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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
序章 -始まるは、日常-
34/46

ep31 無関係とそれだけで

〈小夜〉「第31話!」


〈時雨〉「始まるぞ」


〈小夜〉「久しぶりに時雨と二人きりだ~♪」


〈時雨〉「うわっ!おい姉さん!くっつくなっての!」


〈小夜〉「やだ~」


〈時雨〉「アホか!くそ・・・とにかく、楽しんで読んでくれ!」



「――魅鳴さんの祖母、つまりお祖母さんが倒れたそうです」


「「え・・・!?」」


あたしと出雲は同時に驚愕の声をあげた。一瞬、あたしも出雲も空巻先生の言ったことが理解できなかったのだ。

だけど、聞き間違いではない。空巻先生は今確かに、癒乃のお祖母さんが倒れたと言った。

その言葉が、頭の中でぐるぐると廻っている。

倒れた?癒乃のお祖母さんが?何で?

気づけば、あたしは声を荒げていた。


「倒れたって・・・何があったのよ・・・!?」


「持病の発作だそうです。ですが、今回はいつもより症状が悪く、病院に緊急搬送されたそうです」


淡々と、空巻先生はあたしの質問に答える。こういう時でも、至って冷静でいられるのは、やはり教師だからなのだろうか。とにかく理由はどうあれ、空巻先生が冷静にしてくれているお蔭で、あたしも頭の熱が冷めてきた。

ひとまず呼吸を整える。


「あ、あああ杏奈ちゃん!どどどどうしよう・・・!ゆゆゆ癒乃ちゃんのお祖母ちゃんが・・・!」


だが出雲は未だに落ち着けていないらしく、声を震わせている。


「落ち着くのよ出雲!こういう時こそ、冷静にしなきゃダメなんだから・・・!」


少し口調を強めて言う。こういう時は、このくらい厳しく言わなきゃならないものだと思うから。


「そうです、天崎さん。落ち着きなさい」


空巻先生はあたしとは対照的な、静かな声で諭すように言う。それなのに、あたしが言うよりも何倍もの安心感と説得力を感じる。

これが・・・空巻先生の教師としての本当の姿なのだろうか。普段とは全く纏っている雰囲気が違う。無意識に、空巻先生に対して尊敬の意を感じてしまうほどだ。


凄い。

ただこの一言に尽きた。

出雲は、空巻先生の言葉でやっと少し落ち着いたのか、深呼吸をして息を整えて、口を開く。


「そうだよね・・・!こういう時こそ、落ち着かなきゃだよね・・・!」


先ほどまでとは一変、凛とした表情になる出雲。その瞳には焦りの色は見られない。

これでようやく話が進められる。


「それで、今癒乃のお祖母さんはどこの病院に?」


御狩谷みかりやの岸田大病院です」


空巻先生が答えたのはかなり大きな病院だ。うちのパパともよく付き合いをしているらしい。

それに、御狩谷なら光天寺の隣だ。ここからなら割りと早く行ける。


「杏奈ちゃん!」


「分かってる」


出雲が何か言いたげな顔であたしを見てきたので、あたしは出雲の目を見て小さく頷く。出雲もそれに頷き返す。


「あたしは時雨の携帯に電話して癒乃に連絡するから、出雲はバスのダイヤを調べて!」


「うん!」


あたしの言ったことに、出雲は力強く頷く。だが、そこで空巻先生が口を挟んできた。


「聞きますが、あなたたちも行く気ですか?」


「行くに決まってるでしょ!言っとくけど、止めても無駄だから!会ったことはないけど、親友の家族が大変な時に黙っていられるほど、あたしたちできた人間じゃないし!」


「別に止めませんよ。というか止める訳ないでしょう」


これには、少し拍子が抜けたような気がした。てっきり、邪魔になるから行くなとか言われると思っていたのに。


「私はこれでも教師です。教師は生徒の背中を押してあげるものですよ? それに、光天寺学園の教育方針は“生徒の自由を尊重する”ですからね」


そう言うと、空巻先生はいつもの様子からは想像もつかないほどの優しげな笑みを浮かべた。本当にこの人は空巻先生なのだろうか。実に疑わしい。

そんな風に思っていると、空巻先生が今度は、自分の携帯で今バスのダイヤを調べている出雲に目を向け、声をかける。


「天崎さん、バスのダイヤダイヤグラムを調べる必要はありませんよ」


「えっ?でもバスがなきゃ病院に行けませんし」


少し困惑気味な出雲言葉に、空巻先生はにやりと笑いながら返した。


「何故バスを使う必要があるのです。それくらい、私の車で連れていってあげますよ」


「「・・・」」


思わず出雲と顔を見合わせてしまった。

出雲はその顔に疑念と驚愕が入り交じったような色を見せている。きっとあたしも同じ顔をしているだろう。

無理もないことだ。あの生徒のことを玩具としか見てなさそうな空巻先生が、生徒にこんなにも優しくしてくれるなんて、誰が思っただろうか。

きっと、後でクラスメイトに話しても信じてもらえないだろう。


「何ですかあなたたち、その顔は」


当の空巻先生はそんなあたしたちを見て、一気に不機嫌そうに眉根を寄せる。


「なんか勘にさわりますね。病院送りにしてあげましょうか」


吐き捨てるようにそう言った。やっぱり、空巻先生は空巻先生だ。ほんの少し安心した。


「全く・・・。さっさと方城君に電話をしたらどうですか?」


「あっ・・・そうだった・・・!」


ため息混じりで言われた空巻先生の言葉で、あたしは自分のやるべきことを思い出した。急いで時雨に連絡して、一緒にいる癒乃に伝えなければ。

ただ、焦ってはいけない。冷静に、だが急いでやる。

私はそのことに気をつけながら、時雨の携帯の番号に電話をかけた。






「なんだって・・・?」


一瞬、杏奈の奴が冗談を言ったのかと思ったが、杏奈はこんなことを冗談で言う奴じゃない。

本当のことなのだろう。癒乃の祖母さんが倒れたというのは。

蒸し暑い中、何故か俺は体温が急激に冷めていくのを感じた。


『癒乃の両親は最初癒乃の携帯にかけたらしいんだけど、出なかったから学園に・・・。あたしたちもさっき空巻先生に知らされたばかりでね・・・。それで・・・癒乃のお祖母さんは今、御狩谷の岸田大病院に・・・』


「そうか・・・」


自ずと声の調子が重々しくなってしまう。そんな俺の様子を不審に思ったらしい癒乃が、どこか不安げに聞いてきた。


「時雨・・・何が、あったの・・・?」


これは伝えるべきか伝えないべきか。いや、そんなのは分かりきっていることだ。杏奈だってそのために電話してきたのだから。

それに、いずれは癒乃の耳に伝わることだ。後回しにしたって意味がない。言うしかないのだ。


俺は気持ちを落ち着かせ、それを言った。


「お前の祖母さんが、倒れたそうだ・・・」


「・・・え・・・?」


癒乃は目を丸く見開いて、そう小さく声を漏らす。

しばらく、時間が止まったかと錯覚するほどの沈黙が流れ、やがて、癒乃が口を開いた。


「え・・・?倒れ・・・た・・・?でも・・・持病の、発作じゃ、ないの・・・?」


「持病・・・?」


癒乃の祖母さんは持病を持っているのか。孫が言っているのだから間違いはないと思うが、一応確認をとってみる。


「杏奈、癒乃の祖母さんは持病を持ってんのか?」


『ええ・・・。今回もその発作みたい・・・。しかも、今回はいつもよりずっと症状が悪いらしいの・・・』


「っ・・・!」


今の杏奈の言葉が聞こえてしまったらしい。癒乃はいつもの無表情とはまるで違う、驚愕と悲愴が入り交じったような顔になる。

ここまで無表情が崩れるのは初めてだが、こんな風に崩れるのは見たくなかった。


さて、俺はどうすればいいのか。癒乃の祖母さんには会ったことなどない。実質、俺との直接的な関係はないと言えるだろう。俺がどうこうする必要も、義務もない。


だが、それがどうした?


俺は医者でもなければ、癒乃の祖母の家族でもない。そんな俺に、できることがあるのかと問われたら、何も答えることはできないだろう。


で、それがどうした?


そんなこと、俺が何もしない理由になどなりはしない。なら、何かをする理由ならあるのか?俺は別に、人を助けるのに理由なんかいらないなんて甘い考え方はしない。何事をするにも理由は必要だ。だからと言って、俺は仰々しい理由なんかつけない。そう、簡単でいい。


俺がやりたいからやる。それだけで充分だ。


「癒乃、今から岸田大病院に向かうぞ」


「・・・!?」


俺の言葉を聞いて、癒乃がぎょっとした顔になる。何を驚いてるんだ。まさか、癒乃の祖母さんに関係のない俺がこんなことを言ったからだろうか。


「でも・・・時雨は、関係ないし・・・」


やはりそうらしい。全くこいつは。こんなやつにはこう言ってやる。


「お前はアホか」


「ふぇ・・・?あ、あほ・・・?」


俺の言葉があまりに予想外だったのか、癒乃は呆気にとられた顔になる。


「俺には関係ないとかどうとか、そんなもんどうでもいいんだよ。聞くけどな、お前は祖母さんのこと心配なんじゃないのか?助けたいんじゃないのか?」


「そんなのっ・・・当たり前・・・!」


「そうか。じゃあ、祖母さんを助けたいお前を、俺は助けたい。これでいいか?これなら関係ないとは言えねえだろ」


「っ・・・」


癒乃がどこか申し訳なさそうに目を下に向け、やがて完全に俯いてしまう。

何を感じてそんな行動をとったのか、俺が与り知ることではないが、基本的に俺は女子に暗い顔をして欲しくない。キザだとか、格好つけだとか言われるかもしれないが、これは本心なのだから、否定できないしする気もない。

それにしても、本当に女子ってのは面倒くさい生き物だ。何を考えてるのか全く読めない。癒乃も例外ではない。

別に、思ってること全部曝け出せなんて言わない。ただ、助けて欲しい時は素直に頼って欲しい。

それが仲間なら、尚更だ。


「ああもう面倒くせえなこの野郎」


「っ!?」


俺にも、我慢の限界というものがある。いつまでも迷うくらいなら、強制的に連れていくまで。

俺は癒乃を左肩に担ぐ。手際よく。癒乃は驚いていたが、急にやられたので何の抵抗もしないまま担がれた。女子を担ぐというのは世間一般的な目から見たらどうかと思うが、仕方ない。右手には未だ繋がっている携帯があるのだ。

また、こちらの妙な様子を音から読み取ったらしく、訝しげな声が電話先から聞こえてくる。


『あんたなにやってんの?』


「癒乃が動こうとしないから担いで病院に連れていく」


『バカでしょ』


バカと言われても、これしか思い付かない。まあ確かに、一応歩いていけるとはいえ、ここから岸田大病院は割りと距離がある。それを人一人担いでいくのは中々の重労働かもしれない。

だが担いでみて分かったが、癒乃は見た目を裏切らず、軽い。これなら行けそうな気がする。

とまあ、この非常事態にこんな下らないことを思っていると、携帯電話から違う声が聞こえてきた。


『方城君。今、どこにいますか?』


「空巻先生?」


何故杏奈の携帯から空巻先生の声が聞こえてくるのかと疑問に思ったが、空巻先生から話を聞いたと言っていたんだ。その場に空巻先生がいてもおかしくはないか。

だが、電話を代わるならせめて一声かけて欲しいて思う。いきなり空巻先生の声が聞こえてきたら万人中万人がビビるぞ。


『方城君。別に私の声にビビっても構いませんので、私の質問に答えてください』


何だか肩透かしを食らったような気分だ。妙に反応があっさりしている。

――いや、あっさりしているんじゃない。これが空巻先生本来の、教師としての態度か。普段が普段なだけに分かりにくくかったが、声からは確と真剣さが感じられた。

何だよ。これは俺も下らないことを考えてる場合じゃないな。真剣な態度には、真剣に向き合うのが礼儀だ。


「失礼しましたね。答えですけど、今映画館の近くのファミレス付近・・・大体光天寺四丁目のバス停の近くです」


『そうですか。ならそのバス停の近くで待機していてください。天崎さんと標部さんを連れて私の車で拾いますから。そのまま病院へ』


「分かりました。できるだけ早くお願いしますよ」


『分かっています。では』


ぷつ、という音共に電話が切れた。一切の無駄が無い会話だったと、自分でも思える。やはり、空巻先生も教師だということが改めて分かった。


「さて、と・・・」


俺は自分の左肩の上で最早全く抵抗せず担がれているだけの癒乃に目を向ける。癒乃の顔には担がれることを諦めた様子と、それとは別の陰が見られる。

とりあえず、担いで連れていく必要が無くなったので、そっと地面に降ろす。


「・・・」


一言も言葉を発することなく、癒乃は足を地面につける。


「無理に担いだりして悪かったな」


そう謝るが、癒乃は何も言わず、ただ俯いているだけだ。癒乃は別に気にしてはいないと思う。そんなこてくらいで怒るほど癒乃の心は狭くない。だが、どうにも遣りきれない空気だ。空巻先生に言われた通り、早めにバス停に行かなければならないのだが、この雰囲気がそれを許してくれない。


――そんな時、ポタリと、地面に滴が落ちた。一粒だけじゃない。その後もポタポタと続いていき、地面をどんどん濡らしていく。

空は今にも降りだしそうな模様を見せているが、これは決して雨なんかじゃない。


濡らしているのは、癒乃の足元だけだ。


「っく・・・ぅうっ・・・」


ぼろぼろと涙を流す癒乃の体は、小刻みに震えていた。表情は、俯いているから見えないが、良いものではないだろう。


「心配か・・・?」


「ぅっ・・・ひっく・・・うん・・・!」


声は小さかったが、癒乃はしっかりと頷く。何を聞いたのかと問われれば、そんなもの、癒乃の祖母さんのことに決まっている。

こいつの無表情を見ていると、本当に感情がないのではないかと錯覚するかもしれない。実際、俺も癒乃と初めて会った時はそう思った。だが、そんなことはないということが今はよく分かる。

ちゃんと見ていれば気づく。癒乃は喜びもするし、悲しみだってする。驚くことも怒ることだってある。ただ、それをあまり表に出さないだけだ。

そんな癒乃が、こんなにも泣いている。

基本、俺の考えでは泣きたい時は泣けばいいとしている。だが、それ以外は別だ。あくまで俺の判断だが、今の癒乃は流したくて涙を流している訳ではないと思う。むしろ、その逆もいいとこだろう。

故に、正直に言ってしまえば、癒乃に泣いて欲しくない。というか――


「泣くな」


「っ・・・!」


俯いている癒乃の頭に手を載せ、そっと撫でる。相変わらずのさらさらした髪。そこから、癒乃が震えているのがよく伝わってくる。


「もしものことを考えちまうか?嫌なことばっか想像しちまうか?それは仕方ない。人間やってりゃ誰だってそういうことはある。――けどな」


「――!」


俺は癒乃の体を抱き寄せて、こう言った。


「家族だろ。お前が信じてやらなくてどうする」


自分でもくさいセリフだとは思う。だが、俺にはこれぐらいしか言えない。そんな、聖者みたいな気の利いたことは言えないのだ。もう少し語彙力をつけとけば良かったか。

そんな俺の言葉だが、癒乃はしっかり受け止めてくれたらしい。


「・・・うん・・・」


それだけ呟くように言うと、ギュっと俺の服を掴みながら、胸に顔をうずめる。なんか、衝動的に抱き寄せてしまったが、とりあえず嫌がられてはいないようだ。

ともあれ、先ほどまでの震えはもう消えているのが分かった。


今はそれだけで、充分だ。





はい皆さんこんにちは。

早速トークタイムに・・・いきたいところですが、残念ながらテーマが一つも来ていないので、今回はおやすみです。


〈時雨〉「なんだ。つまらねえな」


〈出雲〉「仕方ないよ時雨。次回に期待しよ」


〈時雨〉「ま、そうだな」


それでは、次回予告です。




〈次回予告〉


癒乃の祖母さんの身を案じて、病院に行った俺たちだったが、あまりにも予想外すぎることが起きた・・・。


次回 想いとけじめ



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