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第六話 「崩れゆく世界、最後の瞬間」

 深雪の足音が、街の中でただ一人響いている。

 どこまでも広がる廃墟。

 人々の姿は消え、ただ死者と感染者だけが歩き回るこの世界で、深雪はひたすらに歩き続ける。

 足元に残された血痕が、彼女を追いかけているようにも感じた。

 どこまでも続くその道を、深雪は無表情で踏みしめていく。


 周りの風景が、もはや実感を伴わない。

 ただ目の前の足元、遠くで響く音、無言のまま倒れる人々。

 その全てが、彼女にはもはや何も感じさせない。

 ただ、動いているのは身体だけ。

 意識は、すでにどこか遠くへ行ってしまったような感覚だった。


 またひとつ、倒れた者が目に入る。

 その顔に見覚えがあった。

 かつて、一緒に過ごした者の顔。

 だが、今はもう何もかもが変わってしまっている。

 その顔は、目を開けているものの、死んだままであった。


 深雪はその顔をじっと見つめる。

 一瞬、心の中で何かが揺れ動いたような気がした。

 でもすぐに、それも消えていった。

 その心の中に残ったものは、ただの空虚感と、何かを求める焦燥だった。


 足を動かし続ける。

 どこに向かっているのか、それすらも分からない。

 ただ、無意識に歩き続けることしかできない自分を感じるだけだった。


 その時、目の前の道が不意に開けた。

 広がる光景が、何もかもが遅れて見えるように感じた。

 深雪はふと足を止める。

 前方には、一団の感染者たちが集まり、無言で何かをしているように見えた。


 その群れの中心には、まだ生きている人間が立っていた。

 血に塗れたその姿は、深雪にとっては異質で、まるで幻のように感じられた。

 彼は、必死に何かを叫んでいるようだったが、その声は届かない。

 彼の目が深雪を捉えた瞬間、その目の中に何かを感じた。


「…生きているのか」


 その言葉が、深雪の中で響いた。

 でも、それもまた無意味だった。

 彼は無理に足を動かそうとしていたが、すでに体は動かない。

 その体に手を伸ばし、深雪は無意識にそのまま前に進む。


 しかしその一歩が、何かを変えた。

 深雪の中に、何かが目覚めた。

 彼女は、自分が何をしているのか、ほんの一瞬だけ理解できた。

 それでも、その理解が深雪を止めることはなかった。


 血のにおいが鼻につき、足元に転がる死体がその動きを促す。

 身体が、再び無意識に動き出す。

 その時、深雪の目に映ったのは、かつての街の面影だった。

 その街には、もう誰もいない。

 ただ、この無意味な行進だけが、続いていく。


 ふと、遠くの方から足音が響いてきた。

 それは深雪の耳に、はっきりと届いた。

 その足音の主が、今、どこにいるのかを感じた瞬間、深雪は立ち尽くす。


 その足音が、彼女の心を激しく揺さぶった。

 それは、かつて聞いたはずの足音だった。

 遠くから聞こえてきたその音に、深雪は一歩踏み出す。


 目の前の群れが、ゆっくりと動き出す。

 だがその足音に引き寄せられるように、深雪は再び歩みを進める。

 どこまでも無意識に、ただ歩き続けるその動きが、今や何の意味もなく感じられる。


「…もう終わりかもしれない」

 深雪は心の中でそう呟き、涙がひとしずく、頬を伝った。

 その涙が何を意味するのか、分からないまま、彼女は前へ進む。


 再び、足音が響く。

 そして、その音が止まると、深雪は目の前の暗闇に立ち尽くす。

 その瞬間、すべてが完全に止まったように感じた。

 足音が消え、血の匂いだけが空気を満たす。


 深雪は、最後の一歩を踏み出した。

 その足音だけが、この崩れゆく世界に唯一の響きを残し、静寂を迎える。

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