STORIES 040:焚き火の上のメテオ
STORIES 040
流星群を見られる、というニュースをよく耳にする。
子供の頃にはあまり聞かなかった気がするけれど、天体ショーのような現象が増えているのだろうか?
たぶん、そうではないだろう。
人々の関心やマスコミの話題というのは、時代とともに移り変わってゆくものだし…
もちろん科学や天文学の発展も、その理由なのかもしれない。
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普段から夜空を眺めることは多いけれど、目的を持って見上げたりしている訳でもない。
だから、そういうニュースはあまり気にかけていない。
それでも「よく見える」なんて吹き込まれたら…
庭に出て空を見上げることもある。
しばらくして、ひとつ、星が流れるのが見えた。
…気のせいかもしれない。
眼鏡もしていなかったし、なんだか周りも明るい。
その時は10分くらいでやめてしまった。
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高校生の頃だったか、大学生の頃だったか。
アウトドア好きの友達何人かで、夏休みにキャンプへ出かけたことが何度かある。
最近の流行りのオシャレなグランピングとかではなく…
もっとシンプルで潔い感じだった。
バス釣りがメイン。
ソロキャンプの寄せ集め、みたいな。
そういうほうが好きだ。
ダム湖の近くのキャンプ場で…
テントサイトの横には川が流れていて、小さな吊り橋も架かっている。
混み合ってはいない。
そこがいい。
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その晩、僕らは入口を中央に向け合うようにして川原にテントを張り…
焚き火を囲んで雑談しながら夜を過ごしていた。
パチパチと小さく爆ぜる薪。
揺れる炎に照らされる顔。
川のせせらぎと、木々のさやさやいう音に包まれる。
ときおり、遠くで落石が、カッコーンと乾いた音を立てる。
満天の星空。
僕らはどれくらいの間、話していたのだろう。
ひとつ、またひとつ。
わざわざ見上げなくても、視界の端に流れ星がいくつも入ってくる。
それを数えるのもやめて、僕らは話し続けた。
星降る夜、なんて表現があるけれど、あれはまさにそんな絵本のシーンのような夜だった。
ちょうど流星群に当たったのかな。
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翌朝。
早めに起きてテントから這い出ると、川べりに立ってぐるりとあたりを見渡した。
吊り橋の上を歩く猿に気付く。
彼も動きを止め、しばらくこちらを眺めていたが、やがて山のほうに戻って行った。
そろそろみんな起きてくる。
そして、それぞれが用意してきた朝食の準備を始める。
ジュージューと目玉焼きを焼くものもいれば、コーヒーと、買っておいた菓子パンだけで済ませるものもいる。
キャンプだからといって、わざわざ毎回調理しなくてもいいし、好きなものを食べればいい。
そして、ダム湖にボートを浮かべ、ルアーを投げる。
それぞれ、釣れたり釣れなかったり。
でもそれが楽しい。
そういう意味では、本当の目的は…
キャンプでもバス釣りでもなく、仲間と過ごす時間、のほうだったのかな。
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それはともかく。
流星と聞くとまず思い浮かべるのは、
女の子とロマンチックに見上げた星空、ではなく…
暗がりで焚き火に照らされた友人たちの顔と、その上からいくつも落ちてきた流れ星。
そう、あのキャンプ場の静かで愉快な、星降る夜。