家族
川崎から聞いた話は、美咲にとって初めて聞く話だった。
帰りに同期で同じ高卒の葵と夕食を食べてから帰宅した。
ウインドショッピングも二人ですると楽しかった。
葵は最近、同じ高卒の男子社員と【いい雰囲気】になっている。
葵は小さくて可愛い女の子だ。
美咲は羨ましいと思っている。
相手の男子社員は葵より大きくて、漫画やドラマに出て来るカップルの身長差なのだ。
⦅お似合いだなぁ~。上手く行って欲しいなぁ~。⦆と美咲は思っている。
「美咲ちゃん、背が高いから……いいなぁ~。」
「え゙っ! どこがいいの!」
「えっ?」
「嫌だよ―――っ! いいことないもん。」
「なんでぇ?」
「だって、男の子から相手にして貰えないよ。
男の子に見えることもあるもん。」
「え゙ぇ―――っ! 女の子じゃん。
何処をどう見ても!」
「どこがぁ! 見えないよ。
私こそ……葵ちゃんが羨ましいよ。」
「えっ? なんで?」
「小さくて女の子らしくて、めっちゃ可愛いじゃん。
だから、いい感じになってるんでしょ?」
「そ……かなぁ……。」
「そうだよ。
あ~ぁ、このまま私、一生、誰かと付き合うことなく終わるんだろうな。」
「そんなことないよ! 美咲ちゃん、可愛いもの。」
「葵ちゃん………。」
「なに?」
「惨めになりそう……。」
「ええ―――っ!」
「ってのは、嘘ぴょん。」
「もぉ!」
そんなことを話しながら楽しい時間を過ごして帰宅した。
帰宅してお風呂に入って、ゆっくり湯に浸かっていると、シンデレラは葵のような女の子にこそ似合うと思った。
そして、⦅一番、シンデレラなのは、香川先輩! 先輩しか居ない! 一択だわ。⦆と思った。
美咲の瞳は夢を見るように憧れの香川先輩の姿を想像した。
寝る前に実家に帰って来ていた兄と姉が父とお酒を飲んでいた。
美咲は三人の目の前を通り過ぎてキチンへ行き、冷蔵庫を開けた。
コーヒー牛乳を取り出した所で、兄が言った。
「美咲、お子ちゃまだな。」
「何でよ!」
「コーヒー牛乳……ぷっ……あははは……。」
「お兄ちゃん! バカにしないでよ!」
「ほんとに可愛いわね。美咲は……。」
「お姉ちゃんまで、もぉ!」
「美咲、こっちへ来なさい。」
「なぁに? お父さん。」
「ちょっとだけ飲みなさい。
舐めるだけだぞ。」
「え………私、未成年だよ。お父さん……。」
「家だからいいじゃないか。
但し、舐めるだけだぞ。」
「舐めるだけね。」
「ビールに味を少し知ってもいいだろう。
お前も社会人だ。」
「未成年。」
「さぁ……舐めて味を知っておきなさい。」
「お父さん、酔ってるよね。」
「まぁ、明日は休みなんだから……土曜日、休みだよな。」
「うん。」
「二日酔いでもOKだ。」
「お父さん。」
「飲んでみろよ。美咲。」
「お兄ちゃんも!」
「舐めるだけにしなさいね。美咲。」
「お姉ちゃん……。」
父に勧められて、ほんの少しビールを口に含んだ。
「苦ぁ~~い!」
「苦いか? これが大人の味だぞ。
これの苦みを美味しいと思えたら、大人だ。」
「いいもん。まだ18だもん。」
「そんなに慌ててコーヒー牛乳を飲まなくても……あはは……。」
「お兄ちゃんの意地悪!」
「美咲、歯を磨いて寝るのよ。」
「だから! 子どもじゃないって……。」
「まぁ、お父さんとお兄ちゃんの玩具になったのね。美咲。」
「お母さん!」
「こんなに大きくなっても末っ子ね。」
「末っ子が何?」
「末っ子だから可愛がられるのよ。」
「そんなことないよ。お母さん、ちゃんと見てた?」
「美咲が可愛いのよ。」
「そそ、可愛いのだ!」
「お兄ちゃん。」
「歯、磨けよ。」
「早く寝なさい。」
「おやすみ。」
「いざっ、夢の世界へ~。」
「お兄ちゃん! 嫌い!」
「おう、愛の言葉だ。」
「大嫌い!」
「愛されてる俺。」
「美咲、おやすみ……ちゃんと寝るのよ。」
「……お姉ちゃん……。」
「うん?」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
自分の部屋に入って「お兄ちゃん! 酔い過ぎ! だから酔っぱらいは大嫌い!」と声を出して怒った。
腹立ちのままベッドに身を沈めたが、美咲は直ぐに静かな寝息を立てた。




