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名残りの雪  作者: yukko
19/30

紅葉賀(もみじのが)

帰宅してからも美咲は⦅気を付けなくっちゃ……誰にも知られない間にこの片思いを終わりに……。⦆と思い続けた。

夢にでも出て来る先輩……そして香川先輩。

美咲の夢の中では常に二人が結ばれる。

寝るのが怖いと思ったこともあるが、睡魔が訪れる。

それは、まだ美咲が片思いだからだ。

それも、淡い片思い――そう呼んだ方が適切である。

涙で枕を濡らしながらも美咲は眠りに就いた。



世間は朱雀院で開かれる紅葉賀に向けての準備で(かまびす)しい。

桐壺帝は最愛の藤壺が懐妊した喜びに酔いしれ、一の院の五十歳の誕生日の式典という慶事をより盛大なものにしようという意向を示しているため、臣下たちも舞楽の準備で浮き立っている。


ところが、それほどまでに望まれていた藤壺の子は桐壺帝の御子ではなく、その最愛の息子光源氏の子であった。

このことが右大臣側の勢力、特に東宮の母で藤壺のライバル、また源氏の母を迫害した張本人である弘徽殿女御に発覚したら二人の破滅は確実なのだが、若い源氏は向こう見ずにも藤壺に手紙を送り、また親しい女官を通して面会を求め続けていた。


「頼む。今一度、宮にお目に掛かりたい。」

「源氏の君様……もう二度と……無理でございます。」

「頼む! この通りだ。大命婦(おおみょうぶ)。」

「もうお目に掛かることは無いと仰せでございますので……。」

「大命婦!」

「どうか、お許し下さいませ。」

「大命婦!」


一方で、藤壺は立后を控え狂喜する帝の姿に罪悪感を覚えながらも、一人秘密を抱えとおす決意をし、源氏との一切の交流を持とうとしない。

源氏はそのため華やかな式典で舞を披露することになっても浮かない顔のままで、唯一の慰めは北山から引き取ってきた藤壺の姪に当たる少女若紫(後の紫の上)の無邪気に人形遊びなどをする姿であった。


「お兄さま!」

「若紫、ただいま帰りました。」

「お帰りなさいませ。」

「何をしていたのですか?」

「お人形で遊んでいました。」

「そうか……楽しいのかい?」

「はい。」


帝は式典に参加できない藤壺のために、特別に手の込んだ試楽リハーサルを宮中で催すことに決める。

源氏は青海波の舞を舞いながら御簾の奥の藤壺へ視線を送り、藤壺も一瞬罪の意識を離れて源氏の美貌を認める。

源氏を憎む弘徽殿女御は、舞を見て「誠に神が愛でて、(さら)われそうな美しさだこと。おお怖い。」と皮肉り、同席していた他の女房などは「なんて意地の悪いことを仰せになられるのでしょう。」と噂する。

紅葉の中、見事に舞を終えた翌日、源氏はそれとは解らぬように藤壺に文を送ったところ、王命婦の「ほんのちりほどのこのお返事を書いてくださいませんか。この花片はなびらにお書きになるほど、少しばかり。」との進言で、藤壺が返事を書いた。

思いがけず返事が届いた源氏は胸を躍らせ、そして嬉しい余りに涙した。


そでるる 露のゆかりと思ふにも なほうとまれぬ やまと撫子」(藤壺の返事)


五十の賀の後、源氏は正三位に、頭中将は正四位下に叙位される。

この褒美に弘徽殿女御は「偏愛が過ぎる。」と不満を露わにし、東宮に窘められる。


翌年二月、藤壺は無事男御子(後の冷泉帝)を出産。

桐壺帝は最愛の源氏にそっくりな美しい皇子を再び得て喜んだが、それを見る源氏と藤壺は内心罪の意識に苛まれるのだった。


「あぁ……あのように父君は……。

 あの皇子は私の息子なのに……。」


「帝の御心……私はこの罪を一生背負って生きて行きます。

 源氏の君様……あの子のことをお願い致します。

 あの子には後ろ盾がおりませぬ。

 何卒、守って下さいませ。」


「藤壺の宮……私は、私の息子を私の立場で守ります。

 あの夜の幸せを生涯胸に秘めて……。」



そこで美咲は目覚めた。


「光源氏は、先輩だった。

 藤壺の宮は、香川先輩だった。

 美しい二人……お似合い……。

 私は……何時になったら終われるのかな?

 胸が苦しい……な。」

紅葉賀とは、紅葉の季節に催す祝宴のことです。

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