クラス委員にされてしまった
「ではこれから各委員を選出します」
小原教諭が高らかに宣言した。
北谷津の委員会制度は前後期の二期制。全学年をまたいでの活動となる。内容としてはどこにでもある委員会制度で、クラス委員、体育委員、美化委員、図書委員など、それぞれ男女一人ずつ選出するそうだ。
「ではクラス委員から。だれか立候補する人は?」
クラス委員とはまた懐かしい響きだ。私がかつてほんとうの高校生だったときに通っていた高校では、『学級委員』と呼んでいたが、もちろん私のような凡人には縁のない高級職、別世界の役職だと思っていた。学級委員はいわゆる頭が良くて調整能力のある人――クラスの優等生がやるものだと相場が決まっていた。ただ今思えば、やっていた仕事は先生の雑用、号令やクラス会議の議長など、いわゆる面倒くさいことばかりではあった。それでも学級委員をやっておけばいわゆる評価点で推薦入試に有利に働くとか、そういうことはあったかもしれない。
当然ながらみな水を打ったように静まり返る。このあたりは昔も今も変わらない。
「仕方ないわね。立候補したい人がいなければ誰か推薦……」
「はい先生」
なんと雅春が手を挙げた。
クラス委員に立候補するとは、奇特なやつだと思っていると、
「男子は織原君がいいと思います」
まさかの推薦。
「推薦理由は?」と小原教諭。
「彼は冷静で、判断力があって、責任感があるからです」
「ちょっと雅春……」
「わかりました。他に誰か……」
教室中を見回す小原教諭だが、ほかに立候補も推薦もないようである。
結局、満場一致で決まってしまった。
あとで雅春に詰め寄った。
「なんで推薦なんかしたんだよ……」
「つい手が動いちゃった」
「あのね……穏便に過ごしたいんじゃなかったのか」
「俺は、おまえの傘の下で穏便に過ごすつもりだよ?」
「こいつ……なら僕の傘下で穏便になんかしていられないくらいコキ使ってやろうか」
「ひぃっ、そいつは勘弁」
などと冗談を言っていると、
「あの……織原さん」
誰かが小さな声で背後から私を呼ぶので、振り返ると、眼鏡の女の子が立っていた。この私がクラス全員の名前なんて覚えているわけないが、確か私と一緒にクラス委員に選出された女子だった。わざわざ向こうから挨拶に来てくれたらしい。
「よろしくお願いします。佐伯ともよです」
彼女が丁寧にアタマを下げるので、こちらも慌てて起立。
「わざわざご丁寧に。織原誠一郎です。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします、佐伯さん!」と営業スマイルで深々腰を折る。
「見合いかよ……」
と傍らの沙綾からボヤくようなツッコミが。
「な、なにを言ってるんですかっ……」
佐伯ともよが、銀縁眼鏡をしきりにくいくい上げながらドギマギしている。
「そうだぞ」と私。
挨拶は人の基本。丁寧に挨拶して何が悪いのか。
「気にしない方がいいよ佐伯さん。彼女いつもこういうことばかり言ってる人だから」
と、その手のフォローもなかなか板についてきた私である。
沙綾は思い切り私に睨みを利かす。
佐伯さんは痩せぎすの、利発そうな女の子である。
「あと、僕にさん付けなんか必要ないからね」
「は、はい……じゃあ何て」
「なんでもいいよ……ふつうに織原でも誠一郎でも」
佐伯さんはきょとんとして、
「よび棄てはちょっと……無理かなぁ」
「じゃあくん付けでどう?」
「そうね、それじゃあ織原くん、また……」
「うん、またね」
佐伯さんは立ち去っていった。
「あれがフツウだよね……」
初対面初日からいきなり人を下の名前で呼び捨てにする人の方が希有だと思う。
すでにこっちの関係になれている自分が言うのも何だが。
と沙綾に目を向けると、
「何よなんか文句ある?」
「ございません……」
とにかく、何だかモヤっとクラス委員に選出されてしまった。
選出された以上は割り切って一所懸命やるしかあるまい。




