番外編2
「菖蒲くん。他は? 何か頼まへんの?」
菖蒲と晴臣は、居酒屋へとやって来ていた。
机の上は既に大量に食べ物が並べられていると言うのに、更に何か頼むものはないかと尋ねる晴臣。
だが菖蒲はよそ見をしており、晴臣の話を聞いてはいなかった。
ふと、菖蒲の視線の先に、自身も視線を向けると、そこには浴衣を着た二人組の女性がおり、晴臣は「目の前に恋人がおんのに、堂々とよそ見とは良い度胸やな、菖蒲くん」と笑みを浮かべて言う。
そんな晴臣に「そんなんじゃないですよ」と菖蒲。
「じゃあ何でそんな熱烈な視線向けてんの?」と不満そうに言う晴臣を、菖蒲はじっと見ると「……そう言えば、晴臣さんにチュウしてた着物の女性誰だったんだろうって思ってただけです」と言うので、思わず晴臣は食べていた枝豆で咽せてしまう。
「チュウぅ!? 誰が!?」
そう慌てたように言う晴臣を、じとっと睨み指差す菖蒲。
晴臣は「いつの事? 菖蒲くんの記憶違いちゃうん?」と言うも、菖蒲は「この目ではっきりと見たから」と更に晴臣を睨む。
そんな菖蒲にまじで覚えがないと「菖蒲くん以外としてへんし、せえへんって!」と必死に言う。
だが菖蒲は「付き合う前です」と言い、晴臣を「……付き合う前?」と更に困惑させる。
「僕が晴臣さんにしばらく会うのやめましょうって言ってた時、一回飲屋街で会ったじゃないですか。その時、お店から出て来た着物を着た女性が、晴臣さんの頰にチュウしてたの見たんですからね」
「しかも晴臣さんは満更でもなさそうだったのも!」
忘れたとは言わせないぞ。と言いたげな目を晴臣に向ける菖蒲。
そんな菖蒲の話を聞き、晴臣は「あー……あれかぁ……」と何か心当たりがあるようだ。
「あれはちゃうで、菖蒲くん」
「何が違うんですか? 口にしてないからとか、なしですからね」
そう言ってタコを箸でつまみ、食べる菖蒲に晴臣は「いやそうやなくて。なんて言えば良いかな。あの人はいつもああやねん」と説明する。
「ああやねんって?」
「酔ったら、誰それ構わずキスするようになんねん。やからあの日も俺以外の、組の奴らもキスされてたし、お嬢にもすんねんで?」
「やから、そう言う意味やないねんて。菖蒲くんが思ってることは何一つない!」
そう必死で言う晴臣は「菖蒲くんがあの場におったら、菖蒲くんもされてるで。そう言う人やねん! おるやろ? 周りに一人は酔ったら誰それ構わずキスするやつ!」と更に言う。
晴臣の話を聞いた菖蒲は「確かに……僕の友人にも居ますけど」と頷く。
そんな菖蒲に「やろ?」と同意を求める晴臣。
だが菖蒲は「……それでも」と続けると、耳を赤くさせ、視線を逸らし言う。
「晴臣さんが、僕以外の人にチュウされてるのはやだ」
その瞬間、晴臣の手が机に激しく叩きつけられ、ガシャンッと食器が音を立てる。
そんな晴臣に菖蒲は「は、晴臣さん? 大丈夫ですか?」と慌てて問いかけると、晴臣は「ちょっと……宇宙の、摂理を……」と全く宇宙の摂理について考えている表情だとは思えない表情で言う。
「またですか? 宇宙好きなんですか?」
「……すまんすまん。忘れて」
変なの……と思いながら、お酒を飲む菖蒲。
あかん。一瞬、天国が見えたわ……。まだ死ぬわけにはいかんっちゅうねん。と晴臣もお酒を飲む。
そんな晴臣を見て、菖蒲はジョッキを机に置くと「……次、そのお店に行く時は、なるべく阻止してくださいね。出来なかった分だけ、晴臣さんとチュウしませんから」と真顔で言う。
「え、待って。菖蒲くん! それだけは……!」
「阻止すれば良い話じゃないですか。」
「いや、阻止したら頭押さえつけられてやられるねんて……!」
そう言う晴臣に、菖蒲は「じゃあ、当分なしで」と笑みを浮かべる。
晴臣は、それは絶対嫌だと「分かった、死ぬ気で阻止する。やから、なしは無しで……」とお願いすると、菖蒲は「頑張ってください」と返す。
まじで頑張らな……と考えながら、枝豆を摘んでいる時、ふと晴臣は思う。
「さっき、菖蒲くんの友達にも酔ったらキスする奴おる言うてたけど、まさか菖蒲くんはされてへんやんな?」
そう晴臣が問うも、菖蒲は黙って冷やしトマトを頬張る。
そんな菖蒲に「菖蒲くん? 聞いてる?」と呼びかけるも、返事はなく「無視〜?」と卵焼きを食べる。
今度、しれっと探り入れよ……。
付き合うまでは、晴臣に振り回されていた菖蒲だったが、付き合ってからは菖蒲に振り回される晴臣だった。
番外編 ――完――




