たぶん先輩
放課後、私は部室前の廊下で大原部長が来るのを待っていた。
まもなく廊下の向こうから現れた大原部長は廊下で待つ私に気づいて、
「どうしたの?」と聞く。「鍵は開けておいたはずだぞ。中で待っていればいいのに」
「ええと……中に」
先日も部室にいたあの小柄な『たぶん先輩』が陣取って文庫本を読んでいた。
私と一緒にドアの隙間からそれを覗く。
大原部長のほうが背が低いので必然的に彼女が下で私が上という並びになる。
次の瞬間、大原部長はガラリとドアを開けた。
「小森……おまえいつの間に入り込んだ?」
やはり部長の知り合いだったようである。
「よう詩子」
「部外者は立ち去れ。新人がビビっているじゃないか」
「新人? ああ……この間の新入生か」
部室に入ろうとしたら、ドアの隙間からこの人が見えたので躊躇して廊下で部長を待っていたのだった。
童顔の『おそらく先輩』は読んでいた本を閉じると、立ち上がった。それまで座っていた椅子がガタリと乱暴に鳴った。
「出て行きゃいいんだろ」
「おまえな!」
スタスタとこちらに向かってきて、大原部長と対峙すると、「いつやめるんだ?」と吐き捨てるように言う。
「何を言ってるの? やめないわよ」部長も負けていない。
「こんな意味のない部活、いいかげん閉じてしまえ」と辛らつな言葉を投げた。「おまえが何と言われているかわかっているだろう? 弱みにつけこんで言い寄ってくるヤツだっていただろうが」
と、私のほうへチラリと視線を向ける。
「わたしはやめない」
「おまえが心配だから言ってるんだ」
「もう放っておいてよ!」
大原部長はそれだけ言うと、くるりと振り向く。
「おい、話しはまだ……どこへ行くんだ」
「散歩をしに行く」と後ろに控えていた私に、「新入生くん、部活動をしに行こう」
大股でずんずん歩き出した。
「お、お供します……」
私は慌てて後を追う。
「ちょっと待てよ」
小森と呼ばれた人が呼び止める。
「ついてくるなっ!」
彼女の恫喝で、彼は言葉を失い引き下がった。
「今の人は? いいんですかあんなこと言って」
「気にするな。ぎゃあぎゃあうるさいだけの小者だ。害はない」
彼女は昇降口へと向かい、三年の下駄箱から外履きに履き替える。私も彼女に追随して一年の自分の下駄箱から靴を取り出し履き替え、後を追う。
「あのー……先輩?」
私の呼びかけにも答えずふんふんふんと息を発しながら脇目もふらずに校門を出て高校前の横断歩道を渡り終え、そこでやっと歩を緩めた。
私は後ろについて、あらためて大原詩子という女生徒を観察した。
小柄だという印象だけがやけに印象深かったが、あらためて見ると額が広く、くりっとしてて可愛らしい面立ちをしている。自分にもこんな娘がいたらよかったのに、とあらためて変な感想をもった。
生徒会長をしているだけに、態度や言葉遣いはキリッとしているが、時たま女の子らしい言葉遣いをすることがある。自分にも覚えがあるが、この時期特有の過渡期のアンバランスさをたぶんに持つ少女だと感じた。




