第10章:篤の帰還と支配権の奪い合い
一方、地方の温泉旅館で働く篤は、苛立ちと焦燥感に苛まれていた。
夏希を失った彼の独占欲は、彼女の痕跡を探す日課によってさらに燃え上がった。
彼は夏希のSNSをチェックし、ネット上の掲示板を彷徨った。
「姉ちゃん…俺がいないと…どうなってるんだよ」
ある晩、篤は意を決して、夏希に電話をかけた。
かすかに聞こえる夏希の震える声に、篤の支配欲が再び火をつけた。
夏希は当初拒絶しようとしたが、神崎の視線への恐怖を、憎むべき篤に打ち明けてしまった。
「篤…助けて…私、神崎さんが…怖いの…」
この弱音は、篤にとって勝利の確信となった。
「俺が助けるよ。俺が、姉ちゃんの『秘密』を、誰にも渡さないように守るから」
篤はすぐさま旅館を飛び出し、数ヶ月ぶりに東京に戻り、夏希のアパートを突き止めた。
彼は夏希にメッセージを送り、「俺たちの部屋で待ってる。逃げられると思うなよ」と、強烈な支配を予告した。
その夜、神崎は「残業」を口実に夏希の部屋に押しかけ、彼女の精神状態を気遣うふりをして、支配の場所を手に入れようとしていた。
夏希の部屋で、篤からの電話が鳴った。
神崎は出るなと圧力をかけたが、夏希は通話ボタンを押した。
「誰かと一緒にいるの? 声が震えてるよ、姉ちゃん。俺以外に、誰かを部屋に上げてるの?」という篤の尋問に、夏希はパニックになった。
篤がアパートの玄関を激しくノックし、大きな声が響き渡った。
「姉ちゃん!開けて!中に誰かいるんだろ!?」
神崎は冷静にドアを開け、篤の前に立ちはだかった。
「私は、彼女の会社の人間だ。彼女の『問題』を解決するために、力を貸している。君のような、彼女の過去を食い物にする人間から、彼女を救い出すのが私の役目だ」
神崎の言葉は、篤の支配権を奪おうとする、理知的な宣戦布告だった。
「ふざけるなよ!姉ちゃんを救えるのは、俺だけだ!あんたなんか、どうせあの教授と同じ、支配欲の塊だろ!」
篤の叫びは、二人の男の間で繰り広げられる、夏希を巡る支配権争いを露呈させた。
夏希は、部屋の隅で、二人の男の言葉に耳を傾けていた。
どちらも、彼女を「物」として扱い、その支配を競い合っている。
夏希は抵抗を試みたが、篤は強引に彼女を抱きしめ、「姉ちゃんは、俺だけが心の支えなんだろ?」と囁いた。
神崎が警察を呼ぶと脅してきたため、篤は一時撤退をすることにした。
「わかったよ、姉ちゃん。今日は帰る。でも、覚えといて。俺は、姉ちゃんの全てを知ってる。あの教授の動画も、姉ちゃんの弱さも。どんなに逃げても、俺の影からは逃れられないからな」
篤が去った後、神崎は夏希に向き直り、冷たい目で言った。
「君は彼に『助けて』とは言わなかったが、彼の腕の中で震えていた。君の体は、まだ彼の支配を求めている」




