78話 盗賊団を殲滅
追跡した3人の盗賊が遺跡内の建物に入り、しばらくして外にいた連中も呼ばれた。
ふむ、外には誰もいなくなったみたいだな。
もういいだろう……隠蔽のままゆっくり遺跡内へ侵入する。
遺跡自体は石造りの建物群で大半は屋根もなく壊れている。だがいくつかは雨露は凌げるようだ。
奴らがたむろしている場所は、集会場のような広さがある建物だ。
「いやーこんな森の奥深くに建物群があること自体びっくりだな!」
つい思ったことを口にしてしまい、隠蔽が解けてしまった。
いかんいかん、油断しているな。
再び『隠蔽の魔法』を使うのには10秒かかる。短いようで長い。
初めての実戦での使用……緊張感を保たねば死ぬと気を引き締める。
ここに来るのにまともな道はなかった。間違いなく人の往来があるような場所ではない。
盗賊団の秘密のアジトというわけだ。
どうやら室内は18名。
それと少し離れたところに連れ出された女が4人、最初からいた1つを合わせて5人だ。
おそらく1人は病気か怪我で放置されているのだろう。
賊なんていうものに遭遇するのは初めて。しかも違う世界の連中だ。
どういった連中なのかも見当つかない。剣ぶら下げてたのと弓使いはいた……魔法士もいたりするのかな。
ギルドで目にする冒険者たちのガラが悪い版だろうか。
正直ヤクザな連中を見るのは怖い。
だいぶガラの悪い物言いの連中に慣れたとはいえ、耳にすると体がキュッとなる。
だが頭にきている……殺ると決めたのだ。
窓とか開いていれば覗けたのだが、残念ながら全部木戸が閉まっている。まあ寒いし夜だし当然か。
仕方ない……玄関から少し離れた位置から隠蔽状態のまま、探知のマーカーの動きを観察しよう。
あー……今どつかれた。あっ殴られた……か蹴られたな。
ヤクザ映画のシチュエーションが浮かぶ。
中の様子をじっくり見るが、他の捕虜とかはいなさそうだ……。
――ならもうこのまま殺っちゃってもいっか!
ルーミルの商売道具を取り戻したかったけど、こんなに人数多いとは思っていなかった。
せいぜいどこかの掘っ立て小屋に4、5人で潜んでるんだろ……ぐらいに思ってたし。
……まいっか。
とにかくこいつらを潰して今後襲われる心配を失くす方が先だ。
そうと決まれば戦闘態勢、玄関ドアから10メートルぐらいの位置に立つ。
そして隠蔽のまま魔法を唱える。
《詠唱、大石弾発射》
ドゥッパァン!
ドガシャンガンッァアアアアアアアアアン!
玄関ドアに向けて戦車砲を撃ち込んだ――
だが近すぎた!
着弾と同時に衝撃波が内壁に反射、ぶち壊した建物の破片が俺にも飛んできた。
咄嗟に頭をかばい、身を避けるが破片が体にドスドス当たる。
「あたたっああぁぁああああ!!」
思わず体を地面に伏せる。そして見事に粉塵まみれになった。
「あっぶね~!! 危うく瓦礫食らって死ぬとこだった。そういや映画で観たな……戦車が建物に近距離で発砲したらすげえ瓦礫が跳ね返ってた」
撃つ前に気づけって話だ。
少し打撲や裂傷を負ったみたいなので、《大ヒール》を唱えて治す。
体の汚れをパンパンと払い、《跳躍》で対面の建物の屋根に上がる。
「何も見えん……」
中は火の灯りも消え真っ暗。確認できるのは粉塵が舞い上がっていることぐらい。
人の声はしない。瓦礫がバラバラと崩れる音だけだ。
探知のマーカーは多少減っているがまだ生存者がいる。ただし気を失ったようで動いていない。
しかし赤い色にしたボスっぽい奴だけがかすかに動いている。
「さすがだな。死んでないし意識も失ってないとはな。まあ次で終いなんだけどね……」
俺は屋根にうつ伏せになり、彼をターゲットして再び砲撃を開始――
ドゥッパン! ドゥッパン! ドゥッパン! ドゥッパン! ドゥッパン!
3インチの砲弾が容赦なく襲い掛かる。
特に狙いを定めず、とにかく正面の壁を狙う。
着弾時の衝撃波で壁が吹き飛ぶ。
そして奥の壁もぶち抜き、屋根は支える壁がなくなり崩れだした。
すると建物からは粉塵が舞い上がり、月明りに照らされ綺麗に映える。
だが目にするものは誰もいない。
俺は建物が完全に瓦礫の山と化すまで撃ち続けた。
――そして生存を示すマーカーはすべて消えた。
そよぐ風に舞い上がった粉塵が流され、辺りに静けさが戻る。
そして捕虜が囚われていると思われる建屋に向かう。
扉にかかってる閂を外す。
ゆっくり開けると横に避け……『隠蔽』を発動して中を覗く。
暗くて全然見えない。
ゆっくり中に入ると女性5人がいた。
火の気も灯りもない。
やはり盗賊の仲間ではなく捕虜か人質みたいなものだろう。
いったん外へ出る。
「ティアラ冒険者ギルドの職員です。盗賊は退治しました。動けますか?」
返事はない。
俺はスマホを取り出してライトを点け、中を照らしてもう一度声をかける。
「大丈夫ですか? 冒険者ギルドの職員です。助けに来ました」
すると中からか細い声がした。
「ほ…ホント?」
「はいホントです。入りますよ……」
見ると彼女たちは布一枚で震えている。
「さ…さっきのすごい音は?」
「あー……盗賊団を倒してた音です」
静かな声で答え、笑みを浮かべる。
照らされた姿は若い女性……年齢的には10代後半から20代前半と思える5人。
見ると1人が寝込んでいる。どうやら具合が悪い様子。
「怪我ですか?」
「……殴られて……お腹のどこかを痛めてるみたいでもう……」
そう言うと泣き出した。
「大丈夫です、治ります。HP1でも残ってたら全快します」
彼女たちを驚かせないように、寝ている彼女の横にゆっくり正座で座る。
そして寝ている彼女のお腹におでこを当て、静かに《大ヒール》を詠唱する。
おでこがぼわっと光ると、赤黒く腫れていた腹の部分や、目の青あざなどが見る見る消えてなくなっていく。
治療が終わり、俺がライトを当てて彼女を見せる。
「どうです?」
どうと言われても……そんな表情だ。
だが瀕死だった彼女は腫れていたところが綺麗になっている。
そして寝息も静かになったように思える。
一体何が起こったのかわからずに絶句している。
それに俺は笑顔で答える。
本当に怪我が治ったのだと知ると、今度はうれし涙を流した。
そしてよく見ると4人も殴られ蹴られした痣が色濃く残っている。
その姿に俺は愕然とした。
男に理不尽に暴行を受ける……そんな光景を初めて目にして心が動揺する。
そして自然と涙がこぼれた。
「皆さんも治しましょう」
安心させるように笑いかける。
背中を向けてと告げると躊躇される。
まあ今まで男に乱暴にされていたのだろうからな……俺も信用できんだろう。
大丈夫と促し、おでこを当てて4人全員を治療する。
そして怪我が治っているのを知ると、皆一様に体を触って確認し、黙って俺を見つめた。
そして外に出る。
彼女たちが目にしたものは、瓦礫になった建物である。
先ほどまで盗賊団の世話をさせられていた場所……あまりの変わりように恐怖したのか、足がすくんで止まる。
彼女たちは恐る恐る辺りを見渡す。
「あの……他の方たちは?」
「他とは?」
「え? あの……救出に来られたと……」
「ん? ああ、私1人です」
「えっ!?」
彼女たちはまるで意味がわからずキョロキョロする。
だが本当に俺しかいないことを知ると4人とも言葉を失い、俺を見つめてその場に立ち尽くした。