妻に報告
「ただいま」
「おかえりー」
妻がリビングにノートパソコンを持ち込んで、何やら懸命に打ち込んでいた。
「おや、珍しいじゃないか。リビングで執筆なんて」
いつもは人がいると気が散るとか言って執筆部屋に引き籠っている癖に。
「今日はここで書きたいの」
「さいですか」
私は二階に上がり、部屋のクローゼットを開いて、鏡の前で変身術を解く。
掌で顔をひと撫ですると、しゅうう、と音がして、鏡の中のイケメン高校生が元のおっさんに戻る。
ついでに体形も元に戻る。
普段着に着替えて降りてくると妻が、
「どうなのよ、新生活は?」
探りを入れるような口調で問いかけてきた。
私はキッチンで二人ぶんの日本茶を淹れながら、
「いやー順調だよ。何もかも新鮮で楽しい」
そう答えた。
湯呑を妻にも渡すと、「ん、ありがと」と口をつける。
妻と対面のソファに腰掛けて、
「それに、どうやら僕には高校生のときちゃんと学んでいなかったことがたくさんあったみたいだね」
茶をすする。
「そう、それはよかったわね」
「なんとクラス委員に推薦されてしまった」
「へえ、すごいじゃない。でもあまり目立たないほうがいいんじゃないの? そのうちボロが出るわよ」
「僕もそう思うんだけどね……ナンカ引っ込みつかなくなっちゃって」
「ま、昔から頼まれたらイヤとは言えない人だものね、あなた」
「そうそう。それに友達ができたよ。実は女の子も……」
妻はけして焼餅焼きではないが、こういうことは早めに自ら言っておくに限る。
ガタン、と妻のPCが揺れた。
「女、ですって?」
「やだなあ。まさに娘といってもいいくらいのジェイケイですよ」
「それは……おっさんの大好物でしょ」
ひょっとして、リビングで私の帰りを待ち構えていたのはそれなのか。
「もしかして、そんなことを気にしていたのかい?」
「べっ、べつにそんなんじゃないけど」
「君にはとても感謝しているよ」
と、席を立ち、隣に移動して、わが妻の手をとる。
「あまりにも信頼がなさすぎるんじゃないかな。僕には君だけしかいないよ」
「あらまあ……」
そこへバタンと音がして、息子の光流がちょうど帰ってきた。
「お、お帰り……」
私たちの様子をひとめ見て、
「フン」
と二階の自室へ行ってしまった。




