77話
今回は盗賊団の目線、主にボスの視点です。
盗賊団の廃墟の拠点にて。
木の上で見張りをしている弓使いが、人が来るのを確認する――仲間だ。
だがすぐに様子がおかしいことに気づく。
3人は酷く慌てている。
たしか出たのは9人のはず、だが3人しかいない。残り6人はどうしたのだろう……と眉をひそめる。
その様子を門番の2人も目にする――3人共顔が真っ青だ。
すぐに警戒を強め、見張りに確認の指示を出す。すると追跡などはないと返事が返ってきた。
そして3人が遺跡の建物へ入る。
屋根のある大きな建物、彼らの集会場だ。
そこではボスを含めた12人が、攫って来た女どもに給仕させて飯を食っていた。
「ボス、大変です! 6人殺られてました!!」
「あぁ? やられてたって何だ?」
「こ……殺されてました」
その言葉に部屋にいた全員が耳を疑い、ボスの顔色が見る見るうちに真っ赤になる。
「なぁ~にぃ~! 誰にだ!」
「いえ……それがわかりません……」
ボスはズカズカっと3人に歩み寄り胸倉を掴む。
「わからねぇって何だ!」
「そ…それが1人は首がその……ちぎれてまして……」
「!?」
それを聞いたとたん、ボスは掴んでいた手をゆっくり下ろす。
「……首って切られてたってことか!」
「いや…その……よくわかんなくて……。ただ……他の奴は腹に穴が空いてて……その……」
「穴ぁ!?」
盗賊団の連中も6人の死に様を聞いて動揺した。
ボスは別の奴の胸倉を掴んで襲った状況を問いただす。
襲撃に参加して荷物だけ先に運んだ奴だ。
何か状況を知っているはずだ……他の連中もそいつに注目した。
「おいお前! どうなってんだよ!」
「……どう…とは!?」
ボスの恫喝が恐ろしくて怯えている。
頭が真っ白になり、聞かれていることがわからなかった。
「何で6人殺られてんだよ! 話が違えじゃねえかっ!」
「え…あ…いや……俺にも何が…。奴は足を撃たれて森へ逃げましたし子供はその……逃がしまして……」
「あぁ!? なんだそりゃあ!!」
子供を逃がしたと聞いてボスは怒り狂い、目いっぱいぶん殴った。
すると彼はもんどり打って壁に吹っ飛んだ。
「「「キャアァァァ!!」」」
部屋にいた捕虜の女たちから悲鳴が上がる。
その悲鳴に睨みつける。
仲間が殺されたなどという醜態を聞かせるわけにはいかない……。
女たちを部屋に戻せと顎で指示を出す。
「おい! 外の連中も呼び戻せ!」
「はい」
今回の襲撃は『稼ぎのいい猫人行商人がいる』という情報を得て行われたこと。
ネタを仕入れてきたのはぶん殴られた奴だ。
彼が計画を立て、仲間を率いて実行に移したのだ。
たかが猫人2人、何の問題もなくうまくいくと思われた……。
ところが6人殺され、荷物に金はなく、挙句に連れの子供を逃がしたという。
ボスが激怒するのも当然だ。
「……くそがっ」
ボスは計画の許可をした責任があるが、もちろんそんなものあると思っていない。
残る2人にも話を聞く。
「で、行商人はどうした……死んでたか?」
「いえ……」
「じゃあ逃げられたのか。辺りに誰かいた気配は?」
「いえ…そのもう……」
彼らは死体が転がっているのが怖かったとは言えずに下を向く。
その態度にボスの怒りがさらに増す。そしてキレて蹴りをかまされた。
「なんでちゃんと見てこねえんだよ! 役立たずがっ!!」
ボスが怒り狂っている……その光景に皆恐怖し黙り込む。
すると外の見張りが戻ってきた。
「おいお前ら、こいつら帰ってきたとき誰か追ってきてなかったか?」
吹っ飛ばされている仲間を見て唖然とする。
見張りの弓使いは誰もいなかったと首を振り、門番も同じくと頷く。
ボスは蹴りをかました2人に再び聞く。
「村の様子はどうだった? 帰りに衛兵見かけたとか……」
「いえ…それはありません。もう暗かったし、誰も外にはいませんでした」
「道に誰かいた気配もなかったです」
2人はお互いを見合わせながら必死で頷く……もうボスに叱られたくない。
すると仲間の誰かがボソッと呟く。
「これ……人の仕業ですかね? 魔獣や魔物の何かとか……」
「あぁ!?」
ボスは胸倉を掴んで言い放つ。
「人に決まってんだろボケェ!」
部下の情けなさにイライラが募る。
そして今の状況が相当ヤバいことになっていることに気づき、今後の方針について頭を巡らせる。
猫人には逃げられた可能性が高い。
仲間が返り討ちにあっている……だが行商人風情にできることではない。
何者かが救助に来たのは間違いない。
――つまり誰かがいたのだ。
襲われたことは確実に報告されている。
この辺りに捜索が来る可能性もある……だが衛兵が森に入ることはない。
深い森の中の調査となると……冒険者だ。
報告から依頼が入って……という時間的猶予を考える。
おそらく今晩の襲撃はないだろう……だが最大限に警戒は必要だろう。
最悪ここを引き払う準備もしなければならない。
ボスが決断し部下に命令を出す。
「おいお前ら、夜の警備を強化する。お前とお前、東側の出入り――――」
ドガァアアアアアアアアアアアアン!!
突然ドアが吹き飛んだ!
大音響とともに室内にいた全員が、強烈な衝撃波の直撃を受ける。
ボスは部屋の壁にしこたま打ち付けられた。
天井から瓦礫が降り注ぎ、室内に粉塵が舞い上がる。
――部屋が爆発した!
ボスは突然の出来事にそう判断した。辛うじて意識を保ってはいるが朦朧としている。
息をするのがつらい。
声を上げようにも胸が苦しくて出せない。どうやら胸を強打したようだ。
そしてようやく目にした光景に愕然とする。
部屋は瓦礫で埋まり、仲間の大半は意識を失って倒れている……いや、数名は上半身そのものが消し飛んでいた。
首が千切れた胴体、手足もそこいらに散らばっている。
後ろの壁には破壊されたドアの破片が突き刺さって死んでいる奴もいた。
「かっはっ……な…何が………!?」
ボスは建物の正面がすっぽりなくなっているのを目にする。
何が起こったのか!?
外を覗くが徒労に終わる。真っ暗で何も見えない。
そして次の瞬間、轟音と共にこの世を去った――
ドガァアアアン! ドガァンガァアアアン! ドッガァアアアン!
外からドッパンドッパン聞こえる音が、建物が完全に崩壊するまで鳴り響いていた。




