表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

部活紹介イベントに参加

 休み時間、とうとつに雅春が振り向いた。

「誠一郎、どうするよ?」

「キミはいつも唐突だなあ。いったい何の話をしているんだい?」

「部活だよ」

「なに、部活!?」


 そんなものがあったのだなあ。

 部活、という響きにじんわりと感動すら覚える。


 思えば中学高校と私はいわゆる帰宅部。いまとなればそのことに後悔も残念さもある。せっかくだから何かやってみたいのは山々だが、いかんせん、現状においても時間が足りていない。この上部活をやる余裕なんてあるだろうか。いやない。でもやりたい。


「まあこのガッコはわりと自由だから、キョーミがなければ入らなくてもいいんだけど。入ってないヤツもけっこういるしな」


 わが北谷津は、光流の通う成凌高校には及ばないものの、一応は進学校。学業に専念するため部活に所属していない生徒も一定数いるとは聞いている。


「いや、何かやる。絶対やる」

「おお……やる気だけはあるな誠一郎」

 隣でそれを聞いていた沙綾が「たしか部活の説明会ってきょうじゃなかったっけ?」という。

「おおそうか! それはぜひ行かねば」

「つかあんたが言ったんだろーが」

「そういえばそうだった。てかアレ今日だっけ?」

「しっかりしろよクラス委員」


 そういえば何日か前のSHRで私から皆に伝達したのだった。

 というわけで放課後、三人そろって体育館へと赴いた。


 入口のところで渡されたプリントを見ると、様々な部活のまさに目白押し。もっともメジャーどころの野球、サッカーをはじめ、バスケ、バレー、テニス、卓球、陸上、柔道、剣道、水泳等々そろい踏み。どれも楽しそうでワクワクする。珍しげなところではアウトドア部やボルダリング部なんてのもあるようだ。


 だが、実質四十代と評価された私の体力でもそこそこ続けられそうなのは……。


「期待感に満ちあふれてるとこ悪いけどな、お前は運動部はやめとけ」と雅春。

「う……」


 尤も至極なアドバイスである。


 もともと運動は嫌いではない。ただ若いころは体が弱かったし、健康は取り戻したものの、歳をとって相当厳しくなってきたというだけである。雅春の言うことは正しい。どう考えても今の私には運動部に力を傾注している余裕などありえない。たとえば毎日カラダと時間を使わなくていいような部活はないだろうか。


「囲碁・将棋部とかならなんとか」

「ジジくせーな」

「わ、若くたって将棋くらいやるだろ。現にプロのトップ棋士とかはみんな若いんだぞ。知らないのかい二十歳ですでにタイトル八冠の藤村翔太とか」

「キシってなんだよ。お姫様とか守んのか?」

「そっちの騎士じゃないよ。将棋の棋って書いてダナ」

「どうでもいいけど、お前そんなに自信あんの?」

「いやヘボだけど」

「カッコイイじゃん、頭よさげで。若き天才将棋打ちとか」

「沙綾。将棋は『打つ』じゃなくて『指す』っていうんだよ。『打つ』のは碁だ」

「それなんか重要?」

 沙綾の目が糸みたいに細くなっている。

「いや、それほどでも……」

「いちいち理屈っぽいんだよなー誠一郎はよ」と呆れ顔の雅春。

「なんか……すまん」

「いや、いいけど別に。そこまでウンチクたれるからには強えんだろうな?」

「だからヘボだってば」


 せっかく高校生になったのに囲碁将棋もあるまい。どうせなら、もうちょっとちゃんと話にできそうな……。


 私はあらためてプリントに目を通した。


「だったら写真部とかどうかな」

「あそこは撮り鉄ばっかだっていうぜ」

「詳しいなぁ」

「たまたまだ。同中のヤツから聞いたんだ」


「撮り鉄かぁ……」

 ほわんと想像が膨らむ。高原や秘境を走る鉄道列車を、現地に赴いて撮影する――悪くない。そういう部活ならたまに参加すれば済むだろうし、幸いカメラも家にある。一時期カメラが欲しくなってミラーレス一眼レフというやつを買ってみたはいいが、そこそこやったら飽きて結局やめてしまったのである。たしかあのカメラは光流に貸したままになっていたはずだ。

「何よ結局オタの集まりじゃん」

 沙綾の決定的な一言で脆くも崩れ去る妄想。

「偏見はよくないよ……」

「あン?」


「それよりねえねえ、茶道部なんてのもあるよ」

 沙綾らしからぬ意外なところに目をつけたものである。

「へえ。沙綾は茶道に興味があるの?」

「いや全然」

「あっそう……」

 ハナシを振っておいてそれはないだろう。

「おかあさんがやってたらしくて聞きかじったくらいはね」


 体育館の天井を見上げて、自分が茶道をしているところを想像してみるが、まったく想像がつかない。というか足が痺れそうだという感想しか湧かない。


「でもなんかいいよね。和服を着てお茶を点ててる女性って」

「誠一郎の好みってよくわかんないわ」


 そしていよいよ、ステージで先輩方による各部の紹介が始まった。

 私はウキウキしながらどれも楽しそうな部活の紹介に耳を傾けた。


 運動部の連中がつぎつぎと登場し、デモンストレーションと称して大道芸まがいのリフティングやラケット捌きを見せる中、我々は「何か違うよねえ」などと苦笑しつつも、そのテクニックに見入っていた。こうなるとアピールのしどころのない文化系の部活はつまらぬものである。


「それでは次の部活紹介です。えーと、次は……」司会の女子生徒が若干困惑したような声色で「さ……散策部?」司会者も知らなかったと見えて間違ったのかと思ったようだ。


「散策部だと? なんだそりゃ? 散策ってお散歩のことだよな」

 雅春は素っ頓狂な声を上げる。


 すると、袖から黒い人影がさっそうと登場。司会者のマイクをひったくるようにして取り上げる。キーンと耳障りなハウリング音がして、その人物が高らかに宣言した。


「新入生のみなさんこんにちは! わが散策部はこの界隈を散策することによってより深く地域を知り、歴史を知り、文化を知ることを目的として活動しています。創設は古く、わが校設立当初から存在している由緒ある部活であります」


「おお……」

 なんだかとても興味をそそられる。


「あ……あの人」沙綾がその人物――小柄で眼鏡をかけた女生徒を指さした。

「なんだ沙綾知ってんのか?」と雅春。

「入学式の時挨拶してた人じゃん。生徒会長のたしか……」

「よく覚えてんな」

「あたし人の顔覚えるのは得意だし」


「わたしは部長の大原おおはら詩子うたこです。散策部の活動内容は……」

 壇上の女子生徒が部の内容紹介をはじめた。


「大原……そうそう、たしかそんな名前だった」と沙綾。

「生徒会長が部長なのか……」


 私の呟きが聞こえたらしい。横にいた見知らぬ生徒が声をかけてきた。

「立場を利用して予算をぶん取ろうって話さ」


 インテリ風銀縁眼鏡の、ひょろ長い男子生徒だった。顔はなかなかのイケメンで髪がものすごくサラッサラ。その髪をふぁさっと掻き上げた。


「あなたは?」

「ああ失礼。この説明会を仕切っている学年委員会の者で、三年の倉沢だ」

 少年は腕組をして壇上に視線を固定したまま名乗った。


「一年の織原です。先輩でしたか。失礼しました。でもいま彼女、散策部は歴史のある部だって……お話しを聞く限りではちゃんとした部活のように思うのですが」

「細々と存続していた部を利用しているのさ」

「利用しているとは? 予算をぶん取って、それでどうするんです? まさか着服しているとかですか?」

「さあ? そこまでは知らないよ。とにかく胡散臭い部活じゃないか。『散策部』なんて何やってんだか分らない部活だと思わないか」

「それをいままさに部長さんが説明してるのでは?」

「……」

 倉沢少年は鼻を顰めてこちらを見た。


 この人は生徒会長がその立場を利用し、細々と存続していた部活の部費を何か別の目的のために不正に取得しようとしていると言いたいらしい。そんなことをしたら犯罪ではないか。それが事実だとしたら、この人はどうしてそれを学校側に告発しないのだろう? 学校側もわかっていて、見逃している? ひょっとして警察がすでに介入していて、泳がされてでもいるのだろうか?


 根掘り葉掘り問い質してやりたい気もしたが、先輩の心証を傷つけても厄介だ。この人はいま学年委員会の者だと言った。ならばクラス委員である私にも無関係ではない。なぜなら学年委員会の構成員といえば、クラスの代表であるクラス委員たちを含んでいるからだ。いずれ文化祭だの体育祭だの行事のさい、この人と顔を合わせることになろう。


「おーい倉沢」

 向こうで誰かが手を振って彼を呼ぶ。

「おう、今行く!」と倉沢少年はこちらに目もくれず走り去った。


「決めた」私は決意を露わにする。

「何をだよ?」雅春が問う。

「散策部に入る」

「あーやっぱり言うと思った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ