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93話 厨房で火災発生!

 思いがけず朝一でメインの予定が済んだ。終わってみればあっさりしたもんだ。

 丸一日かけて移動し面会は20分。

 遠くの大病院に1日かけて行き、朝一に受付して診察は夕方、そして内容は10分とかいうのと似てるな。

 まあもう会うこともないだろう。

 そしてアルナーの案内でライナスの部屋に案内される。

 扉を開けると、俺を目にすると喜んで飛んできた。かわいいじゃねえかこんちくしょう!

 ん……朝9時過ぎても家にいるんだけど……。

 それとなくアルナーに尋ねる。


「学校は?」

「今日はお休みです」

「ふぅん……」


 この国は週6日だが曜日はなく、週末が休日と決まっているわけではない。

 なので学校が休みなのか、自主的に休みなのかはわからない。

 まあ領主のご子息ともなれば、いろいろと行事で休んだりもするのだろう。今日は俺のために休んだのかもな。

 彼の部屋は、子供の部屋というより来賓用の客間といった感じ。テーブルもソファーもある。

 とはいえやはり子供部屋だな、ベッドがドンと目立つ。

 それにまったく散らかっていない。来客想定してメイドが毎日片付けるのだろうな。


「話し終わったの?」

「はい」


 ソファーに一緒に座ると、さっそく彼にも『折り鶴』を作ってあげる。


「うわぁあああ! かっこいい!」

「それは飛ばないからね。机に置いて飾ってください」


 そして彼の知らない『イカ飛行機』も出撃させるととても喜んだ。

 30分ぐらい彼と紙飛行機を作って遊び、ご本人とご対面の予定は無事完了した。

 ライナスの「また遊びに来て」とのお誘いに「今度ね」と笑顔で返す。


「それでは馬車の手配をして参ります」

「ありがとうございます」


 アルナーが厩舎に急ぎ足で向かう。

 俺はライナスの部屋を出たあと、部屋の荷物を持って2階の中央階段へ向かう。

 まだ朝の10時台、依頼を済ませたら少しぐらいは時間が取れるかな……などと考えていた。

 階段の踊り場を曲がり、1階フロアが目に入る。

 すると突然、階段下の左の部屋から物を床にぶちまけるような大きな音と悲鳴が聞こえた。


「うわぁあああ!」

「きゃあああああああああ!!」


 わりと間近に聞こえたので反射的に飛びのいた。


「何!?」


 すると料理人とメイド数名が慌てふためき、飛び出てくるのが目に入る。

 同時に部屋の出入り口から中央ホールに向けて煙と水蒸気が立ち上った。

 どうやら厨房で何かあったみたいだ。

 階段を下りて部屋の奥を見る。


「うわぁ!」


 豪快に火の手が上がっている。火事だ!

 何となくテレビで見た油火災のようだ。あまりの光景に口をポカンとなる。

 すると右手奥の部屋から、白髪交じりで黒髪の年配執事が飛び出してきた。


「何事だ!」

「油が……いきなり爆発して……バンッと火が……」

「バクハツゥ!?」


 中から出てきた料理人がおろおろしながら報告する。

 執事は厨房に目をやると、立ち上る煙の奥に見えるすさまじい炎に絶句した。

 俺は邪魔にならないように壁際から外へ向かう。

 奥に見える火がどんどん大きくなって天井に火が這うのが見えた。

 これ何か映画で見たようなシーンだ。ここまでくると人の手ではどうにもならない状態……119番案件だ。

 だがこの世界にそんな便利なシステムはなさそうだ。

 何人かがバケツで水を運んでくるが火の回りが早い。黒煙が玄関ホールのほうにも流れてきている。

 状況が厳しくなる一方だ

 執事は全員に避難するように指示を出すと、2階へ上がり領主家族を助けに向かった。

 そうか……2階には領主と奥様、それにライナスがいるのか!

 室内からはパシンパシンと木が弾ける音、ゴォォという熱風の音が激しく聞こえる。

 さすがにマズイ。

 そこへちょうどアルナーが飛び込んできた。俺を見つけると避難するように俺の腕を掴む。

 だが俺はあることが閃いた。

 彼にショルダーバッグを渡して厨房入口に向かう。


「瑞樹さん……何を――」


 驚くアルナーの言葉を遮る形で、俺は熱風と黒煙が吹き荒ぶ部屋の中に向けて構える。


《詠唱、大放水発射》

 ドンッバァアアアアアアアア……

(……1……2)

《停止》

 ザッパンァァァガラガラ…ズァアアアアアガンン……ガッシャーン……カラン……


 おでこから2秒ほど、厨房を埋め尽くすほどの大量の水を厨房にぶちまけた。

 一瞬で室内のあらゆる物を、大音量とともに一切合切吹っ飛ばす。

 天井を這う火の手も一瞬で消し去り、無事消火に成功した。

 だが停止後、すぐに大量の水が逆流。

 奥の壁や側壁にぶつかった水が、鍋やら食材やらを巻き込んでこちらに向かってくる。

 そして逃げる間もなく水に押し流され、フロアに吹っ飛ばされた。


「わはっ!」


 すぐ後ろにいたアルナーも吹っ飛ばされ、他の使用人たちも、玄関や壁際まで流される。

 寸胴や鉄鍋やらの調理道具が、ガランガラン音を立ててフロアに散らばった。

 そこへ階段を駆け下りてきた領主家族と使用人たちが、踊り場で下の惨状を目にする。


「な……なんだこれは!?」


 あまりの惨状に絶句している。

 俺は領主に構うことなくすぐに『探知の魔法』を発動し、厨房内を探索した。

 ――3名がまだ中にいる!

 びしょぬれになりながら「中に3名いる!」と告げ、厨房に入って青い玉の反応に向かう。

 床は油と灰の混じったどす黒い水に浸かり、調理道具や食材が散乱していた。

 生存者が部屋の角に引っかかっているのを発見。引っ張り出すと大火傷を負っている。


《詠唱、完全回復》


 まず1人、こっそり治癒してから部屋の外へ搬出する。

 そして2人目に《完全回復》をかける。


 ――が、発動しない!


「ん!? あ……そうか!」


 代わりに《大ヒール》で治療し、使えない理由をすぐに理解する。

 これは使用に待ち時間――CD(クールダウン)がいるスキルだろう。

 道で襲われていた女性にかけようとして発動しなかった状況と同じ。あのときもすぐにかけようとしたからダメだったんだ。

 元々残りマナを全部使うスキルなので、普通は1日1回しか使えない。

 俺の場合は指輪のおかげでマナに制限がない。それで複数回使用できるっぽい。

 だが何かの理由で待機時間が必要なようだ。

 なるほどな……気づけてよかった。待ち時間がどれくらいかは戻ってから確かめよう。

 そして3人目も《大ヒール》で治療し、部屋から搬出する。

 そして火災事故は終了した。


 どうも油火災だったようだが、すでに部屋に燃え広がって手がつけられない状態だった。

 なので部屋ごと水没させる感じの放水で片付けるのが早いかなと判断した。

 まあ厨房はとんでもない状態になったがな……。

 フロアにいた連中は、皆、水浸しの俺を見て呆然としている。

 その中に俺のバッグを両腕で抱えたまま固まっているアルナーを見つける。


「よしよし…ちゃんと持ってたな。偉い!」


 彼からバッグを受け取り中身を確認する……見事に水浸しであった。


「おいおいおいおぉぉぉい!! 中身びしょぬれじゃねえか!!」


 慌てて階段のところでバッグをひっくり返す。

 するとペットボトルがゴロゴロっと階段から落っこちた。


「あららら……。てかこれ荷物大丈夫かいな……」


 ぶつぶつ言いながら荷物を確認する。

 すると俺の横に誰か来た。

 見上げるとかなりご立腹な様子の領主である。


「なんだこれは! どういうことか説明しろ!!」

「あー………」


 フロアを一望する。

 まるで洪水で床上浸水になった状態だ……そら事情知らんとキレるわな。

 俺は立ち上がってフロアへ向かう。そしてなるべくはっきり全員に聞こえるように大きな声で発言した。


「厨房で火災があったようです。ですが部屋中煙だらけで中に入れず、生存者もいたようなので入口から大量の水をぶち込みました。火災は無事鎮火したのでもう安心です」

「大量の……水?」

「火事の原因は厨房の人に聞いてください。あと中に3名取り残されてました。他にいないか点呼取ってもらえますか?」


 皆が呆然とする中、いち早く領主の横にいた執事が動き出す。

 彼は一緒に降りてきて使用人たちに指示を出し、所在の確認を始めた。

 俺は目端にライナスの姿を捉えるが、さすがにこの光景は怖いようで、母親の服をギュッと掴んで固まっている。

 びしょ濡れの俺は、少年に笑いながらVサインをしてみせる。


「ライナス君、もうダイジョウブイ!」


 結局、事情説明でもう少し出立が遅れることになった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 部屋を満たすレベルの大量の水なら冷却効果と窒息効果があるので大丈夫かなと。 消火器がない時代は初期消火には砂とか使ってたのかな……
[良い点] 油火災に水は大丈夫なのか!?と思ったけど想像の100倍くらい放水してて安心した
[一言] 油が火元なのは解るけど、そもそもそこから火災へ繋がった原因はなんだったんじゃろなぁ。
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