散策部の活動について
「『紫延川』ってありますよね。この川の名前の由来について調べるのはどうでしょう?」
紫延川は北谷津高のすぐ近くを流れるちいさな河川である。
「こっちの山本なんとかという人の本によれば、もとは忍者のニンと書いて『忍川』と言ったそうですが。理由までは書いてないんですよね」
「どれどれ」
と大原詩子は私が図書室から借りてきた郷土史の本をのぞき込む。
「気になりませんか」
「というと?」
「土地の名前ってあるときを境にあえて別の字を当てるようになったということがよくありますよね? たとえば土地の支配者が変わって何らかの事実を隠すときとか」
「なるほど……キミの視点は面白いな」
「僕のではありません。キモさんがそんなことをよく言ってましたから」
「……よく覚えてるな」
「いつごろから、なぜ紫延川がそういう表記に変わったのか……調べてみたいのですが」
「うん面白そうだね」
◇
北谷津高校西校舎は敷地の最西端に位置するだけあり、西日がものすごく入ってくる。近年問題になっている少子化の煽りか、この校舎はめったに使われることなく物置のようになっている。散策部にあてがう部室にはもってこいの条件というわけだ。
その西日の当たる教室で私と大原部長は来たる文化祭に向けてつぎの部誌で取り上げる史跡のリストアップ作業をしていた。
部誌は文化祭に向けて発表される。北谷津の文化祭は十一月。時間はまだ充分あったが、当面の活動としてはこのくらいしかやることがない。
実際のところ、めぼしい近隣の古跡、史跡は過去の先輩がたが歩きつくしてしまったので、地元のニッチな伝承などをひたすらこまめに探るという活動内容になっている。
おそらく大原部長は私に気を使って、やる気もないそういった部活動内容を創出して(言い方は悪いが)なんとかお茶を濁そうとしているようだった。
打合せが一段落し、私はふと気になって部長に尋ねた。
「そういえばあれ以来あの先輩、来ませんね」
この部室で二度ほど会った、あの童顔の少年である。
「釘を刺しておいたからね」
とくに訂正もされないところをみるとやはりあの人は先輩で間違いはなかったのだろう。気にしないことにすると言った手前ふたたび話題にするのはちょっと気が引けたが、思い切って聞いてみた。
「あの方は……?」
彼女は少しだけ逡巡してから口を開いた。
「小森吉郎。同い年のわたしの幼馴染だよ」
「やはり先輩だったんですね。彼はどうして部長にあんな態度を」
「そうだな……」
とふたたび口ごもる。
「話したくないなら別に聞きません。失礼しまし……」
「いや、キミにも迷惑をかけたようだからな。ちょと散歩に行こう」
大原詩子は私を外へ連れ出した。




