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いつもお読みいただきありがとうございます!

 私の名前は旧聖典に出てくる神の楽園から付けられたらしい。

 エデン・カークライト。カークライト王国の第一王女。


 それなのに、目の前に広がる光景は酷い。私の前に楽園などない、あるのは殺し合いだ。

 私は楽園を見る資格のない人間なのか? それとも、楽園は破壊と殺戮の上にしか創造されないのか?


 なぁ、ラース。どうしてお前は私をこんな目に遭わせるのだ。

 私がお前を愛したのがいけなかったのか。

 お前は私に何も言わず他の女と結婚したくせに。そしてこの荒れた国を立て直せずに国民を失望させ、私の国の民にまで被害に遭わせた。だから、私はお前の国に攻め込む羽目になった。


「火を放ったり、略奪したり、乱暴を働いたりする者はすべて殺せ。王都を火の海にすることは許さん」


 エデンは馬上で剣を掲げる。


「ケリガン公爵の生死は問わない。首でも生け捕りでもいい。ラース国王は生け捕りにして私の前に連れてこい。ラース国王を捕らえた者の願いは出来得る限り私が叶えよう」


 応える騎士たちの士気は高い。


「無抵抗の者は殺すな!」


 騎士たちに指示を出すとすぐに城に向かって行く。


「やれやれ、若い奴らは血気盛んじゃな」

「ゴードン団長は行かないのか」

「ワシはこれで引退じゃからな。孫と遊ぶ時間を姫様に願ってもなぁ」

「そうか」

「なぁに、騎士団にちょくちょく遊びに来ては若いのをしごいて楽しむわい」


 白髪交じりの頭を撫でながらゴードン団長はニヤッと笑った。


「ま、ワシが行くまでもあるまい。相手の戦意はすでに喪失しとる。若いもんに手柄を立てさせてやらんとな。今日はあのマリクまで姫様の側を離れとるときた」


 いつも影のようにエデンに張り付く騎士の名前を告げられて、エデンは笑った。エデンが笑ったにも関わらず、ゴードン団長は唇を一瞬引き結んで悲し気な顔をする。


「ワシらの可愛い姫様をこんなにした男は、許されんじゃろうて」

「こんなにとはどういうことだ? 私が血まみれの玉座に座る女王になる話か?」


 ゴードン団長は周囲を見回しながら息を大きく吐いた。


「ワシは姫様を小さい頃から見てきた。小さいのに見様見真似で剣を振り回すワガママ盛りの頃からじゃ。親である国王陛下の言うことなど一つも聞かない、頑固なワシらの姫様。自分の騎士は自分で決めると聞かぬし、こっちが用意した騎士ではなく平民出の騎士を口説いとったし」

「口説いてはいない。私の騎士になれと言っただけだ」


 急に懐かしい話を始めるものだ。エデンは目を細めてそれ以上は喋らずに黙っておく。


「なぁ、一体どこの男が愛しい女を戦場に向かわせるんじゃ。そんな男はおったら腰抜けじゃ。誰が愛しい者をこんな血なまぐさい戦場に送りたいと思う。いくら剣を振り回していようと、可愛い姫様には戦場に出て来てほしくなかった。ワシは一生ラース国王を許せんよ」

「私はただの女ではない。カークライト王国の第一王女だ。民を傷つける相手には率先して戦わなければならない。たとえそれが愛した男でも」


 エデンの答えを予想していたようだったが、ゴードン団長は首を横に振る。


「女は怖いものじゃ。なぁ、ラース国王の首はワシが切ろうか」

「いいや、私が落とす」

「姫様や、まだあの男のことが好きなのか」

「好きでもないのに国はとりにこない。そして、ラースはこの責任を取らなければいけない。いくら王位争いで国がここまで乱れたといっても、こういう時に責任を取らなければならないのが王族だ」


 逃げてくるアンブロシオ側の使用人たちを捕らえ、ゴードン団長はエデンを振り返った。エデンもちょうど反抗したアンブロシオ軍の兵士を一人蹴り飛ばして彼の方を向いたところだった。


「ワシは姫様の創る楽園を見ることができるじゃろうか」

「頑張って長生きしてくれ、ゴードン団長。火の海にすることは避けられたようだが、復興には時間がかかる」


 エデンは「ラース国王を捕らえた」という声を耳にして、王城を見上げた。

 自分が嫁いで住むと思っていた王城はやけにくすんだ寂しい色に見えた。


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