薫の君
その日は先輩の夢を見てせいで、二人の先輩に会わないことを願って過ごした。
運良くその日は会わなかった。
帰宅していつもの時間を過ごして寝た。
正月のある夜―忍んでいく人が居る。
その男性は決心して邸に入った。
その邸には美しい姫君が居る。
⦅あっ! 香川先輩!
あれは……あの美しい姫君は香川先輩。
でも……相手の男性は知らない人……。
えっ? どうして?⦆
二人は契りを結んだ。
その時、美しい姫君が涙を流した。
「薫の君様ではございませんのね。」
「貴女に恋焦がれておりました私は……私の名は匂宮。」
「匂宮……様………。
私は何と言うことを……。」
「貴女を捨て置いた薫の君がいけないのです。」
「いいえ、いいえ……私の罪でございます。」
泣き続ける姫君。
⦅あんたね! どこのどいつなのよ!
香川先輩が泣いてるじゃない!
許さないわ!⦆
涙を拭い抱きしめる匂宮。
「どうか私を愛して下さい。浮舟……。」
「そんなこと……あぁ……。」
⦅浮舟……って呼んでた!
名前、浮舟なのね。
浮舟って……誰?⦆
二月のある日―別の男性が浮舟の邸を訪れた。
浮舟は驚き、そして心が沈んでいるようだった。
その様子を見た男性が言った。
「浮舟、暫く来れなかった間に女性として成長したのだね。」
「えっ?」
「やっと、その時が来たのか……。」
「その時?……何でございましょう。
恐ろしゅうございます。」
「恐れることなど無いのだよ。
私と共に京へ行こう。」
「京へ?」
「そうだ。京に浮舟を迎えよう。」
「薫の君様……。」
「約束しようぞ。その日まで待っていておくれ。」
「………薫の君様……。」
優しく浮舟を抱き締める薫の君。
⦅あっ! あの男性は先輩。
じゃあ、香川先輩は……やっぱり先輩と結ばれるのね。
胸が痛い……苦しい……。⦆
宮中の詩宴の夜、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦りを覚えた匂宮は、雪を冒して再び宇治に赴き、浮舟を宇治川対岸の隠れ家へ連れ出し、そこで二日間を過ごした。
「浮舟……貴女を薫の君には渡さぬ。」
「……匂宮様……。」
⦅ええ―――っ! そんなぁ……。
じゃあ、先輩はどうなるの?⦆
薫は浮舟を京に迎える準備を進めていた。
匂宮はその前に浮舟を引き取ろうと言う。
何も知らずに上京の準備を手伝う母中将の君に苦悩を打ち明けることもできず、浮舟は宇治川の流れを耳にしながら物思う。
ある日、宇治で薫と匂宮両者の使者が鉢合わせしたことからこの秘密は薫に知られ、薫からは心変わりを詰る内容の文が届いた。
薫に秘密を知られてしまい、ショックを受ける浮舟。
やむなく、「宛て先が違っている」ということにして、文を送り返した。
宇治の邸は薫によって警戒体制が敷かれ、匂宮は焦りを募らせる。
薫に恨みの歌を送られ、匂宮との板ばさみになって進退窮まった浮舟はついに死を決意する。
死を間近に、薫や匂宮、母や中君を恋しく思いながら、浮舟は匂宮と母にのみ最後の文を書き認めた。
「鐘の音の絶ゆるるひびきに音をそへて わが世尽きぬと君に伝へよ」
浮舟は自ら死を決意したが果たせず、山で行き倒れている所を横川の僧都に救われる。
その後、僧都の手により出家を果たした。
「薫の君様……全ては私の罪でございます。
匂宮様……私は………罪深うございます。
この身は出家を果たしました。
残りの日々は、ここで暮らします。」
⦅ええ―――っ!
二人とも断って……そして自殺未遂……。
じゃあ……誰とも結ばれないの?⦆
浮舟を探し続けていた薫に消息を捉まれ自らの元に戻るよう勧められても、浮舟は終始拒み続けた。
「もうお傍にはおれませぬ。」
「居て欲しいのだ。浮舟……貴女に……。」
「私は罪深うございまする。
薫の君様の想いを受けながら、匂宮様と……。」
「それは私が悪いのだ。
貴女を邸に置き、訪わなかった。
寂しい想いをさせた私が悪いのだ。」
「いいえ、全ては私の罪でございます。」
「浮舟……。」
「もう二度と御目に掛かることはございません。
どうぞ、このまま……。」
「嫌だと言ったら?」
「そのお心を大切に、私の心の奥深くに………。」
「浮舟!」
「お別れにございます。」
「浮舟っ!」
「お健やかでお過ごしくださいませ。」
「浮舟………。」
頭を下げて浮舟は戻って行った。
決して振り返ることなく……薫は佇んでいた。
⦅先輩……香川先輩に失恋……したんだ……。⦆
そこで美咲は目が覚めた。




