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名残りの雪  作者: yukko
23/30

司祭ウァレンティヌス(バレンタイン)

家に帰ってから父にチョコを渡した。

父は「美咲からチョコを貰ったぞ!」と大喜びで、母に告げた。

美咲から「会社の帰りに寄って!」と言われていた兄も寄ってくれた。

兄にチョコを渡すと、美咲に兄は言った。


「本来は美咲から持ってくるんだぞ。

 でも、折角寄ったから……貰っておいてやる。」

「お兄ちゃんの家に寄ったら、悪いじゃん。」

「なんでだよ。」

「だって、新婚家庭に義妹が来るって……嫌われたくないもん。」

「そっか……そっか……。

 美咲、チョコ……ありがとな。

 貰えなかったら寂しかった。」


兄に頭を撫でて貰っても嬉しような嬉しくないような複雑な気分の美咲だった。

そして、兄が帰る前に「美咲、元々のバレンタインデー知ってるか?」と言って、「知らない。」と答えた美咲に、兄は話し始めた。

司祭ウァレンティヌス(バレンタイン)の話を………。


話を聞いてから、直ぐに入浴して美咲は寝た。

ゆっくりと睡眠が美咲を包んだ。



時はローマ帝国の時代。


当時、ローマでは、2月14日は女神ユーノーの祝日だった。

ユーノーはすべての神々の女王であり、家庭と結婚の神でもある。

翌2月15日は、豊年を祈願する(清めの祭りでもある)ルペルカーリア祭の始まる日であった。

当時、若い男たちと女たちは生活が別だった。

祭りの前日、女たちは紙に名前を書いた札を桶の中に入れることになっていた。

翌日、男たちは桶から札を1枚ひいて、ひいた男と札の名の女は、祭りの間パートナーとして一緒にいることと定められていた。

そして多くのパートナーたちはそのまま恋に落ち、そして結婚した。


「ねぇ、パートナーの方とはどうなったの?」

「とっても素敵な方だったって言ってたじゃない。

「お母様、お姉様……あれからお会い出来ておりませんの。」

「まぁ……お母様、妹の為にお力添えをお父様にお願い出来ませんか?」

「お父様にお願い致しましょう。」

「お母様、どうかお願い致します。」


父から相手に次女の想いを伝えると、その方も次女に想いを寄せていたことが分かり、二人は再会を果たした。


「お会いしたかったのです。」

「私も……。」

「もう二度と御目に掛かれないのではないかと思っておりました。」

「私も……同じでございました。」

「あの日、別れたくなかったのです。」

「はい。私もお別れしとうはありませんでした。」

「あの日、直ぐに迎えが来てしまい……私は再会のお約束が出来ませなんだ。」

「マルクス様……。」

「これを……貴女に……。」

「まぁ……私に?」

「これからも……お会い出来ますね。」

「はい、マルクス様……。」


マルクスからの手紙には想いを詩にして(したた)められていた。

その後、二人は結婚した。


ローマ帝国皇帝クラウディウス・ゴティクスが、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、兵士たちの婚姻を禁止したと言われている。

キリスト教の司祭だったウァレンティヌス(バレンタイン)は、婚姻を禁止されて嘆き悲しむ兵士たちを憐れみ、彼らのために内緒で結婚式を行っていたが、やがてその噂が皇帝の耳に入り、怒った皇帝は二度とそのような行為をしないようウァレンティヌスに命令した。


「司祭様、もうお止めください。」

「否、愛し合っている若い二人を結ばせてはならないとは許されないことだ。

 神の御心に反する行為だ。」

「しかし。司祭様。」

「神の子らへの願いには『平和と幸福』。

 平和と幸福を願って下さっている。

 さぁ、今日の二人をこちらへ……。」

「……はい、司祭様。」


しかし、ウァレンティヌスは毅然として皇帝の命令に屈しなかったため、最終的に彼は処刑されたとされる。

彼の処刑の日は、ユーノーの祭日であり、ルペルカリア祭の前日である2月14日があえて選ばれた。

ウァレンティヌスはルペルカリア祭に捧げる生贄とされたという。

このためキリスト教徒にとっても、この日は祭日となり、恋人たちの日となったのである。



目覚めた時、美咲の頬は濡れていた。

泣いていたのだ。

処刑されて悲しんでいる若い夫婦たち………きっと司祭ウァレンティヌスによって結婚出来た二人なのだろうと美咲は思った。

その中に、植松と川崎が居た………ように思った。

夢の中のこと、綺麗に全て覚えているわけではなかった。

だが、バレンタインデーの悲しい始まりを夢で見た美咲は「本命チョコ」を渡せないことを悲しいと思っていた。

だが、それは大変愚かなことのように思った。


⦅義理チョコも、本命チョコも……何も関係ないんだ。

 チョコなんて出て来なかった。

 司祭様が可哀想………。⦆


また涙が美咲の頬を濡らした。

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