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入学式がやってきた

 昨日は息子の光流の入学式。桜の花舞うなか、私は父親として、妻と揃って式に出席した。父兄の中にあの織原かよこがいる、とちょっとした騒ぎになる一場面もあった。


 そして一日経って今日はいよいよ、私の入学式。

 息子の式とズレて本当によかった。


「どうかな?」

「ちょっと盛り過ぎじゃないの?」


 妻は北谷津高校の男子制服に身を包んだ若い姿の私を矯めつ眇めつして、


「イケメン過ぎるんじゃない?」

「願書の写真と違っちゃまずいでしょ」

「あなた受験のときこんなイケメンに変装したの?」とあきれ顔。

「変装じゃないよ。変身」

「同じでしょ」

「変かい?」

「変ですよ」


 そこへ二階からトントントンと降りてくる足音がして息子の光流が現れた。


「どうかな、みっくん。ほら、い、イマドキの高校生っぽくね?」

「あらやだ。声までイケボ?」と妻が水を差す。

「だって四十代のシワガレ声じゃおかしいでしょ」

「ちょっと~。どう思う? 光流くん」


 むろん息子も私が変身のできる魔法使いであることは知っている。

 心なしか白い目で見られているような気がしないでもなかったが、


「ま……いいんじゃね?」

「ほら!」


 妻はフーと大袈裟な溜息をついた。



「ふたりとも、いってらっしゃい」

「いってきます」


 妻に見送られ、息子と一緒に家を出た。


 妻に晴れ舞台を見てもらえないのはちょっと残念だが、我慢せざるを得まい。先日のテレビで織原かよこには息子が一人と公言して、まだみなの記憶に新しい。もしたて続けに二つの高校の入学式に出て、彼女の追っかけにでも発見されたらたちまちネットに上げられ問題になってしまう。


 それに、

「人前であなたに『おかあさん』なんて呼ばれたらおぞ気が走るわぁ~。ハァ寒寒っ」

 と肘を擦られた日には、もう無理に出てもらわなくて全然結構である。



 式は滞りなく終了し、教室にてオリエンテーションとなった。

 私は一年A組に編入された。


 入学式場から担任教師に先導されて、まだ中学生気分の漂う初々しいクラスメイトたちと教室へ。

 渡り廊下から校舎へと入り、教室へ行く間にも、すでにみな賑やかに会話をはじめていた。


 ところが私は、誰とも話すことができないでいた。

 やはり若い人の順応力、バイタリティには勝てそうにない。


 イマドキの若者がすごいのか、それとも私が若い頃も、私が話し下手なだけで、他はやはりこんな感じだったのだろうか。すでに記憶がない。


 教室に到着すると、担任教師が、「はいはーい、注目!」と仕切りをはじめる。


「私は担任の小原おはら聖子せいこです。いまから出席番号順に名前を呼びます。男子は窓際から順番に、女子は廊下側から順番に交互に着席していってください」


 てきぱきとした指示。

 若い女性教諭だ。おそらく私より二十は若い。つまり二十五歳前後であろう。


 小原聖子、織原誠一郎。名前がどことなく似ていることで親近感をおぼえる。

 髪が長くて、飾り気はあまりなく、表情の変化にも乏しい。

 今日は晴れの入学式ということでタイトなスーツを着ているが、ぱっつんぱっつんで明らかにサイズが合っていない。

 だが、知的な内面が滲み出る美人先生だ。

 初日ということで彼女の方にも若干の緊張がうかがえる。


 男子の誰かが、鉄仮面みたいだと囁く声が耳に入る。

 このツンな魅力は高校生のお子ちゃまにはわかるまいなぁと内心ほくそ笑む。


 全員が着席してから、小原教諭はあらためてみなに話しかけた。


「このクラスで一年間、一緒に学校生活をしていきます。よろしくね。じゃあ今日は軽く、みなさん自己紹介をしましょう」


 出席番号の若い順に自己紹介が始まった。

 私は織原なのですぐに順番が回ってきた。


「織原誠一郎です。趣味は……プロ野球観戦と、読書、かな」


 名前は本名なので名乗ることじたいに違和感はない。一瞬、プロ野球観戦の前にビールを飲みながら、と付けそうになり、慌てて言葉をのみこんだが。


 本は嫌いではない。妻の新作が出版されたら必ず三回は読み返すし、新聞、ビジネス書、啓発書、経済雑誌のたぐいもよく読んでいる。


 プロ野球観戦はちょっと親父臭いかな、とも思ったが、スポーツ観戦好きの高校生がいてもおかしくはないだろう。あまりズレた大嘘をつくと後が大変そうなので、多少は地を出しておいたほうがよいという判断だった。

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