ホワイトデー
何時からか、バレンタインデーのお返しの日が出来て、「ホワイトデー」と呼ばれるようになった。
お返しにはマシュマロ、ホワイトチョコレートなどを選ぶ。
職場の女子から貰った義理チョコを持って帰った社員たちが、それを妻や子と共に食べる。
そして、妻がホワイトデーのお返しを買いに行く。
そういう家庭もある。
美咲の父親は、貰った義理チョコを妻と子らに食べて貰っていた。
今も食べて貰っている。
そして、妻がホワイトデーのお菓子を買いに行っている。
今年は美咲自身が職場でホワイトデーを迎えた。
チョコレートを渡した人から次々とお菓子を貰った。
可愛い包装のお菓子を見ると、女子社員たちは口を揃えて「これっ、絶対に奥様が選んで買って来られた物ですよね。」「それしか無いわ。」「めっちゃ可愛いね。」などと言う。
ほとんどの人からホワイトデーのお菓子を貰った。
ただ一人、あの先輩からは貰えなかった。
それがショックな美咲。
「そういえば、今日居ないね。」
「あ……今日は外で一日だそうです。
終わったら帰ってくる予定ですよ。」
「そうなの? じゃあ、貰えるのは5時頃かな?」
「葛西さん、貰ってから帰る気ですかぁ?」
「出来れば!」
「あはは………。」
5時前になって、急いで会社に戻って来たのは、あの先輩だった。
仕事の話を上司にしたあの先輩に、井上が声を掛けた。
「葛西さん、お待ちかねです。」
「えっ? 葛西さん?」
「そ、葛西さんが手ぐすねを引いて待たれています。」
「はは………手ぐすねって……。
葛西さん、お待たせしました。」
「はい。お待ちしました。」
「ホワイトデーです。先日は義理チョコをありがとうございました。」
「ええ、義理チョコですが……何か?」
「心より感謝しております。」
「宜しい!」
「これは粗品ですが……。」
「義理チョコより粗品なんですの?」
「そこそこ……だと思います。」
「そこそこ、ね。……ありがとう。」
次々に渡していき、女子社員たちは貰うと「ありがとうございます。」と言った。
美咲の目の前に先輩が来た。
何故だか最後だった。
「美咲ちゃん、ありがとうね。」
「あ………いいえ………あ……こちらこそ、ありがとうございます。」
周囲の眼が優しく美咲を包んでいることに美咲は全く気が付かなかった。
帰宅すると、帰って来た父からと、自宅へ帰る前に寄った兄から、そして姉と共にやって来た義兄からホワイトデーのお菓子を貰った。
兄は「心して食べよ! じゃあな、帰るわ。」と言って大急ぎで帰って行った。
姉と義兄は一緒に夕食を食べてから、「美咲ちゃん、ありがとう。これ……俺が選んだのじゃないけど、美琴が選んだんだ。」と言った。
父は、「出来たら、来年は酒にしてくれないか?」と言った。
父が苦手なチョコレート、「チョコボンボンでも1個食べるのがやっとだったのよ。」と母から美咲は聞いた。
「お父さん、来年はお酒にするね。何がいいか教えてね。」と父に言うと、「美咲が選んでくれた酒なら何でもいい。」と言って笑みをこぼした。
そんな風にホワイトデーの一日は過ぎた。
部屋で美咲は、あの先輩から貰ったホワイトデーのお菓子を開けて眺めている。
⦅これ、食べたくないなぁ……。⦆




