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学期末

「信じられない……」ぐったりと脱力しきった沙綾が言う。「こんなにベンキョーしても人間って、生きていられるんだ……」


「なに言ってんの、当たり前でしょう」と私は突っ込みを入れる。


 本日、一学期の期末テストが終わり、これで学期内の行事はすべて終了したことになる。


「でも、でもだよ! メガランランとするのはなぜだろう?」

「そんな超高速のネットワークみたいに言われてもね」

「くだんね……」と間髪入れず沙綾の白い視線。「なんかうまいこと言ったつもりでいるよこの親父……」


 その視線を無視して続ける。(私も強くなったものだ。)

「学校に来られないなんて僕は少しも嬉しくない。沙綾は嬉しいの? 『アレ』が」


 そう尋ねると、

「あたりまえでしょ」と逆に目を丸くされた。

「そうか……」

「誠一郎はなんでそんなに学校好きなのよ」


「沙綾とか……みんなに会えるから」


 ガタン、と沙綾の椅子が鳴った。

「バババ、バッカじゃないの!?」


 横からすかさず雅春がフォロー。

「落ち着け沙綾。いつもこんなコト言ってるけどコイツ全然他意とかねーぞ」

 ウンウンと私も頷く。

「そ、そっか……そだよな」

 沙綾は自分に言い聞かせるように、再び着席した。


 一学期の期末テストがやっと終わり、学生たちが待ちに待つアレがやってくるわけである。


 すなわち――『夏休み』が。


 私は夏休みなど暑いばかりで全然嬉しくないのだが、世間一般の学生たちのほぼ全員が待ち望んでいることは疑いようもない。


「まあ、将来就職したらいくら暑くたって休みなんか取れないからね。今のうちに堪能しておくべきだよ」

「その親父目線止めろや……」


 沙綾は手刀で私の頭を叩く真似をした。


「ところでおまえら、夏はどうすんだ?」雅春が聞く。

「雅春は?」

「俺は前半テニス部の大会があるんで部活三昧だけど。後半、二週間だけ、じっちゃんの田舎へ行くことに」

「へえ、何処なの?」

「広島。瀬戸内だよ」

「それは羨ましい。沙綾は?」

「うちは山形だけど、今年は行くかどうかわかんない。ひとつ下の弟が受験だからね」

「そっか」

「誠一郎は?」

「僕は……何処へも行かれないな。代々ずっとこっちで、田舎ってないし。家でゴロゴロしてるだけだよ」

「じゃあもしヒマがあったらあたしが遊んであげるよ」と沙綾が言う。

「あははー……」


 聞きようによってはきわどい台詞であるが、むろん沙綾にも他意などない。

 ショッピングモールでの出来事以来、妻は見崎沙綾の存在を意識して、あからさまに煙たがっている。

 沙綾と遊びに行くなんて言ったらどんな嵐が吹き荒れることか……。



「先輩は夏休み、どうされますか?」


 部活で、大原詩子先輩に聞いてみた。


「そうだなあ……。生徒会がなんだかんだで忙しいんだよね。それに夏期講習もあるしね」

「そうか……そろそろ受験体制に本腰ですね。僕に何かできることがあればお手伝いしますが」

「キミ生徒会に興味あるの?」

「あ、いや、あくまで散策部のための一助というつもりで言ったまでです。先輩の助けになるのなら生徒会のお手伝いでもなんでもやりますけど、あくまで臨時手伝いでお願いします……」

 正直なところ、これ以上やることが増えたら辛い。

「なんだ。てっきりそういう意志の表明かと思ったじゃないか」

「はは、失礼しました」


「そろそろ私も引退だろ」

「引退……そうですね」

「九月には生徒会選挙がある。夏休みが明けたらすぐ選挙活動が始まるだろう。九月中には新生徒会長に後を引き渡しておきたいんだよ。わたしとしてはキミが生徒会に立候補して、ゆくゆくはわたしのあとを引き継いでくれたら嬉しいんだけどね」

「そんな。僕にはちょっと荷が重いですよ」と私は胸の前で両手を振る。「でもああ、そうか……。そうなると先輩はいつまでもこの部をやっていられませんね」

「あたりまえだ。一学期のうちにその話をしようと思っていたんだよ。部員に二年がいれば引き渡すべきなのだろうが、ほかの部員がいないのでこの部はキミ一人だけになってしまう。規定ではもう廃部にするしかないんだが、廃部の決定が出るまでに部員を増やせれば存続可能とは思う」

 大原詩子はそして一息ついて、

「君がこの散策部を引き継ぐ気はあるかい?」

 というので、

「いえ、散策部は大原先輩が終わらせてください。僕はそれまでお付き合いしますと、最初からそう言うお話しだったじゃないですか」


 すると大原詩子は、みじかく「わかった」と言った。


「じゃあこの部誌だけ完成させて終わりということにしよう」

「はい。わかりました」


 そして私たちは元の作業に戻った。ゲラ校正もおわり、あとは印刷にまわすだけ。実際のところ部誌はもうほとんど完成していた。

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