プロローグ
大富豪として生まれた俺は、何不自由なく育ってきた。
金を持っているというのは、本当に強いようで皆が媚びへつらってきた。自分が仲間だと思ってきた人間は皆、俺の金だけを見ていたことに気付いて全てが嫌になった。
だから、全てを捨てた。
――最低限必要な30万。
それだけを持って、俺は地方に引っ越した。流石にド田舎だと阻害を受けかねないので、それなりの人口数がいそうな所を選んだが、それでも都心に住んでいたため衝撃はそこそこあった。
家賃2万円のボロアパートに住んだ。風呂とトイレは別だったが、汚い部屋であった。住民たちは金を持っていなさそうだったが、思いの外に友好的で親切であった。朝の挨拶をしただけなのに、何故か栄養ドリンクをくれるオジさんとか、頼んでもいないのに肉じゃがやカレーをお裾分けしてくれるオバちゃんとかがいた。
別に見返りは求めていないのか、彼らの視線は皆、一様に暖かかった。優しくて穏やかな性格の住人たちは、俺のことを家族のように接してくれていたのだ。
俺はこの町にきて3日で、コンビニでのアルバイトを始めた。朝6時から昼1時までの週4日間だった。収入としては少なかったが、辛うじての生活は保てた。オーナーが優しかったので、廃棄の弁当を持ち帰らせてくれたのだ。なので食費は最小限まで抑えれたし、いらなくなった家具を、ボロアパートの住人たちが持ってきてくれたので、そこまでお金を使わなくて済んだのだ。
オカズを分けてくれるおばちゃんが、ついでだと言って洗濯までしてくれたおかげで、非常に助かっていた。働いた最初の給料で、ほんの気持ち程度のお返しを皆にしたら、心から感謝されて正直、戸惑ったりもした。
コンビニでの仕事は、とにかく楽しかった。俺は人と接することに、飢えていたのかもしれない。初対面の人間に対してでも、俺は臆することなく自分を曝け出した。できるだけ自然な笑顔で、親身になってお客さんとも接していた。俺がお客さんと交わした会話も、恐らくは家族や友達に話すような取り留めのないことばかりだったが、お客さんたちは笑顔で受け入れてくれていた。
そんな俺の接客が評判になり、あちこちから来てくれるお客さんが増えてきた。
気付けば店はネットの口コミでも評判の店となって、多くの人で賑わっていった。
店の人気に比例するように、俺のシフトは増えていった。オーナーたちの期待に応えるようにして、俺は店の切り盛りに努めた。そんな日々が続いて、5年の月日が流れた。
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店を畳む際にオーナーが、俺に店を譲ると言いだした。
色々と手続きは面倒ではあるが、俺に権利を移すことは可能だった。俺はオーナーの申し出を、謹んで受け入れた。
条件の一つに、夫婦か親子か兄弟姉妹の二人での経営というのがあった。なので当時、付き合っていたシホミという名の彼女にプロポーズをした。コンビニ経営の話しを抜きにしても、彼女とは一緒になろうと考えていたからだ。調度、良い機会だった。今回の話しが、俺に勇気をくれたのだ。
プロポーズは成功だった。ボロアパートの住人たちはメデタイと、皆が祝福してくれた。店に来る常連たちも皆、同じように喜んでくれた。
町の小さな式場で挙げた結婚式では、会場に収まり切れないほどの人が祝福をしてくれたんだ。
そんな訳で、この辺りからの5年間が俺の人生の絶頂期である。
店の経営は鰻登りで、シホミとの仲も良好だった。
2年後、第一子・第二子の誕生。双子の男の子だった。元気なふたりは、ヤンチャに育ってくれている。
更に二年後。やはり双子の女の子が生まれた。
――幸せだった。俺は心から、幸せを実感していた。
だけど、終わりは突然――訪れた。
信号無視のトラックに撥ねられて、俺は無残にも死んだのだ。




