表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
序章 -始まるは、日常-
25/46

ep22 アンカーと全身全霊

〈時雨〉「第22話だ」


遅くなってすいません。


ではどうぞ。


「え?捻挫・・・?」


俺と杏奈は応援席に戻ると、昼食を終えたらしく二人で座っていた稲波瀬先輩と沙良先輩に杏奈の捻挫の件を話した。


同じ青軍だし、なんとなく・・・この二人には話してもいいと思ったからだ。


「杏奈ちゃんは代表リレーの選手でしょ?どうするのよ」


稲波瀬先輩は少し困ったような顔で言う。


「困りましたね・・・」


沙良先輩もまた同様だ。


「あ、選手の心配は必要ないです。出雲が代わりに走ることになりましたから」


「出雲ちゃんが?」


「よくそんなことできましたね」


稲波瀬先輩は少し驚いたような、沙良先輩は少し感心したような顔で言う。


「実行委員に頼んだんですよ。カザミドリ先輩が委員長だったんであっさり許可してくれました」


俺がそう言うと稲波瀬が一瞬ぴくりと眉を顰める。


「時雨君・・・どういう意味かしら?」


「は?」


俺は訳が分からず間抜けな声を出す。


実際訳が分からないのだから仕方ない。


「“カザミドリ先輩が委員長だったんであっさり”って・・・まるであなたが風水さんと仲がいいみたいに聞こえるんだけど?いつの間に知り合ったのかしら?」


何故だろう。

稲波瀬先輩は笑っているのに笑ってない気がする。


「いや・・・さっき昼食の時に偶然一緒の場所で食べただけですよ・・・。それで、カザミドリ先輩も捻挫の現場に居合わせてて、事情をよく分かってくれてたから、許可を出してくれたんじゃないですか」


稲波瀬先輩はそれを聞くと「へぇ・・・そうなんだ」と言葉では納得するがその顔は全く納得していないような顔だった。


ていうかなんでそんなことを聞くんだよ。


「なんでそんなこと聞くのかって思ってますね時雨君?」



「はい思ってます」


もう読心術のことはツッコまないことを心の中で決めながら俺は頷く。


「それはですね。ミナが嫉妬してるからですよ」


「ちょっ・・・暦!!///」


ミナ先輩がそう言うと稲波瀬が顔を赤くする。



だがそれよりも俺には気になることがある。

「稲波瀬先輩が誰に嫉妬してるんですか?」


稲波瀬先輩が嫉妬するなんていうことがいつの間にあったのだろうか。


そんな風に思いながら言うと、


『はあ~・・・』


稲波瀬先輩ととなりにいる杏奈が大きくため息をつく。

沙良先輩はクスクス笑っていた。


訳が分からない。


なんでため息をつかれなきゃいけないんだ。


そんなに変なことを聞いたのか俺は?


「杏奈ちゃん、あなたと出雲ちゃんには心底同情するわ・・・」


稲波瀬が口を開く。

その言葉からは本人が言う通り、憐れみの念がひしひしと感じられた。


「平気・・・慣れてきたから・・・」


杏奈はそれに答えるようにため息混じりに言う。


沙良先輩は依然クスクスと含み笑いをしている。


俺はもう一度こう思う。


訳が分からない。


『普通ここまで鈍いのはあり得ないでしょ・・・』


二人が同時に何か言ったが声が小さくてよく聞こえなかった。



と、そこで


「まあ今はその話題は置いときましょう。ね?」


沙良先輩が心底楽しそうな顔で二人に向けてそう言う。


なにが楽しいんだろうかこの人は・・・。


稲波瀬先輩と杏奈はまだ少しむすっとした表情を浮かべていたが、小さく頷く。


「それで、出雲ちゃんが代わりに走ることは分かりました。その出雲ちゃんは今どこへ行ったんですか?」


「今、準備運動してると思うわ」


沙良先輩の問いに杏奈が答える。



「感心ですね」


「どこでやってるのかしら?」


「校庭のどこかでやってると思うんだけど・・・」


杏奈が少し自信無さげに言う。


まるで『校庭のどこでやってるかは分からない』と言っているような表情だ。


仕方がないことだろう。

この学園の校庭は広い。

それに生徒数もそれなりなのだ。


ほとんどの生徒が集まっている今、校庭をちょっと見渡すくらいじゃ見つからない。


「そのどこかが分からないのね」


稲波瀬先輩は杏奈の言いたいことを汲み取ったらしく、やや呆れ気味に言う。


それに対し杏奈は少しばつが悪そうに頷いた。


「残念。手伝ってあげようかと思ったのに」


そう言っているが実のところあまり残念そうではない。


大方、稲波瀬先輩のことだから軽く出雲をからかうつもりだったのだろう。


そもそも稲波瀬先輩がそのような親切をする訳がない。


「・・・なんか今失礼なことを考えられていた気がするわね・・・」


「気ノセイデジャナイデスカ」


つい喋り方が片言になってしまった。


読心術恐ろしや・・・。


「・・・」


稲波瀬先輩は訝しげな目で俺を見る。


しまった。


今の俺のセリフじゃ自ら「俺が失礼なこと考えていた犯人です」と言ったみたいなものじゃないか。


墓穴を掘った。


バカだ俺。




俺がそんな風に軽く自己嫌悪していると稲波瀬先輩がため息をつく。


またため息かこの野郎。


何故ため息をつく、と言いたかったが稲波瀬先輩が話し始めそうだったのでやめる。


「時雨君って・・・カッコいい見た目してるけど・・・内心結構酷いこと考えてるわよね」


『うんうん』


稲波瀬先輩の失礼な言葉に杏奈と沙良先輩が同時に頷く。


なにも二人揃って頷くことはないじゃないか。


ていうか、俺が内心酷いことを考えているって、そっちの方が酷いだろ。


これは抗議せずにはいられない。

俺はそう思い口を開く。


「ちょっと待ってくださいよ。俺がいつ酷いことを考えていたって言うんですか」


俺がそう言うと稲波瀬先輩は再び大きくため息をついた。


いい加減やめてほしい。


つかれる側は結構傷つく・・・。


そんな俺の思いとは裏腹に、稲波瀬先輩は憐れむような目で俺を見ながら言う。


「それも・・・無意識だから、余計に質が悪いのよね~・・・」


杏奈と沙良が再びうんうんと頷く。



「どういう意味ですかそりゃ」


俺がジト目で言う。


すると三人とも俺の方を向いて、




『はあぁ~・・・』


今までで一番大きなため息をついた。


本当に、訳が分からない。


俺が何をしたって言うんだ・・・。




それからすぐに午後の部が始まった。


だが出雲はまだ戻ってこない。


どうやら校庭以外の場所で準備運動をしているようだ。


まあ、準備運動がそう早く終わるもんでもない。


そう思い、俺は午後の部の競技を見物した。










・・・・・・・・・・・










代表リレーの二つ前の競技の途中、出雲は汗だくで帰ってきた。

息も乱れている。


相当やっていたらしい。


というか最早準備運動をしてなる状態じゃない。


「お前・・・どれだけやってた・・・」


「えっと、たく、さん・・・!」


俺が呆れながら訊くと息が乱れているためか、途切れ途切れに答える。


「それに、お前どこでやってたんだ?」


俺が訊くと出雲は深呼吸をして、話し始める。


「屋内運動場!最初は校庭でやろうと思ったんだけど、人が多くて出来なかったから!」


ああ成る程。


屋内運動場。


光天寺学園にある施設の一つだ。

校庭よりは狭いが、それでも準備運動をするには充分の広さがある。


休日以外はいつも開いてるから、生徒たちが遊びやら部活の自主練やらで利用している。


今日は体育祭だから誰も使っていなかったんだろう。


ちなみに、光天寺学園にはまだまだ沢山の施設があるが、今はそんなこと考えている暇はない。


《さあ!勝負がつきましたァ!》


そこで、カザミドリ先輩の実況が入る。


どうやら今やっていた競技が終わったらしい。


確か、騎馬戦だ。

体育祭で盛り上がる競技の一つだな。


バトルロワイヤル形式で最後まで残った軍が一位。

二位三位は最後の騎馬が倒れた順で決まる・・・らしい。


一位をとったのは選手の様子を見る限り、紅軍だろう。


二位が白軍、青軍はビリ。


この野郎。


無性に腹が立つな。


「また点差をつけられてしまいましたね・・・」


「もう、追い付いてきてたのに」


沙良先輩と稲波瀬先輩が少し不機嫌そうに言う。


出雲と杏奈も同様、不満げな表情になっていた。


だが・・・まだだ。


俺はにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「まあいいじゃないですか。この程度の点差、代表リレーで勝てば逆転できますよ」


「あら、自信満々ね時雨君」


それに答えるように稲波瀬先輩も不敵な笑みを浮かべながら言う。


「勝つ自信があるんですか?」


「はい」


沙良先輩の問いにも俺は自信満々に答える。


「時雨は速いからね。時雨がアンカーならもし私がミスしても大丈夫だよね。あ!でも私がミスするっていうのはホントにもしもの話だからね!」


・・・?


今出雲が言ったことの中に変な言葉があった。


「どうしたのよ時雨?」


杏奈が訊いてくる。


「・・・出雲、お前今誰がアンカーだって言った?」


「え?時雨でしょ?」


「違うぞ」


俺は即答する。


その即答ぶりに出雲は少し呆気にとられる。


そんな出雲に俺はこう言った。


「アンカーは出雲。お前だ」



「・・・・・・え?」










・・・・・・・・・・・










SIDE 出雲


私と時雨は今代表リレーの選手の集合場所にいる。


もうすぐ代表リレーの一つ前の競技が終わる。


その時間が近づいてくればくるほど、私の頭の中は真っ白になっていく。


理由は今、私が肩からかけているのアンカー用のたすき。


さっき時雨が言ったことが未だに信じられない。


少し話を整理してみよう。


私は時雨がアンカーで、私はリレーの三番目か四番目くらいを走ると思っていた。


だけど時雨が言うには、時雨は五番目、つまりアンカーの一つ前で、アンカーは私。


アンカー。


リレーでは一番重要と言ってもいいくらいの役所。


それを私がやる。


杏奈ちゃんの代わりに走ることになった私がやる。


どういうことだろう。


なんで私が?

普通は一番脚が速い時雨がやる筈。


・・・もしかしたら、元々杏奈ちゃんがアンカーをやる筈だったのだろうか。

それなら納得がいく。


時雨には敵わないけど、杏奈ちゃんも充分に脚は速い。

それで立候補して、アンカーになった。


そうして杏奈ちゃんの代わりになった私が杏奈ちゃんの代わりにアンカーになる。


そう考えれば何ら不思議はない。


うん。


不思議はなくったけど、今度はどんどん緊張感が込み上がってきた。



私にできるの?


私だって運動動が苦手な訳ではない。


それでも、沢山いる生徒の中から選ばれた人たちと比べたら、私の力なんてまだまだ。


それなのに、アンカーだなんて・・・。


杏奈ちゃんへの償いのためと思ってやる気を出してたけど・・・とても不安になってくる。



「出雲、緊張してるか?」


そう思っていると、時雨が話しかけてきた。


緊張してない訳ない。


そう言おうとして私は口をつぐむ。


今、ちょっとでも弱音を吐いたらダメだ。


杏奈ちゃんと、約束したんだから・・・!


絶対勝つって!


「大丈夫だよ!」


私が笑いながら言うと、時雨は安心したように頷く。




《さァてェ!次はいよいよ、光天寺学園体育祭、最後の競技ィ!》


カザミドリ先輩の実況が入る。


一つ前の競技も終わり、ついに始まる。


代表リレーが・・・!










・・・・・・・・・・・










SIDE 杏奈


「いよいよね・・・!」


「はい・・・!」


稲波瀬先輩と沙良先輩が少し興奮した様子で言う。


かく言うあたしも、これから始まる代表リレーを前にして、少しどきどきしている。


あたしが走る筈だった代表リレー。


捻挫をしたから走れなくってしまった代表リレー。


少し残念だけど、もうそんなことは気にしない。


この代表リレー、必ず勝ってくれると信じているから。



「時雨・・・出雲・・・頑張んなさいよ・・・!」


誰にも聞こえないよう、あたしは呟くようにそう言った。




「それにしても、出雲ちゃんがアンカーをやるとはね~」


稲波瀬先輩が苦笑しながら言う。


「アンカーと言ったら、リレーではとても重要な役割を担いますからね。出雲ちゃんがちゃんと務められるかどうか、ですね」


「ちょっと心配ね」


二人がそう思うのは仕方がない。

あたしも最初出雲がアンカーをやると時雨が言った時は驚いた。


だけど、すぐに時雨の意図に気がついた。


「まあ、元々杏奈ちゃんがアンカーをやる予定だったんなら仕方ないわよね」


「それは違うわ、稲波瀬先輩」


『え?』


稲波瀬先輩が、それに沙良先輩も、あたしの言葉を聞いて怪訝な顔になる。



「あたしがアンカーをやる予定はなかった。元々は時雨がやる予定だったのよ」


「じゃあ・・・何故・・・?」


意味がよく分からないといった表情で沙良先輩が訊いてくる。


「あたしと時雨と出雲が、一緒に体育祭の練習をしてたのは知ってる?」


「ええ、まあ・・・何度か見たことは・・・」


「それで、あたしと時雨は代表リレーのために練習をしてて、出雲にも一緒に走ってもらってたの」


「うんうん」と二人は頷く。


「もちろん出雲よりはあたしや時雨の方が速かったわ。だけど・・・練習を重ねているうちに、出雲がどんどんタイムをあげていった。元々成長しやすいタイプだったのかもしれないわね」


「それで、あなたよりも速くなってしまったんですか?」


あたしは沙良先輩の問いに首を横に振る。


「出雲は速くなったけど、それでもあたしには勝てなかった」


そこであたしは一呼吸置いて、


「150メートルではね・・・」



そこで二人ははっと何かに気づいたような顔になる。


「代表リレーで一人が走る距離は150メートル。だからあたしも出雲も、その距離で練習してきた。だけど、体育祭の三日前、時雨が言ってきたのよ。「出雲はいまいち加速仕切れてないな。少し距離を長くして走ってみたらどうだ?」ってね」


「それで・・・?」


「だから試しに、アンカーが走る距離の250メートルを走ってみたの。そしたら・・・」


二人が息を呑む。


「負けたわ。しかも差をつけられて」


二人が少し驚いた顔をする。


「元々あたしは中距離はそれほど得意じゃないけど、それでも人並み以上には速かったわ。でも、出雲はあたしを抜かしたの。その後の出雲の加速は凄かったわ・・・。きっと、出雲は中距離が得意だったんだと思う」


依然驚いた表情の二人にあたしは続けて言う。


「そして、一番驚いたのは・・・その出雲のタイムが・・・時雨より、ほんの少し速かったこと」


『っ・・・!!』


今度は二人とも、心底驚いた様で、二人で顔を見合わせ、再びこちらを向く。


すると、稲波瀬先輩が口を開いた。


「それ・・・ホントなの・・・?」


「ええ」


あたしは頷く。


「だから時雨は、あたしが走れなくなった今、出雲をアンカーにしたのよ。多分これもカザミドリ先輩に頼んだんじゃないかしら」


二人はまだ信じられないと言った顔でこちらを見ている。


「でも、当の出雲はあたしを抜かしたことも、時雨のタイムを抜かしたことも気づいてないんだけどね。無我夢中で走ったあとにすぐ倒れちゃって」


それを聞いた二人は苦笑する。


「あの・・・出雲ちゃんがねぇ・・・」


「はい・・・信じがたい話です・・・」


そこで稲波瀬先輩が小さくをため息をつく。


「・・・まあ、今なんか言っても意味ないわね」


「ですね。今は応援に徹しましょう」


沙良先輩も頷く。


「それに、出雲ちゃんがそんなに速く走れるんなら、青軍が優勝できるかもしれない―――」


「稲波瀬先輩」


あたしは稲波瀬先輩の言葉を遮ると、


「優勝できるかもしれない、じゃない。優勝“できる”わよ。あの二人がいれば・・・必ず!」


強気な笑みを見せながら言う。

稲波瀬先輩は一瞬キョトンとした表情になったが、


「そうね・・・!」


すぐに不敵な笑みを浮かべ力強くそう言う。



沙良先輩が、そんなあたしたちを見て嬉しそうに微笑んでいたのは、言うまでもなかった。










・・・・・・・・・・・










SIDE 出雲



選手入場を済ませ、走者がそれぞれの待機位置に着く。


第一走者と第三走者と第五走者、つまり時雨がスタート地点の待機位置。


第二走者と第四走者と私含める第六走者がそこからコース沿い150メートル進んだところ。


コースは一周300メートル。



このコースを一つの軍に六人。合計十八人走り、一位を競うんだ。


第一走者の人はそれぞれ軍の色のバトンを持っている。


《さあ!!いよいよスタートです!!最後の競技、代表リレー!!!》


カザミドリ先輩の声が校庭中に響く。


心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。


《それでは、第一走者、位置についてェ!》


カザミドリ先輩の指示通り、第一走者がスタート地点に並ぶ。


左から紅軍、白軍、青軍の並び方。


《よォい・・・》


カザミドリ先輩が解説席のテーブルに片足をつき、右手に持っているスタート用の銃を高く掲げる。


隣にいる小夜は耳を両手で塞ぐ。


選手それぞれはスタートの体勢になる。






一瞬の静寂。






そして、





―――パァン!!!



カザミドリ先輩が銃の引き金を引き、乾いた音が鳴り響く。


それと同時に、選手達は走り出していた。


流石は代表リレーの選手に選ばれるただけあって選手三人とも速い。


また、実力が均衡しているためか、三人の間にほとんど距離はない。



そしてあっと言う間に第二走者へとバトンが渡った。


と、そこで青軍が他二軍に差をつけられる。

どうやらバトンを渡す時に少し手間取ったようだ。


幸い、その手間取りも一瞬だったから差はそれほどおおきくない。


だけど・・・その後、青軍の選手は追い付けず、第三走者、第四走者と、差はどんどんつけられていき、第五走者・・・時雨にバトンが渡る時にはもう100メートルほど差がついていた。


頭に不安の文字がよぎる。



だけど、時雨がバトンを受け取った瞬間、それは無くなった。


時雨は凄まじいスピードでコースを走り抜けていく。


青軍の応援席からは割れるような歓声があがる。


そして、ついには二位につけていた白軍の選手を追い抜いた。



このまま紅軍の選手も追い抜いて欲しい。


だけど、そうもいかない。


そう。もう私が走る番だ。


相も変わらず時雨は凄まじいスピードで私の元に走ってくる。


時雨を見て心を満たしていた安心感が急速に失われ、同時に様々な感情が私の頭の中を巡り始める。


私にできるのだろうか。今更ながらそんな気持ちも込み上げてくる。


杏奈ちゃんと約束をしたはず。

絶対に勝つと、約束したはず。


・・・なのに、怖い。


どうしようもないくらいに怖いし・・・不安だ。


私が負けたら、杏奈ちゃんにはどんな顔をして会えば良いのか分からない。


・・・杏奈ちゃんだけじゃない。

私や杏奈ちゃんのために動いてくれた時雨にも、同じ青軍の稲波瀬先輩と沙良先輩にも、選手替えを承諾してくれたカザミドリ先輩にも。




私にかかっているんだ。


青軍が優勝できるかどうかも。

杏奈ちゃんに償いができるかどうかも。


できなかった時のことを考えると、怖い。


すごく怖い。


逃げ出したい。


今すぐにでもこの場から逃げ出したい。


だけど、そんなことができる訳がない。


どうしよう。


どうしよう。



私は・・・ほんの数秒の間で、今のことを考えていた。




もう、時雨がくるまで僅か。


運動してもいないのに、汗が出てくる。


脚が震える。


たった今まで思いを張り巡らせていた頭の中も真っ白になる。


心臓の鼓動はもう周りに聞こえるんじゃないかというくらい大きくなっていた。



そして・・・時雨が来た。


私の手にバトンを渡す。


そのバトンの感触はとても無機質なものだった。


だけど、そこから伝わった・・・時雨の、他の選手たちの温もりが・・・私の緊張感をほんの少し軽くする。



その時、ほんの一瞬だけ。


時雨と目が合った。






―――お前ならできる―――






私の思い過ごしかもしれない。



けど・・・時雨の力強い瞳を見た時・・・本当にそんな風に言っているような気がしたんだ。






気づけば私は右手にバトンをぎゅっと持って、走り出していた。


不思議なことに、さっきまでの緊張感と不安感は全て払拭されている。


その代わり、私の中でとても力強い感情が生まれている。


時雨が・・・勇気をくれたんだ。


私を信じて・・・バトンと一緒に、勇気を託してくれたんだ。



なら・・・それに答えない訳にはいかない。



私は脚を動かす。


走る。


絶対に・・・勝ってやる・・・!


私を信じてくれている人のために・・・!










・・・・・・・・・・・










応援席からは応援の言葉がかけられているのだろうが、私の耳には何故か入らない。


自分の周りがやけに静かに感じる。


紅軍の選手の背中だけが見える。


もう・・・100メートルは走った。



私は追い抜こうと必死に脚を動かすが、そう簡単にはいかず紅軍の選手との距離が縮められない。



だんだんと脚を動かすのが重くなる。



息も乱れる。



おかしいな。

ちゃんと準備運動したのに・・・。


抜かせない。


払拭されたはずの不安感が再びよみがえってくるような気がする。


汗で濡れた髪が頬や首筋に張り付いて不快な感触を覚える。



やっぱり・・・私には無理なんだろうか・・・。


せっかく時雨からもらった勇気も・・・無駄になってしまうんだろうか・・・。




そんな風に思っている、その時、






「出雲――――!!!」




「っ・・・!」


私はいきなり聞こえた、とても聞き慣れた声に驚きつつも、その声がした方向・・・


青軍の応援席に目を向ける。




そこには足を捻挫しているのにもかかわらず、立ち上がって、こっちを向いている杏奈ちゃんがいた。


「頑張んなさいよ!!あんたの本気は、そんなもんじゃないでしょ!!!」


騒がしい中でもはっきり聞こえるくらい、杏奈ちゃんは声を張り上げて叫ぶ。




私の本気は・・・そんなもんじゃない・・・?


今が私の本気だよ・・・杏奈ちゃん・・・。


ごめんなさい・・・杏奈ちゃん。

私、やっぱり杏奈ちゃんの代わりは荷が重かった―――




「勝ちなさいよ!!!あたし・・・あんたなら絶対に・・・できるって・・・信じてるんだから!!!!」


「っ・・・!!!」


私は一瞬動かしている脚が止まってしまうかと思った。






そうだよ・・・大切なことを忘れてた。



さっきまで自分でも思ってたじゃないか。


“信じてくれている人がいる”って・・・


簡単なことだったんだ。



優勝とか・・・償いとか・・・そんなのは終わったあとに考えること。



私はただ・・・がむしゃらに、無我夢中に、全身全霊をかけて・・・友達の思いに答えれば良い・・・!!!




それが・・・私なんだから・・・!!!!






「ぅぅぅぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」


私は大声をあげながら、力が抜けかかっていた脚を再び動かす。


相変わらず脚は重い。


だけど・・・そんなの関係ない・・・!!!!


走る!


走る!



紅軍の選手の背中がだんだん近づいてくる。



呼吸はもうまともにできていない。


気を抜けば脚から崩れ落ちるかもしれない。


それでも私は・・・ただ走る!!!




《おおお~っとぉ~!!!速い!!天崎選手速い!!!紅軍の西城選手との距離をどんどん縮める!!!》


カザミドリ先輩の実況ももう聞こえない。




そして・・・




気がつけば私の目の前には紅軍の選手の背中はなく、白いゴールテープが見えた。


「はっ・・・!はっ・・・!」


私は最後の力を振り絞り




そのゴールテープを身体を使って切った。




トークタイムです。

今回はトークテーマが4つもありますが、頑張ってやっていきたいと思います。


〈時雨〉「大変そうだな・・・」


まず三月語様から一つ目、「ガンダム」についてです!


〈時雨〉「大雑把だな」


え~では、まずはガンダムのストーリー性からいきたいと思います。


ガンダムシリーズは子供向けのアニメの筈なんですが、そのストーリーは子供向けとは思えないほどにブラックなものが多いですよね。


〈時雨〉「確かにな」


死人も多いですね。初代からAGEまでで一体何人いるのやら・・・


まあブラックなのもガンダムのいいところだと思います。


何より話が深いですしね。


〈時雨〉「同感だ」


次に主人公についてです。


〈時雨〉「ガンダムの主人公のほとんどにはある共通点があるよな」


はい。“非情さ”ですね


〈時雨〉「ああ、敵に対しては容赦なく命を奪う非情さがあるんだよな」


まあそうでもしなきゃ戦争では生き残れませんからね。


やらなきゃやられるって奴ですよ。


ちなみに、時雨はどの主人公が一番好きですか?


〈時雨〉「俺はキラだな。普段は優しい男だが、戦いになると冷酷になるのが良い」


“ギャップ萌え”ですか?


〈時雨〉「違うわ!!」


最後に、やっぱりガンダムには必要不可欠なもの、MSについてですね。


〈時雨〉「ガンダムのMSには魅力的なものが沢山あるよな。俺的にはプロヴィデンスガンダムとジャスティスが好きだ」


わたしはボールシリーズが・・・


〈時雨〉「面白いとこ選ぶな作者」


良いじゃないですかボール。

弱いところが。


〈時雨〉「訳分からんその理由」


分かってもらえなくても別にいいです。


好みは人それぞれでしょう?


〈時雨〉「まあそうだけどな」


では、ガンダムについては終わりです。


最終的な結論を言うと、結局「ガンダムは面白い」ということになりますね。


〈時雨〉「異議無しだ」


はい。じゃあ次のテーマです。

同じく三月語様からで「自分が考える最強のポケモン」です。


これについては、作者がポケモンについてほとんど・・・というか全く詳しくないので・・・申し訳ありませんが考えることができません。


〈時雨〉「無知な作者ですまん」


でもこれだけは言います。


最強というのは人によって違うと思います。


それになにが最強だ、というのも一概には言えません。


だから自分が努力して作り上げたなら、どんなポケモンも最強だと思います。


〈時雨〉「良いことを言ったつもりかダメ作者め」


うるさい!


まあ中には改造で作ってる人もいますが、それはその人の自由なのでなにも言いません。


〈時雨〉「俺は改造やる奴は嫌いだけどな。真面目にやってる人の努力を踏みにじっている」


そうですか。


それでは、次のテーマにいきたいと思います。


まずはゲストを呼びます。


カモン!


〈出雲〉「最近はよく呼ばれるねー」


毎度お馴染み出雲です。


トークテーマはエドワード・ニューゲート様からで「小さいころ好きだった乗り物」です。


〈時雨〉「乗り物か・・・そうだな・・・船かな」


ほう。それは何故?


〈時雨〉「小さいころよく姉さんと乗ってたんだよ。よく旅行につれてかれたからな」


〈出雲〉「へえ・・・」


出雲、にらむのはやめてください。


それで時雨、さらに詳しく。


〈時雨〉「まあ特に特別な理由はないな。よく乗っていたから思い出深い。それだけだ」


あいかわらずつまらを奴だ。


〈時雨〉「なんか言ったか」


いえなにも。


〈出雲〉「でもさあ、何で旅行に行く度に船で行ったの?」


〈時雨〉「車は使えなかったし、電車は姉さんが嫌いだし、飛行機は使うほど遠くに行かないからな。それに姉さんは島に行くのが好きだから、自然と船を使うことになるしな」


〈出雲〉「そうなんだ~。じゃあこれからは時雨と遊びに行く時はブラコンが来れないように電車で行くようにしよう!」


〈時雨〉「お前な・・・」


まあいいじゃないですか。

普通は誰であろうとデートは邪魔されたくないものですよ。


〈出雲〉「ちょちょ、ちょっと作者さん!///」


〈時雨〉「デート?作者お前なに言ってんだ?」


いいえなんでもありませんよ唐変木。


え~では、出雲の好きだった乗り物は?


〈出雲〉「私はね~遊園地で乗ったパンダの乗り物!」


ほほう。確かに小さい子はそういうの好きですからね。


〈時雨〉「まあ出雲らしい答えだな。実にガキっぽい」


〈出雲〉「ええ!?ひどいよ時雨!私そんなに子供っぽい!?」


〈時雨〉「ああ」


〈出雲〉「ぐっ・・・そんなにはっきり言わなくても・・・」


仕方ありませんよ。この男は冷酷で血も涙もない奴なんだから。


〈時雨〉「いやいや、ガキっぽいって言っただけでどうしてそこまで言われなきゃいけねえんだ」


あなたが悪いんですよ。


〈出雲〉「そうだそうだ!鬼!甲斐性無し!」


〈時雨〉「鬼はまだしも甲斐性無しってなんだよ!」


知りません。


〈時雨〉「おい!」






では次のテーマです。


ゲスト追加します。


カモーン!!


〈杏奈〉「またここ?」


〈水無月〉「いつも呼んでくれてありがとね♪」


〈暦〉「同じく、いつもありがとうございます」


杏奈、稲波瀬先輩、沙良先輩の三人です。


〈時雨〉「前回も同じメンバーだったな」


〈出雲〉「いいじゃん!賑やかな方が楽しいよ!」


そうですよ。


では、いきます。

同じくエドワード・ニューゲート様からで、「自分を妖怪に例えるなら?」です。


〈時雨〉「妖怪?」


はい。


〈時雨〉「俺を妖怪に例えると・・・多分、人狼か?」


何故?


〈時雨〉「なんとなくだ」


あっそ。

それで、狼になって女子を襲うんですか。


〈出雲/杏奈〉「なっ・・・!?///」


〈時雨〉「あほか!!する訳ねえだろ!!」


〈水無月〉「中々面白いこと考えるのね時雨君♪」


〈暦〉「やりますね。あとで意識が無かったって言えば許されますし」


〈時雨〉「あんたらもなに言ってんだ!?」


まあまあ、落ち着いて。


〈時雨〉「お前が発端だろうが!!」


ああはいはい。すいませんでした。


〈時雨〉「謝る気ねえだろ」


ありますよ。


では次に出雲。

自分を妖怪に例えると?


〈出雲〉「う~ん・・・そうだなぁ・・・」


〈時雨〉「鬼でよくね?」


〈出雲〉「え!?」


〈水無月〉「そうね。前回も鬼みたいになってたし」


〈暦〉「いいんじゃありませんか?」


〈出雲〉「先輩たちまで!?」


鬼ヶ淵村の鬼ですね。


〈出雲〉「作者さん!?」


〈杏奈〉「じゃあ決まりね」


〈出雲〉「杏奈ちゃんまで・・・。私前回そんなに怖かったの・・・?」


〈全員〉「Yes」


〈出雲〉「そんな皆揃って・・・しかも英語で言わなくても・・・」


はいはい。まあ気を落とさずに。


じゃあ次は杏奈、どうぞ。


〈杏奈〉「あたしは・・・そうね。猫娘とか?」


〈暦〉「ああ、なんとなく分かる気がしますね」


〈水無月〉「ええ、似合ってると思うわ」


〈時雨〉「同感だな」


〈出雲〉「うう・・・なんで杏奈ちゃんはかわいいのなの・・・?」


まあいいじゃないですか。“鬼”さん。


〈出雲〉「う゛っ・・・それで呼ばないでよ~・・・」


すいません。


では次、稲波瀬先輩です。


〈水無月〉「私はサキュバスよ」


やけにきっぱり言いますね。

まあ似合ってますが。


〈水無月〉「でしょ?」


〈時雨〉「確かに、稲波瀬先輩なら男を惑わすの得意そうだしな」


〈暦〉「ミナが一番惑わしたいと思っているのは―――」


〈水無月〉「暦?その次の言葉を言ったら許さないわよ?」


〈暦〉「はいはい。すいませんでした」


〈時雨〉「一番惑わしたいのは・・・誰なんですか?」


〈水無月〉「あなたは気にしなくていいの!」


〈出雲〉「時雨ってさ、わざとやってるんじゃないかって時あるよね」


〈杏奈〉「ええ、ホント」


仕方ないですよ。唐変木ですから。しかも某IS操縦者と同じくらい。


〈時雨〉「俺のどこが唐変木なんだよ・・・?」


それ言ってる時点でアウトですよ。


では最後、沙良先輩です。


〈暦〉「私は前回のでいいと思います」


〈水無月〉「九尾の妖孤ね」


前回のコスプレ、似合ってましたからね。


〈時雨〉「まあいいと思うな」


〈出雲〉「うん、私も!」


〈杏奈〉「はっきり言えばどうでもいいんだけどね」





ええ~、では!今回はここまでです!


トークテーマを応募してくれたお二方、ありがとうございます!

まだまだ募集していますのでよろしくお願いします!



それでは、次回予告です。





〈次回予告〉

代表リレーが終わって、私は杏奈ちゃんとまた約束をした。


絶対・・・守るから!



次回 指切りと乾杯





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ