第1章:ざわめく夜
杉山篤、18歳。高校三年生の彼は、薄暗い自室のベッドに寝転がり、ノートパソコンの青白い光に目を細めていた。
ヘッドホンから漏れる音が、静かな部屋に響く。
画面には、アダルト動画サイトのページが映し出されている。
タイトルは『素人美女の秘密の時間』
映る女性は、顔に薄いぼかしがかかっているが、長い黒髪、華奢な肩、しなやかな指の動きが、篤の心を奇妙にざわつかせた。
「またこの子か…」
篤は小さく呟き、再生ボタンをクリックする。
動画は、女性がホテルの一室で服を脱ぐシーンから始まる。
彼女の声は低く、どこか疲れた響きがあった。
篤は最初、単なる好奇心でこの動画を見つけた。
受験勉強のストレスを紛らわすため、夜な夜なネットの海を彷徨い、偶然辿り着いたサイト。
そこで見つけたこの女性の動画は、なぜか篤を強く惹きつけた。
彼女の仕草、首を傾げる癖、笑い声のトーン。
それらが、篤の姉・杉山夏希に似ていた。
夏希は22歳、大学四年生。
4歳違いの姉は、頭が良く、いつも落ち着いた態度で、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ女性だった。
両親が数年前に離婚して以来、篤と夏希、そして看護師として不規則な勤務をこなす母の三人で暮らしている。
母の夜勤が多く、姉弟だけで家にいる時間は多かった。
それでも、夏希は篤にとって「完璧な姉」だった。
いや、そう思っていた。
「まさか…姉ちゃんがこんなことするわけないよな」
篤は笑って否定するが、心のどこかで引っかかる。
首筋の小さなほくろ、細い手首に巻かれた赤いミサンガ。
それらは、夏希の特徴と一致していた。
篤は画面を一時停止し、目を閉じた。
興奮と疑念が混ざり合い、胸が締め付けられる。
ある夜、篤はいつものように動画を再生した。
女性がベッドに腰掛けるシーンで、背景に映る窓の外の景色に目が止まった。
「…これ、駅前のあのビルじゃないか?」
篤の住む街の、駅から少し離れた場所にある古びたビジネスホテルの看板。
赤と白のネオンが、動画の薄暗い画面でかすかに光っていた。
篤の心臓がドクンと跳ねた。
「姉ちゃん…本当に?」
興奮と恐怖、そしてどこか歪んだ好奇心が胸を締め付ける。
篤はパソコンを閉じ、ベッドに仰向けになった。
だが、その夜は一睡もできなかった。




