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転校生

 ある朝のことだった。

 始業前のSHRで小原聖子教諭が教室に転校生を連れてきた。


「今日から一緒に学ぶ新しい仲間を紹介します」

 と彼女・・に自己紹介を促す。


「牟礼村なぎこです、よろしくお願いします」


 背は高くもなく低くもなく、痩せすぎもせず太ってもいず、第一印象は目つきの鋭い、ちょっと癖のありそうな少女だと感じた。


 肩よりも上で切りそろえた髪。

 前髪も揃えていた。

 私の感覚でいうなら完全におかっぱ頭だが、無知にして今どきはこういう女子の髪型を何と呼ぶのか私にはわからない。


 彼女は父の仕事の都合でこの町に引っ越してきたというが、中途半端な時期に転入してきたものだ。


「では牟礼村さんはそちらの席へ」


 聖子教諭は、転校生の彼女のためにいつの間にか後方に設えられていた新しい机を示した。


「はい」


 そう返事をした彼女が机の隙間をぬってこちらにやってくる。

 通りすがりに少しだけ目が合った。


 少々イケメンに変身しているせいで、この格好でいるとき他人から注目されるのにはもう慣れたが、そのたぐいの視線とはちょっと違う異質なものを感じたのは気のせいだろうか。



 案の定というか、休み時間に人だかりがするのは転校生あるあるだ。

 クラスの者たちは男女問わず、興味深々なようすで彼女のもとへと集った。


 常日頃、一歩引いた所から彼らを観察することが癖になっていた私は、また妙な考察に嵌っていた。


 こうして転校生のもとに群れて集まるのは、もちろん彼ら個人個人の自然な興味の流れなのかもしれないが、見ようによっては根底に『集団意識』がはたらいていると看ることもできる。これは儀式、通過儀礼であり、自分自身の立場確認――つまり集団内での自分の位置取りでもある。それと同時に、群れに入り込んだ新参者をみなでどう扱おうかという確認行為なのだ。


 例えば転校生の元へ誰も近寄らなかったら、転校生はコミュニティから疎外されている、敬遠されているかもしれないと気に病むことだろう。逆に、彼らにとっては自分たちがよってたかって転校生に意地悪をはたらいているとは思われたくない、という心理も薄々あるようである。そうならないため、みな意識せずとも気を使い、自分は集団の中でどのようにはたらくべきかを彼らなりに測っているのだ。これぞ高コミュ機能を備えた人たちの特殊能力。私には望むべくもなく、備わっていない力である。


 むろん全員がそうとも限らない。

 遠巻きに様子を窺っている、不器用な者もいる。

 沙綾もその一人だ。


「ま、機会があったらカラめばいいしょ」

「ドライだナァ」と雅春。

「あたしは意外と人見知りなの!」

「嘘をつけ……」


 入学当初、私と雅春が話していたところへ沙綾がいきなり割り込んできたのはまだ記憶に新しい。


「誠一郎、何か言いたいことある?」

「な、ないよ別に」


 雅春は頭ごなしに沙綾を否定するが、今でこそクラスメイトとはよく喋る彼女が、かつて女子のコミュニティは苦手だと公言していたこともあった。今も彼女は特定の親しい女友達を作るでもなく、もっぱら私や雅春とばかり行動をともにしたがる。


 幸いにしてこのクラスの女子はみな良識的でおだやかで、誰かが突出して派閥や徒党を組むといったことがない。この年ごろの少女たちには珍しいことなのかもしれないが、みながバランスをとって誰が孤立することも無いよう大変うまくやっている印象がある。


 だから私たちとしか親しげに接しない沙綾もクラス内で浮くことはなく、最初から苦手意識などなかったと錯覚するくらい馴染んでいるように思えてしまうのだ。


 そんな女子に引きずられてか、男子生徒たちも波風立てず、どこか融和ムードがある。クラスがいくつかの強いグループに分かれ、一番強い勢力によって引きずられるはずだと言った雅春の言葉は完全に杞憂だった。ただ、それについては私の存在が大きいのだと雅春は何かにつけて言う。私をクラス委員に推薦した自分の目は確かだったと。


 クラス委員としての私がどうなのかはともかく、牟礼村さんも早くこのクラスに馴染んでくれたら嬉しいと思うのみである。

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