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91話 領主のご子息ライナス

 領主に呼ばれた理由は、『紙飛行機』の説明をしてほしいためだったとはな。

 アルナーからの手紙にはお礼としか書いてなかったからな。

 主任に相談したとき、赴いた方がいいのでは……と助言は受けた。

 だが俺が行きたくない旨を告げると、お礼なら断っても差し障りはないだろうと言われたので「お気持ちだけで……」とお断りした。

 教えてほしいならそう書けば……って、それはむしろ断る可能性が高いか。めんどくさいし「仕事が忙しい」って返事するだろう。

 まあ結局、来る羽目になったわけだがな……。


 コンッコンッ


「はい」


 ドアをノックする音にアルナーが返事をする。

 ドアが開くとメイドが申し訳なさそうな顔で立っている。何か問題でもあったかな……。


「あの~……ライナス様がその……お客様にお会いしたいと……」


 メイドの後ろに10歳ぐらいの子供の姿がチラっと見える。恥ずかしがって隠れている感じだ。


「……誰?」

「コーネリアス様のご子息、ライナス様です」


 あー紙飛行機を潰して駄々こねた子か。今回の件の元凶登場……という言い方は可哀想か。

 アルナーの目は「ぜひともお願いしたい」と訴えている。

 うーむ……正直疲れているのでとっとと寝たい。

 だがお呼ばれした以上そうもいかないな。ここはご機嫌を取ろう。


「もちろんいいですよ!」


 営業スマイルで快諾し、タバコを消す。

 メイドが少年を促すと、彼は嬉しそうにやって来た。もちろん手には紙飛行機を持っている。


「あの……あの、紙飛行機を作った人ですかっ!」

「ライナス様、ご挨拶が先です」

「あ…ごめんなさい」


 アルナーが少年に苦言を呈す。

 領主の子供に叱責できるとは……彼は教育係みたいなものなのかな?


「ん…と、初めまして、ライナスです」


 金髪のちょっとくせ毛の少年は、姿勢よく丁寧に挨拶をした。

 その所作にこちらが照れてしまう。

 外国の子供に流暢な日本語で話しかけられるのは、慣れてないせいか実に面映ゆい。


「初めまして、御手洗瑞樹です。瑞樹と呼んでください」


 にやけそうになるのを抑えて挨拶すると、ライナスはアルナーに顔を向ける。


「先ほど、紙飛行機を私に教えてくれた人がうちに来ていますと伝えてしまいました。本当は明日の予定だったんですが……」

「あー、急遽泊まることになったからか」

「はい」

「なるほど」


 アルナーがライナスに「いいですよ」と頷く。

 すると俺の右隣にトンっと座る。

 子供は距離の詰め方が容赦ないな……とちょっとびっくり。人見知りをする子ではないのだな。

 そして『なんでなんで攻撃』が始まった――「なんで飛ぶの?」「飛行機って何?」「他にあるの?」とかだ。


 この手の質問は真面目に答えても終わらない。

 とりあえず対応は『質問返し』が一番無難。「なんで飛ぶと思う?」「飛行機知らない?」「他にあると思う?」という感じだ。

 大人にやると嫌われるが、子供だと逆に好奇心を誘う。

 そして彼が頭を悩ますタイミングで話を逸らす。学校での出来事を教えてほしいと促すのだ。

 すると喜んで話を始めた。

 子供の話は内容がポンポン飛ぶ。なので時系列をアルナーが補足してくれた。


 ライナスは、商人のおまけとして紙飛行機をもらったその日にダメにしていた。

 駄々をこねる彼にアルナーはうまくとりなす。いわゆる生返事で「またもらってきます」みたいなことを言ったそうだ。

 ところが紙飛行機をもらっていたのは彼だけでなく、他の貴族の子息にも渡っていた。

 当然、その子たちが学校で自慢をする。

 ライナスは「僕も持っていたのに……」と激しく嫉妬する。

 その日の落ち込みようは尋常じゃなかったようで、部屋から出ずに飯も食べなかったそうだ。

 アルナーは筆頭執事からお叱りを受ける。

 方々探し回って俺のところにたどり着き、そして作り方を学んで帰還。

 つまんなそうにして学校から帰ってきたライナスに、アルナーは紙飛行機を見せる。

 とてもとても大喜びだ。

 しかもアルナーは練習でたくさん作っていたので、次の日に学校に持っていき友達に配ったそうだ。

 そりゃもうお祭り騒ぎで大人気だったそうだ。

 さらにアルナーは紙飛行機の作り方を覚えてきた。

 ライナスは、初手でダメにしてしまった経験から作れるようになりたいと思っていたという。

 そして一生懸命教わり、見事作れるようになったという。


 実に嬉しそうに話す彼を、俺はにやにやしながら褒めていた。

 さすが子供は大人に比べて吸収力がすごい。さぞ学校の人気者になれたことだろう。


 ティアラでアルナーから事情を聞いたときは、領主の子供なんて我儘し放題で育ったガキかなと思っていた。

 部屋に来た彼を目にしたときもそんな印象だったのだが、話をして大喜びする姿を見て、かわいい子じゃないか……とまんざらでもなくなった。

 俺も大概チョロい。金髪補正が過分にかかっているな。


「手にしてるのが自分で作ったやつ?」

「そう!」


 本家本元に自分の作を見てもらうのは、大人だと恐縮するが子供は逆だ。自慢したくてたまらないのだろう。


「おー! 上手だな」


 俺が作るのと遜色ない出来栄えだ。

 おそらく一番いい出来のを持ってきたのだろう。褒められてとても嬉しそうだ。

 目にしながら少し考える。

 しょうがないな……ちょいとお兄さんもいいとこ見せちゃうか。

 つい対抗意識が湧く。

 子供相手に大人げないが、本家本元が来たという証明にもなるだろう。

 アルナーに紙を頼むと、メイドがすぐに用意してくれた。

 そうだな……少し変わった紙飛行機を作ろう。

 そして彼らは見たことがない『ブーメラン飛行機』というのを作りながら話をする。


「私がライナス君ぐらいの年には自分で紙飛行機を考えて作っていました。自分でかっこいいと思うものを作ったり、よく飛ぶものをみんなで考えたりしていました」


 ライナスは話そっちのけで俺のする様子を見つめている。


「たとえば胴体の長いのを作ってみたり、または逆に短いのとか。ライナス君が持ってるのは真っすぐ飛ぶやつですが、変わったのではくるっと曲がるものもあるんです」


 アルナーも目が本気、おそらく「これ作って!」と言われる可能性が頭にあるのだろう。


「これなんか……こんな感じに羽根の両端を折りましてっと――」


 話ながら『ブーメラン飛行機』を完成させた。

 ライナス、アルナー、そしてメイドも、出来上がった紙飛行機に注目している。

 初めて見る紙飛行機の形……何が違うのだろうかと期待が伝わる。


「少し投げ方にコツがいるんですが……」


 ソファーから立って紙飛行機を右手に持つ。

 左手方向少し斜め上を狙う感じで飛行機をちょい傾けてスッと投げる。

 すると紙飛行機はくるっと弧を描いて飛ぶ。

 対面のアルナーの後ろを通り、ぐるっと回って右横のライナスの目の前を横切り、俺の手元に帰ってきた。


「これは『ブーメラン飛行機』と言います。投げたら戻ってくる紙飛行機です」

「うわぁあああ!!」

「おおー!」


 ライナスは今の出来事に目を爛々と輝かせている。

 アルナーは一瞬見失った紙飛行機が戻ってきたことに驚いた様子。

 メイドも声は出さなかったが、表情はびっくりしていた。

 この世界には『ブーメラン』という単語もないだろう。飛行機と合わせて新語追加だな。

 ライナスに渡し、投げ方のコツを伝えると、おっかなびっくりで飛ばす。

 すると紙飛行機がくるっと戻ってきた。

 何度か挑戦し、上手にキャッチできるとアルナーやメイドに自慢した。


「これなら部屋で遊べるでしょ」


 そしてアルナーが、今日はもう遅いからとライナスに諭す。

 新しい紙飛行機を手にした喜びとともに、メイドに連れられて部屋に戻っていった。


「すみませんでした」


 恐縮するアルナーに、気にしないと手を振る。本家本元の証明も必要だったろうしな。


「ところで明日、私は領主と話をしたらそれで終いでいいんですよね?」

「一応その予定のはずですが……何か?」

「いや、済んだらここのギルドに配送依頼の荷物を持って行かなきゃならないので……」


 俺はショルダーバッグを指さした。


「では済みましたら馬車でお送りします」

「助かります」


 アルナーはお辞儀をして退出した。

 そして静かになった部屋で深いため息をつく。


「領主かぁ、めんどくさいなー……」


 一度断って機嫌損ねてるっぽいしな、当たりが強いと嫌だな。

 それに領のトップなんて態度がデカいと相場が決まっている。横柄な人物でも態度を顔に出さないように気をつけないとな。

 乗り気でない俺は、とっとと済ませて早く帰りたい症候群に見舞われていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >主任に相談したとき、赴いた方がいいのでは……と進言は受けた。  ◇ ◇ ◇  『進言』は、上位の人に意見を述べる事を指します。主人公が主任に対して発する言葉に使うべきで、この場合…
[良い点] ブーメラン紙飛行機、自分は全然上手く作れなかったなぁ…曲がりはするけど斜め前にだけ飛んでいくというか。
[一言] 子供の相手というか接し方が上手いもんですねー しかし新しい紙飛行機の披露は余計な苦労を招きそうだぞ瑞樹
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