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方城時雨の奇妙でイカれた学園生活  作者: 水面出
序章 -始まるは、日常-
24/46

ep21 捻挫と代わり

〈杏奈〉「第21話」


〈出雲〉「始まります!」


〈小夜〉「ではどうぞ!」



「てめえブラコン!覚悟し―――」


「出雲!やめろ!!」


姉さんに飛びかかろうとしていた出雲は俺の怒鳴り声を聞いた途端にビクッと体を震わせ動きを止め、おそるおそるこちらを見る。


「・・・時雨・・・?」


姉さんも俺の雰囲気が違うことに気がついたのか、さっきまで挑発的な表情から真面目な表情となる。


俺は無言で、転んでうずくまっている杏奈に歩み寄り、


「大丈夫か・・・?」


そう、声をかける。


「平気よ・・・」


杏奈は笑みを浮かべるが、それは弱々しいもので全く大丈夫なようには見えなかった。


「杏奈・・・ちゃん・・・?」


出雲はまだ事情が分かっておらず困惑した声を出す。


姉さんとカザミドリ先輩も同様だ。


「ちょっと、見せてみろ」


俺がそう言うと杏奈は小さく頷き、右足の靴と靴下を脱ぐ。



そこは腫れ上がっていた。


真っ赤にだ。


見ているだけで痛々しい。


「・・・あ・・・」


出雲はようやく事情が分かり、それと同時に今にも泣きそうな顔になる。


「折れては・・・いないな・・・」



俺は腫れ上がっている部分を触って確かめる。

骨が折れていたら関節や筋肉に微妙にずれが生じる筈だ。


それが無いってことは折れてはいないのだろう。


次に俺は足首の関節を軽く動かしてみる。


「っ・・・!」


杏奈が顔を歪める。


痛みのせいだろう。



とりあえず、脱臼もしてはいない。

恐らく、捻挫だろう。


だが靭帯が完全に伸びきってしまっているから急いで手当てをした方がいい。


それに、もしかしたら骨にひびが入っているかもしれない。


どちらにせよ、今は保健室に連れていくしかない。


「とりあえず、保健室行くぞ」


俺はそう言って杏靴下と靴を履かせなおし、杏奈の体を抱き上げてお姫様抱っこの状態にする。


前、お姫様抱っこをした時は顔を赤くしたが、今はただ俯いてるだけだ。


「あ・・・あの・・・」


出雲は先ほどと変わらず泣きそうな顔で小さく声を出す。

さらに今度はなにかを言いたそうな表情も混ざっている。

そんな出雲に俺は真剣に言う。


「出雲、色々とあるだろうが・・・今は杏奈の足首の手当てをするのが先決だ。それに・・・嫌でも話す機会ができる・・・だからお前もついてこい」


俺の言葉を聞くと出雲は顔を俯かせて「うん・・・」と聞こえるが聞こえないかくらい小さい声で返事をする。



「姉さんもだ」


「あう・・・」


俺がそう言うと姉さんはばつが悪そうに頷いた。


「私は放送委員の仕事があるんで・・・」


カザミドリ先輩は気まずそうにそう言うと足早に屋上から出ていく。


それを見送ったあと、俺も杏奈を抱き抱えながら、出雲、姉さんと共に屋上をあとにした。










・・・・・・・・・・・










「失礼します」


俺は杏奈を抱き抱えたまま足で保健室の引き戸を開け、そう言った。


「はいは~い」


間延びした声で返事をしたのは校医の岸田先生。


白衣をだらしなく気崩し、眠たそうな目でこちらを見ている。


「どうしました~・・・って、お姫様抱っこ?羨ましいですね~」


岸田先生は俺に抱き抱えられている杏奈を見るなり呑気そうに言う。


が、


「あら?なんか暗いですね~」


俺達の表情を見てほんの少しだけ目が真剣なものになった。



「事情はあとで説明するんで、とりあえず杏奈の足を見てくれませんか」


「あ~はいはい~。じゃ、ここに座らせてくださいね~」


俺がそう言うと岸田先生はポンポンとソファーを叩く。


言われた通りに俺は杏奈をそっとソファーに降ろした。


「ん~・・・」


岸田先生は杏奈の右足の靴下と靴を脱がせ患部を見て小さく唸る。


それから患部にそっと触れながら目を瞑る。


あれだけでなにか分かるのかと疑問だったが、黙って見てることにした。


後ろで並んで立っている出雲と姉さんも俯いたまま黙っていた。


十秒ほど経って、岸田先生は目を開け、


「捻挫、ですね~」


患部を見ながらそう言った。


「しかも靭帯が大分伸びきっちゃってますから、治るのはそれなりの時間がかかりますね~」


「やっぱりそうですか・・・ひびとかは入っていますか?」


「いえ~その心配はありませんね~」


「そうですか・・・」


俺は少しだけほっとする。

ていうかホントに少し触っただけで分かったのか。


「あ、今どうして少し触っただけで症状が分かるか疑問に思いましたね~?」


ここにも読心術を使う人がいた。


「不思議だと思いますか~?そうですよね~。でも分かっちゃうんですよ~。触るだけで患者さんがどんな状態なのか、別に訓練した訳でもないですし~。言うなれば天性ですね~」


岸田先生少し自慢気に言う。


天性。そんなに都合の良い理由で片付けていいことなのだろうか。

レントゲンを使いもせず骨の状態まで分かるのは人間業じゃないと思う。


下手したら世界の医療技術を根底からひっくり返してしまうかもしれないくらいだ。


なんでこんなところで校医なんかやってんだこの人。


「まあ~とりあえず、湿布貼っときましょうか~」


岸田先生はタンスの引き出しから湿布と包帯を取りだし杏奈の足にペタリと貼り、それを固定するために包帯を巻く。


そこで岸田先生は何かを思い出したような顔になる。


「そう言えば・・・標部さんって代表リレーの走者でしたっけ~」


その言葉が発せられた瞬間杏奈の身体が一瞬だけピクリと動く。


それとほぼ同時に出雲と姉さんもびくっと身体を震わせる。


「残念だけど・・・この足じゃ無理ですね~・・・」


そう言った岸田先生の声は、喋り方こそいつもと同じ間延びしたものだったものの、そこには何処と無く残念そうな気持ちが感じられた。


「とにかく、安静にしててください~」


「・・・はい」


杏奈は呟くように返事をした。


「それじゃ、そろそろお昼休みも終わりますから~、自席に戻った方がいいですよ~」


岸田先生の言う通り、現在時刻1時20分。

午後の部開始まであと十分だ。


「もし悪化したらまたここに来てください~。いつでもいますから~」


「分かりました。じゃ、杏奈」


俺はそう言って再び杏奈を抱き抱えようとするが、


「平気よ、自分で歩けるから・・・」


「・・・」


普通ならこういうことを言われても助けてやるものなんだが、俺はやめた。


いや、正確にはできなかったと言うべきか。


杏奈が発した言葉のせいじゃない。


杏奈が言葉を発した時、一瞬だけ見せた寂しげな表情。


それを見た途端に、できなくなった。


何故かは分からないが、できなくなったんだ。


「・・・」


俺は押し黙る。


下手に励ましでもしたら逆に傷つけてしまう可能性もある。


なにか、俺にできることは無いだろうか・・・。


・・・・・・


そうだ。

「悪い、俺ちょっと行ってくるところがある」


俺がそう言うと、出雲と姉さんは驚いた表情になる。


「時雨・・・!?」


「・・・姉さんと、出雲。杏奈を頼んだ」


俺はそう言い残し、ある場所へと向かった。










SIDE 出雲


時雨はそう言って、どこかへと行ってしまった。


「あの~・・・早く戻らないと午後の部始まっちゃいますよ~?」


岸田先生の言葉に私ははっとする。


「そうだった!えと・・・あ、杏奈ちゃん・・・その・・・」


私はおそるおそる杏奈ちゃんに目を向ける。


「そうね、早く行きましょう・・・」


杏奈ちゃんは立ち上がる。

が、その瞬間に少し顔を歪めた。


「杏奈ちゃん!?痛いなら無理しない方が・・・」


「平気です」


ブラコン・・・小夜が心配そうに言うが、杏奈ちゃんは笑みを浮かべて言う。


その笑みはとても儚げで・・・

私はそれを見た瞬間、どうしようもないくらい哀しい気持ちになった。










「・・・」


校庭に向かうため、私達は廊下を歩いていた。


杏奈ちゃんは右足を引きずりながら歩き、時折顔を歪める。


痛むのだろう。


私のせいで捻挫になった右足首が・・・



杏奈ちゃんがどれ程リレーの練習をしてきたのか、いつも近くで、いつも一緒に練習してきた私は知っている。


杏奈ちゃんがどれ程努力してきたか、私は知っている。


杏奈ちゃんは頑張っていた。


そう、頑張っていたんだ。


この日の、たった一つの競技のために。



私は・・・最初は時雨と一緒に代表になった杏奈ちゃんを、時雨と一緒に走れる杏奈ちゃんを・・・羨ましいと思った。


だけど・・・練習を見てるうちに、杏奈ちゃんが本気でリレーの代表として練習しているのを見て、自分が恥ずかしくなった。


確かに、時雨と一緒、というのは杏奈ちゃんにとっても嬉しいことだと思う。



だけどそれ以上に、杏奈ちゃんは代表リレーでも・・・体育祭でも勝って、時雨や・・・きっと私や先輩たち・・・小夜とも・・・みんなで勝った喜びを分かち合って・・・みんなで・・・笑いたかったんだ・・・。


だから杏奈ちゃんは、あんなに必死になって頑張っていた。


他の人達にとっては些細なことかもしれない。


だけど杏奈ちゃんにとってはとても大きな意味のあるものだったんだ・・・。



だけど・・・私はそれを・・・台無しにしてしまった・・・。


杏奈ちゃんの気持ちを・・・。


杏奈ちゃんの努力を・・・。


杏奈ちゃんは・・・「平気」って言ってるけど・・・そんなの嘘に決まっている。


私も時雨も、きっと小夜も・・・


哀しい気持ちになってる。


だけど・・・今一番哀しいのは・・・杏奈ちゃんなんだ・・・。






そう思うと、自然に私の足は止まった。




なにを言ったらいいか分からない。


なにかを言っていいかも分からない。


だけど私は・・・


「あ、杏奈ちゃん・・・」


本当に小さな、聞こえるか分からないくらいの声で杏奈ちゃんを呼んだ。


それでも杏奈ちゃんは聴こえたみたいで、足を止めると振り替えって言う。


「なに?」


その声色はいつもと変わらない。


変わらない筈なのに・・・とても哀しく聴こえる・・・。


小夜も、足を止める。


なにをしていいか分からない表情でこちらを向いていた。


「あ・・・あの・・・」


杏奈ちゃんはただ真っ直ぐに私を見ている。


うまく声が出ない。


それでも・・・まずは・・・謝らなきゃいけない。


他にどんなことを言いたくても・・・。


「その・・・ご・・・ごめんなさい・・・!」


私は上擦った声で言った。


「私の、せいで・・・杏奈ちゃん、すごい頑張ってたのに・・・私、が台無しに・・・」


声が震える。


「ホントに・・・ホントに・・・ごめんなさい・・・!」






気がつけば私は涙を流していた。





・・・なにをしてるんだろう。


なんで私が泣いてるんだろう・・・。



今泣きたいのは・・・私じゃない。



杏奈ちゃんの筈なのに・・・。


私は泣いていい立場じゃないのに・・・



「ひっく・・・ぐす・・・」


涙が止まらない。




杏奈ちゃんはそんな私を見て、一瞬驚いた表情になるが、すぐに・・・微笑んだ。


「なに泣いてるのよ」


「だっで・・・私の・・・せいで・・・」


「別に気にしてないわよ。たかが捻挫じゃない。そりゃ、リレーに出れなくなるのは残念だけど・・・来年があるし」


「でも・・・でも・・・」


私は止まらない涙を手で拭いながらを座りこむ。



そこに、






「泣かないで」






杏奈ちゃんはしゃがみ込み、私を見ながらそう言った。

とても柔らかな微笑みで。


「あんたはそんな泣いてるのが似合うやつじゃないでしょ。いつもみたいに・・・笑っていればいいじゃない。あたしは断然、そっちの出雲の方が好きよ」


「杏奈ちゃん・・・」


「ね?ほら、笑って?」





こういう時に笑えなんて、中々無茶なことを言う。




だけど・・・杏奈ちゃんのその言葉を聞いて・・・ほんの少し気が楽になったかもしれない・・・。




私は涙をごしごしと袖口で拭う。


それでもまたすぐにあふれでてくる。けど気にしない。


そして・・・


「うん・・・そうだね・・・」




大分カッコ悪いと思うけど・・・涙を流し、顔をくしゃくしゃにしながら微笑んだ。




杏奈ちゃんはそんな私を見てにっこりと笑う。


「ん。それでいいわ。カッコ悪いけどね」



と、そこで。


「あの・・・」


今まで黙っていた小夜が口を開く。


「私も・・・ごめんなさい・・・。杏奈ちゃんがそんな足になったのは・・・私のせいでもあるから・・・」


「いいんです。気にしてませんから・・・」


杏奈ちゃんは小夜にもその柔らかな笑みを見せながら言う。


「・・・うん」


それに答えるように小夜も、儚げな微笑を浮かべた。




「それで、私はリレーに出れなくなっちゃった訳だけど・・・このまま選手がいないとなると・・・青軍が負けちゃうから・・・出雲」


「え?」


杏奈ちゃんが真剣な眼差しで私を見る。


「あんたがしたこと、ちゃんと反省してる?」


「え・・・う、うん・・・!」


いきなりそんなことを言われたから一瞬戸惑うがすぐに頷く。


「あんたが私にしたことに対して、罪の意識を持ってる?」


「うん・・・!」


「それを、償いたいと思ってる?」


「う、うん・・・!」


少し言い方が仰々しいと思ったが、私は頷く。


すると杏奈ちゃんは、


「じゃあ・・・出雲。あんたが私の代わりに、代表リレーを走りなさい」


そう言った。


「えっ・・・?」


私は目を見開く。


代表リレー?


私が?


杏奈ちゃんの代わりに?


「もう一度言うわ。あんたが、あたしの代わりに、代表リレーを走るの」


頭の中がぐるぐると混乱状態になり、唖然としていた私に杏奈ちゃんははっきりと言う。


それによりようやく杏奈ちゃんの言ったことの意味を理解した。


「え・・・でも・・・私、が・・・?代わりに・・・?」


「そうよ・・・」


「ちょっと待って」


そこに、小夜が口を口を挟む。


「泥棒猫が杏奈ちゃんの代わりに走るって・・・できるの?そんなこと」


小夜の言葉に杏奈ちゃんの表情がほんの少しだけ曇る。


「だって・・・カザミドリちゃんから聞いた話では、代表リレーは選手を途中から変えたりすることはできない筈だよ・・・」


「大丈夫だ。その心配は必要ねえ」


「っ!」


小夜が喋っている中、後ろから声がした。


私達が振り向くと、そこには先ほどどこかへ行っていた時雨が立っていた。


「心配ないって・・・どういうこと?」


私が尋ねると時雨はニヤリと笑う。


「頼んできたんだ。選手を代えてもらうように。実行委員に直接交渉した」


さっきどこかへ行っちゃったと思ったら・・・そんなことしてたんだ・・・。

すごい行動力・・・。


「でも・・・よく許可してくれたね・・・」


小夜がそう言うと時雨が再びにやりと笑う。


「実行委員の中に、カザミドリ先輩がいてな。あの人放送委員長だけじゃなくて実行委員長もやってるらしくてさ。あっさりOK出してくれたんだ」


「そうなんだ・・・」


後でお礼を言っておこうと、そう思った。


「それで、だ。どうする出雲?」


時雨は私の目をしっかりと見ながら言った。


「お前がやると言えば・・・すぐに出来る状態だ。走るのか?」



いつもの私なら迷うかもしれない。


私にそれができるのかと。



だけど・・・今は迷わない。


私が代わりになることで、少しでも杏奈ちゃんへの償いになるのなら・・・



私が・・・




「やるよ・・・!」


力強くそう言った。


「なら、決まりだな」


時雨はそれを聞き微笑む。

杏奈ちゃんと小夜も同様だ。


「代表リレーは最後だからな。軽く、準備運動でもしてきたらどうだ?」


「うん!そうする!」


そう言って私は、校庭の方へ走っていった。










SIDE 時雨


出雲は走っていった。


「じゃあ、私ももう解説席に戻らなきゃ・・・」


「ああ」


そう言い、姉さんも校庭に向かい歩いていった。




「ねえ」

そこで、杏奈が不意に話しかけてくる。


「なんで・・・分かったの?」


「んあ?」


「だって時雨・・・真っ先に実行委員のところまで行ったんでしょ?出雲を代わりに代表リレーの選手にしてもらうように・・・」


「ああ、そうだな」


俺は頷く。


「だけど・・・あたしあんたに言ってないわよね。出雲を代わりに選手にさせること。あんたどころか誰にも・・・。それなのに・・・あたしが出雲にこの事を言うのを分かってたみたいに部屋を出ていったじゃない。なんでなの?」


俺は少し考え込み


「勘、だな」


「は?」


杏奈が呆れたような声をあげる。


「勘って・・・もしあたしが出雲を代わりの選手になるよう言わなかったらどうするつもりだったのよ?」


「さあな」


今度は呆れた目で俺を見る。


「だけど・・・何となく、杏奈ならそれを言ってくれそうな気がしたからな」


「なによそれ」


杏奈はくすっと笑う。


「まあいいじゃねえか。普通に結果オーライになったんだし」


「それもそうね」


杏奈は苦笑しながら言った。




「さて、と・・・俺達も早いとこ戻るか?」


「・・・そうね」


杏奈が少し寂しげに言う。


「・・・走りたかったか?」


「別にいいわよ。出雲ならきっと勝ってくれるだろうし・・・」


「ああ、俺もそう思うよ。ああ見えて出雲はやる時はやる奴だ。・・・けどな・・・」


俺は杏奈の頭にポンと手を乗せる。


「あんまり我慢ばっかりすんな」


「べ、別に我慢なんか・・・」


杏奈は少し震えた声で呟くように言う。




そんな杏奈に俺は・・・できる限り、優しい声色で






「泣きたい時は・・・泣いていいからな・・・」






「っ・・・」


瞬間、杏奈の身体ぴくっと震える。



そして、


「・・・あぅ・・・ひっく・・・」


ぽろぽろと大粒の涙を流し始めた。


「ぐす・・・あた、しも・・・走りたか、った・・・ひっく・・・」


今まで我慢してた分が一気に溢れだしたのだろうか。分からないが、そう思わせるくらいに杏奈は涙を流し続ける。


「時雨と、一緒に・・・うっく・・・走りたか、った・・・」


杏奈は泣きながら俺の胸に顔をうずめる。


「一緒に、ぐずっ・・・走り、たかったよぉ・・・えぐっ・・・」


「・・・」


俺は黙って杏奈の頭を優しく撫でる。


「ふぇ・・・ふええええええええん・・・」


それがきっかけになったかのように、杏奈は俺の胸に顔をうずめながら、声をあげて泣いた。





そういえば、杏奈が泣くのは初めて見たな。


いつもは妙に上から目線で大人ぶってるけど・・・泣いてる時は、まるで子供だ。


可愛らしいじゃねえか。



泣いてる理由に少し疑問を感じるが、気にしないでおこう。



そう思いつつ、俺は泣きじゃくる杏奈の頭を優しく撫で続けた。





時雨'sトークタイムです。

前回はお休みして申し訳ありません。


〈時雨〉「全く・・・情けない作者だ」


いやホント、面目ない・・・。


ええ~、ですが今回はきっちりやりたいと思います!


まずは一つ目!


三月語様からのご応募です!


ゲストはなし!


〈時雨〉「俺だけか・・・で、テーマは?」


「自分が考える「メリーさん」の萌えるシチュエーション」です!


〈時雨〉「なんだそりゃ?」


なんだもなにも、そのままの意味ですが?


〈時雨〉「いやそのままって・・・。「メリーさん」ってあれだろ?電話かけてくる奴」


はいそうです。


それで萌えるシチュエーションを考えてください。


〈時雨〉「こんなテーマならカザミドリ先輩を呼んだ方が・・・」


ごちゃごちゃ言ってないでさっさと考える!


〈時雨〉「う~~~・・・ん・・・。・・・こういうのはどうだ?」


ほう。どれどれ―――――






PULULULULU


がちゃ


「はいもしもし」


《もしもし・・・あたし、メリーだけど・・・今あんたの家の前にいるから・・・》


「えっ!?」


《か、勘違いしないでよねっ!べ、別にあんたに会いにきた訳じゃないんだからっ!偶然近くを通ったからちょっと寄ってみただけなんだからねっ!》





――――まあまあですね。


〈時雨〉「まあまあで充分だ・・・」


でもわたしは個人的にツンデレ好きですよ。あなたにしてはよくできたと思います。


〈時雨〉「そうか・・・嬉しくねえ」


じゃあ今度はわたしが考えましょう。


〈時雨〉「どんなのだ?」


・・・はい!できました!


〈時雨〉「早っ!」


では―――――




PULULULULU


がちゃ


「はいもしもし」


《もしもし、わたしメリー。今あなたの街にいるの》


がちゃ


「な・・・これはまさか・・・怪談でよく聞くあれか・・・!?」


数分後


PULULULULU


がちゃ


「も、もしもし」


《もしもし、わたしメリー。今、あなたの家の前にいるの・・・って言いたいんだけど・・・》


「え?」


《ここ、どこかな・・・?》


「は?」


《ち、ちょっと待ってね!またかけるから!》


がちゃ


「・・・」



また数分後


PULULULULU


がちゃ


「・・・もしもし」


《あ、あのっ!わたしメリー、だけど!あなたの家どこにあるの!?》


「いや・・・あの・・・」


《地図みても全然分からないの!どこ!?あ、でも待って!もう少し自分で探して・・・》


がちゃ


「・・・なんなんだよ・・・」



さらに数分後


PULULULULU


がちゃ


「もしも―――」


《うわあああああん!!!》


「ぬお!?」


《わた、しっ、メリー・・・だけど・・・!》


「だけど・・・?」


《迷子になっちゃったあぁぁぁ!!!》









――――どうです!


〈時雨〉「うん・・・いいんじゃね・・・」


反応が薄いですね。


〈時雨〉「気にするな」


・・・まあいいでしょう。



では次のテーマにいきましょう。


〈時雨〉「次はなんだ?」


エドワード・ニューゲート様からで、「なりきってみたいアニメ・漫画の人物」です!


〈時雨〉「へえ・・・面白そうだな」


では早速ゲストを呼びたい・・・ところですが、その前に、このトークはなりきってみたい人物の衣装も着なきゃいけないので、時雨にはこれから着替えてきてもらいます!


〈時雨〉「おお!マジか!」



ゲストの人たちには既にその旨伝えております故、あとは時雨が着替えるだけで―――


〈時雨〉「行ってきます!!」


速っ!!


よっぽど楽しみなようですね・・・









数分後









はい!では、やっていきましょう!


時雨と、ゲストの出雲、杏奈、稲波瀬先輩、沙良先輩です!



〈時雨〉「おっしゃあああああ!!」


〈出雲〉「どうもー!」


〈杏奈〉「これっていわゆるコスプレって奴でしょ?ちょっと恥ずかしいんだけど・・・」


〈水無月〉「面白そうね♪」


〈暦〉「同感です♪」


この五人でやっていきます。


〈時雨〉「こういうテーマがくることを楽しみにしてたんだ・・・!」


ほう、では時雨。

あなたが着てるのは一体誰の衣装ですか。


〈出雲〉「ただの制服風の半袖ワイシャツに制服風のズボンだね」


〈杏奈〉「いつもの格好と変わらないじゃない」


〈水無月〉「でも・・・どこかで見たことあるのよね・・・」


〈暦〉「分かるんですかミナ?」


〈水無月〉「うーん・・・思い出せないわね」


だそうですよ。

時雨、誰の衣装なんですか。


〈時雨〉「ふふ・・・これはだな、とある“幻想殺し(イマジンブレイカー)”の衣装さ!!」


〈出雲/杏奈/暦〉「・・・・・・」


〈水無月〉「ああそうそう!それよ!“とある魔術の禁書目録”の上条当麻の格好よ!」


そうですね。


〈出雲〉「ねえ・・・確か時雨のCVって・・・」


〈杏奈〉「阿部敦さんよ・・・」


〈暦〉「同じ方、ですよね・・・」


〈出雲〉「時雨、まさかこんな理由で・・・?」


〈時雨〉「お前らなに言ってんだ!そんな訳ないだろう!」


〈杏奈〉「でもねぇ・・・」


〈暦〉「ウケ狙いですかね」


〈時雨〉「まだバカな言う気か!?ならお前らの・・・」


あ、来ますね。


〈時雨〉「そのふざけた幻想をぶち殺す!!」


〈水無月〉「声が一緒だと様になるわね~」


〈時雨〉「どうだお前ら!!」


〈出雲〉「どうって言われても・・・ねぇ・・・?」


〈杏奈〉「ええ・・・」


〈暦〉「まあ面白いからいいじゃないですか」


ですね。

では次は出雲の衣装を。



〈出雲〉「私だね!」


出雲、その衣装は?


〈出雲〉「はうう!かぁいいかな?かな?」


〈時雨〉「む!その特徴的な喋り方!その白を基調としたワンピースと帽子に紫色のリボンにブーツ!それは間違いなく・・・!」


〈出雲〉「“ひぐらしのなく頃に”の竜宮レナだよ。だよ!」


喋り方もきちんとなりきっていますね。


〈出雲〉「この衣装かぁいいから着てみたかったんだ!時雨のもかぁいいと思うよ!思うよ!」


それをかぁいいモード風に言うと?


〈出雲〉「はうぅ~!お持ち帰りぃ~!」


〈時雨〉「見事だ出雲!!」


〈出雲〉「そうかな?かな?」


あ・・・そういえばさっき、時雨がメリーさんて萌えるよな~って言ってましたよ?


〈時雨〉「なっ!?ちょっと待て!!」





〈出雲〉「・・・シグレ?」





〈時雨〉「っ!待て出雲!その鉈はどこから取り出した!?」


〈出雲〉「サア・・・ドコカナ?カナ?」


〈杏奈〉「出雲・・・目がイッちゃってるわね」


〈暦〉「前に見た覚えがあります」


〈水無月〉「おかしくなるところまでなりきるとは、やるわね出雲ちゃん・・・」


あれはなりきってる訳じゃないと思いますがね。


〈出雲〉「ダイジョウブダヨシグレ・・・イズモガタスケテアゲルカラ・・・」


〈時雨〉「なにを!?お前はどうやって俺を助けようとしている!?ってか一人称変わってね!?」


〈出雲〉「フフフ・・・アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


〈時雨〉「ぎいぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」










しばらくお待ちください










〈時雨〉「・・・俺は鬼を見たぞ・・・」


祟りですかね。


〈時雨〉「ふざけんな!!」



〈出雲〉「はうぅ?時雨、どうしたのかな?かな?」


〈時雨〉「もうなにも言わねえ・・・つうか今のは作者のせいじゃねえか・・・」


はっはっは。なんのことやら。


〈時雨〉「・・・あとで覚えてろよ」


はい!では次です!


杏奈はなにを着てるんですか?


〈杏奈〉「あたしはアニメとか知らないから、とりあえずあたしに似てるキャラのを着てみたわ」


〈時雨〉「それはまさしく・・・常磐台中学の制服・・・!つまり・・・!」


〈水無月〉「“とある魔術の禁書目録”や“とある科学の超電磁砲”でお馴染みの御坂美琴の格好ね」


確かに、杏奈とは似てるとこがありますね。


〈時雨〉「茶髪だしな」


〈暦〉「髪型も似てますね」


〈水無月〉「性格もツンデレだしね」


〈出雲〉「ホントはすっごく優しいところも似てるね!」


〈杏奈〉「そんなに似てるの?」


似てますが・・・

皆さん、一つ忘れている共通点がありますよ・・・


〈時雨〉「なんだ?」


貧にゅ―――


〈杏奈〉「死ねえ!!(ビリビリィ!!)」


ぎゃあああああああああああああ!!!


〈時雨〉「今雷が起きなかったか・・・!?」


〈水無月〉「気のせいよ」



〈暦〉「次はミナの衣装ですが・・・誰のですか?」


〈水無月〉「ふふふ・・・時雨君なら、分かるわよね?」


〈時雨〉「・・・特徴的な赤い上着・・・短めのスカート・・・そして、胸元に光るクロスペンダント・・・、簡単ですよ・・・!“新世紀エヴァンゲリオン”の葛城ミサトだぁ!」


〈水無月〉「正解♪」


〈杏奈〉「知らないわ」


〈暦〉「同じく」


〈出雲〉「あの“発進!”の人でしょ?」


〈水無月〉「その通り・・・じゃあ出雲ちゃんのリクエスト通り・・・こほんこほん・・!」


〈時雨〉「・・・」


〈水無月〉「エヴァンゲリオン初号機、発進!!」


〈時雨〉「キタ――――!!」


〈水無月〉「ちょっち恥ずかしいわね。ふふ♪」


口癖も真似してますね。


〈出雲〉「あ、作者さんが復活した」


どうも、なんとか戻ってきました。

一瞬きれいな川が見えましたが。


〈杏奈〉「そのまま渡っちゃえば良かったのよ」


ひどっ!


・・・まあいいです。最後に沙良先輩の格好ですね。


〈暦〉「私もアニメとかは詳しくないので、私の髪の色に合う服にしました」


〈杏奈〉「真っ黒のセーラー服?」


〈時雨〉「それは・・・!」


〈出雲〉「あれだよね。妖怪の!」


“ぬらりひょんの孫”の羽衣狐ですね。


〈時雨〉「よく見たら後ろに尻尾九本あるじゃねえか!」


中々似合いますね。


〈水無月〉「それだけじゃないわよ~。性格が黒いとことかもうそっくり―――」


〈暦〉「ミナ・・・?」


〈水無月〉「・・・ごめんなさい・・・」


〈時雨〉「稲波瀬先輩が素直に謝った・・・」


〈出雲〉「珍しい・・・」


〈杏奈〉「中々見れないわね・・・」



さて、皆さん一つ目のテーマが終わりましたので、エドワード・ニューゲート様からの二つ目のトークテーマです。


メンバーは同じ。


トークテーマは「共感できるアニメ・漫画のキャラの言葉」です。



〈杏奈〉「あたしこれ分かんない。アニメも漫画も全然知らないから」


〈暦〉「私もですね」


〈時雨〉「情けねえな」


〈水無月〉「ホントね」


あんたらも別の意味で情けないと思いますがね。


まあとりあえず、時雨からどうぞ。

〈時雨〉「迷うが、・・・とりあえず、これだ」




「運命なんて、俺があっさり打ち破ってやるよ!!」




〈時雨〉「“ひぐらしのなく頃に”の前原圭一のセリフだ!」


〈水無月〉「あ~、良いわね~」


惨劇の運命を打ち破ろうとする気持ちが伝わってきますね。


〈杏奈〉「よく分かんないわ」


〈暦〉「同感です・・・」


さて、次は・・・稲波瀬先輩いってみます?


〈水無月〉「待ってました!私がチョイスしたのはこれよ!」




「奇跡ってのは、起こしてこそ初めて価値が出るものよ」




〈水無月〉「葛城ミサト、今私が着てる衣装のキャラが言ったセリフよ!」


〈時雨〉「ナイスチョイスだ稲波瀬先輩!素晴らしいぜ!」


絶体絶命でも諦めないことの大切さを教えてくれますね。


〈出雲〉「うんうん!」


では最後、出雲。いってみましょう。


〈出雲〉「え!?私も!?」


はい。


〈時雨〉「さあ出雲!一発かましてやるぞ!」


〈水無月〉「素晴らしいのを頼むわ!」


〈出雲〉「えっと・・・じゃあ、これかな・・・」




「そういえば、入学式の時もこの道を走った。

何かしなきゃって想いながら、

何をすればいいんだろうって想いながら、

このまま大人になっちゃうのかなって想いながら。


ねぇ、私。

あの頃の私。

心配しなくてもいいよ。

すぐみつかるから。


私にもできることが、

夢中になれることが、

大切な…大切な…大切な場所が…。」




〈時雨/水無月〉「っっっ・・・!!!」



〈出雲〉「“けいおん!”の平沢唯のセリフ・・・って、二人ともどうしたの・・・?」



〈時雨/水無月〉「ベ・・・」


〈出雲〉「ベ?」


〈時雨/水無月〉「ベリーィィィィグゥゥゥゥッドォ!!!!」


〈出雲〉「ふぇ!?」


〈時雨〉「出雲!見事!見事だ!」


〈水無月〉「今のセリフはぐっと来たわ!素晴らかった!」


〈出雲〉「そ、そう・・・ですか・・・」



・・・



〈杏奈〉「訳分かんない」


〈暦〉「楽しそうでいいじゃないですか」


〈杏奈〉「・・・そうかしら・・・」


〈時雨〉「出雲!」


〈水無月〉「出雲ちゃん!」


〈出雲〉「は、はいぃ!!」


〈時雨/水無月〉「ありがと―――――――――う!!!!」


〈出雲〉「はう!?はう!?はうううぅぅぅ!!?」



レナが再発しましたね。



では今回はこの辺で。


応募してくれた三月語様、エドワード・ニューゲート様、ありがとうございました。


これからもよろしくお願いします。


トークテーマ。いつでも募集してますので、どんどん応募お願いします。




では、次回予告です。




〈次回予告〉

私は走る・・・!

全身全霊をかけて・・・!




次回 アンカーと全身全霊





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