ep33 アイアンクローとフラグメイカー
〈菜奈〉「第33話、始まりますね」
〈時雨〉「読まないと血祭りにされそうだな……」
〈菜奈〉「何か言いましたか?」
〈時雨〉「いえ何も」
ではどうぞ。
「はあ……全く、人騒がせな人ね……」
「別にいいじゃん。皆で笑い話にできるし。終わり良ければ全て良しだよ!」
疲れたようにため息を吐く杏奈に、出雲はそう言葉をかける。よし、一つからかってやるとしよう。
「おお、お前がそんな難しい言葉を知ってるなんてな」
「意外ね」
「ええっ!?ひどくない!?いくら私でもこれくらい知ってるよ!?」
「『いくら私でも』って、あんた自分のことバカだって認めたわね」
「うぐっ!?」
アホめ。
そんなやり取りをする二人を見て、空巻先生はやれやれとため息を吐き、癒真さんと癒乃の祖母さんは笑い、癒乃もどことなく楽しそうにしていた。
やっぱり、こういう雰囲気が好きだな。そう思うと、自然と顔が綻ぶ。そこに、空巻先生がやや不機嫌そうな顔で俺にこう言った。
「方城君。何にやにやしてるんですか」
「いえ、別に何でもないですよ。空巻先生」
「正直に言わないと腐った牡蠣を一日一回食べさせて三百六十五日食中毒にしますよ」
「マジで勘弁してください」
相変わらず怖いことを言う人だ。だが、今回この人には大分助けてもらった。死ぬかと思う場面もあったが、お礼はきっちり言わないとな。
「空巻先生。今回は色々ありがとうございました」
「なんですかいきなり。気持ち悪いですね」
そう言って、空巻先生は訝しげな目で見てくる。確かに俺は普段は素直に礼を言うタイプには見えないだろうが、気持ち悪いはないでしょう。それに、俺はきっちり礼はする質なんだが。
まあ、細かいことは気にしない。
「はは。そりゃすみませんね。でも、本当に助かりましたから、お礼が言いたいだけですよ」
「そうですか。それはどういたしまして」
本気でどうでも良さそうに言葉を返してくる空巻先生。よく分からない人だ。まあ、悪い人ではないことは分かるが。
そんな風に思っていると、癒乃の祖母さんが俺に歩み寄ってきた。
「色々ありがとうね~時雨君!それと、空巻先生でしたっけ?あなたもありがとうございましたー!癒乃を車で送ってくれたんですよねー!」
「いえ、お気になさらないで結構ですよ。教師として、生徒の力になるのは当然ですから」
そう言って癒乃の祖母さんにっこりと笑いかける空巻先生。俺に対しての時と全く態度が違うんですが。
いや、あのがらりとした態度の変わり様から察するに、猫を被っているな。本性を隠しているのか。ああ恐ろしい。
「方城君?今何を考えていましたか?」
「いえ、何でもありません」
ぎろりと、無慈悲で何者をも恐れおののかせるその目で睨まれた俺は、そう答えるしかなかった。
「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったなー」
癒乃の祖母さん思い出したように言う。確かに、そう言われてみればそうだったと、出雲、杏奈が頷く。確かに、いい加減「癒乃の祖母さん」じゃ呼びにくいと思っていたところだ。
「私の名前は魅鳴ユリア!ちなみに、旧姓はユリア・ホワイトね。んで、癒乃のお祖母ちゃんやってまーす!あと、これでも五十越えてるからね?」
ユリアさんは、とても五十を越えてるとは思えないほど溌剌とした口調で言う。
うん。やっぱり信じられない。見た目完全に高校生だ。癒乃と癒真さんと並んで歩いていたら、高校生、中学生、小学生の姉妹に見えること間違いなしだろう。
何か若さを保つ秘訣でもあるのだろうか。例えあったところで、興味ないが。
「どう生きていたらこんなに若くいられるのかしら……?」
「それに、スタイルもいいよね~」
杏奈は疑念の声をあげ、出雲はどこか羨ましげな目でユリアさんを見る。まあ、最もな言い分だ。
この若さは言わずもがな、ユリアさんは実際にスタイル抜群だからな。流石発育の違う外国人というところか。俺にとっちゃどうでもいいことだけどな。
「美人だし、羨ましいな~。癒乃ちゃんも将来、こんなスタイル抜群の美人さんになるのかな~?」
「……なりたい、かも……」
出雲の言葉にややキラキラした目をしている癒乃が反応する。だが、そこで癒真さんが申し訳なさそうに顔になった。
「ご、ごめんね癒乃ちゃん……。癒乃ちゃんの背の低さはお母さん譲りだから……。多分胸も……同じだと思う……」
「…………」
癒乃はそれを聞き、母親譲りであろうそのほぼまっ平らな部分をぺたぺたと触りながら、しょんぼりと項垂れた。
癒乃もやはりそういうことを気にするのか。別に気にすることじゃあないと思うが、この前それを杏奈に言ったら殺されかけたのでやめておこう。女子には色々あるんだろう。
「あら~?誰かと思ったら、方城君たちじゃないですか~」
ふと、そんな声が後ろから聞こえてくる。聞き覚えのある声と、特徴的な間延びしたしゃべり方。もしやと思い振り向くと、そこには果たして予想通りの人物がいた。
「こんなところで会うなんて、奇遇ですね~」
相も変わらずの眠たそうな目、だらしなく気崩した白衣姿の岸田先生は、これまたのんびりとした歩調でこちらに歩み寄ってくる。
「岸田、先生……?何で……ここに……?」
「何でと言われましても~、ここは私の父の病院ですし~。いてもおかしくないと思いますけどね~」
「えっ?そうなんですか?」
「はい、そうなんですよ~」
驚いたように言う出雲に、岸田先生はそう答える。
「岸田大病院」。なるほど、確かによく考えてみれば、そうか。普通に驚きだ。
岸田先生がこんな大病院の院長令嬢とは。そんな人が何で一介の校医をやってるのか疑問に思う。まあ、それは個人の自由だから余計な詮索はしないでおく。
と、そこで岸田先生がユリアさんの存在に気付いた。
「ああ~もしかして、食あたりで倒れた金髪碧眼の高校生って、そちらの方ですか~?」
「え?私のこと?」
ユリアさんがきょとんとした顔で聞き返す。その反応に、岸田先生もまた少し不思議そうな顔をする。
「多分あなたのことだと思いますけど~、違うんですか~?」
「確かに私は金髪碧眼だけど、高校生じゃないぞー?これでも五十越えてるんだからな!」
「え~そうなんですか~!凄い若いですね~。驚きです~」
口ではそう言っているが、表情はいつもと比べても全く変化が見られないので、本当に驚いているのか疑問に思う。
そんな岸田先生の言葉に対して、ユリアさんは照れたように頭を掻く。
「いやいや、そうでもないよ~。これでも最近大分老けてきたくらいだから」
マジか。
「最近老けてきたって……全然そんな風に見えないのに……」
「逆に、昔のこの人がどれだけ若かったかを知りたいわね……」
出雲も杏奈も呆れた声を漏らす。無理もない。いや本当にこれは無理もない。普通誰だってそう思うから。
「写真……見たことある、けど……変わってない……」
「こらこら癒乃!そういうことをさらっと言うなー!そんなこと言ったら昔から老けてるみたく聞こえるじゃんか~!」
昔も今も変わらず若いって意味だろうが。全世界の老年期の人達に謝れ。
そう言いたくなったが、抑えといた。全くそう見えないが一応人生の大先輩だ。
ふと癒真さんを見ると、明らかに苦笑していた。絶対に同じことを思っていると確信できる。
だが俺からすれば、癒真さんも充分全世界の主婦たちに喧嘩を売っていると思う。
一体どうなってるんだ魅鳴家の血筋は。
「あ~!よく見たら菜奈もいるじゃないですか~。いつからいるんですか~?」
「最初からいましたけど」
空巻先生が冷たい声色でツッコミをいれる。この人もツッコミとかするんだ。
それに、岸田先生の空巻先生に対しての態度がやけに親しげだ。仲がいいのだろうか?
「それと、今は構いませんが、学園では下の名前で呼ばないように。分かりましたか、奏姫?」
「はいは~い」
手をひらひらと振り返事をする岸田先生。下の名前、初めて聞いた。名前で呼び合っているところを見ると、やはり親しい間柄なんだろう。別に興味はないが。
「それよりも、奏姫。あなた、仕事はいいんですか?ここにいるということは、手伝いに来ているのでしょう?」
「あ~はい。休憩もらったから、問題なしで~す」
「あなたこの前もそんなこと言って、一日手伝いさぼっていませんでしたか?」
「気のせい気のせい~」
笑いながらそう言う岸田先生に、空巻先生はフウと疲れたようにため息をつく。
空巻先生がこんな緩い会話を繰り広げるとは、この二人は本当に親しいんだな。
「空巻先生と岸田先生って仲良いですね。昔からの友達なんですか?」
「ええ、まあ一応。中学からの同期です」
出雲の質問に空巻先生はやや素っ気ない態度で答える。それに比べて、岸田先生はいつもと変わらぬ気の抜けるような笑みを浮かべている。
「菜奈は生徒会長だったんですよ~。ちなみに私は保健委員長でした~」
岸田先生が保健委員長だったことはどうでもいいとして、空巻先生が生徒会長か。
つい、生徒を絶対的な力と悪魔の微笑みで支配している画を思い浮かべてしまう。きっと誰も逆らう人はいなかっただろう。
「方城君、先に言っておきますが、私は生徒たちを恐怖で支配などしていませんでしたから。しているのは今だけです。教師の方が支配はしやすいですからね」
余計に質が悪い。
そして思おうとしたことを先読みしないでくれ。
「そうですよ~方城君。菜奈は恐怖で支配なんかしてませんでした~。ただの純粋な暴りょ――頭が割れるように痛いです菜奈~!」
「余計なことを言う癖はいつになったら直るのですか奏姫?」
みしみしと音をたてながら、岸田先生の頭に空巻先生のアイアンクローが極まっていく。
なるほど、こうやって支配してたのか。ああ恐ろしい。
「岸田先生、床に足が着いてないよ……」
「あれは相当痛いわね……」
頭を掴まれてそのまま持ち上げられている岸田先生を見て出雲と杏奈はそう声を漏らす。まあ、誰の目から見てもあれは痛そうだ。
「ごめんなさい菜奈~!もう言いませんから許してください~!」
「……以後気を付けるように」
吐き捨てるようにそう言うと、空巻先生は岸田先生をポイと放り投げる。その時岸田先生が「むきゃ」と小さく悲鳴をあげたが、空巻先生は全く意に介さない。
「あっはっはっは!面白い先生たちじゃんか!」
二人の先生を見てユリアさんは楽しそうに笑う。今のを見て面白いと言えるなんて、中々神経がおかしい。
流石は癒乃の祖母さんだ。
「……今、時雨に……遠回しに、バカにされたような……」
「癒乃、それは気のせいだ。絶対」
「……そう」
なんてことだ。癒乃まで読心術を会得しているとは。もう下手なことは考えられない。
「さて、それじゃあ立って喋るのもなんですから~、お部屋でお茶でも――」
『仕事から脱け出した岸田奏姫さん。院長が言いたいことがあるそうです。至急院長室にお越しください』
岸田先生が言いかけた時、そんな放送が流れた。
その瞬間、気の抜けた笑顔のまま岸田先生の表情が固まる。
「奏姫……あなた、休憩をもらったんじゃなかったんですか?」
「え~……と。いや、あの~……」
冷たい視線を送る空巻先生の言葉に言いよどむ岸田先生。その様子を見て空巻先生はさらに視線が絶対零度へと近づく。
気のせいか、空巻先生の周りから冷気が発されいるように感じる。
「……サボり癖も直っていなかったようですね」
「こ、これは自主的な休憩ですよ~。ですからサボりなんかじゃ――みぎゃっ!?」
バカみたいな言い訳をしようとした岸田先生の頭に、再び空巻先生のアイアンクローが極まる。
おそらく、さっきよりも強い力で。
「面倒くさいですが、特別に私が院長室まで送ってあげましょう。感謝しなさい」
「面倒くさいなら送ってくれなくても――痛だだだだだだだ!」
「感謝しなさい?」
「……あ、ありがとう……ございます……」
岸田先生は呻きながらも何とか声を絞り出す。そしてそのまま空巻先生に引きずられていった。
「哀れだね……」
「哀れね……」
「哀れ……」
出雲、杏奈、癒乃の三人が気の毒そうな視線を岸田先生に向けながら同じことを呟く。俺もそう思うぞ。
それからしばしの沈黙が流れ、やがて癒真さんが口火を切った。
「とりあえず……部屋、入ろうか」
「ぷはー!やっぱ緑茶が一番だよなー!」
ユリアさんは湯飲みを口から離すと、快活にそう言う。
「同感ですねー」
出雲もまた湯飲みに入ったお茶を飲み、幸せそうに息をつく。
二人の意見には概ね同感だ。紅茶やウーロン茶もいいが、やっぱり日本人なら緑茶だろう。
「紅茶もいいけど……たまには緑茶もいいわね」
「……苦い。砂糖……入れる」
やんわりと微笑む杏奈とは対照的に、癒乃は少し眉根を寄せてそう言葉を漏らす。そしてどこからか取り出した角砂糖を一個、二個、三、四、五、六……これ以上はもう数えたくない。
そもそも緑茶に砂糖を入れる時点でおかしいだろ。
「……あとは……隠し味」
そう言って癒乃が取り出したのは、
「ポン酢!?癒乃……まさかそれを入れる気なの!?」
杏奈が信じられないという表情を見せる。当たり前だろうな。
激甘ポン酢入り緑茶か。流石納豆メロンソーダ牛丼風味を飲む奴だ。舌がイカれてる。
「……そう、だけど。……変?」
当の癒乃は本気で不思議そうに首を傾げる。俺はそんな反応をするお前が不思議でしょうがないよ。
「変というか……なんかもうそれ以前の問題な気がするわ……」
「だね……」
杏奈も出雲も苦笑混じりに言う。
「あはは!久しぶりに癒乃の味覚音痴っぷりを見れたよ!相変わらず面白いねー!」
「お義母さん、笑い事じゃありませんよ……。このままだと、癒乃ちゃんがお嫁にいった時に心配だし……。どうにかしないと……」
大笑いするユリアさんに、困り顔の癒真さんが最もな不安を漏らす。確かに、味覚音痴だったら料理が壊滅的だからな。
「……おいしいのに」
ぼやくようにそう言って、癒乃は激甘ポン酢入り緑茶でごくごくと喉を鳴らす。
一度でいいから癒乃の舌がどうなっているのか検査してみたいものだ。
「あ、そうだ。嫁と言えば」
何やらユリアがにやにやして笑みでこちらを見てくる。
「時雨君は誰を選ぶのかな?」
「「ぶふっ!?」」
出雲と杏奈が突然飲んでいたお茶を吹き出す。
どうしたんだこいつら。それにユリアさんの言っていることもよく分からない。何を選ぶっていうんだ。
「うちの癒乃とかどう?」
「ぷひゃっ……!?」
今度は癒乃がお茶を吹き出す。女子なんだから飲み物を吹き出すのはやめておいた方がいいと思うんだが。
そしてユリアさんの言っている意味がまだ分からない。
「身内から見ても癒乃はすっごくかわいいし、いいと思わない?」
「はあ……まあ、かわいいとは思いますけどね」
「!?!?!?」
瞬間、癒乃の白い肌が真っ赤に染まる。さらに大きく目を真ん丸にして、これ以上ないくらいに驚愕を見せている。
一体どうしたっていうんだ癒乃の奴。もしかして、かわいいって言われたことに照れてるのだろうか。そうだとしたら、別に照れる必要はないと思うんだが。
事実、癒乃はかわいいんだし。
「ほほ~う……話には聞いてたけど……これは見事なフラグメイカーだ……」
「は?」
「その上唐変木……。全く、時雨君、君は罪な男だよ」
「はい?」
どうする。ユリアさんの言っていることが斯程も理解できない。誰か助けてくれ。
「お義母さん、バカなこと言っちゃダメです。時雨君が困ってるじゃない」
「別にいいじゃんかー!なあなあ時雨君、教えて欲しいことが――」
ユリアさんが何かを言いかけた時、病室のドアがガラリと音をたてて開いた。
「方城君、天崎さん、標部さん、魅鳴さん。そろそろ帰りますよ」
部屋に入ってきた空巻先生は俺たちにそう告げる。
……すいません先生。その袖についてる赤い跡はなんですか。一体岸田先生に何をしたのですか。想像できません。そしてしたくありません。
そんな風に思って少々固まっていると、途端に空空巻先生の顔が不機嫌そのものになった。
「早くしなさい。私は忙しいんですから」
「あ~はい。分かりました。帰るぞお前ら」
「あ、うん」
「分かってるわよ」
呼び掛けると、出雲と杏奈は普通に返事をした。が――
「…………」
「……癒乃?」
癒乃は何故かボケっとした表情のまま固まっている。もう一度呼び掛けても全く反応を示さない。
どうしたんだこいつは?
「……かわ、いい……。わたし、が……かわいい……」
しかもうわごとみたいになんか喋ってるし。へんちくりんなお茶を飲んだせいで頭が麻痺したか?
全く、自分がブレンド(?)したものだろうに。アホめ。
「おーい、癒乃ー?生きてますかー?」
「……かわいい……かわ、かわ……」
手を顔の前でぶんぶんと振ってみるが、相変わらず反応がない。
仕方ない。空巻先生を待たせると色々まずいからな。強硬手段だ。
「よっ、と」
「…………!?――――!?!?」
癒乃を持ち上げ、そのままお姫様抱っこの状態に持っていく。やっぱり担ぐのは色々問題があるだろうから、こっちにしておく。俺としては担ぐ方が楽なんだがな。
当の癒乃はもうこれでもかというくらいに驚きを表情に映していた。こいつも大分表情豊かになったものだ。
「ちちちちょっと!あんた何やってんの!?」
「なにって、お姫様抱っこだな」
「そんなこと見れば分かるよ!」
「んじゃ訊くなよ」
出雲も杏奈もなにをそんなに焦っているというのか。悪いが俺には理解できない。
「しぐ……!時、雨……!なに……やって……!」
癒乃が真っ赤な顔をしながら腕の中でじたばたと暴れている。抱きづらいからおとなしくして欲しい。
「お前が動かないからだろ。だから強制的に運ぼうとしただけだ」
「もう……歩ける、から……!降ろし、て……!」
「そうか。分かった」
自分で歩けるというのなら抱っこしている意味はない。俺は癒乃をそっと床に降ろした。その癒乃はというと、何故か妙に息を切らしている。胸に手を当てているし顔もさらに赤みが増している。
風邪でも引いてるんじゃないかこいつ。まあ歩けるって言ってるし、別にいいか。
「んじゃ、行くか」
そう言って皆の方を見た。
「「「…………」」」
……何故皆さん一人残らず俺の方をジト目で見ているのでしょうか。妙に居たたまれない気分になるんですけど。
「このフラグ乱立男……!」
「ちょっとは自重したらどうなのかな!」
「方城君。節度という言葉を知っていますか?」
「将来が恐ろしい子ね……」
「時雨君……君ってやつは……!」
「…………バカ」
もう皆の言っていることがほとんど理解できない。
ただ、ひとつだけ分かることは、ここにいる全員が俺の何らかのことに対して呆れていることだ。
そういう視線を送っているのだから。だがその理由を俺が知る由もない。
杏奈に聞いてみようか。
「なあ、俺なんかしたか?」
「うっさいバカ!」
……理不尽だ。
結局、その微妙な空気のまま俺たちは病院をあとにした。
全く……俺が何をしたって言うんだ。
どうも、水面出です。
〈時雨〉「方城時雨だ」
前回の後書きのおかげもあってか、トークテーマをいただくことができました。
読者の皆様、本当にありがとうございます。
〈時雨〉「良かったじゃねえか」
ですが、今度は別の問題が……。
〈時雨〉「は?なんだよそれ」
いえ……テーマをいただけたんですが、なんと六つもいただいてしまいまして、これを一気にやるのは少々骨が折れるんですよ。
〈時雨〉「もらったくせに何文句言ってんだお前は。……まあ、確かに多い分俺も大変だけどな」
ですから、まことに勝手だとは思いますが、テーマを三つずつ、今回と次回の二回に分けてやりたいと思います。
本当にすいません。
〈時雨〉「ま、仕方ないか」
それでは、二回ぶりにいきましょうか!
〈時雨〉「最初のテーマはこがねむしさんからだな。『夏と言ったら何?』か。すげえまともなテーマだ」
それじゃ、早速ゲストを……いません。
〈時雨〉「おいおい、ゲストがいなかったらトークにならないだろ」
大丈夫です。事前にインタビューしてましたから。
〈時雨〉「無駄に用意周到だな……」
ではいきましょう。
天崎出雲の回答
『え?夏と言ったらなにか?うーん……やっぱり海かな?海って行くだけでわくわくするしね!それに、いつもとは違う水着姿の私を見れば時雨もきっと……』
〈時雨〉「なんかよく分からない一言が入ってたんだが」
それは気にしない方向で。
では次。
標部杏奈の回答
『夏と言ったら?何でいきなりそんなこと聞くのよ。……え?時雨がデートの参考にしたいって……?ま、まあそういうことなら答えてあげるわ!……そうね、スイカ割りとか……?……なによ!悪かったわね子供っぽくて!』
〈時雨〉「いつ俺が杏奈とのデートプランを立てた」
そこも気にしない方向で。
じゃ、次です。
稲波瀬水無月の回答
『夏と言ったら、ねぇ……。肝試しかしらね。女の子が怖がるとこってかわいいじゃない♪……え?わ、私は別に怖くないわよ?そういうの信じてないし……。う、嘘じゃないってば!』
〈時雨〉「そうか。水無月先輩はお化けが苦手なんだな」
隠そうしてたとこが可愛かったです。
それでは次。
沙良暦の回答
『夏と言えば、ですか?そうですね、激辛料理じゃないですか?好きなんですよ、私。夏だからこそ、辛い料理を食べるんです』
〈時雨〉「一理あるかもな」
辛い料理はわたしも大好きです。
では、ネクスト。
魅鳴癒乃の回答
『……夏と、言ったら……?…………かき氷、スイカ、そうめん、枝豆、冷やし中華。……あと、バイキング……。……全部、美味しい……』
〈時雨〉「食べ物オンリーか。それとバイキングは夏関係ねえだろ」
グルメなんですよ。まあ、そのわりには舌に問題がありますがね。
それでは、次で最後です。
風水翠の回答
『夏と言ったら水着の女の子ですよォ!ビキニにタンキニにワンピース!稀にスク水の子もいますからねェ!もう私毎年毎年鼻血が出そうで仕方ないんですよォ!ああそうだ作者さん!今度女の子たちに――』
ブツリ。
〈時雨〉「……なにを頼まれた……?」
ここでは言えないことです。
それじゃあ、次のテーマにいきましょうか。
では、時雨は一旦退場です。
〈時雨〉「またそういうテーマか。まあもう慣れたけどな」
はい、退場完了です。
では、ゲストたちをお呼びしましょう。
どうぞ。
〈杏奈〉「ちょっと作者!あのインタビューを時雨に聞かせるなんて聞いてないわよ!」
〈水無月〉「言っとくけど、私は別にお化けが苦手って訳じゃないからね!」
〈暦〉「言い訳がましいですよ、ミナ」
〈翠〉「そういうところがかわいいじゃないですかァ!萌えます!」
〈出雲〉「癒乃ちゃんってホントに食べるの好きだよね」
〈癒乃〉「……美味しいから」
女子生徒軍団ですね。一部文句言ってる人たちがいますが、無視です。
〈杏奈/水無月〉「まだ納得してない!」
知りません。
ではテーマを発表します。三月語様からで、「自分にとってコンプレックスとなっている場所」です。
〈出雲〉「え?それって……」
杏奈で言う胸ですね。
〈杏奈〉「あんた殺すわよ!?」
いやです。
では順番に言っていってください。
〈出雲〉「え、え~……。恥ずかしいなぁ……」
早く。
〈出雲〉「えっと、その……お腹、かな……」
なぜ?
〈出雲〉「私、お菓子ばっかり食べてるから……油断してるとすぐ……」
太る訳ですか。なら食べなきゃいいのに。
〈出雲〉「それはやだ!」
…………。
はい、じゃあ次。杏奈。
〈杏奈〉「ぅぅぅ……!胸よ胸!どうせあたしはペッタンコよ!」
ついに開き直りましたか。哀れな……。
では次、水無月さん。
〈水無月〉「私も胸かしらね。重いから肩が凝るのよ」
〈杏奈〉「……………………!」
〈水無月〉「あ、杏奈ちゃん!?どうしてそんなに怖い顔をして睨んでくるの!?」
今のは水無月さんが悪いですね。
んじゃ次、暦さん。
〈暦〉「特にありませんが……。そうですね……敢えて言うのなら、やはり体の凹凸がやや寂しいところですね」
案外あっさりしてますね。
〈暦〉「そうでもありませんよ。ミナについてるのは無駄な脂肪だと思ってますし」
〈水無月〉「ひどくない!?」
〈暦〉「ひどくありません」
結構気にしてるみたいですね。
では次、癒乃さん。
〈癒乃〉「……………………身長と、胸……」
〈翠〉「ええっ!?なにを言ってるんですかァ!神から授かったロリ体型ですよォ!?」
黙っててください。そういうあなたはどうなんですか?
〈翠〉「私は自分のことなんてどうでもいいです!周りに萌えさえあれば!」
……さて、次のテーマにいきましょうか。
同じく三月語様からで、「自分が求めるプロポーション」です。
〈杏奈〉「ちょっと!さっきからこんなのばっかりなんだけど!セクハラじゃない!?」
ちなみに、追記です。
〈杏奈〉「はあ!?なによ!?」
『3サイズでお答えください。なお、その際自分の3サイズも晒すこと(ニヤリ)』
〈出雲/杏奈/水無月/暦/癒乃〉「……………………は?」
〈翠〉「おやおや、こりゃまた中々の恥辱プレイですねェ」
わたしに責任はありません。
〈出雲〉「なにコレ?ふざけてるのかな?」
〈杏奈〉「三月語だっけ?これ送ったの」
〈水無月〉「消しに行かなきゃね」
〈暦〉「どんな風に料理してあげましょうか」
〈癒乃〉「…………抹殺」
皆さん落ち着いてください。
〈翠〉「そうですよォ。別に3サイズくらいいいじゃないですかァ」
〈出雲〉「よくないですっ!」
〈水無月〉「そんなことできる訳ないでしょう!?」
〈杏奈〉「ていうか最後の(ニヤリ)ってなによ!すごくむかつくんだけど!」
〈暦〉「私は最初から落ち着いてますよ。ただ、エベレストより高くマリアナ海溝より深く宇宙より大きい殺意が体の奥底から沸き上がっているだけです」
〈癒乃〉「…………完全抹殺」
まあ、言いたくない気持ちは分かります。ですから、わたしが作者権限で発表します。
〈出雲/杏奈/水無月/暦/癒乃〉「……………………殺す」
ああそれと、時雨君。来てくださーい。
〈時雨〉「ああ?なんだよ?」
これを見てください。
天崎出雲
3サイズ
83・56・78 Dカップ
理想3サイズ
88・55・80
標部杏奈
3サイズ
74・53・72 Aカップ
理想3サイズ
80・53・77
稲波瀬水無月
3サイズ
91・59・85 Fカップ
理想3サイズ
86・57・83
沙良暦
3サイズ
78・55・74 Bカップ
理想3サイズ
82・55・76
魅鳴癒乃
3サイズ
65・46・63 AAAカップ
理想3サイズ
79・53・72
風水翠
3サイズ
88・58・83 Eカップ
理想3サイズ
特になし
〈時雨〉「…………What's this?」
見て分かりませんか?ここにいる女子たちの3サイズと理想3サイズですよ。
〈出雲/杏奈/水無月〉「イヤァァァァァァァ―――!」
〈癒乃〉「…………見、られ、た…………」
〈暦〉「…………これは時雨君も消すことになりそうですね……」
〈翠〉「これは素晴らしい!こんなにいい収穫は中々ありませんよォ!ありがとうございます作者さん!」
はっはっは。お礼なんていいですよ。
さ、どうですか時雨?嬉しいでしょう?
〈時雨〉「……俺は何も見なかった。今回のことは記憶から抹消するよ……。だから……お前らも、な……?」
〈出雲〉「…………気を遣われてるのがすっごい悲しい……!」
〈杏奈〉「あんたはまだマシじゃないっ!あたしなんて……あたしなんて……!」
〈水無月〉「もう……生きていく気力が生まれないわ…………」
〈癒乃〉「……………………AAA…………ぐすっ……」
〈暦〉「何なんでしょうか……このやるせなさは……!」
〈翠〉「皆さんかわいいですねェ~」
はい、それじゃ今回はここまで。終わりにしま――
〈出雲/杏奈/水無月/暦/癒乃〉「待て」
えっ……?
〈杏奈〉「まさか……無事でいられるなんて、思ってないでしょうね……?」
〈暦〉「右目と左目、どちらを先にえぐり出して欲しいですか?」
〈出雲〉「フフフフ……ニゲラレナイヨ……?」
〈水無月〉「大丈夫よ。すぐ終わるから」
〈癒乃〉「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺…………」
えっ、ちょっ皆さん?どうしてそんなに怖い顔を……?
こ、こんなの冗談じゃないですか……。
いや、ホントマジで勘弁許しギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
〈時雨〉「トークテーマを送ってくれたこがねむしさん、三月語さん、本当にありがとう。次回は残りの三つをやる予定だ」
〈翠〉「感想とトークテーマ、いつでも受けつけてますから、よろしくお願いします!」
〈時雨〉「それじゃ、次回予告だ」
次回予告
この気持ちはなんだろう
すごく、変な気持ちだ
わたしには分からない
いや、ホントは分かってるはずなんだ
気づいてなかっただけで
そうだ。これは――
次回 変と恋