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79話

 盗賊団を壊滅させ、拉致されていた女性たちに事情を聞く。

 どうやら隣領レミンドールの村が盗賊団に襲われ、人質として差し出されたという。

 俺はその話にとても驚く。

 そんな話、ギルドでも一度も話題に上ったことがない。

 この世界じゃ領とは国みたいなものだから、情報が入らないのは当たり前ということなのだろう。

 商隊の護衛を扱うアーレンシアからも情報が回ってこないということは、わりと巧妙に隠しているのかもしれないな。


「そうでしたか……」


 事情は把握したけれど、なんて声をかけていいかわからない。

 気の利いた台詞を吐けるほど人生経験がなく、女性5人を目の前にしてちゃんとした態度が示せずにいる。

 既に辺りは真っ暗だ。

 女性5人を連れて今から脱出するのは無理だ。今夜はここに泊まるしかない。


 することが決まると頭が回ってくる。

 彼らは十数名でここを根城にしていた。そして拉致した女性までいるという状況……それなりに生活する物資はあるんじゃないか?


「えっと、食料とか奪ったものとかどこかに保管してたりしません?」


 すると年長者らしき女性が遺跡の一角を指さす。

 少し待つように伝えて確認に行く。

 すると扉のない建屋があり、見ると荷物らしきものが置いてある。おそらくこれだ。

 中を照らすと、奪ったもののほかに衣類や食料、暖を取る薪などもストックされている。

 おそらく奪った金品で購入したものだろう。

 そして見たことがある荷物を目にする……ルーミルの商売道具だ。


「よかったぁー! 瓦礫の下に埋めちまったかと思ってた!」


 とりあえず今晩は何とかなりそうとわかり、準備に取り掛かる。

 今はもう寒い時期、しかも夜となればかなり気温が下がる。彼女たちも4人身を寄せ合って固まっている。

 まずは暖を取らせよう。


「奴らが寝泊まりしていたとこってあそこだけ?」


 俺が破壊した瓦礫を指さし聞くと、その対面の建物を指さした。

 ああ、俺が乗って砲撃していたとこか。

 部屋を確認すると、思わぬ発見に顔が喜ぶ。


「おー焚火あんじゃん!」


 中に焚火があり、しかもまだ火の気があった。

 少し小汚いが4人ほどここで寝泊まりしていたらしい。

 よっしゃ、ここで今晩泊まろう。

 俺が火の準備をする間、彼女たちに倉庫から毛布や着替えられそうな服を持ってくるように頼む。


「あの……彼女は?」

「ん? ああ、私がここに運びます」


 怪我をして横になっている女性が部屋に残されたままだ。

 眠っている彼女を抱きかかえ、寝泊まりする部屋に連れてくる。

 倉庫から持ってきた毛布を厚めに敷き、静かに寝かせると4人は安堵の表情を浮かべた。


 火をおこし、部屋の中のものを一切合切外に捨て、新しい毛布を敷きなおす。

 そして彼女たちに火のそばに座らせる。

 まだ緊張しているようで、4人が身を寄せ合って火を見つめている。

 そして少し気になる。

 先ほどまで月明りで見ていた彼女たちは、火に照らされて見るとかなり薄汚れている。

 まああの痣や腫れを見ればな……。

 それに口には出せないが、おそらく乱暴なこともされていたのだろう。

 ……そうだ、いいこと思いついた。


「あのー、体洗いたくないですか?」


 4人はその言葉にあからさまに警戒する。

 あれだ、助けた見返りに体を要求されたとすぐに思ったのだろう。


「あー違いますよ! えっとですね……ちょっとこれ見てください」


 ちょいちょいと手招きして入口付近に来てもらう。

 そして俺が外である技を見せる。


《詠唱、放水拡散発射》


 するとおでこから勢いよく水しぶきが吹き出し、それを小さく縮めてシャワー程度にする。


 ――シャワワワワァー。


 月明りに映える『おでこシャワー』だ。

 その何とも不思議な光景に目をパチクリさせている。


「いやまあ魔法で水が出せるんですけどね……その、おでこからしか出せなくてですね……こんな何ですよ」


 少しおどけた風に笑うが、横目で見る彼女たちの顔は引きつったままだ。


「みなさんが体洗ってる間は目隠しするんで見ませんし、それにこれ……石鹸もあります」


 俺はウエストポーチから石鹸も出して見せる。


「ね、どうです?」


 まだ躊躇している。


「触ってみます? 温かいですよ」


 女性の1人が恐る恐るシャワーの水に触れると、反射的に感嘆の声を漏らす。

 そして皆に目を向け頷くと、残りの人たちも手を出してびっくりする……。

 そう、お湯に感じるのだ。


 別にお湯が出ているわけではない。

 実は『水の魔法』で作られる水は、どうやら体温と同じらしい。

 ルーミルに水を出したとき、何だか温かいなと感じたのだが、それは周囲の気温が低いせいだと気づいた。

 夜の外気はおそらく10度前後、36度の水はちょっとぬるいお湯だ。

 彼女たちは顔を見合わせると、少し嬉しそうな表情を浮かべて石鹸を受け取った。


「じゃあ終わったら声をかけてください」

「わかりました」


 俺は目隠しをして建物横でシャワーを散水する。

 すると女性たちは服を脱ぎ、体を洗い始めた。

 月明りに映し出される素っ裸の濡れた女性はさぞ魅力的なのだろうな……などと考えたりすると俺の下半身がマズいことになる。

 いや考えなくても、シャワーで汚れを落としている彼女たちの嬉しそうな声が耳に届くと、体が勝手に反応しようとする。

 これはガチでヤバイ……。

 俺は必死で腹に力を込め、マッチョが筋トレしている風景を思い描いてやり過ごした。


 そしてシャワータイムが終わり、倉庫にあった衣類に着替えてもらう。

 皆ズボンスタイルになり、さっぱりして嬉しそう。

 重傷だった女性はまだ寝ているので、沸かしたお湯で彼女たちに拭いてもらい着替えさせた。


 するとお腹が空いていることに気づく。昼に食っただけだしな……。


「何か食いもんあったかな……」


 倉庫に食べ物を探しに行こうと腰を上げる。


「あの……」

「ん?」

「……料理作りましょうか?」


 1人の女性から提案される。

 見ると残りのみんなもだいぶリラックスしている。


「あー無理されなくてもいいですよ。何かあるでしょ」

「いえ……私たちもお腹が空いてますし」


 ……そうだな、ホッとしたらお腹空くもんね。

 まともに食事も与えられてないだろうしな。


「じゃあ一緒に作りましょう」


 そう言うと、俺はウエストポーチからスマホを取り出す。

 そして音楽アプリを起動、クラシックの『ボレロ』を再生した。


 ♪ポン ポロロロロン ポロロロロン ポン ポン ポロロロロン ポロロロロン ポン……


「まあ待ってる間に聞いててください」


 途端、驚愕の表情を浮かべ、スマホを目にして固まる。

 俺がにっと笑って返すと、しばしスマホをじっと眺めていた。


 次々と起こる不思議な出来事に理解が追いつかないだろう。

 だがこれでいいのだ。

 つらい目に遭っていた現実から目をそらせるには、考える暇を与えないに限る。


 倉庫にパンがあった。

 料理は鍋料理。俺が食材を切り、味付けは彼女にまかせる。


「あの……」

「ん?」

「助けていただいてありがとうございます。エレノアと申します」

「いえいえ。私はティアラ冒険者ギルドの御手洗瑞樹と申します。瑞樹で結構です」

「はい、ミズキさん」


 やっとまともな会話だ。

 彼女も自由になれたんだと確信し、笑顔を見せてくれた。


 食事のあと彼女たちに先に休んでもらう。

 安心したようですぐに眠りについた。

 そしてしばらく火の番をしたのち、俺も眠りについた。



 次の日の朝、みんな体調に問題ないことを確認する。

 そして重傷だった彼女が目を覚ますと、4人は涙を流して抱きしめた。

 彼女は状況がわからず茫然としている。

 自分の怪我が治っていることも、服が違うこともわからない。そして見知らぬ俺を目にして固まった。

 4人に説明してもらったあと、脱出するべく俺がおんぶして帰ることにする。


 そして俺は帰りしな、彼女たちにあるお願いをする――


「ちょっとお話いいですか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >俺は必死で腹に力を込め、マッチョが筋トレしている風景を思い描いて… そして、余計に興奮してしまったんですね! ミズキさん、あなたって人は…(笑)。
[良い点] 主人公が紳士 [気になる点] おでこシャワーの絵面が凄く気になる [一言] 薄目も開けないのは尊敬します
[一言] 旅をしてる途中で攫われたとかじゃなく人質として差し出されたかー なんとも元の場所に戻るのも難しい状況なんだなあ
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