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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
序章 -始まるは、日常-
26/46

ep23 指切りと乾杯

遅くなって申し訳ありません。


第23話です。



《優勝はァ!青軍です!!》


カザミドリ先輩がそう言うと、青軍から割れんばかりの喜びの声があがる。


今は表彰式だ。


先ほどの代表リレーは、出雲のおかげで見事に一位をとり、それにより青軍は逆転勝利。


当の出雲は走ったあとに倒れて保健室に。

杏奈はその付き添いだ。


倒れるほどに走ったのか出雲は・・・。


そういえば練習の時も一回倒れてたな。


まあそれだけ頑張ったってことか。


とりあえず、トラブルもあったが、体育祭が無事終わって良かった。


そんなことを思いながら、俺は表彰式を見ながらあくびをする。


その時、


「行儀がなってませんね。表彰式は真面目に見るものですよ時雨君」


「・・・何でここにいるんですか」


沙良先輩が話しかけてきた。


一年が並ぶ列に何故この人がいる。

それにこの人がいるなら十中八九あの人もいるだろう。


「まあまあ、そんな細かいことは良いじゃない♪」


やっぱり稲波瀬先輩もいるか。


「二年の列はここじゃないと思うんですが」


「知ってますよ」


一瞬本当に殴りたいという衝動が込み上げてきた。


「気づかれなければ良いじゃないの♪」


「そうですよ」


「・・・」


そういう問題かよ、と心の中でツッコミを入れる。


だがこの人たちに常識を説いても意味がない。


そう思い黙ってることにした。


「それにしても、ホントに速かったわね~、出雲ちゃん」


「杏奈ちゃんの言う通りでしたね」


二人が感心したように言う。

そのことに関しては同感だ。


出雲の潜在能力の大きさには正直驚いた。

練習の時よりも速くなってたからな。


「ふふふ。これはミナも負けていられませんね」


「な、なに言ってるのよ暦!///」


ニヤニヤしながら言う沙良先輩に少し怒ったような顔の稲波瀬先輩。


少し顔が赤いように見えるが、気のせいだろう。


「運動だけが取り柄ですからね~」


「なっ・・・!!!」


「あ、あとはその豊満な胸とか」


「~~~~~!!!///」


からかうように言う沙良先輩を稲波瀬先輩は顔を真っ赤にしながら抗議の目で見る。


普段からかわれている分、これだけ取り乱す稲波瀬先輩を見るのは、新鮮だし面白い。


「こ・よ・みぃ~~~~!!!」


「反応が面白いんですよミナは。からかいたくもなります」


沙良先輩が楽しそうに言う。


やっぱり稲波瀬先輩より沙良先輩の方が一枚上手だな。


「もう・・・!!!」


「ごめんなさいミナ。冗談ですよ」


ホントに冗談か疑わしい。


というか・・・これだけ騒がしくしたらいい加減に気づかれると思うんだが・・・。


そんな俺の予感は正しかったらしく、不意に稲波瀬先輩と沙良先輩の肩がポンと叩かれた。


「稲波瀬さん。沙良さん。なにをやってるんですか?」


稲波瀬先輩と沙良先輩はその声を聞くと、ギギギと壊れたロボットのような動きで振り替える。


そこにははたして、空巻先生がいた。


微かに微笑みを浮かべながら二人を見ているが、その目は全く笑っていない。


「二年生の列はここじゃありませんよね?」


微笑んだまま訊く空巻先生に二人は冷や汗をだらだらと流しながら頷く。


「じゃあ、何故あなたたちはここにいるんでしょうかね」


「あ、いや・・・あの・・・」


「ええと・・・」


二人は顔をひきつらせる。

言い訳の言葉が思いつかないようだ。


そんな二人に空巻先生はこの世のものとは思えないほど恐ろしい、嗜虐的な笑みを浮かべて、


「血祭り決定ですね♪」


とても嬉しそうにそう言った。


その予想通りの言葉を聞いて、稲波瀬先輩と沙良先輩は一気に真っ青になる。


「それじゃあ、行きましょうか♪」


空巻先生は二人の首根っこをつかみ引きずり始める。


二人は抵抗めできず、喋ることもできず、ただ顔を真っ青にし口をパクパクさせながら引きずられていく。


俺に向かって目で「助けて欲しい」と懇願しているが、無理だ。


助けられる訳がない。


「・・・ご愁傷様です・・・」


『い、いやああああああああああああああ!!!』


俺が哀れみの念を込めて言うと、二人は表彰式の最中にも関わらず、大音量で悲鳴をあげた。


生徒たちから視線が集まる。

当然だが。


そして俺は、


「あの二人にも・・・勝てない相手はいるんだな・・・」


そう、呟いた。










SIDE 出雲


目を開けると、白い天井が視界に入ってきた。

私が今いるのがベッドの上からして、多分保健室なんだろう。


代表リレーで走ったあと、倒れちゃったんだ・・・。


そのせいかは分からないけど、少し頭がぼーっとする・・・。

代表リレーはどうなったんだっけ・・・。

私・・・勝てたのかな・・・


そう思っていると、不意に誰かが私の顔を覗き込んできた。


「起きた?」


「あ・・・」


杏奈ちゃんだ。


「皆驚いてたわよ。あんた走ったあと急に倒れちゃうんだもん」


「あ、はは・・・」


苦笑混じりに言う杏奈ちゃんに私は同じように苦笑いで返す。


「ねえ杏奈ちゃん・・・」


「ん?」


「リレーと・・・優勝はどうなったの・・・?」


私がそう言うと、杏奈ちゃんはにっこりと微笑む。


「勝ったわ。青軍の優勝よ」


それを聞いて私は少しほっとする。


顔にも出ていたんだろうか、杏奈ちゃんが私を見てクスリと笑う。


「凄かったわよ。最後のスパート」


「えへへ・・・。あのときは無我夢中でよく覚えてないんだけどね・・・」


ほんの少し照れ臭い。


私のことだから、多分これも顔に出ているだろう。


「自慢していいのよ?軍の優勝に一番貢献したのはあんたなんだから」


杏奈ちゃんはそんな私に少しからかうような口調で言う。


「そ、そんなの・・・!」


「冗談よ、冗談」


私が困ったような声をあげると杏奈ちゃんは再びクスリと笑いながら言う。


「ま、あんたのおかげで勝てたのはホントなんだから、少しは喜んでいいんじゃない?」


「そ、そうかな・・・」


「そうそう」


杏奈ちゃんはそう言うと人懐っこい笑みを浮かべる。


それにつられて私も自然と顔が綻んでしまった。




「あ、杏奈ちゃん・・・」


「なに?」


「あの・・・足・・・ホントにごめんね・・・」


私がそう言うと杏奈ちゃんは少し驚いたような顔になる。


「なにあんた?まだ気にしてるの?」


「・・・」


私はなにも言わずに俯く。


私も、謝るのは今更な気がするけど、やっぱり私がしたことはそう簡単に許してもらえるものじゃないと思う。


たとえ杏奈ちゃんが許してくれても、私自身が自分を許せないんだ。


だから・・・もう一度だけいいから・・・謝って起きたかった。


そんなことを思っていると、


「ていっ」


「ぴぎゃっ!」


不意におでこに痛みが走る。


杏奈ちゃんが私にでこピンをしたみたいだ。


「い、いたいよ~・・・なにするの杏奈ちゃん・・・」


「あんたが過ぎたことをいつまでも引き摺ってるからよ」


「そんなぁ~・・・」


私は痛むおでこを両手で押さえる。


少し涙目にもなっていた。


「あたしがいいって言うんだからいいの。それにあんたに心配されなくても、あたしは時雨に慰めてもらったしね」


「えっ!?」


悪戯っぽく言う杏奈ちゃんに私は驚く。


「いいでしょ?」


「む~・・・」


私は頬を膨らます。


我ながら子どもっぽい反応だと思うけど。


「・・・でも」


そこで、杏奈ちゃんが急に真面目な・・・それでいて優しい目で私を見る。


「ありがとね・・・出雲・・・」


「ええ・・・!?」


私は驚きの声をあげる。

いきなりお礼を言われるなんて思ってもいなかったから。


「あ、杏奈ちゃん・・・なんで、お礼・・・!?」


杏奈ちゃんはふっと笑い、






「約束・・・守ってくれたでしょ」






そう言った。


「だから、そのお礼よ」


「・・・」


その時、私の中に何故か得も言えないほどの嬉しさが込み上げてきた。


多分、杏奈ちゃんの言葉が・・・私を安心させてくれたからだと思う・・・。


こんな私でも・・・杏奈ちゃんとの約束をちゃんと守れたって・・・


杏奈ちゃんは約束を守れた私をちゃんと見てくれてるって・・・


そう考えると・・・さらに心が何か暖かいもので満たされていくみたいな感じがした・・・。


そして・・・嬉しくて・・・涙が出てきそうになってしまう。


・・・ダメだ・・・


杏奈ちゃんは私に言ってくれた・・・。


「笑って」って言ってくれた・・・!


嬉しくて泣くのは、悲しくて泣くより全然いいことだと思う・・・。

皆が嬉しくて皆で泣く・・・それも良いかもしれない。


だけどやっぱり・・・




嬉しい時は・・・




笑うのが一番なんだ・・・!!




「杏奈ちゃん・・・」


私は、今自分ができる精一杯の笑顔で、杏奈ちゃんを見る。




「私も・・・ありがとう!!」




「・・・いい笑顔!」


杏奈ちゃんもにっこり笑って返してくれる。


嬉しい・・・!


すごく幸せな気持ちになる!


そうだよ・・・笑うから幸せになれるんだ・・・!


そして・・・幸せだから、もっともっと笑えるんだ!


「ホント・・・杏奈ちゃんの言う通りだったよ・・・!」


「ん?」


「笑うって・・・良いね・・・!」


杏奈ちゃんは一瞬キョトンとした顔をしたけど、またすぐに笑って


「当然でしょ!」


そう言う。



「それじゃ、はい!」


杏奈ちゃんは右手を小指を立てて差し出す。


「?」


私は一瞬それが何を意味しているのか分からなかった。


「指切りよ」


「あっ・・・!」


杏奈ちゃんの言葉でやっと気づき、杏奈ちゃんと同じように私も小指を立てて右手を差し出す。


「これからも、悲しいことやつらいことが沢山あると思うけど・・・笑顔を忘れちゃダメだからね。約束!」


「うん・・・約束!」


杏奈ちゃんと私は互いに小指を絡ませ合い、二人同時に言う。


『指切りげんまん!』





杏奈ちゃんとの約束・・・今度もまた・・・絶対守るよ・・・!










「そういえば、岸田先生は?」


指切りをして数分後、私は保健室にいるはずの、校医の岸田先生がいないことを今更ながら疑問に思い、杏奈ちゃんに問う。


「ああ、岸田先生ね。出雲が起きる十分くらい前に出ていったわ。理由は知らないけどね」


「ふ~ん」


そこに、噂をすれば影。


保健室の扉がガラッと開き、だらしなく気崩した白衣姿で眠そうな目をした岸田先生が入ってきた。


両手にビニール袋を持っている。


「あ、天崎さん起きたんですね~。よかったです~」


岸田先生は私を見るといつものように間延びした喋り方で言う。


「標部さんも付き添いお疲れ様です~」


「はあ・・・」


杏奈ちゃんはその間延びした声に気が抜けたのだろうか、曖昧な返事をした。


「岸田先生、そのビニール袋に入っているのは何ですか?」


「お茶菓子ですよ~」


私の問いに岸田先生は嬉しそうに答える。


『お茶菓子?』


私と杏奈ちゃんは声を揃えて言った。


わざわざお茶菓子を買うために保健室を開けていたんだろうか。


それは校医としてどうなんだろう。


もし買いに行ってる間に怪我人が来たらどうするつもりなのか疑問に思った。


「私はお茶が好きでして~、それに合うお茶菓子も好きなんですよ~。だから、買いに行ってたんです~」


「そうですか・・・」


私は思わず苦笑しとしまう。


見ると、杏奈ちゃんも同じように苦笑していた。


「色々ありますよ~。お煎餅とかお饅頭とか大福とか~」


「・・・じゅるり」


私は岸田先生の言葉を聞いてついよだれが出そうになってしまった。


仕方ないと思う。


私は甘いものが大好きなんだから。


杏奈ちゃんはそんな私を少し呆れた目で見ている。


「どうせなら、皆で食べましょうか~」


「はい!そうしましょう!」


「あんたね・・・」


岸田先生がベッドの側に広げたお饅頭に私が手をのばそうとした時、再び扉がガラッと開く。


「出雲、大丈夫か?」


「時雨!」


時雨が入ってきたのだ。


いや、時雨だけじゃない。


「あ~らら?なんか美味しそうなものがあるじゃない♪」


「これは私達も是非いただきたいですね」


「なんだ起きてたんだ泥棒猫・・・」


「保健室というのは中々萌えポイントが強いですねェ」


時雨の後から稲波瀬先輩、沙良先輩、小夜、カザミドリ先輩が入ってくる。


小夜の言ったことが軽くムカついたけど、今は我慢しておこう。


「時雨・・・!それに小夜さんに先輩たちも・・・!何で来たの・・・!?」

杏奈ちゃんが驚いた顔で時雨に、というか今入ってきた人達全員に問いかける。


無理もない。


時雨が来るのは全然分かる。先輩たちや小夜が来るのが不思議だと思ったんだと思う。


「何でって・・・来ちゃ悪いのかよ」


時雨がジト目で杏奈ちゃんを見ると、杏奈ちゃんは「別にそういう訳じゃないわよ!」と少し怒ったように言う。


「表彰式が終わったので、出雲ちゃんの様子を見に来たんですよ」


「リレーのあとすぐに倒れちゃって心配したんだから」


私は稲波瀬先輩と沙良先輩のそんな言葉にジーンと来る。


「私は保健室に行けば何か素晴らしい萌え萌えイベントに遭えると思ってここに来ました。あぁもちろん、心配もしてましたけどねェ」


カザミドリ先輩がニヤリと笑いながら言う。

実にこの人らしいと思う。


「私は時雨が行くから来ただけだよ」


小夜が素っ気なく言う。

まあブラコンらしい。


「それで、出雲、調子はどうだ?」


「絶好調だよ!」


私は元気よく答えると時雨は安心したように微笑む。


「良かったわね。元気になって」


稲波瀬先輩がそう言うが、言っている本人は何故か元気がないように見える。


「稲波瀬先輩は調子悪そうですけど・・・何かあったんですか?」


「・・・」


「空巻先生に“血祭り”にあげられたんですよ・・・」

黙っている稲波瀬先輩の代わりに沙良先輩が答える。


うん。一度受けたから恐ろしさはよく分かる。


「それは大変でしたねェ」


依然にやにや笑いをしているカザミドリ先輩が、全く哀れみの念が感じられない哀れみの言葉をかける。


「そんなに怖いの?空巻先生の“血祭り”って」


「“怖い”?違うな杏奈。“あれ”は怖いなんていう言葉じゃ言い表せねえ」


杏奈ちゃんの問いに時雨が顔を青くしながら答える。


稲波瀬先と沙良先輩、ついでに私も同時に「うんうん」と頷く。


そこに


「皆さ~ん、お茶が入りましたよ~」


岸田先生が人数分のお茶を乗せたお盆を持って来た。


「あら、丁度いいじゃない」


稲波瀬先輩が何かを思いついたような顔になる。


「乾杯しましょうよ。青軍が優勝したことだし」


「それは良いですねェ。私は軍には属してはいませんが、この際どうでもいいです」


「いいんじゃないかな!私も賛成だよ」


「お茶でやるのかよ・・・まあいいか」


皆口々に肯定の声をあげる。


私は杏奈ちゃんを見ると、「いいんじゃない」と言って頷いた。






「皆さん!グラス・・・じゃなくて、湯呑みは持ちましたかァ!?」


カザミドリ先輩が全員に向けて言う。


それに答えるように全員が頷く。


「それではァ!青軍の優勝を祝って、乾杯!!」






『かんぱ~い!!!』






お茶を掲げてやる、ちょっと変わった乾杯だった。




ええ・・・まず、遅くなって申し訳ありませんでした。


執筆しようとは思っているのですが、中々進まなくて・・・。


それと、これも申し訳ありませんが、今回もトークタイムはお休みです。


理由は、出来れば聞かないでいただけると幸いです。


最近、卒業だのなんだのでさらに忙しくなってきてます。


ただ、もうすぐ卒業なので、そしたら少しはスピードがあがるかと。


それでは、こんな作者ですが、これからも読んでいただけたら嬉しいです。


今回は、次回予告もなしです。




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