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初恋のトナカイさん

作者: まなみ

星が輝いていた5年前の冬、私はトナカイに恋をした。



そして、5年後の2010年・冬、その少女はカラオケボックスで「赤鼻のトナカイ」を熱唱していたのでした。


「冬実ってあんなに歌上手いのに、何で選曲がアレなわけ?」

高校の同級生で、今日のカラオケ大会の主催者でもある野々宮優衣は呆れ顔で言った。

「さぁ…。あ、でも、中学で初めて冬実に会った時も好きな曲は『赤鼻のトナカイ』って言ってたよ。」

「そっか。美波って、冬実と同中だったっけ。」

中学からの親友。優しくて女の子らしい酉山美波。

「それに男の子達にはウケが良いみたいだしね。」

美波は、テーブルを挟んだ向かいに座る男子3人を指さした。

そう、カラオケ大会とは名ばかりで、本当は3対3の合コン。

「冬実ちゃん、いいぞぉ~」

「歌うまいな、こんなハイクオリティーの『赤鼻のトナカイ』なんて滅多に聞けないぜ」

「ホントだよねェ。」

男達は、マラカスを持ったり、腕を組んだり、ジュースを飲みながら小さな舞台の上を見つめている。

「ね?」

美波が嬉しそうに優衣に言った。

「そうみたいね。アハハ…。」

私が歌い終わって席に座ろうとすると、向かって左側に座っている茶髪の男が

「ねえ、冬実ちゃん。今、付き合ってる奴とかいるの?」と聞いてきた。

「ダ~メ。私は予約済み!他あたってね。」

優衣と美波は、呆れた顔で嬉しそうに笑う私を見つめる。

「なになに、彼氏いるの?どんな奴。」

「付き合ってはないけど…、近々そうなる予定だから。トナ―――…」

これ以上はヤバいと思ったのか、優衣がさえぎるように大声を出した。

「あぁぁぁ。私達、用事があるので、お先でーす!」

そうして、私は腕を引かれながら、その日の合コンを終えたのでした。


「何これ?」

翌日の月曜日。

机に突っ伏していた私に、優衣が1枚のルーズリーフを渡してきた。

「今度の合コンで歌うの。」

「はい?」

ルーズリーフには、歌詞らしきものが手書きで書いてあった。

歌っているのは今はやりのアイドル歌手。

まあ、赤鼻のトナカイよりは見栄えがする。

「あんなに歌唱力があるのに勿体ないって言ってんの!」

私はルーズリーフを受け取ったものの面倒なので、見ずに机の中にしまった。

「良いじゃない、別に。私は、トナカイさん一筋。他の男に興味がないの!」

私は目を輝かせた。

「トナカイ、トナカイって、子供じゃないんだからさ~。」

優衣は呆れて言う。

「でも、サンタとトナカイなんてお似合いじゃない?」

私の名前は、散田冬実で小さい頃のあだ名はサンタクロースだった。

「私の初恋なんだから。」

「なんで、顔も分からない相手を好きになんの?」

そうなんだよねぇ~。

顔どころか名前もどこのだれかも分からない―――…





5年前。

乾いた空に輝く星。

きらびやかに輝くクリスマス仕様のイルミネーションが眩しかった。

小学校6年生だった私は、友達とのクリスマスパーティの帰り道にそこを通った。

そして、出会ったんだ。

道の段差につまずいて倒れこむ私に、一番に声をかけてくれた。

「大丈夫?」って。

声の感じからして、大学生くらいと思う。

翌日、同じ場所に行ってみたけどトナカイさんには会えなかった。

次の年のクリスマスも、その次も、会えなかった。


「一目惚れにしても程があるよ!誰がトナカイの被りもの見て恋に落ちるって言うの!?」

「そうなんだよね~」

私はそう言って考え込んだ。

「は~?何それ。」

「何か、あった気がするんだよね…。あの夜。」

「ふ~ん。まっ、何でもいいけど今度の合コン、来週だから。」

そう言うと、優衣は持っていた携帯を開いた。

「12月29日、合コン、っと」

「何してんの?」

私は優衣のその仕草が妙に気になった。

「何って、見て分かんない?カレンダーにね…。」

優衣は携帯を操作しながら言った。

カレンダー…。

予定…。

スケジュール…?

―――…。

「!!」

私は立ち上がった。

座っていた椅子が音を立てて後ろに倒れる。

「冬実?」

優衣が驚いて私を見つめる。

「冬実ちゃん達、どうかしたの?なんか今、すごい音したけどっ。」

廊下から隣のクラスの美波がこちらを心配そうに覗く。

「何でもないよ、美波。」

優衣はそう言って手を顔の前で振った。

「そっか、スケジュール帳!」

私は、美波が心配してくれていた事気付きもしなかった。

思い出した大事なことで、頭がいっぱいだった。

美波も不思議そうに私達の所へ来た。

こっそりと優衣に耳打ちする。

「冬実ちゃん、どうかしたの?」

「例のトナカイ。」

それを聞いて納得した美波は「あぁ」と声を漏らした。

「それで、冬実ちゃん。スケジュール帳がどうかしたの?」

美波は顔をニヤニヤさせている、私に尋ねた。

「あの人も、持ってたの。中身がビッシリ書き込まれたスケジュール帳!」

「スケジュール帳?」

「うん。確か、映画を見に行くのが好きな人みたいだったよ。いっぱい映画に行く予定があったみたいだから。」

私が思い出しながらそう言うと、優衣が急に怒鳴り出した。

「なんで、あんたが一度しか会ってない奴のスケジュール帳の中身知ってんのよ!?」

「何度も読み返したもん。」

私は自慢げに言った。

「は~??」

「何度もって、どういう事?」

二人とも不思議そうに言う。

「その人が私を助けてくれた日にね、拾ったの。その人のスケジュール帳。」

「拾ったって…。」

「返そうと思って私がこけた所に、次の日の同じ時間に行ってみたんだけど会えなくて…。」

「で?そのまま、いつしかスケジュール帳の存在自体を忘れてしまったって訳ね」

「アハハハ…。」


翌日、その噂のスケジュール帳を学校に持っていった。

「これね、噂のトナカイのスケジュール帳は。」

昼休み、私と優衣と美波は屋上に集まった。

優衣が面白そうにそのスケジュール帳を手に取った。

中身を一枚ずつめくっていく。

「ホントに予定がビッシリ…。」

中はこれでもかってぐらい予定が書き込まれていた。

「でも、大学生って言うのは当たってたみたい」

横からスケジュール帳を覗いていた美波は言った。

「ほら。『21歳の誕生日』ってあるし、そっちに『テニスサークルの合宿』って書いてあるから…。」

「確かに。さすが美波!」

「5年前、21ってことは、誕生日が6月で…、今は26か…。微妙ね。あとはルックスがどうか…。」

優衣の顔つきが急に険しくなった気がした。

男が絡むと、いつもこんな感じだ。

「なんか、手掛かりは…。」

そう言って、次々とページをめくる優衣。

10月までいった所で手が止まった。

『春ヶ丘祭』と書いてあった。

「大学の文化祭みたいなもんかなぁ、コレ?」

私は美波に尋ねた。

「そうじゃないかなぁ…、たぶん。でも、春ヶ丘なんて大学あったかなぁ?」

「大学の名前がそうだとは限らないじゃない。」

優衣の目が輝いていた。

「優…衣……ちゃん?」





放課後、私達が向かったのは図書室。

ここには、生徒が自由に使えるコンピュータが何台か置いてある。

優衣が席に座り、キーボードで『春ヶ丘祭』と打ち込む。

「優衣、ケータイは?」

「担任に取られた。」

まるで気にしていない様子で、さらりと答える。

「あった!…『M大学』って知ってる?美波。」

「M大って結構有名だよ。医療系の大学だったと思うけど…?」

「じゃぁ、トナカイさんはお医者さんってわけだ。」

「え~と、2001年度の新入生名簿…、なんてあるわけないよね。アハハ」

優衣は肩を落とした。

「ねぇ、優衣。これってなんかのヒントになんない?」

私は、スケジュール帳を広げて優衣に見せた。

「ここ。」

「何々。『全国大会出場者発表』?」

「だから、載ってるんじゃないかと思って。HPに。」

「…。あんた、たまには良い事いうじゃない」

あんまり、嬉しくない褒められ方だ。

それにしても、他人の個人情報を見て、調べて、良いのかなぁ…。

こんなことして。

「あった。2005年、テニスで全国大会出場。え~と名前は、『仲山 海翔』と『仲山 陸翔』…兄弟かなぁ?」

「へ~、二人ともカッコイイ名前だね。」

残念ながら顔写真はなかったが、名前が分かってちょっとスッキリとした気分がした。

「ここまで分かれば、お店で聞いてみれば良いんじゃない?」

「お店?」

私のその反応に、優衣は少し呆れたようだった。

「冬実ちゃん、いつも四丁目のイチョウの並木道のところで、溜息つくんだよ。知ってた?」

「あそこ昔、クリスマス前後にサンタとかトナカイの着ぐるみ着たカラオケボックスの従業員達が客引きしてたから、それなんじゃない?」

私より、私の初恋に詳しい二人に少し驚いた。


翌日の放課後、私達3人は四丁目のカラオケボックスに行った。

「あの聞きたい事があるんですけど。」

「何でしょうか?」

レジの所に居たのは20代前半の女性で、女性は優衣の質問ににこやかに答えた。

「5年くらい前に、このお店に仲山さんって人、働いてませんでしたか?」

女性は、私達に「少々、お待ち下さい」と声をかけるとカウンターの奥から名簿を持って現れた。

「はい。ちょうど5年前にここで働いていたみたいですよ。仲山海翔さん」

「住所とか分かりますか?」

恐る恐る優衣が聞いてみる。

「はい?」

「あ、いえ…」

女性は私達を不審に思ったのだろう。

「失礼ですが、ご用件を。」と、強い口調で聞いてきた。

「えっと」

たじろぐ優衣に美波がフォローする。

「スケジュール帳です。私達、その方のスケジュール帳を拾ったので、届けようと思ったのですが…。」

落ち着いた美波の受け答えに女性も納得したのか、住所は教えてくれなかったものの、電話でその人をここに呼んでくれる事になった。


「さすが美波、ナイスフォロー。」

カラオケボックスの前、私達はトナカイさんこと仲山海翔さんを待っていた。

「ホントの事いっただけだよ。…それよりどうするの?仲山さんが来たら。」

「う~ん。スケジュール帳を返して、告る…かな。」

「は!?」

驚きの声を上げたのは優衣だった。

美波の方は、顔に苦笑いを浮かべていた。

「告るって、顔も知らないのに?」

「うん。」

「超ダサダサかも知んないのに?」

そのとき後ろから声がした。

「ダサくて悪かったな。」

驚いて振り返る。

そこに居たのは、茶髪にピアス、ドクロのプリントのはいったTシャツ。

「だれ?」

私は目の前のこのチャライ男の人が、あのトナカイさんだとは思わなかった。

「ばか。仲山海翔さんじゃないの?」

優衣が後ろから耳打ちする。

「その通り。俺がその仲山か―――…」

「この人、違うと思う。」

彼が名前を言う前にさえぎった。

「何いってんの?」

「そうだよ。着ぐるみで顔は見えなかったんでしょ?」

「いやぁ。なんとなく…。」

そう言う私達に彼は笑いながら言った。

「わるい、わるい。冗談だよ。俺は弟の」

「陸翔、待てよ。」向こうの角からもう一人こちらに来る。

目の前の男の人が、振り返った。

「俺は徹夜明けなんだから、一人でずかずか行くなよな。」

二人目の男の人は息が荒い。

でも、その声に聴き覚えがあった。

「仲山海翔さんですか?」

私は確信をもって尋ねた。

「そう、こっちが本当の仲山海翔。そんで俺は陸翔だ。」

やっと、会えた…。





「あ、あの。これ」

私はスケジュール帳を手渡した。

「これ、俺の?」

「はい!あの、5年前、拾ったのになかなか返せなくて…。その」

「ありがとう。わざわざ」

海翔さんの方は、弟の陸翔さんと違って、誠実で真面目そうだった。

「お礼に何か御馳走するよ。」

「良いんですか!?」

いち早く反応したのは優衣だった。

それに海翔さんも驚いたみたい。

「もちろん、君達がよければだけど。」


私達は、海翔さんに夕食をごちそうになった。

そこで色々と情報を手に入れた。

海翔さんは、まだ結婚してなくて近くの高層マンションに弟の陸翔さんと2人暮らし。

職業は、お医者さん。

テニスはプロ並みで、家が医者の家系じゃなかったら、その道に進んでいたかもしれないと言うのは陸翔さん情報。

ちなみに、陸翔さんは職業・フリーター。

家族からはあまりよく思われていないらしい。

海翔さんの方は、親族の中でもひときわ優秀らしい。大学を首席で卒業して、病院の中でも有名人らしかった。

かっこよくて頼りになって、信頼のおける腕の良いお医者さん。

でも、辛いことだってたくさんあるんだ―――…

思い出した。

私が何でトナカイさんを、仲山海翔さんを好きになったか。


「優衣。やっぱり行くの?」

「なに怖気づいてんの!?この前、告るとかさんざん言ってたでしょうが。」

帰り道、私達3人は仲山さんのマンションに向かっていた。

例のカラオケボックスに差し掛かったところで、私は優衣に聞いてみた。

「そうだけど…。」

「仲山さん兄弟も、『いつでも遊びにおいで』って言ってたじゃん」

と、いう事で、優衣に活を入れたれ着いたのは、豪華絢爛なマンション。

ロビーも広くてきれいで…。

「医者って儲かるのかなぁ?」

「優衣ちゃん!!」

「アハハハ…。」

私は、このマンションに入った時から、より一層、心臓がドキドキしていて立っているのもやっと。

会.えると思ってなかったから…。

いや、会いたいとは思ってたけど、なんかこう…、『きれいな初恋』、みたいな感じで終わると思ってた。

「はい。」

インターフォンから海翔さんの声が聞こえる。

「あ、野々宮です。お言葉に甘えて来ちゃいました。」

「いらっしゃい」

そう言うと、ドアの奥から足音が聞こえてくる。

ガチャッと、鍵を開ける音がした。

「よく来たね。さぁ、どうぞ」

家の中は清潔な感じで、家事は海翔さんの仕事だという事がよく分かった。

「あの、陸翔さんは?」

「陸翔は、さっき出かけたよ。」

何か嫌な予感がした。

優衣の不敵な笑みが…。

案の定、優衣は私の背中を押してこう言った。

「この子、海翔さんにお話があるんです。」

えぇぇぇ!?

状況がうまく飲み込めない。

「君、確か冬実ちゃんだよね。なに?話って」

「私と、付き合って下さい!!」

「え?」

海翔さんは驚いた顔をしている。

「ダメですか…?」

「ダメって言うか、俺に似合わないよ。君みたいな可愛い子。」

爽やかに断られてしまった。

それを聞いた途端、今までのドキドキがどこかへ吹っ飛んでしまった。

その爽やかさが逆にムカつく。

「分かりました。」

私も負けじと爽やかに笑い返した。

ここでムキになったら、負けたみたいで悔しいから。

私は玄関に向かった。

「ちょっと。帰るの?冬実。」

「待ってよ。冬実ちゃん!!」




**


「はい。どちら様で―――…」

「こんばんは。」

海翔さんのマンション。

玄関の前で不敵に笑う私に、海翔さんもつられて引きつった笑顔を見せる。

「はぁ…。いったい今日で何日目?」

「7日目です」

私が媚びたように言うと、海翔さんはもう一度ため息をついた。

海翔さんに爽やかに告白を断られた日から、私は海翔さんの家に通い詰めていた。

海翔さんは迷惑そうな顔をするのだが、私は最終的にはいつも家に上がり込んでいた。

言わなくても、私の大好きなレモンティーが出てくるぐらいだ。

「だから、付き合わないよ。」

私の前にレモンティーを出すと、海翔さんは向かいに腰を下ろした。

「どうしてですか?」

「どうしてもだよ。冬実ちゃんって見かけによらず頑固なんだね」


話はずっと平行線。

付き合う、付き合わないの行ったり来たり。

今日こそは!

そう思ってマンションを訪ねたら、珍しく陸翔さんが出た。

「悪いね。今日は兄貴、当直なんだ。」

そう言われたので仕方ない。

今回は素直に帰る事にした。

「ちょっと待って」

帰ろうとした私を陸翔さんが呼びとめた。

「いっつもこんな時間に来てるのか?」

陸翔さんは玄関口にある時計を見た。

12時を回っている。

「海翔さんに、この時間帯なら家に居るって言われたから…。」

「親には、なんて言ってんだよ?…まさか黙って来てるとか言わないよな?」

陸翔さんの顔が急に焦ったような顔になる。

「私には心配してくれる親なんていないからね。」

笑って言える事じゃないが、とりあえず笑いながら言ってみた。

そして、それから5日、海翔さんは毎回家にはいなかった。

「もしかして、私…、避けられてる?」

「もしかしなくてもそうだろうな…。この頃、この時間になると家を開けるんだ。」

「そう…。やっぱり毎日って言うのは不味かったかな~」

仕方なく、帰ろうと―――…、など私が考えるわけもなく、家にずかずかと上がり込んだ。

居間の机にはお酒の空瓶が何本も置いてあった。

陸翔さんは酔っている様子もない、あまりイメージは湧かないが海翔さん?

「あいつは、あんたが思ってるほどカッコ良くなんてないぜ?」

「え?」

陸翔さんは無造作に置かれた空瓶を見て呟くように言った。

「あいつ、親に嫌われてんだ。5年前、暴力事件 起こして…。親だけじゃない。親族からも目の敵にされてんだ。一度だけ、たったあの一度きりで」

その光景を頭に思い浮かべてみた。

悲しくて見ていられなかった。

「おい、泣いてんのか?」

陸翔さんが私の肩に手を置いた。

「冗談だって。あんたを追い払うために、俺が考えた嘘だよ。」

陸翔さんは慌てて言った。

私は首を振った。

「ごめん。今日は帰るね―――…。」





**


「はぁ?仲山さんの家に毎日通い詰めた!?」

「この2週間、ずっと?」

お昼休み。

私と優衣と美波は屋上に居た。

「無茶苦茶だよ。冬実ちゃん…。」

「今日も行こうと思うの。少し時間をずらして。」

私は悪びれることなく言った。


夜の11時。

海翔さんの家の前。

ゆっくりとインターフォンに指を伸ばした。

押す前に、中から物音がしたのでびっくりした。

ドアが開く。

中から出てきたのは、海翔さんだった。

「冬実ちゃん…?どうしたの」

海翔さんは驚いたというより、嬉しそうに笑っている。

「どうしたって、海翔さんが、私を避けるから…。」

私は海翔さんの顔を見て泣きそうになりながら言った。

久しぶりに見た、海翔さんの顔。

「避ける?」

「最近、顔も合わせてくれなかったじゃない。嫌われたんじゃないかと思って、心配してたのに…。」

海翔さんは泣くのを必死にこらえている私の頭を撫でた。

たぶん、海翔さんは内心「毎日、通い詰めていた奴が何を言う…。」って呆れているに違いなかった。

そんな顔をしていた気がする。

涙で滲んでよく見えなった。

「陸翔だよ」

「え?」

家に上げてもらった私はレモンティーを飲みながら海翔さんの話を聞いていた。

「陸翔が冬実ちゃんをからかったんだよ。」

から…かった……。

じゃあ、私は避けられていたわけでも、嫌われたわけでもないんだ。

「だから、今回の事は全部忘れ―――」

「いや」

私は海翔さんの言葉を遮るように言った。

だって、陸翔さんの言葉は嘘ばかりじゃなかった…。

「私の親、私の事がきらいみたい。」

突然の事で、海翔さんは驚いたようだった。

「私も海翔さんと同じなの。家では邪魔者扱いだし、まともに話をした事なんてないかも知れない…。」

「いったい何の事…?」

「ごめんなさい。私、スケジュール帳の中、見たの。9月の第2土曜日…。」

その日付は、海翔さんが5年前に起こした暴力事件があった日。

そして、その月のメモに書いてあった。

―――あの日以来、親に目も合わせてもらえない―――

「小6だった私にはそれが救いだった。私と同じ悩みをトナカイさんが持ってるんだもん。それが可笑しくて、涙があふれて来るのに、私…笑ってた。」

だから、好きになった。

勇気をくれたから。











「真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でも その年の

クリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカのお前の鼻が

役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと

喜びました~♪」


そして、7回目のクリスマスがやってくる。―――

その少女はカラオケボックスで「赤鼻のトナカイ」を熱唱していたのでした。


「冬実~、その年でソレはないと思うけど?」

カラオケボックスで酔っ払った優衣は言った。

「優衣ちゃん飲み過ぎだよ!」

美波は、少し口調を強めて言う。

「別に良いじゃない。私の初恋ソングなんだから。」

「ケッ!惚気ちゃって。」

すると急に、優衣が口元を押さえて俯いた。

「ウェ~~~~~~~~~」

どうやら飲み過ぎで、気持ち悪くなったみたいだ。

「優衣ちゃん!?」

「ちょっとぉ、嘘でしょ」


24歳の今、私は恋をしています(*/∇\*) キャハ


私の挑戦した、初☆短編です。

別サイトで「星空」「着ぐるみ」「スケジュール帳」のお題を頂き、

挑戦したお話です。


星空と言うキーワードは、あんまりお話に関係ないと言う…w

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