立場の危うい王子殿下・1
「分かってくれるな? リュシー」
「もちろんですとも、お父様。私は、いえ、我が家は王家の臣下です。そして貴族令嬢は家の為に婚姻をすることこそが価値でございます。私が殿下と婚約することで殿下の御身を守れるのであれば本望です」
私の名前はエリュシア。愛称はリュシー。今はお父様とお母様とお兄様と弟、そして我が家の家令と筆頭執事がお父様の執務室におります。
お父様はご自分の執務机に。家令と筆頭執事は側に控え、お母様は一人掛けソファーに。お兄様と私と弟が並んでソファーに座り、お父様からの話を聞いておりました。
「あなた、ですが」
お母様が顔色を変えてお父様に訴えます。お父様もお母様の言いたいことは分かっていらっしゃるのでしょう。
「アナ。気持ちは分かる。だが堪えてくれ」
「あなた……」
母・アナに頭を下げるお父様。お父様がお母様に頭を下げるなんて私は初めて見ました。チラリとお兄様と弟を見れば、二人共目を見張って驚いています。私と同じく初めて見たのでしょう。お母様は戸惑っておりますが、一つ息を吐きだすと、分かりました、と頷きました。
「あなたの気持ちは分かりました。リュシーも覚悟を決めているようです。なれば、私もイザックもウェスも覚悟を決めて、あなたとリュシーを支えることにしましょう」
イザックはお兄様のこと。ウェスは弟のこと。
私、エリュシアは三十四歳を迎えられたのに、私と並ぶと姉妹にしか見えないくらい外見が若いお母様に似たかったな、と思うほど外見はお父様に似ています。
ピンクがかったグレーの髪色にターコイズブルーの目をした、見た目年齢二十歳ほどの小柄なお母様。小柄なことも絶対若く見える要素なのだと思いますが、ほんわかとした気質であまり怒るという感情を見せないことが、皺一つ無い顔にもなっているのかもしれません。芯は強い方なのですけれど。そうでなくては公爵夫人なんて務まりませんし。
イザックお兄様は、私の二歳年上で、お母様と同じ髪と目をしております。でも背丈は、お父様に似たのかとても高いので美丈夫と言われています。顔立ちは少女っぽいお母様より、整ったお父様に似ているので余計なのかもしれません。私とウェスのことを大切にしてくれているのは分かりますが、私とウェスがお喋りだからなのか、聞き役が多い物静かな人です。
弟のウェスは、お父様の髪色であるアッシュグレーにお母様と同じターコイズブルーの目をした可愛い八歳。顔立ちはお母様似なので可憐な少女に見えなくもないですが、それを本人に言うのは控えています。最近、可愛い可愛いって言うと、「僕は男の子だから可愛いとは言われたくない」なんて言われていますので。四歳下なら可愛いと言っても仕方ない気がしますのに。ウェスが嫌なら仕方ないですね。
お父様は、アッシュグレーの髪色でブラウンの目の色をしています。背が高くスラリとしていて落ち着いた雰囲気です。お母様の一歳上なのですが、お母様が若く見える所為なのか、お父様の落ち着いた雰囲気の所為なのか、三十五歳より五歳以上上にも見えます。老けているというか、貫禄があるというか。
そして、私はお父様と同じアッシュグレーの髪色とブラウンの目をした、お父様に似て背が高めの娘です。おかげで、遠くから見ると私とお母様が姉妹に見えるな、とお父様から言われたことがあります。つい、本音がポロッと出たらしいですが、わりと傷つきました。お母様と姉妹ですよ。ちょっと傷つきます。お兄様がお父様に「父上、リュシーが傷ついてます」とその場で抗議して下さったことが、お兄様の優しさを感じられて嬉しかったですけど。
外見はそんな私。十二歳にして、十五歳以上に見えるようで、つい先日。公爵家御用達のドレスデザイナーから、「お嬢様は今年夜会デビューでしたか? ドレスの方はどうなさいます?」と尋ねられたときは、何とも言えない気持ちになりつつ、「私はまだ十二歳ですので、夜会デビューまであと三年はありますの」と答えるしかありませんでした。デザイナーが気不味そうな顔をしたものですから、こちらも居た堪れなかったです。
扨措。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




