雲〉「違わないです……はい」


〈杏奈〉「くっ……」


〈水無月〉「言わないでよ……」


〈暦〉「あ、ちなみにもし相手が分かってもこの子たちには教えないであげてくださいね」


〈千里〉「後は俺ね……。うん、なんもねえな!」


〈時雨〉「なんだか龍清が哀れだな……」


〈癒乃〉「……へたれ君。………………………………ぷぷっ」


〈全員〉「それはもういいから」


では、今回はここまでです。

トークテーマをくださった三月語様、ATK様、ありがとうございました。

感想とトークテーマ、いつでも受け付けておりますので、よろしくお願いします。


それでは、またお会いしましょう!




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