駅
仕事をしていると、目の前をあの麗しい香川先輩が通り過ぎて行った。
「美咲ちゃん、香川さんを見過ぎ。」
「あ………済みません。」
「今は?」
「仕事中です。」
「そうね………はい。」
「あっ! ありがとうございます。」
「これ、ちょこっと口に入れて。」
「はい、チョコだけに……。」
「もお……美咲ちゃん。」
「おやじギャグでした?」
「いいんじゃない? 美咲ちゃんなら……。
さぁ、仕事。」
「はい。」⦅おやじギャグだったのかな?⦆
少し残業していると、植松と川崎はデートのようで、駅前から少し離れたカフェで待ち合わせると聞いた。
会社を出て駅近くまでは植松と一緒に歩いた美咲。
「ごめんね。ここで……。」
「いいえ! お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
一人で駅へ向かっていたら、声を掛けられた。
「美咲ちゃん。」
「あ…………香川先輩………お……お疲れ様でした。」
「お疲れ様。
あれ? 今日は一人なの?」
「そうなんです。さっきまで植……いえ! 一人です。」
⦅うえ……って……知ってるわ。 そっか……植松さん、デートかぁ……。
でも、ここは……。⦆
「そう一人だったのね。」
「は、はい!」
「美咲ちゃん、もう慣れた?」
「はい、先輩方のお陰で慣れました。」
「そう、良かった。」
何気ない話をしていると、美咲は⦅なんか……めっちゃ、いい匂いが香川先輩からするんだけど……。清潔そうで……私、この匂い好きだなぁ……。⦆と美しい人は匂いも美しいのだと思った。
そして、⦅匂いまで美しい……って、何よ。⦆と心の中で一人でツッコミをした。
「ねぇ、美咲ちゃん。」
「あ……はい。」
「美咲ちゃん、何かスポーツしてたの?」
「スポーツですか? 何もしていません。」
「あらっ! そうなんだ。」
「はい。デッカイから、私、バレーボールかバスケットしてたと思われるんですけ
ど、何もしてなくて、クラブ活動してなかったんです。」
「そうなの?」
「見掛け倒しなんですよね。」
「そう? 私は背が高い美咲ちゃんが羨ましいわ。」
「こんなにデッカイと男扱いが多いですよ。」
「そう? 女の子なのに、ねっ!」
「ははは………一応、女の子です。」
「御兄弟はいらっしゃるの?」
「御兄弟って言って頂けるような兄弟じゃありませんけど……
いらっしゃいます。」
「そうなのね。いらっしゃるのね。」
「はい、いらっしゃいます。
うん? あっ! 済みません。兄弟はいます。
姉と兄が居ます。」
「そうなの? じゃあ末っ子?」
「はい、デッカイ末っ子です。」
「ふふふっ……。」
「はい、それで、兄は180㎝で、姉が170㎝です。」
「皆さん、背が高いのね。」
「はい、それで兄も姉も勉強が出来るんです。
スポーツも万能なんですよ。」
「そう、自慢のお姉さんとお兄さんなのね。」
「はい。」⦅自慢……でも、遺伝子良い所全て……私は残りカス。⦆
心の中で美咲は⦅私は、お姉ちゃんとお兄ちゃんの……残りカス。お父さんとお母さんの良い所は全てお姉ちゃんとお兄ちゃんにいって……末っ子の私は残りカス。⦆と繰り返していた。
美咲が大学進学を早くから諦めてしまったのも自信の無さからくることだった。
「私ね、長女なの。
ちょっと羨ましいの。 末っ子………。」
「お姉さんなんですか?」
「ええ。」
「いいなぁ~香川先輩の妹さん。
………あ! 弟さんですか?」
「妹よ。5歳も下なの。」
「そうなんですね。」
⦅美しい姉妹の姿が目に浮かぶ……って、おい!二人とも香川先輩じゃないの!⦆
「じゃあ、私は向こうのホームだから、さようなら。」
「はい、お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
ホームに立って電車を待っていると、向こうのホームに居る香川先輩が見えた。
そこに走って来たのが、あの美咲が恋する先輩だった。
美咲は息が止まったように、身動きが出来なくなっていた。
向こうのホームに電車が滑り込み、香川先輩と……あの先輩の姿が消えた。
二人で一緒に電車に乗って帰って行った。
美咲は「やっぱり……。」と声に出してしまった。
そのことに気付かぬまま、暫く身動き出来なかった。




