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おっさん高校を去る

「て、転校だとぉ?」


 雅春は素っ頓狂な声を上げた。

 もっと驚きの声を上げそうな沙綾は予想に反してなぜか黙り込んでしまった。


「父親の仕事の都合でね。急に海外へ赴任することになっちゃって……」

「どこ?」

「えっと……あ、アフリカ?」

「おまえ……アフリカつったって広えぞ。アフリカのどこだよ」

「し、シエラレオネ?」

「聞いたことねー」

「し、しらないよね?」

「てめーフザけてんのか……」

「いやいや、マジだよマジ」


 織原誠一郎転校の噂は瞬く間にクラス中に広まった。たかが私の転校にクラス中みなどよんと湿っぽい空気になってしまったので、ここはひとつ、何か面白いパフォーマンスでもしようかと思ったのだが……。


「やめとけ」雅春から強い自粛要請を食らった。


 その後皆から連絡先を交換してくれという依頼がつぎつぎとあった。諸事情により通信手段がないからと適当なことを言って、すべて丁重に断った。


「学校にはもう言ったのか?」

「いや、これから言うんだけどね……まずはキミたちにと思って」



 話しを耳にしてすっ飛んできたのは、例の学年一のアイドル、中崎愛乃さんだ。

 中崎さんは私を校舎裏に呼び出すと、


「覚悟はしてるけど……伝えておかないと、と思ってわたし」


 好きです、と告白されたのだが、

「僕には他に好きな人がいます」と断った。


「見崎さん……だよね」

「いや。校外のひとだよ」

「えっ? わたしてっきり見崎さんだと」

「彼女はそうだなぁ。娘みたいな感じ?」

「娘って……」中崎さんは呆れ顔。「あの、ひょっとして織原くんの好きな人って年上……とか?」

「そうです」と私は明言した。「僕よりふたつ上の素敵な大人の女性です」


「そっか……」中崎さんは諦めたような顔で、「彼女ならまだ勝ち目はあるかと思っていたんだけど……やっぱり織原くんってわたしなんかが適う相手じゃなかったんだね。同世代の女の子なんてきっと子供っぽく感じちゃうんでしょ」


 ここは正直に言うのが一番だと思って、「否定はしないよ」と言ったところ、彼女はいきなりあっかんべーをして、


「ばーか!」


 校舎の陰へ走り去ってしまった。


「ば……」


 それはないでしょう。



 大原先輩にも挨拶に行かなくては、と考えて、彼女の下校を張って、出て来たところをつかまえる。


「大原先輩!」

「やあ織原くん久しぶり」

「お久しぶりです大原部長」

 つい癖でいつもの呼び方が出て彼女から、

「もうわたしは部長ではないよ。残念ながら」と否定される。

「あ、そうか。これは失礼しました」


「今日はいったい、どうしたんだい?」

「実は父の仕事の都合でこんど海外へ引っ越すことになりました」

「いきなりだな」


 大原詩子は目を丸くした。


「はい。それで一言ご挨拶したくて」

「そうか。わたしこそ、キミにはいろいろ世話になったね」

「いいえ……」

「元気でね。向こうでも活躍を祈っているよ」

「先輩もお体に気をつけて。受験頑張って下さい。応援しています」


「それじゃあ……」と、一礼して去ろうとすると、

「キミは不思議な人だな」という。

 私のほうが不思議な顔をしていると、

「わたしよりずっと年上みたいな雰囲気がする」

 と感慨深げに言われてしまった。



 魔法魔術協会の牟礼村さんに電話で報告をいれた。


 生徒指導室での牟礼村さんとの会談のあと、彼女もいつのまにか北谷津高校を辞めていた。不思議なことに彼女の存在は誰も覚えていないようだった。


 牟礼村さんがいつの間にかいなくなったことを誰も気をとめていないようだった。聖子教諭に確かめたところ、担任ですら覚えていなかったのだ。


 私は牟礼村さんからもらった名刺に記されていた番号に電話をかけた。二、三回のコールの後で、「はい、魔法魔術協会です」と電話口に出たのが本人だった。


「驚いたな。そのまんま電話に出るんですね」と言うと、

「一般人からの電話は掛かってこないようになっていますから」

「牟礼村さんは学校行ってないんですか?」

 以前、正真正銘の十六歳とたしか言っていたような。

「行ってますよ。というかいきなり電話してきていったい何の話がしたいんですか?」

「ああ、すみません。実は……」


 私が自主退学することにした旨を報告すると彼女はつまらなそうに、

「いまさら? 協会は許可したのに。せっかく夢が叶ったのにここで辞めちゃっていいの?」

「いいんですよ。もうじゅうぶんです」

「律儀なのね」


 その声に微妙な後悔めいたものが混じっているので、私は少しだけ申し訳ないような気がした。


「せっかく特例を認めていただいたのに、すみません。転校することにして学校を去ります」


 牟礼村さんは電話口で小さく息をつくと、「了解したわ。後のことは任せなさい」と言ってくれた。


 正直なところ学校にはどう話すかまだ迷っていたのだった。担任教師には妻(母?)のことを知られてしまっているし、日本で活動している有名女流作家がいきなり夫の転勤うんぬんでアフリカへついて行くという荒唐無稽な話が聖子教諭に通じるとも思えなかった。


「魔法事故って意外に多いのよね。協会ってそういう処理には長けているのよ」

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