第四話 「無音の絶望、響く足音」
深雪の足音が、ひたすら空っぽの街に響き渡る。
だがその音も、まるで他のすべてをかき消しているように感じられた。
街は静まり返り、遠くでうっすらと、時折聞こえるのは衝撃音と、苦しむような叫び声だけだ。
だが、深雪にはもうその音すら届かない。
身体が勝手に動く度に、彼女は思う。
「これが、終わりだろうか」
意識のどこかでそう感じながらも、無意識に進み続けるしかない。
どこへ向かっているのか、それさえも分からない。
ただただ、前へ、前へと。
何かが引き寄せるように、足が動く。
街並みは異常に静かだ。
人々は全くいないかのように、建物の中も空っぽ。
電気の消えた街灯が薄暗く灯り、かろうじて暗闇を引き裂いている。
その中に、ひときわ目立つ影があった。
「誰か…」
深雪の喉から、無意識に漏れる声。
だが、もちろん誰にも届くことはない。
その声さえも、もはや自身のものかもわからなくなっている。
足元に目を向けると、そこには別の人間が倒れていた。
目は開かれており、もう命の光を失っているのが分かる。
その顔が、どこかで見覚えがあった。
誰だったか、深雪の記憶の中ではもうその名前すら思い出せない。
ただその目が、何かを訴えかけているように見えた。
深雪は手を伸ばす。
しかし、手がその人の体に触れる前に、身体が震えた。
制御できない。
自分を感じながらも、その力が暴走するのを止められない。
心では無力感と恐怖が広がっていくのに、身体は無反応だ。
次に目に入ったのは、ぼんやりと動く群れの姿だった。
遠くに集まり、何かをしているように見える。
その姿を見て、深雪はひとつの事実を思い出した。
「まだ、終わってない」
そう、確信した。
身体は動き出す。
無意識にその群れの方へと足が向かう。
深雪の胸が、高鳴る。
その群れの中には、かつて見たことのある顔があった。
だがその顔も、今ではもはや恐怖にしか見えない。
全てが変わってしまった。
群れの中に一歩踏み入れた瞬間、深雪はもう、何も感じなかった。
身体が次々と倒れていく。その力で、彼女の足元が濡れ、血に染まる。
そして無音のまま、ただ周りを見つめる。
手のひらから血が滴り、深雪はその感触を感じ取る。
「まだ、何も終わってない…」
その言葉が頭を駆け巡るが、もはやその意味も分からなくなった。
心はかつての深雪のものなのか、それとももう完全に死んでしまったのか。
彼女が立っているその場所には、すでに人間の感覚は残っていなかった。
次第に、自分がどんなに進み続けても何も変わらないことを、深雪は理解し始めていた。
周りの景色は変わり続け、群れはさらに増していくが、彼女にはその全てが過去の記憶のように思える。
意識がもう、身体の一部としてではなく、何かに閉じ込められているように感じる。
無音の絶望が、その足音の中にただひたすらに響いていた。




