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84話

 お茶会の成果にご機嫌である。

 そしていただいた『神聖魔法書』を机に置き、ベッドの上に寝転がる。


「最初はどうなるかと思ったが、魔法のおかげでいい感じに話ができてよかった」


 まさかティナメリルさんが俺のために神聖魔法の書を手に入れてくれたとは思わなかったな。


「ティナメリルさんマジ女神、大好き!」


 まあ上司なんだけど……。

 これもう俺の好感度50パーセントは超えてるよな!

 いい雰囲気で過ごせたし、思い返すだけでにやけてしまう。


「しかしウケたなー! おでこライト、ウケたなー! エルフを爆笑させたの……人類初じゃね?」


 誰にも知られない偉業を達成したわけだ。

 覚えたての『光の魔法』を詠唱、するとおでこの前辺りに光源が発生し、部屋がパァっと明るくなる。

 だが上目にすると光源が目に入ってしまう。

 白熱電灯ぐらいの明るさはある、直視すると目をやられる。

 気持ち斜め下を見る感じでいないと……絶妙に使いづらい。


「これは、つば付きの帽子がいるな。野球帽かサンバイザーが……」


 だがそのような帽子はこの世界にはないだろう。野球なんぞ存在せんだろうしな。

 急ぎではないが必要な装備品として覚えておこう。


「そういやティナメリルさん、マナの制御したな。あれを魔法士はできるってことなのかな」


 寝転がったまま右手の人差し指を上に突き出し、ティナメリルさんが光を指先に移動させた光景を思い出す。

 自分にはいまだできない芸当である。

 魔法を使ってもマナ的要素を一度も感じたことはない。

 おそらくだが、俺の体にマナが流れていない気がする。

 創造主の指輪にマナがあるだけなのだろう。

 魔法を詠唱しても全ておでこから発動してしまうのはそこからマナが動かせないからだ。

 訓練すればいずれはあんな感じで制御ができるのだろうか。マナを体に伝えるということが……。


「だからかなぁ……身体強化が使えねーの……」


 机の上から『身体強化術教本』の本を取る。

 この本にもエルフの身体強化術と同じような魔法はある。

 だが何度やっても発動しない。体を動かす系の技が一切強化されないのだ。

 おそらくマナが体に循環していないからだろう。


「カートン隊長は使えるつってたな……機会があれば見せてもらいたいものだ」


 まだダメと決まったわけではない。日々鍛錬が必要なのかもしれないしな。

 諦めるのは時期尚早だ。

 なぜなら実は、身体強化術で使える技がある――

 それが『視覚』を強化する魔法だ。

 本の後半にちょこっと書いてある程度なのが、これ相当に強力な魔法だ。

 視覚は《動体視力を強化――敵がスローに見える》《遠視を強化――遠くの敵が見える(スコープ)》がある。

 俺は体術や剣術などの技術はもちろんない。殴るどころか逃げるのですら怪しい。

 なので動体視力が強化されて、敵の動きがゆっくりに見えるのは実にありがたい。

 そして遠くが見えるのは狙撃には持ってこいだ。

 先の盗賊討伐のときには使わなかった。また似た状況になったら《遠視を強化》を使って遠距離射撃を試みたい。

 おそらく指輪が頭に吸い込まれたので、脳はマナの影響を受けているわけだ。

 エルフの魔法になかった技が使えるのは非常に助かる。


 だがどちらも今は1秒と使えない。発動すると瞬時に頭痛が襲ってくる。

 教本には頭痛のことは書いてない。だが訓練で時間は延ばせるとあった。なので使ってれば追々慣れるのだろうと思う。

 これは自宅で適宜訓練していこう。



 人間の魔法とエルフの魔法との違い――これは使うマナの違いだろう。

 人間の魔法は『体内のマナのみ』を使う。

 マナで自分の筋肉を強化し、強い力を出せるようにする使い方だ。

 対してエルフの魔法は『外部のマナ』を利用している。

 イメージ的にはパワードスーツを纏うような使い方だ。

 指輪のマナで魔法を発動して、周辺のマナを共鳴だか呼応だかさせて使う感じだろう。

 考えてみたら『探知の魔法』なんて完全に外のマナを認識する魔法だ。

 そう思うとエルフが森で最強って意味が何となくわかる気がする。


「森の草木を味方につけて戦う感じか。そら勝てんわな……」


 そして今回いただいた神聖魔法書だが、サッと目を通しただけだがヒール系がいくつかある。

 こちらも効果やら使い方などを早々に覚えておく必要がある。



 本を閉じて寝返ると、部屋の隅に置いてある『霊芝』の原木が目に入る。

 現在の大きさは直径5センチ程度に成長している。順調な成長にニヤリとする。

 スクッ起き上がって原木の前に胡坐で座り、霊芝に話しかけながら『生育の魔法』をしばらくかける。


「お前もだいぶ大きくなったよな~」


 実はこの魔法、少し離れた位置でも大丈夫だった。

 エルフの魔法は外部のマナを使うということがわかったからだ。

 以前、花壇での使用時、ティナメリルさんは「途中でダウンすると思った」と言っていた。

 つまり体内のマナを外部に放出して使う魔法なのだろう。

 俺の場合は指輪のマナがおでこから放出されているわけだ。なのでマナが枯渇しない。

 距離的には1メートルぐらい。じょうろで水をかけてるみたいにマナを浴びせている感じか。

 ただし手をかざすとかではダメで、やっぱりおでこが起点になってる模様。そこだけは変わらなかった。

 でもいちいち土下座したりしなくていいのは助かる。


「次も魔法の練習する~みたいな話にすればいい感じになるかな~……」


 次回のお茶会に向けた方針を考える。

 というかな……俺ってティナメリルさんとどうなりたいんだ?

 と、自分の心に問いかける。

 初見ではエルフを目にして嬉しかっただけ。

 今はエルフ語の勉強という名目でお茶会をしているわけだが、彼女の俺に対する感触は悪くない……と思う。

 いやどうだろう……商業ギルド長ですら掌の上だ。俺みたいなガキには目もくれてないのかもしれない。

 急に自信がなくなる。

 何ていうか、話をすればするほどエルフと人間が違うというのが明確になってくる。

 それを踏まえて、じゃあティナメリルさんはノーサンキューってなるか……といえばそれは否だ。

 ということは……やっぱ好きだ、うん好きだな。

 とはいえエルフの感情の機微がまったくわからない。それが大問題。

 そもそも人間をどう見ているのかが全然わからないのだ。

 つまりそのあたりからきちんと確認していかないといけない。人間に対して恋愛感情とか抱くのか……みたいな。

 恋愛感情……恋人……。

 急に邪な考えが浮かぶ。

 いやいやいやいや焦らない!

 まずはとにかく嫌われない。調子に乗ってへたを打たない。

 エルフ語を話せるアドバンテージを最大限に生かしつつ距離を縮めていく。それがあってのお茶会なのだ。

 そうそう、それに魔法の情報を共有している唯一の人……エルフだ。

 俺のために神聖魔法の教本を手に入れてくれた……俺のために。

 いや……でも普通するか?

 職員が困っているから手助けをした……と取れなくはない。だが商業ギルド長にまで頼まないよね、普通……。

 じっと考え込む。

 あーでも聞いた答えはすごく素っ気なかったな。案外何も考えてないのかもしれない。

 この件は忘れよう。あまりいいように捉え過ぎない。調子に乗らないと決めたばかりだろ。

 まあとにかく次に向けて、何かしら手土産が用意できるといいかもしれんな……。


「どう思うよ?」


 俺は『霊芝』相手に今回のお茶会の成果と、次回に向けての抱負を語っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 聞いて芝エリーナだこれ
[気になる点] 35話で「跳躍」使ってましたが、あれは身体強化ではないのでしょうか?
[一言] 霊芝、話しかけるうちに使い魔のように自律し始めたりしないだろうか。
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