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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤い髪混ざる夏

作者: 狐照

くしゃくしゃで緩く癖がついた多めの毛量。

真黒であるべき場所、彼は時々一本色が付く。


「あ、今日は赤だね」


というよりも最近ずっと赤だ。

一本だけ赤い毛が、黒一杯の毛量に埋もれ存在感を示していた。


「…あー…どこにある?」


「後頭部、ここらへん」


さくっとその部分の髪の毛を優しく掴む。

男の髪なんて触りたくない、けど、彼は別だ。


「…あっそ…まあ、ほっといて」


「うん、わかった」


そう言うので従う。

でも乱れてるから手櫛で整える。

これは親切だ、その証拠にすぐ手を離す。


「つーかまたガチャ爆散した」


「え、また?爆散マニア?」


揶揄ったら肘で小突かれた。

夏で良かった。

暑いのは最悪だが、肌と肌が自然と触れ合えるチャンスが生まれる。

今も肘が腕に触れた、やったね。


「ちょっとお前ここ押してくんね」


とん、と肩がぶつかる。

わずかに見上げる顔がとても近い。

真黒な瞳くっきりとした二重野暮ったい眼鏡、整った唇が全部間近だ。

なんていうか最初は驚いた。

彼の、友達の距離感バグってて本当にびっくりした。

他に親しくしてる人が居ないから比較出来ないけれど、ぼくとは友達なのでこれは彼の友達距離で間違いない。

だけど、今はすごく嬉しい。

毎回ドキドキしているけれど、今も肩が触れたままで歩いている距離感に焦っているけれど、嬉しい。

触れ合ったまま覗き込む。

見えにくからと、スマホを持つ手の甲をそっと包んでみる。

歩きスマホ危ないから道の端に寄って立ち止まる。

その距離感もバグっているけど、ぼくは平気、彼も平然。


「ガチャ、爆散しても怒らない?」


「多分」


「えーこわーい」


「いーから押せ…ちょいこっち」


「わ」


触れられるチャンスがあるのなら、躊躇わず生かさなければ勿体ない。

だからぼくは積極的に触れている。

でも彼の方が何枚も上手でバグっているので、腰をぎゅっと抱かれてしまった。

ぼくのほうが頭一つ背が高いのに、前から来た自転車から守る様に抱き寄せてくれたのだ。

頼もしい。

格好いい。

大学生になって初めての恋。

実らなくても親友で居たい。

出来れば距離感バグったままで。


「なんだよ」


「かっこいいなって思って」


「あっそ」


「つれないなぁ」


「どーでもいい奴とは絡まん」


腰を抱かれたまま、押せってスマホの画面を見せられる。

身体が密着する。

これを友達の距離だとする彼がおかしいのかぼくが寛容なのか。

ぼくが変って思われてないといいんだけど。

吐息を感じた。

顔が近い、あ、頬が触れた。

瞬時に頬に熱が生まれた。

その熱に浮かされ、ぼくはスマホの画面に表示された10連ガチャ(有料)をタップした。

画面が変わり、虹色判定が出た。


「お、おおお!流石幸運持ち!」


「偶然だって…」


良き回転であったぞってご機嫌で、手を掴んで歩き出される。


「わ、わわ、まって、はやい、ころぶ」


「転ばせねぇから安心しろよ。それよか今日の晩飯何作る?」


「…まーぼーなす?」


「いいね!楽しみだ」


手がパって離れて、寂しいって感じた次の瞬間手の平重ねる手繋ぎに生まれ変わる。


「にゃ、んで、髪の毛の赤とか黄色とか生えるの?」


「あ?急だな」


変な声が出かかったのを誤魔化したら、気になっていた事を口にしてしまった。


「…うちの家系ではな、予言、占いって事になってる」


「へぇすごいね。赤は何を占ってるの?」


「…まぁまぁまぁ」


「え、気になるんですけども…」


はは、と本当に楽し気に笑われる。

ものすごく格好良い。

煌めいて眩しいのは夏日のせいじゃない。


「とりま映画始まっから行こぜ」


講義終わってバイトが無いから遊ぼうってなって、ぼく達は映画を観るという選択をした。

ぼく的にはデート。

彼は彼で観たい映画なので上機嫌で、夜ご飯も一緒が確定したのでお泊りデートになるという事で、浮かれてまた変な声出掛かった。


「うひゅっ…う、うらないってさ」


「近日公開しばし待て」


しつこいぼくを諫めるように頭で頭を小突かれた。

なんか今頬に柔らかい物当たった気がしたけど鼻かなっ鼻だと嬉しいなっ。


「いたいよぉ」


もう一回くらい小突いてくれやしないかと期待する。

何故か彼が半目でぼくを見ていた。


「…お前ホントあれだな」


「え、なにが?」


「なんでもねぇよほら行くぞ」


「あ、まって、ころぶ」


「転ばせねぇって言ってんだろ」


腕がぶつかる肩もぶつかる繋いだままの手には力が籠る。

ヘタに告白なんかして友達じゃ居られなくなるくらいなら、ぼくはこのバグった距離感を選ぶ。

離れ離れになるとか、それがもう嫌すぎるからだ。


「…今夜にすっか、もう」


「え、何が?」


「チケット買ってあっから行くぞ」


「うん、ありがと」


隙の無いスマートなエスコートに俄然ときめきを覚え、ぼくは恋人に浸りながら手を引かれたのだった。

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