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すれ違い



 「何か、ここから近い場所で良さそうなとこないかなぁ」




 まだ時間があるので、この後もどこかに行こうかと言うことになり、鈴宮さんはスマホで近くにどこかいい所がないか探している。


 そして僕も、スマホで探しているのだが、先ほどから鈴宮さんの事を見ようとしても、視界に晴臣さんが入ってきて集中できない。



 何かめっちゃ視線を感じる気がする……気のせいかもしれないけど。


 まぁでもそうか。


 晴臣さんには、大阪に戻ってきてるって事言ってないし……怒ってる、よね……?



 そうチラッと晴臣さんの方に視線を向けるが、晴臣さんは一緒に喫茶店にやって来た人と話しているみたいで、僕のことは見ていなかった。


 そのことに安堵していると「白井くん。ここの近くになんか遊べる所あるみたいやけどそこ行かへん?」と提案してくれるも、ちゃんと話は聞けておらず「ご、ごめん。どこかな?」と鈴宮さんに聞き直す。



 鈴宮さんはスマホの画面を僕に見せてくれる。


 そこは色々なスポーツができる屋内施設で、僕は「い、いいね。そこに行こう」と頷く。



 もちろん、楽しそうだったと言うこともあるが、一刻も早く喫茶店を出たかった。


 行く場所が決まり、僕と鈴宮さんは立ちあがろうとした。



 その時、僕の手からスマホが落ち、運悪く晴臣さんの足元まで滑っていったのだ。


 最悪だ。


 そう思っていると、晴臣さんは足元に落ちた僕のスマホを拾い上げると「割れてなくてよかったですね」と言う。



 その表情はあからさまに作られた笑顔で、僕に使うことのない敬語を使い、恐らく鈴宮さんがいるから他人行儀を装っているのだろうが、かえってそれが怖く感じる。


 晴臣さんの言葉に「ほんまや。割れてへんくってよかったなぁ」と言う鈴宮さん。



 僕は「だ、だね……。」と言うと、晴臣さんは何を思ったのか「……お二人さん、デートですか?」と聞いてくる。


 その言葉に驚き、僕は思わず晴臣さんを凝視してしまう。



 何を言い出すんだ、この人は……! なんて慌てていると、鈴宮さんは「そう見えます?」と笑って返す。


 すごい、鈴宮さん大人の余裕……!



 そう感動していると、晴臣さんが「こんな美人とデートなんて羨ましいわぁ。なぁ?」と僕の方を見てくる。


 何だ……? 新手の嫌がらせ……?



 どうしてそんな事を言ってくるんだ。などと思いながらも、僕は晴臣さんを思い切り睨みつける。


 そんな晴臣さんに鈴宮さんは「そんな褒めても何も出ませんよ」と返すので、僕は「行こう、鈴宮さん」と声をかけると、晴臣さんは「邪魔して悪いな」と言ってくるので、僕は「いえ。お気になさらず」と視線を逸らし歩いて行く。




 「――さっきの人、白井くんの知り合いやんな?」


 「……え!?」




 喫茶店から出た僕たちは、鈴宮さんが調べてくれた場所へと向かうため、電車に乗っていた。


 驚く僕に鈴宮さんは「前に、あの人と白井くんが車に乗ってるとこ見かけた事あるねん」とこれまた驚く事を言う。



 そ、うだったんだ……と頷く僕に、鈴宮さんが「あの人、一般の人じゃないよね?」と聞いてくる。


 まぁ、晴臣さんと一緒にいた人が、明らかにカタギの人間じゃない見た目をしていたし、さっきチラッと手首の刺青が見えたから、鈴宮さんが気づくのも無理ないか。



 僕は「そうだよ。」と頷くと、鈴宮さんは「大きなお世話かもしれへんけど、大丈夫なん?」と聞いてくる。


 恐らく、脅されたりしていないか。と言う事を言いたいんだろう。



 僕は「大丈夫……あの人とは本当にたまたま、仲良くなって……信じてもらえないかもしれないけど、凄く優しい人なんだ」と答える。


 僕の話を聞き「まぁ、白井くんがそう言うなら何も言わんけど。」とそれ以上、鈴宮さんは何も言わなかった。



 きっと、気を遣ってくれたんだろう。


 でもやっぱり、ヤクザと仲良いと聞けば皆んな、鈴宮さんみたいな反応をする。


 それが悪いとかではなく、至って普通の反応だ。



 鈴宮さんでも僕のことを心配するんだ。


 母や父に話したら、もっと心配してしまうだろう。




 それから僕と鈴宮さんは屋内施設を満喫し、鈴宮さんを送って行き別れた。


 そして次の日になり、僕は帰省していたこともあり、久しぶりにトミーのバイトへと来ていたのだが。




 「おはよう、あやめん」




 目の前には、いつもの席に座る晴臣さんが、笑みを浮かべそう僕に声をかけてくる。


 昨日、晴臣さんと喫茶店で会ったから何となく来そうだなとは思っていたが、僕が今日シフト入ってることなんて言っていなかったから、まさか本当に会うとは思わなかった。



 僕は思わず「な、何でいるんですか……」と聞くと、晴臣さんは「昨日()()()()トミーに来たら()()()()キッチンの兄ちゃんに、あやめんが今日シフト入ってるって聞いたから会いに来てん」と笑みを浮かべる。


 個人情報ガバガバじゃないかと思い、キッチンの中野さんの方を見ると、中野さんは親指を立て頷いている。



 いや、グッドじゃないから。


 まぁ、晴臣さんと仲が良いことを中野さんは知っているので教えたんだろうけど……とため息をつく。



 そんな僕を見上げる形で晴臣さんは、頬杖をつくと「今日あやめん、13時におわんねやろ?」と言ってくる。


 本当にプライバシーもクソもないなと思いながら「そう、ですけど……」と言うと、晴臣さんは「じゃあ上がる頃に前で待っとくから」と言い立ち上がる。



 そんな晴臣さんに「え?」と言うと、晴臣さんは僕の耳に顔を近づけると「逃げても無駄やで」と言ったかと思えば、顔を離し「ほな、また後でな」と肩に手を置くき、会計をしに行く。


 まぁ……こうなるよね。



 これも全部自分が蒔いた種だと、僕は諦める。







 上がる時間になり、トミーから出ると約束通り、トミーの前に晴臣さんの車が停められており、僕は覚悟を決め、開いている窓から「……あの、終わりました」と声をかける。


 すると、晴臣さんは「乗って」と言うので、僕は車のドアを開け、助手席に乗る。



 その瞬間、車は動き出し「どこに行くんですか?」と聞くと、晴臣さんは「近くの車停めれる所」と言う。


 車は動き出し、しばらく沈黙が続く。



 何て話そうか、そんな事を考えていると、晴臣さんが先に口を開く。




 「いつ、大阪戻って来てたん?」


 「えっと……四日前、です」




 僕がそう答えると、晴臣さんは「戻ってくる時、連絡してって言ったやん。何で連絡くれんかったん?」と聞いてくるので、僕は「……色々ありまして」と返す。


 そんな僕の言葉に晴臣さんは「色々って?」と聞き返してくるので、僕は「それは……答えられません」と返す。


 「何で答えられへんの?」と、先から質問攻めな晴臣さんに「答えられないものは答えられないんです」と返す。



 すごい質問攻めしてくる……。まぁ、当然か。僕が連絡しなかったんだし……。


 そう考えていると、晴臣さんが「俺には連絡できひんし、その理由を答えられへんのに、あの女の子には連絡してデートまでできんねや」と言い出す。



 僕は驚き「はっ……すず……彼女は関係ないじゃないですか。それに、彼女とは遊びに誘ってもらって……」と返す。


 だが、晴臣さんは「ずっと菖蒲くんからの連絡待ってたのに、連絡なくて久しぶりに()うたとおもったら、鼻の下伸ばして女の子と遊んでるもんやから、びっくりしたわ」と言ってくる。



 何だこの子どもみたいな態度。


 それに、鼻の下なんか伸ばした覚えない。


 て言うか「だから彼女は関係ないじゃないですか。どうしてさっきからそんな彼女の話をするんですか?」と言う。



 それに、連絡がなかったと言うのなら、晴臣さんだって僕に連絡せずに東京に行ってたじゃないか。


 どうして僕ばっかり……。


 


 「……晴臣さんだって、何も言わずに東京行ったりしてたじゃないですか。」




 僕がそう言うと、晴臣さんは車を停める。


 どうやら、車を停められる場所に来たようだ。



 そして、僕の言葉に「それは……急やったから」と言葉を濁す。


 そんな晴臣さんに「忙しくても、連絡の一つや二つ入れれるじゃないですか。晴臣さん僕に文句言えませんよ」と返す。



 僕の言葉に黙る晴臣さん。


 少し前までは普通に、スイーツを食べに行ったり、お笑いを見に行ったりしてたのに。



 何だか最近は、ずっと晴臣さんの事で悩んでるし、会っても喧嘩をしている。


 この晴臣さんへの気持ちも、僕たちの関係についても考えなきゃいけないことが沢山で、僕は疲れたのか「……晴臣さん。しばらく会うのはやめましょう。連絡も……」と口にしていた。



 僕の言葉に晴臣さんは「は……」と漏らすと「ほんまに言うてるん? それ」といつもより低い声で言ってくる。


 僕は頷くと「何で急に……俺、なんかした?」と聞いてくる。


 僕は俯きながら「いえ……晴臣さんは悪くありません。僕個人の問題です」と返す。



 すると晴臣さんは、体を前のめりにすると「個人の問題って?」と聞いてくるが、僕は「言えません」と返すだけで。


 晴臣さんは「そればっかや、菖蒲くん。」と呟く。




 「俺は理由わからんまま、菖蒲くんに会えへんくなんの嫌や。もし、俺になんかあるなら言って」 


 「だから……晴臣さんがどうとかではなく、僕の気持ちの問題というか……とにかく、しばらく会いたくありません……」




 そう言うと、晴臣さんは「俺のこと嫌いになったん?」と聞いてくる。




 「だから、そんなんじゃありませんって……! もういいじゃないですか! そもそも、僕は普通の学生で晴臣さんはヤクザじゃないですか! 本来なら、こうして会うこともおかしいんですよ……!」




 僕は気づくとそう口にしてしまっており、ハッとする。


 晴臣さんは僕のことを黙って見ており、ゆっくりと「それが理由? 俺と会わへんの」と言ってくる。



 僕は視線を逸らすと、晴臣さんは「……分かってる。」と呟く。




 「え……?」


 「ヤクザ(俺みたい)なんが菖蒲くんみたいな普通の子にこれ以上関わらん方がいいってことも、離れなあかんってことも……それでも……」




 晴臣さんはそこまで言うと、僕のことを真っ直ぐ見て言う。




 「菖蒲くんのことが好きやから、菖蒲くんのこと手放せへん」




 そう言う晴臣さんの声は、聞いたことがないくらい弱々しく、震えており、いつも人を振り回し、冗談ばかり言う晴臣さんとは違っていた。



 好きやから手放せへんって……。


 その好きは、友人としての好きだろうか……いや、さすがの僕でもわかる。



 晴臣さんの好きは、僕と同じ好きなのだろう。


 本当は僕も好きだと、嫌いなわけないと言いたい。



 けれど僕は「……今はその気持ちに応えられません」と答える。


 晴臣さんは「分かった」と言うと「菖蒲くんが会いたくないならそれに合わせる」と僕の意見を呑んでくれる。




 「――ちゃんと体あっためて寝ぇや」




 僕はいいと言ったのだが、晴臣さんは結局、僕のことを家まで送ってくれた。


 いつものように、僕に気遣う言葉を送ると「いつでも連絡待ってる」と言い、晴臣さんは行ってしまった。



 そんな晴臣さんを見送っては、これで良かったんだと僕は自分に言い聞かせた。



 そして夏休みが終わり、晴臣さんと会わなくなり一月が経った。

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