ep25 助っ人とテスト 後編
〈薊〉「第25話なのじゃ!」
〈菜奈〉「読まないと血祭りですよ」
それではどうぞ。
時間は経過し、放課後。
「出雲、今日から一週間、死ぬ気で勉強してテスト範囲を全て頭に叩き込め!」
「は、はいぃ!」
出雲は少し気後れした様子で返事をする。
「いいか。理系科目に関しては俺が教える。文系は杏奈担当だ。そして――」
俺はベッドに座っている人物に目を向ける。
「英語は、理事長が教える・・・!」
「任せろなのじゃー!」
理事長は両手をあげ元気いっぱいに言う。
そこで、出雲が手をあげる。
「質問いいかな!」
「なんだ」
「何で理事長なの!?」
・・・最もな質問だ。
さて、少しここまでの経緯を整理してみるか―――
「―――は・・・?」
俺は理事長が言ってることの意味が分からなかった。
杏奈も同じのようで、訳が分からずぽかんとした表情になっている。
「What do you mean?」
思わず英語で訊いてしまう。
「そのままの意味なのじゃ?」
理事長は「何を言ってるんだこいつは?」という顔で言う。
いやいや、それを言いたいのはワタクシなんですがね。
「理事長、もう一度だけ訊きます。今、何を言いましたか」
「ウチが天崎に勉強を教えてやるのじゃ」
『・・・』
マジっすか・・・
「理事長、冗談で言ってるんでしょ。あたしたちをからかってるんでしょ。子供だからって何でも許されると思ってるの?」
杏奈がそう言う。
その表情からは少し苛ついているのがよく分かる。
そりゃそうだ。
こちとら真剣に考えてる。
ガキの戯れ言に耳を貸してる暇はない。
だがそんな杏奈に対し理事長は平然とした顔だ。
「冗談でもからかってもいないのじゃ。本気なのじゃ」
瞬間、杏奈のこめかみがぴくっと動いたのを俺は見逃さなかった。
「理事長、あたし子供に色々言うのは嫌いなの。だから、今ちゃんと謝れば許してあげる」
今度嫌そうな顔をしたのは理事長だ。
「なんで理由もないのにウチが謝らなきゃいけないのじゃ!」
杏奈の片眉がぴくりとつり上がる。
こいつ絶対教師とかには向いてないな、うん。
既にキレかけているが、一応子供相手だから我慢しているのか。
「あーのーねー?あたしたちは今真剣に悩んでるの。お願いだから邪魔しないでくれる?」
笑顔がひきつっているぞ杏奈。
対して理事長も業を煮やしたようで、眉を顰めて端から見ても不機嫌そうになる。
「だから!邪魔なんてしないのじゃ!ウチが勉強教えてやるって何度言ったら分かるのじゃ!お前はバカなのか!?」
ぷっつん
今のが決め手だったようだ。
杏奈の何かがキレた。
「いい加減にしなさいよこのクソガキィィィ!!」
「ひっ・・・!?」
廊下中に響き渡るくらいの大声で杏奈は怒鳴る。
「飛び級で理事長になったとかなんだか知らないけど、いい気になってんじゃないわよ!あたしはあんたみたいな生意気な子供が一番嫌いなの!何が「ウチが勉強教えてやる」よ!バッカじゃないの!やれるもんならやってみなさいよ!」
「あ、うぅ・・・」
杏奈は今までの“ムカつき”を発散するように怒鳴り散らす。
理事長はその剣幕にびびり涙目になっている。
「で、できるのじゃ!お前なんかより全然っ!」
それでも何とか言い返す。
だがそれは火に油を注ぐようなもので、杏奈はさらにぶちギレて鬼のような形相になる。
見てるだけで怖いぞ・・・。
「もう一遍言ってみなさい!!地の果てまで蹴り飛ばすわよ!!!」
「杏奈、落ち着けって」
放っておいたらマジで蹴り飛ばしかねないのでとりあえず止めとく。
「うるさい時雨!あんたは黙ってて!」
「落ち着けやコラ」
俺は杏奈の頭に手をぽんと置いて、なでる。
「ふにゃっ・・・!」
一瞬猫のような声をあげ、杏奈は止まった。
まさか本当に止まるとは思ってなかった。
「苛つく気持ちも分かるけどよ。怒ってたら話が進まねえだろ」
「う~・・・だって理事長が・・・」
「子供相手に本気でキレんなアホ」
その言葉に、理事長が「む~」と不満げな声をあげる。
「子供扱いするななのじゃ!」
「いや子供だろ」
どこからどう見ても、大人には見えない。
「ま、いいや。ところで理事長、話を戻すけど、あんたは本気で出雲に勉強を教える気なんだな?」
「しつこいのじゃ!何度も言ってるのじゃ!」
「でもな理事長。あんたは子供だろ。気持ちは嬉しいが、あんたに高校生の問題はできないと思うぞ」
そう言うと、理事長はあからさまに不機嫌な顔になった。
「失礼なのじゃ!言っとくけどな、ウチはお前らより学力は上なのじゃ!」
「へ?・・・あ」
そこでようやく、俺は理事長がIQ200の頭脳を持つ天才なのを思い出した。
ホントかどうかは知らんが。
そんな俺の様子を怪訝に思ったのか、杏奈が口を挟んでくる。
「なによ時雨。理事長の言うこと真に受けるの?」
「いや・・・今思い出したことがあってな。確かに理事長は、学力だけなら俺らより上かも知れねえ」
「は?あんたまでなに言い出すのよ」
「実はな、空巻先生から聞いた話だと、理事長ってIQが200あるらしいんだよ」
「えっ!?」
杏奈が信じられないといった声をあげる。
理事長はそれを見て、満足そうに手を腰にあて「どうだ!」と言わんばかりに胸をはっている。
「だからよ。意外に良い助っ人になるかもしれねえぞ?」
「え~・・・」
杏奈は眉を顰める。
やっぱ納得いかないらしい。
「別にいいじゃねえか。な?」
「・・・時雨が言うなら、仕方ないわね・・・」
杏奈はまさに渋々といった様子でそう言う。
「と、いうことでだ。理事長、頼んだぜ」
「任せろなのじゃ!!」
理事長はどん!と力強く胸を叩きそう言った―――
「―――って訳で、理事長が教えることになった」
「なるほど・・・」
出雲が納得したように頷く。
受け入れが非常に早くて助かる。
「そんじゃ、早速始めるか」
「おー!」
「がんばるよ!」
「なんで理事長が・・・」
まだ文句言ってる奴もいるが、こうして、テストに向けての勉強会が始まった。
数学 担当時雨
「えぇと・・・これはどうやったら・・・」
「その問題はこの公式を使って、こう・・・こうして・・・こうだ」
「ああー!なるほど!」
出雲が手をぽんと叩きそう言う。
理解してくれて良かった。
「それでだな。これを応用することで、こっちもできる」
「そうなんだ~!」
国語(古文) 担当杏奈
「・・・なにコレ・・・ホントに日本語?」
「れっきとした日本語よ。まあ昔の言葉だけど」
「こんなの・・・読める訳ないよ・・・」
出雲がそう言って項垂れる。
あたしはそれを見て「ふう」とため息をついた。
「あのねぇ。基本的なことは中学でやったでしょ?」
「知らないよ!中学の頃は授業の時はお昼寝の時間だったんだから!」
「・・・」
ホント、どうやってこの学園に入ったのかしら・・・?
ものすごく疑問に思うわ・・・。
英語 担当湖倉薊理事長
「こんくらいの英文の訳も分からないのか?天崎はバカなのじゃー!」
「うぐぐ・・・」
あはは!
天崎が悔しそうにしてるのじゃ!
「こんなのかんけーだいめーしをちょっと複雑にしただけなのじゃ!簡単なのじゃ!」
「簡単じゃないですよ・・・!う~・・・なんでできるんだろう・・・。ホントに十歳なのこの人・・・?」
なんかぶつぶつ言ってるけど聞こえないし、どうでもいいのじゃ。
「さあ!ばんばんいくのじゃ!覚悟するのじゃ!」
「ふえええ・・・」
そんなこんなで、順調に勉強会を進めていった。
その頃
SIDE 水無月
「違います。そこはそんな答えじゃありません」
暦が厳しい声色で私にそう言う。
「えっと・・・じゃあこんな感じかしら・・・?」
「違います」
ぴしゃりと、暦は冷たくそういい放つ。
「う~・・・」
私は不満を隠しきれずに思わず唸ってしまう。
中学の時から、テストの度にずっと暦に勉強を教えてもらってきたけど、何度やっても慣れない。
さっきから違いますしか言われてないし。
正直心が折れそうよ・・・。
「ホントに、ミナはおバカさん。運動しか取り柄がありませんね。脳が筋肉でできてるんですか?」
暦が呆れたように言う。
「う、うるさいわね・・・。ていうか私は別に筋肉が多い訳じゃなくて・・・」
「なら脂肪が多いんですか」
「違っ・・・!そういうことでもなくて!」
「確かに“ここ”には脂肪がたっぷりついてますしね」
そう言って暦が私の胸をつつく・・・って・・・!
「ちょっとやめなさいよ!そんなとこ触るな!」
「ああ、ごめんなさい。確かに私が触れていいところではありませんでした」
そう言うと、暦はにやりとした笑いを浮かべ、言葉を続ける。
「本当に触って欲しいのは、時雨君でしたね?」
「なっ!?///」
私は顔が紅潮するのを感じる。
なに恥ずかしいこと言ってるんだろうか暦は・・・!
「怒るわよ!もう!」
暦は「くすくす」と含み笑いをする。
完全に楽しんでるわね・・・。
「ごめんなさい。じゃ、真面目に勉強しましょうか」
「うっ・・・それはそれでいや、かも・・・」
「異論は認可されません」
「ぐっ・・・」
とりあえずいやな顔をしつつも、私は参考書を開くのだった。
さらに同じ頃
SIDE 翠
「・・・はあ」
私はついため息をつく。
そして、テーブルの上にある“それ”に目を向ける。
「今度こそ・・・二桁にいきたいですねェ・・・」
テーブルの上にあるもの。
それは、英語の教科書、単語帳、ノート、他諸々。
そう。方城君たちにも言ったように、私は英語ができない。
他の教科はそこそこできるのに何故か英語だけ。
全くできない。
果てしなくできない。
とにかくできない。
「なんでこんなに苦手なんでしょうかねェ・・・」
それは、自分でも分からない。
とにかく、英語を見たり聞いたりすると急激に眠気と目眩が襲ってくるのだ。
どうにか克服しようと今まで色々やってきたが、どれも効果なし。
テストは毎回、10点にも届かない。
しかも高一の期末テストでは0点をとったこともある。
「どうにかなりませんかねェ・・・」
私はもう一度テーブルの上のものを見て、
「はあ・・・」
再び、ため息をついた。
SIDE 時雨
あっと言う間に一週間がたち、テスト当日となった。
出雲の勉強会の結果は、まあいい感じだ。
少なくとも赤点はとらないレベルには達しただろう。
と言っても、俺ができ具合を知ってるのは理数系だけだ。
まあ、文系担当の杏奈から聞いた感じだと、文系の方もそこそこできるようになったらしいけど。
気になるのは・・・理事長が教えてた英語だ。
これに関しては全く分からない。
どこまでできるようになったのか。
まあ、仮にも理事長はIQ200の天才だし・・・。
大丈夫だとは思うけどな・・・。
ちなみに、杏奈は俺に理数系を教えてもらい、なんとか普通レベルにまでなった。
苦労したぜ・・・。
んでもって、俺も一応自分の勉強はしてきた。
人に教えてる時間の方が圧倒的に長かったが。
ま、今さらなんか言ってもしょうがねえ。
潔くテストを受けるとするか。
で、なんやかんやで、三日間のテストが終わった。
省きすぎだろ、という文句は受け付けない。
テストを終えての感想だが、一言で言わせてもらうと、簡単だった。
もしかしたら勉強する必要なかったんじゃね?ってくらいに簡単だった。
でもこれを世の高校生に言ったら殴り飛ばされそうだな。
まあ自慢する訳じゃないが、昔から学校の成績だけは良いんだよ。
別に俺にとっては学校の成績なんざどうでもいいんだが。
とにかく、テストは終わった。
そして今俺は自室にいる。
もちろん、出雲と杏奈もいる。
・・・いるんだが、
「出雲、いい加減その重苦しいオーラ放つのやめてよ・・・」
杏奈がそう言って目を向けた先には・・・
「・・・・・・」
最早生気を感じることができない出雲だ。
ベッドに腰掛け、力なく俯いている。
なんでも、今日やった化学のテストでとんでもないミスをしてしまったらしい。
「・・・一日目、二日目は結構できたのに・・・なんで化学だけ・・・」
「仕方ないじゃない。誰にだってミスはあるでしょ・・・?」
落ち込み度150%の出雲に杏奈が励ますように言う。
「そうかもしれないけど・・・なにも今日ミスしなくてもいいよね・・・。ふふ・・・赤点かなぁ・・・あははは」
なんかもう自虐的になってる。
見ていて哀れだ・・・。
「出雲、落ち込むなっての。なんとかなるだろ」
「そうかなぁ・・・?」
「ああそうだ。多分」
「多分って・・・」
杏奈が呆れた目で俺を見る。
「それに、もう終わっちまったんだから。それを今さら悩んでも仕方ねえだろ。黙って結果を待て」
「・・・うん・・・!そうだね・・・!」
少し元気が出たのか、出雲はほんの少し笑いながら言う。
それを見て、杏奈も胸を撫で下ろしていた。
―――そして
テスト返却日になった
光天寺学園のテスト返却は生徒一人一人に全てのテスト結果が入った封筒が渡される。
点数をむやみに他人に知られないためらしい。
俺と杏奈はもうもらった。
俺は全教科9割を越えていたし、杏奈も文系科目は俺と同じくらい。
理系科目も、一応平均点には届いていた。
そして今、出雲がテスト結果をもらいに職員室に行っている。
そろそろ戻ってくるはずだ。
「大丈夫かしらね・・・」
杏奈が緊張した面持ちで呟く。
そこに、
がちゃり
という音と共に部屋のドアが開き、出雲が入ってきた。
手に封の開いた封筒を持っている。
「どうだった!?」
「うん・・・、とりあえず・・・全教科赤点は採らなかったよ・・・」
それを聞いて杏奈の表情が綻びる。
「ただ・・・」
「ただ?」
出雲が震える手で封筒から一枚の紙、答案用紙を取り出す。
「どうしよう杏奈ちゃん・・・時雨・・・」
そして、それを俺たちに見せる。
そこにはこう書いてあった。
――英語中間考査
天崎出雲
100点
「英語・・・満点とっちゃった・・・」
『・・・マジですか・・・』
俺と杏奈は口を揃えてそう言った。
短期間でここまで出雲の成績を上げるとは・・・
理事長・・・本当に天才だったんだな・・・
おまけ
「ふう・・・今回のテストもなんとか切り抜けられたわね」
私はテストの答案用紙を見て、そう言った。
「良かったですね。“赤”点とらなくて」
「ええホント・・・1年の時一度“赤”点をとって・・・。もう二度と“赤”点はとりたくないって思ったっけ・・・」
私はふと、その時を思い出す。
瞬間、身体中に悪寒が走った。
「そんなに恐ろしかったんですか?“赤”点刻み」
暦の問いに、私はフッと笑う。
「何度も言うわよ。空巻先生のやること為すことはね、恐ろしいなんて言葉で言い表せるものじゃないの・・・暦も体育祭の時に、味わったでしょ・・・?」
「・・・そうでしたね・・・ごめんなさい・・・」
暦は顔を青くしながら申し訳なさそうに言う。
「いいのよ・・・」
私は力なく笑いながら返した。
テストの時期になると、必ず“赤”点をとった時を思い出す。
二度と思い出したくないものなのに・・・
私は暦に聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「だから・・・テストは嫌いなのよ・・・」
おまけ2
私は英語の答案用紙に書かれているのを見て、がっくりと床に膝をついた。
――英語中間考査
風水翠
9点
「あと・・・一点だったのに・・・」
その言葉は、一人きりの部屋に虚しく響くだけだった。
はい。どうも水面です。
以前ここに掲載していた稲波瀬水無月、沙良暦、風水翠の人物紹介はキャラ図鑑の方へ移動させていただきました。
トークテーマ、感想、いつでも受け付けているのでよろしくお願いします。
では、次回予告です。
〈次回予告〉
いつものように部活をしていたら、いきなり部室の扉が開いた。
入ってきたのは・・・入部希望者!?
次回 金髪と碧眼