第3話《英雄ギルツ》
あれからマルスのテンションは爆上がりで、ナディアに諌められていた。
マルスは現役の騎士で、かなり高位に位置付けされているらしい。全身には常に『闘神(とうじん)』というものを宿しているようで、先ほどのような魔術を喰らっても命に別状はないようだった。
「確かにこの子は、とてつもない魔力を秘めてるわ。その力が暴走しないように、魔防具である『竜神のアミュレット』で抑えてはいるけど……それでも、まだ足りてないわね」
マルスと違って、ナディアは冷静だ。彼女もまた、曾ては王宮魔術師として名を馳せていたらしい。まぁ全部、叔父さん情報であるのだが。
「姉ちゃん、わるいんやけどさぁ。お金、貸してくれへん?」
叔父さん――ギルツが、悪びれた様子で、今日もまた金の無心をしている。彼はナディアの姉にして、偉大なるニート。だから、金がない。強大な魔力を持っていて、その昔に魔王を討伐した勇者パーティーの一員だったらしい。
まぁ、叔父さん情報ではあるがな。
「駄目よ、ギルツ。どうせまた、ギャンブルでしょ?」
「ちゃうがな、姉ちゃん。キャバクラやがなッ!」
質が悪いな、この叔父さん。雷電魔術で、絞めてやろうか?
「アカンで、ルディア。お前の魔術じゃ、俺の『結界防術』は崩されへんで!」
こいつ、俺の心が読めるのか。髪はボサボサで、小肥りの中年。オタクみたいな眼鏡の奥から、鋭い視線を送ってきている。
見た目は気持ち悪いけど、中身は本当に英雄なのかもしれない。
「ニキちゃんに、ドンペリ入れたらんとアカンねん。邪魔せんでもらえるか?」
只者ならぬ眼光は、英雄というよりも悪役のそれである。動機も最悪だ。ギルツは本当にナディアの弟なのかと疑うほどに、性格がネジ曲がっている。普通は英雄といえば、もっとこう人格者のイメージなのだが彼はどうだ。
己の欲求に、飲まれているではないか。
「勇者たちと旅してた頃はな。毎日が、パリピ状態やってんで。パフパフなんか、当たり前や」
駄目だ。ギルツと話していると、頭がおかしくなろそうだ。余りにも、人種が違いすぎる。
――ん?
と、ここで更に俺のなかで、疑問が生まれた。何故、俺はギルツと会話が出来ているのだろうか。
「そら、俺やで。英雄ギルツさまやからやないんかなぁッ!」
めちゃくちゃドヤ顔で、言ってくる。
どうやらギルツとは、意思疏通ができるらしい。